異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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第七十二話 王都暮らしは延長のようです

 

 

 

 

 

 ───『始祖の賢者』はこの世界に魔法を齎し、初代の【浄血】を弟子にした超がつく偉人だ。そしてこの世界でただ一人"銀の髪"をしていた人だという。

 

 もちろんとっくの昔に死んでる故人だ。でもその唯一だった筈の特徴を持った人間が一人この世に居る。ずっと寝たきりだった筈だけど、まさか眼を覚ましたのか?

 

 

「───やはり心当たりがあるようだな。ああ心配するな、今さら寄越せなどとは言わんよ」

「・・・・・・随分と物分かりが良いな。実は中身が"バシュム"だった、とかじゃないよな?」

「ふっ、貴様の物言いもそこまでいけば才能よな。だがそうだな、確かに儂は別人なのかもしれんな。世界に散らばる筈だったマナを無害化した奇跡の魔法・・・・・・たとえ別人であろうと、あの御方の系譜がまた現れたのだ。それも【浄血】が衰退したこの時代に───心も安らぐというものよ」

 

 

 ・・・・・・そうか、この爺さんを心変わりさせたのは"安堵"だったのか。【浄血】最強のジジイにしてみりゃ、自分より凄い魔法使いなんて味方側には居なかった。みんな先に死んじまったんだからな。

 

 だからこそ、かつて神様のように崇めた人物の再来は衝撃だったんだろう。視野が狭まりきった老人の眼を覚まさせるほどに。

 

 

「シュナイゼルであれば、如才なく賢者さまの再来を導こう。あの若造を倒し、未来を紡げるのはその者しか居まい」

「・・・・・・カーツの人生はカーツだけのものだ。勝手な期待を押し付けてんじゃねぇよ」

 

 

 ノブリス・オブレージュってか?んなもんクソ喰らえだ。余力のお裾分けってんなら本人の自由だけど、指名だの未来だのでアイツを縛るなんて、俺が許す訳ねぇだろうが。

 

 

「青いな小僧、我らを見れば分かるじゃろう?未だ人類は自立を果たしておらん。新たな杖、それも【浄血】より使い勝手の良いソレを放っておくものか」

「知るかよ、ならまず救いたいって思わせるだけの幸せと思い出を寄越せってんだ。それも出来ないなら勝手に自滅してろ」

「・・・・・・なるほど、そこの小童やシュナイゼルの後釜が気にいる訳じゃ。だが貴様の言葉にも一理ある。もし賢者さまに匹敵する才を持っているのであれば、下手に遺恨を産めばそれこそ人類の首を締めかねん。扱いは慎重にせねばな」

 

 

 チラリ、とアデルの方へ視線を向ける。どうやらさっきのやりとりはセレストゲイルへの釘刺しだったらしい。そういうのは俺の居ないところでやってくれよ、本当に・・・・・・。

 

 しっかりと頷いてるあたり、セレストゲイルの方も初志貫徹でカーツ少年を庇護するつもりらしい。状況が状況だし、内心ちょっと心配してた。物凄く不本意だけど感謝だけはしておこう。

 

 

「さて、貴様等や再来殿が力を蓄えられるよう上手く立ち回らねばならん。儂等も出来得る限り貴族共と蛇共を惹きつけておきたいが、さてどこまで保つか・・・・・・」

「難しい、としか言えませんな。数が減ったとはいえオニキスフレアの魔力は絶大。やろうと思えば幾らでも抵抗出来るでしょうが、それはつまりこの国の軍事力を文字通り焼き潰すことになる。【浄血】そのものへの敵意も増しましょう」

「かといって抵抗を弱めれば容易く滅ぶ。騎士に小突かれただけで軽く死ねるであろうな。儂等の脆さは尋常ではないからな」

「・・・・・・そんな胸張って言うことかよ」

 

 

 攻撃力はクソ高いけど防御力はミジンコ。だからちょうど良い塩梅で退場するのが滅茶苦茶難しい訳か。

 

 

「───でも本当に良いのか?アンタはオニキスフレアを守る為に、ここまで手を汚してきたんじゃないのか」

「其処を掘り返すのか貴様・・・・・・まあだからこそ、なんじゃろうが。安心せよ、万一の為に用意しておいた策がある」

 

 

 その言葉と同時に、室内に居た防人さんから書類を手渡される。計画書か何かかと思いきや、表題に書かれた文字に驚愕させられた。

 

 

「───肉体の、冷凍保存・・・・・・?それに『細胞の培養』だって!?」

「ばい、よう?カーツさん、これはどういう意味なんですか??」

「・・・・・・・・・・・・あっ」

「・・・・・・アデル、この小僧は隠すということを知らんのか?」

「・・・・・・?」

「ああそうか、知らぬのであれば良い。シュナイゼルはその辺りが疎かったな。忘れておったわ」

 

 

 や、やっべぇ・・・・・・!!そうだよ、魔法が発達してる所為で医療科学とかあんまり進んでないんだった。養殖とか繁殖なら兎も角、培養なんて言葉知れ渡ってる訳ないじゃん!?カビとか麹を取り扱ってる家業でワンチャンあるかってレベルだ。

 

 それを平民のいち冒険者が、文字見ただけで意味を理解するとか普通ないよな。トマスさまみたいに当たりが付けられる奴ならすぐ勘付かれるよ・・・・・・うぅっ、ジジイの視線が痛い。

 

 

「・・・・・・まあ良い。理解出来るのであれば話も早い。その技術の応用こそ儂がこうして永く生きていられた理由でもある」

「い、いやそれは納得なんだけど。さっきの話と繋がってるのか?」

「ジグムント翁の話を最後まで聞け。はぁ、それはとある錬金術師から接収した技術だ。そして施術された者は翁だけではないということだ」

 

 

 あ、なるほどそういうことか。爺さんみたいに欠損を上手く埋められた健康なオニキスフレアがまだ居て、ソイツを冷凍保存して隠してるって訳か。

 

 誰にも知られてない秘密の場所か、それとも他の【浄血】に引き取られてるのか。詳細は知らないが、オニキスフレアを絶やさない為の布石は打ってある訳だ。

 

 

「儂等では完全な再生は叶わず、あくまで保険として研究していたのじゃがな。何が役に立つか分からんものだ」

「・・・・・・その為に滅ぼされた連中が聞いたらブチ切れそうだけどな。まあいいや、アンタが黙って有終の美を飾ってくれるんなら文句ないよ」

 

 

 まあこれで一番の頭痛のタネだったオニキスフレアが大人しくなるんだ。俺たちとしては悪い話じゃない・・・・・・もっと厄介な面倒ごとが出て来たのは勘弁して欲しいけど。

 

 

「さて、あとは貴様等の今後についてじゃな。恐らく王族共が主導権を掴もうと動いておるであろう?」

「・・・・・・はい。先ほど御当主より打診があったと早馬が参りました」

 

 

 まだ何日も経ってないんだけど。本当に動きが早いというか、こっちが出遅れてるというか・・・・・・前途多難だな。

 

 

「・・・・・・我々セレストゲイルはこれまで通り、政治には干渉せず干渉させません。それについては王都側も了承しております」

「なら問題ないだろ。なんでそんなに歯切れが悪そうなんだ?」

「それがだな・・・・・・オニキスフレアへの包囲網不参加の代わりに、貴殿を王立学校へ通わせろと言ってきた」

「───ぶふぉっ!!?」

 

 

 はぁっ!?何で俺がそこで出てくんだよ!!

 

 

「以前にも言ったが、貴殿にはセレストゲイルの寄子として貴族の一員になってもらう。当然その手続きを王都で進めていたのだが・・・・・・その時の"念押し"が藪蛇になったらしい」

「おい待て何を吹き込みやがったアンタ等・・・・・・!?」

「その時は余計な真似をさせない為、そして『本命』を隠す為だった。喜べ、後者については完璧に機能しているぞ」

 

 

 気休めになってねぇよ!!確か王立学校って、トマスさまの昔話で出てた場所だろ?誰が平民虐めがデフォルトな場所になんか行きたがるんだよ!!?

 

 もし入学するとしたら多分貴族枠なんだろうが・・・・・・いや俺見ての通り、気品とか皆無の田舎モンだよ?それにもし虐めの現場に出会したら魔技で暴れる自信しかねぇわ。退学RTAが始まんぞ!?

 

 

「───気持ちは分かるが、残念ながら拒否は出来ない。此処で我々まで波風を立てれば、ますます蛇共に傾倒しかねんからな」

「しかしアデルさま、それではカーツさんの護りが手薄になりませんか。先ほどまでの会話から察するに、私が付き添うことは了承されませんでしょう?」

「ああ、他の貴族はあくまで学校に通う同窓という形で護衛を引き連れている。学生ではない貴様や冒険者の立ち入りは禁じられている」

 

 

 おいおい、聞けば聞くほど条件が悪くないか?外野の目が届きにくい学校という名の閉鎖空間で、頼れる仲間が居ない場所とか何か起こっても対応出来ないんじゃないか?

 

 これが南部の学校なら珍しい経験って納得も出来た。だけど【献言する蛇(サマエル)】は貴族に浸透してて、王立学校はその貴族が通う学舎だろ?

 

 

「───あれ?確かトマスさまはもう卒業してただろ。まさか一回り下の奴と同じ学校に通うのか??」

「ラリマー子爵家の子息が通っていたのは中等部だな。貴殿に通ってもらうのは高等部の方だ」

「中等部まではほぼ全ての貴族が通うものの、高等部は王都貴族か家を出て士官する次男以降、それから貴族に推薦された平民が通う場所じゃ。実力主義な分多少はマシじゃろう」

 

 

 ・・・・・・本当かなぁ?足の引っ張り合いとかしてそうだけど。平民っていう、立場上絶対に遜る人間が居る環境で精神的な成長って出来るのか?偏見100%の意見だけどさ。

 

 

「───拒否が難しい以上、前向きに考えるしかないでしょう。アデルさま、カーツさんへの支援体制についてはどうなりますか?」

「無論やれるだけのことはやる。状況が難しいとはいえ、引き過ぎるのも舐められる。カーツ殿に手を出すということは、セレストゲイルに手を出すことと同義。改めて釘を刺すつもりだ」

「おおそうじゃ、確か第三王子が在籍しておった筈だ。機会があれば接触してみると良い」

「・・・・・・ますます行きたくなくなってきたんだけど?」

 

 

 それ絶対面倒になるヤツだろ。俺がテロリスト関係者だったら寧ろ率先して巻き込むぞ?王族への不敬罪とか一番手っ取り早い排除方法だろうし。

 

 

「というか、王族との関係って実際のところどうなんだ?悪いって聞いてたけど全員と険悪なんて───」

「まず第一王子についてだが、まあ最悪だな。自他共に認める継承権第一位だからな。我々を目の上のたん瘤と忌み嫌っている」

「・・・・・・・・・・・・」

「次に第二王子だが、此方も相当悪いな。兄に対抗すべく非主流派貴族を取り込んでいる都合上、【献言する蛇(サマエル)】との繋がりが強い。直接関係を持っているかは不明だが、配下の献策を何度も潰した経緯がある」

 

 

 いや駄目過ぎるだろ!?次期ナンバー1と2に嫌われてる貴族とか何なんだよ!!そりゃ【浄血】じゃなきゃ許されないし、そんな貴族を処せない王族もフラストレーション凄いだろうな!

 

 

「・・・・・・じゃ、じゃあ第三王子とはまだマシなのか?」

「・・・・・・・・・・・・」

「何か言えよ。こっち向けコラ」

「───第三王子の派閥は最も弱く、継承権争いからの離脱と引き換えに存在を許されておる。まあそうなったのは儂等の所為なのじゃが。何を隠そう、冷凍保存と培養技術を作った錬金術一家こそあの派閥の最大勢力だったからな」

 

 

 ・・・・・・それ、一番恨まれてるんじゃねぇか?そんなとこの王子さまに挨拶してこいって??喧嘩売ってると思われなきゃ奇跡じゃないのか。

 

 

「とはいえ、第三王子は条約締結の証として嫁いできた他国の側妃が産んだ子よ。もしあのまま勢力を維持しておれば、後継者争いは今以上に加熱していたやもしれん」

「いや、それは加害者の理屈だろうが。それで納得しろは無理だろ」

「・・・・・・しかしそれでも、上の王子達と違い対話の余地があるだけマシだ。それにカーツ殿は【浄血】の血を引いている訳ではない。あくまで可能であれば、の話だ。無理をする必要はない」

 

 

 いや、それでも王族全員と対立してるのは不味いだろ。もしその王子さまが坊主憎けりゃ袈裟まで・・・・・・って相手だったら尚のこと問題だ。

 

 【浄血】云々を抜きにしても、自分の安全のために良好な関係は作っておきたい。権謀術数とか理解出来る気がしないし、後ろ盾はあればあるだけありがたいからな。

 

 

「それで、何時から通えって言ってきてるんだ?」

「今のところ明確な日付は不明だ。此方も後始末でそれどころではない。ただし、御当主さまは引き延ばせても今月までだろうと仰せだ」

「そりゃまた余裕のない日程だな。はぁ、南部に帰れるのは何時になることやら・・・・・・」

 

 

 割と本気で中途退学はアリな気がしてきたな。いよいよ周りがきな臭くなってきたこのタイミングじゃ、呑気に勉強なんてしてられない。そんなことより、カーツ少年を守れるよう修行がしたい。

 

 

「───話すことはこれで全てか。重ね重ね、ご足労感謝する」

「いえ、貴重なお話をありがとうございました。これからについては、また随時連絡致します」

「うむ・・・・・・儂が言えた義理ではなく、その資格もなかろうが───再来殿を頼んだぞ」

 

 

 ベッドから身体を起こし、深々と頭を下げるジグムント翁。そりゃ晩年にようやく会えた希望だもんな、しおらしくもなるか。

 

 本当は色々言ってやりたいこともあったけど、多分これでもう俺が会うこともない。ならある程度の不満は胸に仕舞ってやるさ。こっちはそれどころじゃないし。

 

 

 それにしても・・・・・・・・・・・・はぁ、この年になって学校とか行きたくねぇ。どうせなら魔法学校とかなら良かったのに、それかせめて士官学校とか。

 

 

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