───王立学校。設立当初はまだ開拓都市だったヴィブギヨル王国が、優秀な人材を集め育成し、領土を広げるための学舎だった。
現在は地方貴族から学費を徴収するため、そして教育を一元化するための機関としで機能している。技術訓練や平民向けの教育機関は認めているが、貴族用の学校は王国になった現在でも中央の独占事業だ。家庭教師でギリギリセーフらしい。
何の因果かそんな王立学校に明日から通うことになってしまった。正直行きたくないがこれも渡世の義理だ。今は最終チェックってことで、いつもの面子の前でお披露目をさせられてる。
「ほう、上手く化けたじゃないか。これなら変に浮くことはあるまい・・・・・・喋らなければ」
「毎日苦痛に耐えた成果が出てますね。とてもモチモチで綺麗な肌になってます。きっとご令嬢方も視線を向けるでしょうね・・・・・・喧嘩を買ってる姿を見られなければ」
「・・・・・・好き放題言ってくれるな、お前ら」
後ろで控える執事さんも苦笑いしてるけど、残念ながら否定はしてくれない。まあ俺も喧嘩売られたらお行儀の良さとか飛んでくと思うけど。いや超遠回しな言い方なら、喧嘩売られてるって気付かない可能性もワンチャンあるか?
改めて姿見に目を向ける。髪は適当に整えてたものを切り揃え、肌もクインの言う通り燻みが消えて明るくなった気がする。パーツは全く変わってないのに印象が全然違って見える。
制服はブレザーにスラックスといった昔よく見たスタイルだ。これも俺の"同郷"が持ち込んだ文化なんだろうか?まあ比べものにならないほど上等な生地使ってるんだけど・・・・・・ああ、半日軟禁されて突貫工事で仕立てた記憶が蘇ってくる。
「───えっ!?ど、どうしたんですかカーツさん。突然泣き出して・・・・・・」
「・・・・・・いや、あの地獄の日々がようやく終わるんだなって自覚した途端目から汗がな」
「あぁ・・・・・・本当にお疲れさまでした」
気の毒そうな視線が肌に刺さる。食事は栄養と食べ終える速さしか考えてない簡易食、睡眠時間返上で盛り続けられる勉強時間。マジで二度と体験したくない1ヶ月だった。
唯一ポジティブに捉えられるのは、使いまくったお陰で【
より効率良く、より丁寧な仕上がりになったと思う。長杖のお陰で今まで弄れなかった細部まで干渉出来るようになったのも大きい。
「・・・・・・随分と大袈裟だな。俺が纏めて修行してやった時と対して負担は変わるまいに」
「いや、確かに肉体的な疲労なら修行の方が辛かったよ?でも身体動かすのは嫌いじゃないし、成果が目に見えるから苦じゃなかった」
「まあそれは私も同感ですね。特にカーツさんの場合はお仕事に直接関わる内容でしたもんね」
「そう!そこがストレスなんだよ。これが薬草の知識とか魔法技術なら兎も角、ぶっちゃけ学校以外で殆ど使わない勉学なのが辛い!なにより───結局勉強するにしても、本来ならこんな詰め込み教育じゃなかっただろうって思うと滅茶苦茶しんどい!!」
クインだけでなくアデルまで同意するように頷いてきた。いやマジで何度発狂しそうになったか・・・・・・興味の薄い分野な時点でキツいのに、自分達に敵意のある連中の所為で往生させられてるって嫌でも頭にチラつくのがな。
まあでもそんなストレスフルな日々もこれで仕舞いだ。こうして完璧に仕上がったのを見れば気分も多少晴れてくる。
え、明日から別ジャンルのストレスがやってくるだろうって?明日のストレスは明日の俺が何とかするから良いんだよ。考えたら負けだ。
「───よし、愚痴はこんなもんで切り上げるか。せっかくの晴れ着に失礼だからな。どうだ、見た感じ隙はなさそうだけど」
「ええ、よくお似合いです。確かベストに特殊な加工をしているのですよね?」
「そう聞いている。オークス商会の【細工師】が仕上げたそうだ。上着の方にも【明星】の治癒士が聖別した魔除けが縫い込まれている。貴族令息が手に入られる程度の毒は無効化するとのことだ」
イーグレットさんが?ああしまった、忙し過ぎて教会に行く暇がなかったな。流石にもうパーティに合流してるだろうけど、今度きちんと礼をしないとな。
それと・・・・・・またモーガンの仕事か。期間も短かったから多分大丈夫だろうが、念のため妙なギミックが付与されてないか点検しとこう。新技術をジャンクフード感覚で提供してくるから心臓に悪いんだよな。助かるんだけどさ。
「そういえば、学校には協力者とか味方は居るのか?ほら、俺みたいな立ち位置の」
「・・・・・・残念ながら。そもそも【浄血】だけでなくその寄子貴族もかなり特殊な立ち位置ですので。基本的には王立学校には通われませんね」
「例外は功績を上げたことで、ヴィブギヨル王国貴族として正式に土地を拝領した家だな。残念だが現在そういった家の子息は在籍していないな」
「うわぁツイてねぇ。じゃあ南部貴族は・・・・・・って何の接点もない俺を助けてくれる訳ないか」
もしかしたらセレストゲイル繋がりで助けてくれるかもだが期待薄だな。どう考えても中央で揉める方がリスクだし。セレストゲイルの人間なら義理人情で助けてくれるだろうけど、あくまで当事者はいち寄子だからな。
「いや待て、貴殿が南部や北部でパーティを組んでいた・・・・・・確かウォルフといったか?アレも王立学校に編入すると言っていたな」
「えっ、あの話マジで通したのか。助かるけど、どうやったんだ?確か今まで屋敷にも立ち入らせなかったのに」
「どうやらトマス殿の差配だそうです。世間体としては、後継者争いを降りたカイツ殿の後釜として担ぎ上げられた。そういう筋書きとのことで」
よくラリマー子爵が許可したな。どうやらトマスさまは次期後継として立場を確立させつつあるらしい。発言権が今までと段違いだ。
ほんと、ラリマー子爵家には頭が上がら───いや結構無茶振りもされてるからトントンか??何にせよ味方が学内にも居てくれるのはありがたい。まあ俺みたいな強行軍は無理だから、多少編入次期は遅れるだろうけど。
「それでは最終確認をしましょう。今回カーツさんが王立学校へ入学することになったのは、王城から名指しで要求があったからです」
「改めてご当主から伺った説明だと、確か『「迷宮騒動」および「黒星事件」での貢献による褒賞』らしいな?」
「はい、どちらも表沙汰には出来ませんが信賞必罰は世の習いだと言ってきたそうです。更にセレストゲイルが寄子貴族に指名するほどの将来性を評価し、ヴィブギヨル王家から教育の場を提供するとのことです」
要するにアデルが言った『例外』扱いするってことだろ。信賞必罰云々はおっしゃる通りだが、表沙汰に出来ない功績なんて既に通ってる連中にどう説明するんだ?
何の説明もないと王家のゴリ押しに見えて印象悪くならないか?もしかしてそれも織り込み済みなんだろうか。本当に面倒臭いな。
「・・・・・・セレストゲイルに代償として要求した癖に恩着せがましいなオイ。まあ良いか、どうせ建前なんだろうし」
「はい、十中八九間違いないかと。そもそもまだ形に残る成果を出していないカーツさんを、新年度を待たず編入させる時点で異例尽くしですから。これで裏の意図がない方が驚きでしょうね」
「おそらくは【浄血】との離間工作のためだろう。もしそれが叶わないのであれば、強硬手段も視野に入れてある筈だ」
アデルの言葉に俺も同意見だ。連中、護衛の防人さんの侵入すら拒んでるからな。学校の閉鎖性を悪用しての隠蔽、あるいは知らぬ存ぜぬを疑われても仕方ないわな。
「ご当主さまから改めて釘を刺していただいた。連中が幾らこの機を利用したくても、まだ我々と正面から事を構えようとはすまい。そこは安心しろ」
「滅茶苦茶助かる。とはいえ何もしないんじゃ引っ張り出した甲斐がない。となると少なくとも一回は仕掛けてくるよな」
「おそらくはな。偶然や不慮の事故に見せかけた乾坤一擲の謀りごとになるだろう。蛇共の介入も覚悟しておいた方が良い」
よくあるパターンとしては、目撃者が居ないタイミングを作りやすい演習とかだろうな。外部から侵入した
「在学中に俺がやるべきことは、真面目に勉強するのと警戒を怠らないことか。確か長杖は持ってて良いんだよな?」
「はい、規則によると凶器は携帯は不許可ですが隠し武器の類いは問題ないようです。通常の杖や剣杖は駄目ですが、あの長杖はポケットに隠せるので大丈夫でしょう」
これまた意味深な抜け穴だな。だけど今回は都合が良い。防御機構なら折り畳んだ状態でも使えるし、何時でもバリアを張れるようにしとけば問題ないな。
「あとはもし可能であれば、第三王子との接触だな。だが当人やその派閥から敵視されている可能性は低くない。無理をして関わる必要はない」
「いや王族との関係改善こそ急務だろ。まあいいや、他に特筆することはあるか?」
「・・・・・・学校の図書室などは如何でしょうか。地方には出回っていない貴重な資料があっても不思議ではありませんから」
お、良いね。ここに来て初めて学校に行くポジティブな理由が出来た。流石に魔法の専門学校じゃないし、実戦的な情報はないだろうけど。それでも最前線の論文や、意図的に広まらないようにしてる知識とかありそうだよな。
「在学期間は長くても今年までだろう。そもそもが無理な編入だからな。貴族になる予行練習とでも考えて励め」
「・・・・・・了解、精々足元掬われないように努力するさ」
「それではそろそろお召し替え致しましょうか。お夕食も近いですから、汚してしまっては大変です」
「ありがとうございます。あ、そういやゆっくり飯食うのも久しぶりだったな・・・・・・」
今日はもう考えるのに飽きたし、偶には健康度外視で腹一杯食おう。明日からは寮生活だし、しっかり食い溜めしておこう。