異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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第七十六話 後門の"蛇"

 

 

 

 

 

 

「───それでは皆さま、新しく我が校に加わられたカーツさまです。さあどうぞ、ご挨拶を」

「新しく南部の一翼に加わりました、カーツ・"ユークレス"と申します。どうぞよしなに」

 

 

 噛みそうになる口元を必死で制御しながら、付け焼き刃の礼儀作法で一礼する。学生がする挨拶じゃねぇだろと思うが、貴族の流儀なんだから仕方ない。

 

 チラッと反応を見てみるけど、予想通りお通夜みたいに鎮まり返ってる。まあそりゃそうだ。ただでさえ評価が揺れまくってる【浄血】の縁者、しかも聞いたこともない新参者なら警戒して当然だろう。

 

 ざっと見た感じ・・・・・・嫌悪:警戒:関心:好意の割合が3:4:2:1って感じか。嫌悪してるのは俺がつい最近まで平民だって知ってる情報通な奴、それから関心を寄せてるのは中立のご令息ってとこか。

 

 

「ありがとうございます。それではユークレス()()、最後列の右から三番目───ジレット氏の隣りへどうぞ」

「はい、それじゃ失礼して───ジレットさん、今日からよろしくお願いします」

「あ、は・・・・・・はい!こちらこそよろしくお願い致します!!」

 

 

 うーん、硬い。いっそ怯えすら感じる反応に苦笑が漏れそうになる。だけどこの反応は当然だし、表情に出せば彼の迷惑になる。

 

 これが『黒星事件』の前なら話は違っただろう。【浄血】との繋がりを得ようと、元平民なんて忘却の彼方に追いやってご機嫌取りでも何でもしただろう。だが今の情勢だと先行きが全く読めないし、下手に関わり合いたくないんだろう。

 

 

「それでは早速授業に入らせていただきます。カーツ()()、ご予習の進捗はいかがでしょうか?」

「事前に済ませてあります。もし分からないことがあれば、後から質問に伺いますのでお気遣いなく」

「了解致しました。それでは84ページを───」

 

 

 ・・・・・・ついでに付け加えると、生徒だけでやく教師までこんな調子なのは俺が貴族()()()()()()からだ。学ぶ側と学ばせてもらう側であっても、身分差というものは絶対だ。特にここ王都なら尚更だ。

 

 以前トマスさ・・・・・・今はトマス殿って呼称しなきゃいけないのか。あの人が言ってた平民虐めが見て見ぬフリされてたのも、彼らが今は何の実権も持たない身だからだ。そこに地方間の派閥争いも加わることで、『子どもやったことだから』って詭弁を無理矢理押し通してる。

 

 だけど既に爵位を持ってる、いわゆる"本物の貴族"だったら話は変わる。いま学校に通ってる殆どの生徒は、敢えて悪く言うなら"半人前"の貴族だ。たとえ最下位の爵位だろうが、どれだけ実家が大きかろうが、現当主相手に無礼を働けば最悪首が飛ぶ。

 

 

「(・・・・・・ま、それは俺にも当て嵌まるんだけどな。俺のやらかしはユークレス家当主の失態としてカウントされる。半人前の減刑は貰えないって訳だ)」

「───それではこの年に発生した、ある錬金術師が没落することとなる事件・・・・・・カーツさま。お答えいただきたく」

「はい、『セレンディバイトの乱』です」

「その通りです。かつて第三王子の後見も務めた稀代の錬金術師、セレンディバイト侯爵の名を冠した事件にございます」

 

 

 ・・・・・・なんというか、授業内容のチョイスに悪意を感じる先生だな。歴史の授業は結構だが、さっきから"オニキスフレアが絡んだ事件"ばっか取り上げやがる。

 

 周りを盗み見ても動揺した気配は見当たらない。ということは以前からこんな感じなのか?今は退去したけど、クソジジイのお膝元でよくやるよ。大した肝っ玉だ。

 

 

「───それでは本日の授業はここまでです。お疲れさまでした」

 

 

 そうこうしてる内に、今生初めての授業は幕を閉じた。まだ一つ目だから断言は出来ないけど、受講した感じだと遅れはなさそうだ。デスマーチした甲斐があったってもんだ。

 

 

「あ、あの!ご挨拶をさせていただいてもよろひいですか?」

「───ん?ああ、もちろん」

「では改めて・・・・・・ルベライト子爵領のイアンです。領主さまから伺っております。お会い出来て光栄です!!」

 

 

 ルベライトってことは、ベリル子爵のとこから来た平民さんか。トマス殿の同窓で、平民相手でも好意的な人だったからよく覚えてる。碌な思い出のない北部だから尚のことな。

 

 そういう縁もあるし、この教室で俺にポジティブな視線を送ってきた生徒さんの一人だ。出来れば友好的に行きたいとこだけど・・・・・・申し訳ないがちょっと難しい。

 

 

「もしよろしければ、昼休みをご一緒させていただけませんか?是非校舎を案内させてください」

「あー・・・・・・申し出は大変ありがたく思う。だけど今回は遠慮しておこうかな。最初は先入観なしに見て回りたいからね」

「そうですか・・・・・・分かりました。お時間をいただき感謝します」

 

 

 残念そうな視線が良心を抉ってくる。そして本気で口が攣りそうで辛い。もっと雑な喋り方がしたい!でも絶対許されないよな!?

 

 それはそうと、彼らにとっちゃ俺は平民から貴族へ華麗に転身した憧れの存在だろう。こうなりたいって気持ちは理解出来るが、彼らに迎合することは厳禁だ。

 

 北部で冒険者を虐めてたように、貴族は平民を本質的に忌避・・・・・・というより恐怖してる。幾ら教育を統制しようと、一等級冒険者をはじめ実力行使が困難な存在になり得るからだ。

 

 今ですら冒険者ギルドは、貴族にとって全面戦争を避けるべき存在に膨れ上がった。これ以上は何としても増長を抑えたい筈だ。そんな彼らに甘い顔をすれば間違いなく今以上に敵視されてしまうだろう。

 

 

「───ま、そんな対応してればこうなるよな・・・・・・はぁ」

 

 

 あっという間に放課後になった。流石にこれだけ時間が経てば教室の緊張も少しは弛緩してくる。俺という異物を見ないフリして、学生らしい賑わいで談笑してる・・・・・・俺以外は。

 

 見事なまでのぼっちである。そりゃ貴族は火種を恐れて近寄ってこないし、平民を遠ざければこうなるよな。分かってたことだけど割としんどい。

 

 

「それでは本日の()()()()での授業はこれにて終了します。皆さま、引き続き課外活動を頑張ってください。カーツさまも是非ご見学のうえでお選びになってください。王立学校では部会への入部が義務付けられておりますので」

 

 

 先生の挨拶と同時に、一斉に生徒が退室していく。事前に渡されたしおりに目を通していると、いつの間にか一人になっていた。

 

 まあいいか。話す相手も居ないし、一人の方が寧ろ気が楽だ。ちょうど考えを纏めたかったし。

 

 

「・・・・・・しっかし、見事に魔法の授業がないな。魔法学部や騎士修道学科なら話は違うんだろうけど」

 

 

 【浄血】から引き離したいのが本音なんだ。魔法に関する授業が一切ない学部へ押し込むのは当然の話か。教育学部は王城の役人や地方官吏を育成する学部だから、当然荒っぽい授業なんてものはない。

 

 そうなると、残された手段は部会・・・・・・要するに部活動しかない訳だ。ざっと見た感じだと、"魔導具研究部"や"実戦魔法部"あたりがそれっぽいな。

 

 

「・・・・・・申し訳ありません。現在定員が満員となっておりまして」

「うん、知ってた」

 

 

 早速部室に足を運んだものの、どっちの部会にも全く同じ返答を返された。明らかに上流貴族っぽいのに、もの凄い勢いで頭を下げられたからな。長居しても迷惑だろうし、さっさと引き上げるハメになった。

 

 

「参ったよなぁ、この調子だと図書館の方も怪しいだろうな」

 

 

 ガッツリ閲覧に制限を掛けられるか、最悪出禁を喰らいそうだ。初日から通学意欲が枯渇しそうになっていると、行手を遮るように誰かが立ちはだかってきた。

 

 

「はぁい、そこの色男ぉ。辛気臭い顔してんねぇ」

「・・・・・・何というか、この辺りでは見ない格好ですね」

「あ"あ"ん?素直に奇抜って言えやテメェ」

 

 

 自分から言うのか・・・・・・目の前で仁王立ちしてるのは、前世でいうところの"ギャル"みたいな格好をした小柄の女性だ。身に纏う気配そのものは気品があるのに、それを全部ぶち壊す勢いだ。

 

 とても生徒には見えないが、この見た目で教師ってことはないだろう・・・・・・ないよな?

 

 

「まあいいや、ちょっとツラ貸せよ。袖にされて暇してんだろ?」

「いや、いきなりそう言われても・・・・・・そもそも貴女は誰だ?」

「名乗るんなら自分から───って、此処でそれやんのは御法度なんだっけか?」

 

 

 首を傾げる女性に頷きで返す。教師から促される以外で自分から名乗るのは、王立学校では生家を軽んじる行為らしい。自分の家は覚える価値もない、そう公言してるようなもんだとか。

 

 

「ウチのことは知らねぇだろ?そりゃそうだ、今日から赴任してきた新人教員だからなぁ!」

「・・・・・・申し訳ないですけど、知らない相手に着いていくのは───」

「"ティアマト"、それがウチの二つ名さ。"コアトル"の義手を作ったヤツ・・・・・・って言えば伝わるかぁ?」

「・・・・・・・・・・・・は?」

 

 

 断りの言葉が一刀両断される。今コイツなんて言った・・・・・・?

 

 

「ほら、ウチの気が変わる前にとっとと来いよ。力尽くで連れてってほしいならそうするけど?」

「・・・・・・・・・・・・いや、遠慮しとく。自分の足で歩けるさ」

 

 

 さっさと前に進むのを見て慌てて着いていく。どう考えても面倒ごとだが、サシで会った時点で詰みだ。"コアトル"や"バシュム"と同格なら、どう考えても一人で相手出来るとは思えない。

 

 さっきから何人かとすれ違ってるけど、誰も"ティアマト"とか名乗る女の格好に反応しない。認識を改変してるのか、それとも幻覚の類いか。詳細は不明だが、周囲からは普通の女教師にしか見えてないらしい。

 

 何処に向かってるかは知らないが、まあいきなり殺されるってことはないだろ。そのつもりなら『黒星事件』の時にやってるだろうし。

 

 それはそれとして・・・・・・テロリストが白昼堂々、王立学校を闊歩するとか悪夢だろ。何処まで入り込んでやがるんだ、コイツら。

 

 

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