異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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第六章 学府百花繚乱編
第七十三話 初めましてとありがとうを


 

 

 

 

 

 人工の『災害』および【献言する蛇(サマエル)】の襲撃───【浄血】は屈辱の記憶として『黒星事件』と命名───からおよそ2週間。漸く王都に戻る算段が付いた。

 

 光属性魔法なんて便利なものがあるのに何故そんなに時間が掛かったかといえば、怪我云々より疲労や精神面による体調悪化が目立ったからだ。悪意のないマナの相手が本職、しかも不敗神話が立つレベルで一強だった彼らには"将来の不安"への抵抗力が微塵もなかった訳だ。

 

 そんな彼らも時間経過で徐々に落ち着いていき、本日やっと城砦を撤去出来るようになった。俺たちもお役御免ということでこうして帰路に立っている。

 

 

「・・・・・・だ、大丈夫ですかカーツさん」

「いや、大丈夫って何がだよクイン?防人さん達に囲まれて帰ってるんだ。下手な砦よりよっぽど安全だろ。ダイジョブダイジョウブ・・・・・・」

「大丈夫じゃなさそうですね。ドライフルーツをどうぞ、少しは気が紛れるかと」

 

 

 ・・・・・・面倒な奴ですまんクイン。でも身体は正直だから全然緊張を取り繕えないんだ。漸く会って話が出来るんだと自覚した時からこの有様だ。

 

 原因は多分、カーツ少年への"負い目"だろう。彼の苦労や努力にタダ乗りして、彼よりずっと恵まれた環境に居たことに対する申し訳なさだ。

 

 文字も書けないレベルの文化資本ってだけでもハンデなのに、外出やギルドへの出入りもハンスに制限されてた所為で見識も広がらない。俺が状況を打破出来たのも、彼の日頃の勤勉さと前世知識っていうチートがあったからだ。

 

 

「・・・・・・いや、頭では分かってるんだよ?カーツ少年はそれで俺を責めるような人じゃないって。けど───」

「結局名前に顔、それから立ち位置も実質的に奪ってしまった。そう貴方自身が思っているのでは?」

「───クインには隠しごとが出来そうにないな・・・・・・」

 

 

 俺が言葉にできなかったことまでバッチリ言い当てられてしまう。心配そうな顔に、情けない笑みで返すしかない我が身が不甲斐なくて仕方ない。

 

 本来であれば、この身体を本来の持ち主であるカーツ少年に返せれば理想的だった。そうであれば俺が借りてた間に作った実績や冒険者としての成果も、賃貸料代わりに引き渡すことが出来た。

 

 ところが実際には、何故かカーツ少年が新しい身体を得てしまった。誤算ってレベルじゃない。再会した当初の感動からすっかり頭が回ってなかったけど、落ち着いてみれば相当ヤバい状況だろう。

 

 

「ですが、そんなに問題でしょうか?セレストゲイルの影響力を行使すれば、新たな名前も戸籍も思いのままです。お聞きした内容を鑑みるに、あまり自身の名前や姿形に良い印象を持っていなさそうですが」

「いやいや、そういう話じゃないだろ。そりゃ俺も出来る限りの支援はするし、セレストゲイルが後ろに立ってくれれば百人力だ」

「ええ、そうでしょうとも。現状こそやや不穏でふが、伯爵家嫡男にも劣らない環境をご用意するのは造作もない筈です。御恩返しとして、不足はないと思いますよ?」

 

 

 ・・・・・・なる、ほど?言われてみれば、【浄血】との個人的なコネなんて王侯貴族でもおいそれと手に入るもんじゃない。その庇護がカーツ少年にも及んでいる以上、過去の彼みたいな状況には天地がひっくり返ってもならないだろう。

 

 

「───いや待て、それってセレストゲイルの恩恵であって俺の恩返しにはならんだろ」

「はいはい、それ以上考えたって悪い方にしか向かないでしょう?どうせもうすぐ会えるんですから、いつも通り何とかしてください」

「ちょっと?クインさんは俺を何だと思ってるんです??」

「どんなピンチでも決して諦めたりしない、とっても素敵な人だと思ってますよ?」

 

 

 ・・・・・・トゥンク。いやまて、早まるな俺。すっごい綺麗な笑顔でとんでもないこと言われた気がするけどステイだ俺。

 

 

「元気出ましたか?」

「・・・・・・めっちゃ出た。似合わない不安とか吹っ飛んだわ。流石クイン、助かった」

「お役に立てたなら幸いです。私だってカーツさんの恩人とお会いするので、少し緊張してるんですよ?同じくらい楽しみですけどね」

 

 

 ───楽しみ、か。そうだな・・・・・・そうだよな。俺もちゃんと挨拶するのはこれが初めてなんだ。不安がる暇があったら、ちゃんと噛まないでお礼を言う練習でもしとくか!

 

 

「・・・・・・・・・・・・いちゃつくんなら二人きりの時にしてもらえないっすかね。それとも空気を呼んで離席するべきだったか?」

「ぶふぉっ!!?・・・・・・すまん、すっかり存在を忘れてた。寧ろ静かにしててくれてありがとう、ウォルフ」

 

 

 そうだ、王都前まで馬車に乗ってるんだった!?話に夢中ですっかり頭から抜けてたわ。

 

 

「別に構わないっすけど。こうして高い茶に菓子までゴチになってるし、顔真っ赤な防人さんも見てて面白いっすから・・・・・・この図体で存在を忘れられたのは初めての経験だが」

「だからごめんって。そ、そうだ!ウォルフはラリマー領に帰るのか?」

「露骨な話題転換・・・・・・まあ良いか。ああ、とんぼ返りの予定っすけど一旦戻りますわ。このままじゃ護衛になんねぇし」

 

 

 たとえ二等級の冒険者であっても、滞在許可証無しじゃ宿泊すら叶わないからな。仮に居られたとしても、相当肩身が狭いだろうしこっちが居た堪れないんだけど。

 

 

「とんぼ返りって、何かアテでもあるのか?」

「忘れてるかもっすけど、こう見えて一応ラリマー子爵家の養子なモンで。その辺りをこう、上手くやれば潜り込めるかなって」

「そういえばそうだった。けど大丈夫か?平民虐めもだけど地方貴族への当たりも大分キツいぞ」

「なぁに、イビリなら冒険者でも珍しくないし屁でもねぇっすわ。それにおそらくだがトマスの坊ちゃんも動いてるだろうし、まあ何とかなるでしょ」

 

 

 あー・・・・・・セレストゲイルに足繁く通ってたし、まず間違いなく情報は届いてるだろうな。セレストゲイルも手が出せない学校内に護衛を手配出来るんだ。俺にも【浄血】にも恩を売る絶好の機会だし、あの人が指咥えてるとは思えないな。

 

 そんな話をしていると、あっという間に王都まで到着した。途中でウォルフと別れた後、俺は必死に脳内でカーツ少年と話す内容を吟味していた。

 

 

「───おかえりなさいませ。よくぞご無事でお戻りくださいました」

「お出迎えありがとうございます。執事さんは・・・・・・少し痩せましたか?」

「お見苦しい姿で申し訳ありません。少々立て込んでおりましたもので」

 

 

 入口には老執事さんが迎えてくれた。見慣れた所作は流麗そのものだったが、顔色が少し悪いな。もしかしたら化粧もしてるかもだけど、疲労の色が隠せてないな。

 

 取り敢えず【譲渡魔法(ディバイド)】で体力をお裾分けしておく。この人に倒れでもされたら大変だ。この状況で執務が滞るなんて悪夢だろう。

 

 

「───ご配慮誠に感謝致します。厚かましいお願いで申し訳ありませんが、是非御当主さまにも今の魔法をお使いいただきたく」

「ええ、もちろんです。ところで・・・・・・」

「流石の情報網ですね。ご客人なら御当主さまと応接室でお待ちです。お出迎えしたいと仰せでしたが、耳目を引くご容姿ですので遠慮していただきました」

 

 

 申し訳なさそうに頭を下げられる。いや、流石に世界でただ一人の銀髪を曝す訳にはいかない。寧ろしっかり見守ってもらって感謝しかない。

 

 執事さんの案内で応接室まで通される。クインのお陰でメンタルを持ち直したとはいえ、やっぱり緊張するもんは緊張する。

 

 

「失礼致します。カーツさま達がお戻りになりました」

「───入りなさい」

 

 

 執事さんのノックと挨拶に短い返事がされる。一思いに開かれた扉の先には、鏡で何度も見たものと同じ顔が真っ先に見えた。

 

 

「ああ、良かった。皆さんが言ってた通り無事に帰って来てくれた!───あ、ごめんなさい。真っ先に喋っちゃって・・・・・・」

「いいえ、貴方が我々に阿る必要はごさいません。おほん、改めてよく戻った。苦労をかけてすまなかった」

 

 

 やっぱり御当主であっても、銀髪は頭を垂れる理由になるらしい。物凄い低姿勢にちょっと驚いたけど、こっちはそれどころじゃない。

 

 

「うーん、改めて見ると不思議だね。自分と同じ動きをしない瓜二つの姿って。おっとそうじゃなかった、こうして直に話すのは初めてだよね?初めまして()()()くん」

「あ、初めまして・・・・・・いや待った。カーツはきみの───」

「ううん、いいんだ。だって君の方が似合うし、実はあんまり好きじゃないんだ。呼んでもらえない名前は、自分でも忘れちゃいそうで」

 

 

 一瞬切なそうに笑うも、すぐに朗らかな笑みに戻るカーツ少年。クインの言った通りの反応だったけど、こっちはそう簡単には頷けない。

 

 だって本人には辛い記憶かもしれないけど、君が頑張ってきた何よりの証じゃないか。タダ乗りした奴がそのまま振り翳して良いもんじゃない筈だ。

 

 

「・・・・・・頑固だねぇ、そこは僕とは似てないんだ。じゃあさ、こうしよう!『カーツ』の名前をあげるから、新しい名前をちょうだい?」

「え、えぇっ!?」

「その方が絶対楽だよ?だって君をカーツって呼ぶ人が凄く混乱しちゃうよ。だから『名前を上げて良かった!』って思える贈り物をちょうだい。それならおあいこになるよね」

 

 

 ・・・・・・・・・・・・こんなに明るい人だったんだ。記憶の中のカーツ少年は本当に疲れ切ってたんだな。

 

 正直まだ抵抗はあるけど、カーツ少年の言葉に納得する自分も居る。確かにクインは言い辛そうにするだろうし、ぶっちゃけ俺が改名したらウォルフにどう説明して良いか分からん。

 

 新しい名前、か。責任重大だがせっかくカーツ少年がくれた落とし所だ。足りない頭をフル回転させて考えるとしよう。まあそれも大事だけど肝心なことを言い忘れた。

 

 

「───それじゃ仕切り直そうか。改めて初めまして、君から名前を貰ったカーツだ。そして今までありがとう。君の努力があったからこうして生きてこれた」

 

 

 俺がそう言うと、少年は子どものように無邪気に破顔した。目元から微かに溢れた雫は見なかったことにしよう。指摘するのは野暮ってもんだ。

 

 

 

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