異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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第七十話 後始末とこれからの話

 

 

 

 

 

「───無事だったか。大した悪運の強さだ」

「そりゃこっちの台詞だ。てっきりアンタも、連中のぶっ殺しリストに入ってるもんだと・・・・・・よく帰ってきてくれた、アデル」

 

 

 最後に地面を揺らしたドデカい衝撃から少しした頃、生き残った【浄血】の面々が少しずつ戻ってきていた。出て行った時より頭数が明らかに少ないのは残念だが。

 

 正直弱音を吐きたいとこだけどそうも言ってられない。重傷者も減ってきたしこうして喋りながら作業する余裕も出てきたが、それでもまだまだ終わりは見えてこない。今も魔法で治療してる最中だ。

 

 

「悪いけどご覧の有様だ。ながら作業で聞き逃すだろうけど、それでも良いか?」

「構わん、これから事態が落ち着くことはないだろう。話せるうちに話しておきたい」

「・・・・・・そんなに状況は悪いか?」

「ああ、最悪の斜め上だな」

 

 

 肩で息を吐きながら無作法に椅子へ座る。普段の涼しげで皮肉屋な姿からは想像も出来ない疲弊ぶりだ。

 

 ただ肉体的な疲労よりも、精神的な負荷の方が大きそうだ。正直今からどんな話が飛び出てくるか、考えるだけでちょっと怖い。

 

 

「王国に居を構えて以来、【浄血】の一族が敗北したのはこれが初めてだ。一杯喰わされることはあれど、目に見える形でなど前代未聞だろうな」

「それはやっぱり、当主が倒されたからか?」

「一番の理由はそれだな。付け加えるのなら、オニキスフレア全体の被害も甚大だ。この事件で間違いなく均衡は崩れた・・・・・・ありとあらゆる意味でな」

 

 

 どうも他の三家と違い、一家で遊撃に出ていたのが原因らしい。しかもどういう訳か少数で散っていたのが致命傷となり、『大蛇衆』に続々狩られてしまったらしい。

 

 これだけでも不味い話だが、よりにもよってオニキスフレアっていうのが一層問題だ。

 

 

「───あの家は今日までに恨みを買い過ぎている。この機に乗じて、と考える者は100や200では収まらん」

「恨み買い過ぎだろ・・・・・・でもあの爺さん死んでねぇって聞いたけど?」

「再起不能となった以上、大した違いはない。利用価値が消失し、周囲を固める一族も減じてはな。凶行を思い止まらせる理由が纏めてなくなってしまった訳だ」

 

 

 現場に急行したアデルによると、爺さんが倒れてた場所は一帯が固まった溶岩みたいな光景になってたらしい。当時一門の人間は側に居なかったたようだが、居たとしてもほぼ確実に巻き添えで死んでるだろうって話だ。

 

 一門の未来を憂いて無茶苦茶やってたジジイが、周りの被害度外視で戦った。しかもそこまでやって勝つことが出来なかった。それはつまり、現存する全ての【浄血】がタイマンじゃ勝てないってことだ。

 

 これから【献言する蛇(サマエル)】はますます勢い付くだろうな。ただ奇妙なのは"何故トドメを刺さなかったのか"だ。アデルより先に現着した防人さんの報告だと、下手人はすぐ側に居たのにそのまま引き上げていったそうだ。

 

 俺も治療の片手間に情報収集してみたんだが、どうにも何かに気を取られてて爺さんのことは眼中にない様子だったらしい。それからアデル達も到着し、安全を確保してから帰還してきたんだとか。

 

 

「ただでさえ補充の効かないオニキスフレアに取り返しのつかない損害が発生した。不安と絶望で混乱した連中が一線を越えかねない・・・・・・確かにお先真っ暗な状況だな」

「・・・・・・それだけならまだ良かった。我々が最も懸念しているのは、最後に放たれた()()()()についてだ」

「えっ?あの衝撃って爺さんの魔法と衝突したのが原因じゃないのか」

「俺もそうであって欲しかったのだがな。そもそもアレは()()()()()()()()。ヒュアランレインの御前によれば、どうやら【解体魔法】と呼べる類いではないかとのことだ」

 

 

 ───【解体魔法】?よく分からないが、言葉通りとするなら物質や魔法を分解する魔法ってことだよな。今まで聞いたこともないし、火とか水とか属性が絡む魔法って感じでもない。

 

 そうなると『天職』による魔法なのかもしれない。ただそれよりも、あの衝撃が魔法の余波っていう事実にびっくりなんだけど。その所為で話が頭に入ってこないんだが。

 

 

「・・・・・・その様子だと気付いていないようだな。よく思い出せ、あの魔法が発動した瞬間『災害』はどうなった?」

「どうなったってそりゃあ───まさか・・・・・・」

「そうだ、紙切れを裂くかの如く『災害』はその形を失った。我々が迂遠な手を取るしかなかった存在が、易々とな」

 

 

 吐き捨てるように言ったアデルの言葉を上手く飲み込めなかった。だって此処にくるまで散々言ってたじゃないか。

 

 "マナを人の手で分解することは出来ない"。それがこの世界の常識で、有史以来破られたことのない大原則だ。この歴史こそ、大国が【浄血】に頭を垂れる理由そのものといって良い。

 

 

「───まあ正確に言えば、マナそのものに干渉するのではなく物質に溶けたマナを弾き出しているようだ。だがそれでもあの魔法の開発者は、"人類の新たな庇護者"と呼ばれるに足るだろうな・・・・・・我々にとっては死神に他ならないが」

「『災害』が起きそうになってもその魔法で中断させられるんだもんな。それも【浄血】の手を借りずに」

「今はまだマナを『浄化』するために【浄血】は必要とされるだろう。だがもしこの技術が更に飛躍すれば・・・・・・」

 

 

 『【浄血】不要論』とでも言うべき考えが、市民権を得るかもしれない。少なくとも『主権は王家にこそあるべき』って考えてる国はどう動くか予想出来ない。

 

 そして残念なことに、ヴィブギヨル王国の王家はまさにそういう考えをしてる訳だが。しかもその技術を持ってるのが、よりにもよって貴族にすらシンパが居る【献言する蛇(サマエル)】ときた。

 

 

「大変なことになってきたなぁ、まさに時代の転換点ってやつか」

「・・・・・・何を他人事のように言っている。もし我々の予想通りにことが運べば、真っ先に狙われるのは貴殿ではないか?」

「・・・・・・・・・・・・ゑっ」

 

 

 な、なんですと?俺が何したってんだよ!?うっかり手元が狂いかけたわ!急に変なこと言い出さないでくれ!!

 

 俺はただちょっと虚弱体質を改善したり、ゆくゆくは損耗した【浄血】の遺伝子を回復させたりするつもりなだけでそんな───いや、思いっきりアウトだったわ。

 

 『浄化』云々を差し引いたとしても、純軍事力として見た【浄血】は脅威の一言だ。火力だけでも人型の戦略爆撃機みたいなもんだからな。

 

 『災害』の対処って難題が無くなったところで、正面衝突は愚策も愚策。斬首作戦とか言って王家を城ごと木っ端微塵にでもされたら目も当てられない。現状でもそれだけの力を維持してるのに、全盛期に戻そうとする存在なんて容認する訳がないよな。

 

 

「───いやでも、いきなり物騒なことはしてこないだろ?オニキスフレアじゃあるまいし」

「恐らく、いきなり目立つ手段を取ってはこないだろう。幾ら【浄血】が煙たかろうが、【献言する蛇(サマエル)】とて大陸各国から指名手配される凶悪組織。一蓮托生と腹を括れる人間は少ない筈だ」

 

 

 もし連中頼みで【浄血】を排除出来たとして、単に目の上のたん瘤がすげ替わるだけだもんな。しかも組織最強の存在は、そのテロリスト共からすら"イカれ"呼ばわりされる奴だし。それでいて【浄血】最強より強いってんだから始末に負えない。

 

 

「とはいえ、近年オニキスフレアがこの国と揉め続けたのも事実。特に王家と西部貴族の一部は恨み骨髄だろう。浅慮に動いたとしても不思議ではないな」

「───待って、その話初耳なんだけど?」

「この事件が穏便に済めば言う必要のなかった話だからな。流石に連中も勝ち目のない戦いをするほど愚かでもない」

 

 

 ・・・・・・それって傍目から見ても、今の【浄血】は手段を選ばなければ勝てる───そう思えるほど弱体化したってことだよな。よりにもよってセレストゲイルの幹部が認めざるを得ないほどに。

 

 結局今回の事件は何もかも、【献言する蛇(サマエル)】の掌の上だったって訳だ。『災害』を自分達で引き起こしておきながら、それを消滅させることで"脱【浄血】"の意識を国内に芽吹かせる。

 

 さらに人造の『災害』をダシに、【浄血】達を纏めて舞台に引き摺り出した。その上で最大戦力を打倒することで、社会不安を一気に増大させる。連中の目的を何一つ崩せなかった以上、どう言い訳しても俺たちの完敗だ。

 

 

「───これからどうなるんだろうな?」

「なるようにしかならん。幸いセレストゲイルは南部貴族と良好な関係を築いてきたつもりだ。中央に鞍替えする家が出たとしても少数の筈だ」

「ひとまず、背中から刺される心配はなさそうだな。未来の話は、まず目先の問題を片付けてからか」

 

 

 山場は越えたけどやらなきゃいけないことは山積みだ。まずは南部に帰れるとこまで漕ぎ着けなきゃだな。

 

 

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