異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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第七十八話 呉越同舟

 

 

 

 

 

 ───退屈な授業は続くよ何処までも。国史、世界史、簿記にそれから紳士学。役に立たないとは言わないし、興味がない訳じゃない。だけど色々きな臭いこの状況で、わざわざ時間を割きたいとは思えない。やるなら色々落ち着いてからだろう。

 

 とはいえ俺に選択権なんて無い訳で。案の定図書室も色々制限を設けられてたし、部会に入っていない以上は魔力操作の練習すら許可されない。

 

 流石に何日もブランクが空いたら腕も鈍る。かといって俺が修行を許される場所は一つしかない。そういった都合から渋々『錬金術同好会』へ入り浸る羽目になった。掌の上みたいで気持ち悪いが、今は我慢の時間だ。

 

 

「・・・・・・んだよガキが一丁前に憂鬱そうによぉ。平民なら上澄みの中の上澄みしか入れねぇんだぞ?もっと有難がれ」

「経緯が経緯だからな。それに勉学はありがたいんだが、思想教育の偏りがどうも・・・・・・」

 

 

 "ティアマト"は普通に話しかけてくるし、他の生徒も含めよく指導してる。本当にテロリストか?ってくらい真面目に先生やってて脳がバグる。

 

 別に血の気が多い訳じゃないし、自分から殺し合い仕掛けるほど見境がないつもりもない。だけど何というか、こうフレンドリーだと調子が狂うな。

 

 

「そりゃ王立学校ってのは"最後の砦"だしなぁ。偏んのも当然だろ」

「・・・・・・どういうことだ?」

「はっ、お前の後見は何教えてんだぁ?此処は初代の【浄血】が作った学舎だろうが。しかも"不可侵"の誓いを立ててるから一匹たりとも入ってこれねぇ。使命至上主義のアイツらが何でお行儀良くしてるか、不思議に思わなかったのか?」

 

 

 ・・・・・・言われてみればそうだな。入学の妥協はまだしも、護衛のお断りをちゃんと守ってるのは不思議だ。俺自身の価値はともかくとして、もし自白剤でも飲まされてノア少年のこと吐かされたら戦争まったなしだろ。

 

 始祖の賢者なんてビッグネームを【浄血】が囲ってるなんて、王族からすりゃ悪夢だろう。やっと傾いたと思った天秤をぶっ壊されかねないんだから。

 

 

「介入大好きクソジジイのお膝元で反【浄血】思想を保ててるのはそういう理屈か。しっかり本懐を果たしてるようで結構なことだ」

「お、分かっちまうか。ウチが砦って言ったのも納得だろ?『災害』を止め損なった時、あるいは末裔が暴走した時の保険って訳さ」

 

 

 何でそんなこと知って・・・・・・って、そういやコイツも元貴族だったな。それも王族の後ろ盾になれるくらい超一流の。それなら込み入った事情や裏の都合も知ってて当然か。

 

 

「・・・・・・にしても、予想はしてたがマジで察しが良いのな。いっぺん本気で鞍替え検討してみねぇ?ぜってーウチらの方がその才能活かせると思うけど」

「首を縦に振ると思ってんのか?そもそも【錬金術師】の天職でもない奴を勧誘してどうするんだ」

「分かっちゃねぇなあ。既にあるもんを弄る【細工師】と違って、ウチらは一からまったく新しいモンを生み出すんだ。この細腕一本でやってちゃ非効率過ぎんだよ。だから優秀な助手こそ【錬金術師】のキモってやつなのさ」

 

 

 牽制とかじゃなく、かなりガチめのトーンで言い寄ってくるな。まあ論外な交渉なんだけど、何でコイツこんなに熱心なんだ?

 

 

「いやー、まさか"バシュム"どころか"ザット"まで夢中にさせるなんて、ちょっと稀少とかそーいうレベルじゃねぇって。アイツらが大人しくなるだけで滅茶苦茶やりやすくなっからな!」

「・・・・・・それが本音か」

「はあっ!?ウチらがどんだけアイツらに往生させられてっと思ってんだ!!予定は未定が当たり前、気になることがあれば段取りぶっ壊す、その癖尻拭いは1ミリもしねぇ!!」

 

 

 知るかそんなもん。そんな社会不適合者に頼ってテロやってんだから黙って耐えろ。俺に面倒をお裾分けしようとすんな。ただでさえ目を付けられて面倒臭いってのに、これ以上厄介を増やすんじゃねえ。

 

 

「・・・・・・まあ良いや。どうせこのままじゃ王族と【浄血】の泥沼争いに巻き込まれんだろ?嫌になったらいつでも言いな。それはそうと、どうせ此処にゃ長く居ねぇんだろ?一時休戦ってことで協力しねぇ??ウチらのコネなら大概は何とかなんぜ」

「いやいや、反社会勢力に借りとか怖くて無理なんだけど」

「そう言うなってー。何かねぇのか?外法を使わなきゃ得られない知見とか、気に入らない貴族の弱味とかばっちこい!」

 

 

 例えがどれも真っ黒過ぎる!!しれっと犯罪教唆すんなよ。本当に油断も隙も・・・・・・待てよ。あの件について、何か取っ掛かりになるか?

 

 

「───ものは試しか。なら"ティアマト"、第三王子への繋がりはあるか?」

「・・・・・・アーサーの?」

 

 

 おっと、さっきまでの皮肉気な笑みが消し飛んだ。これはもしかしてだけど、地雷踏んだか?王族、それも王位継承権持ちを呼び捨てって絶対普通の仲じゃないよな。

 

 

「───どういうつもり?」

「・・・・・・こっちの陣営の方針でな。第一と第二王子は会話にならないだろうから、ダメ元で第三王子に接触してみろってな。そもそもこの学校には第三王子しか居ないんだけど」

「止めとけ、無駄どころか第三王子が死ぬ。寝覚めが悪いだろ?」

 

 

 どういうことだ?また物騒な話が出てきたな。

 

 

「・・・・・・そんなに立場が悪いのか?」

「第三王子がってより、後継者争いが再燃したってとこだ。今まで盤石だった第一王子の地盤が緩んで、縮こまってた第二王子が吹き上がってんのさ」

 

 

 ───なるほど。第二王子は元々【献言する蛇(サマエル)】に近い貴族が取り巻きだった。だから手柄になる予定の事業を【浄血】に潰されてたし、おそらく継承争いの土俵にすら立たせて貰えなかったと思う。

 

 一方の第一王子だって【浄血】に好かれちゃいなかったろうが、独立思考はよくあることだし表立っての対立は避けてた。だけど『黒星事件』で全ての歯車が狂った。

 

 

「絶対勝てない化け物に睨まれた愚弟・・・・・・そう馬鹿にしてた奴が継承争いの先頭に躍り出た。しかも台風の目である【献言する蛇(サマエル)】との繋がりも雲泥の差か。そりゃ長男の目も吊り上がるってもんか」

「そういうこと。お前が此処にくることになったのも、そのゴタゴタの延長さ。誰の手引きかはウチも知らねぇけど、どいつもこいつも媚売りの真っ最中って訳」

 

 

 マジか・・・・・・あの地獄の日々がそんなくだらない騒動が原因だったなんて。全く意欲が湧かない授業の為に神経擦り減らした時間は何だったんだ・・・・・・!

 

 ───ふう、落ち着け。此処は連中の胡麻すりが完全に徒労だったって冷笑して心を落ち着けよう。"バシュム"を始め、絡みのない『大蛇衆』は俺への興味が薄いかゼロ。話の内容から察するに、"ザット"は寧ろ俺の停滞を歓迎してないと思う。見事に逆効果にしかなってないな、本当に。

 

 

「おいおい、貴族らしい笑いも出来るんじゃねえか。腹黒そうで良いな、舐められることはまずねぇだろ」

「・・・・・・全然褒め言葉になってないぞ」

「別に褒めてねぇからな。そんなことはどうでも良いとして、そんなピリピリした状態に後ろ盾もねぇ弱小派閥がちょろちょろしてたらどうなると思う?」

 

 

 まあ普通に考えれば、ついでに潰しとくかって思われかねないよな。実際下に見てた弟に下剋上食らってるんだから、火のないところに煙の錯覚を見たって不思議じゃない。

 

 況してや【浄血】の紐付きと会ってた、なんて格好の攻撃材料になるだろうな。どうやら"ティアマト"も単なる昔馴染みってだけじゃなさそうだし、此処は素直に引いとくか。

 

 

「失礼します。お疲れ様ですユークレス男爵、セレン先生」

「おう、いらっしゃい。それじゃ男爵サマ、今日はこの辺で」

「───ええ、ご指導ありがとうございました。お疲れ様です先生」

 

 

 別の生徒もやってきたので、スッとお互いネコを被る。進学する学科で修了時間もバラバラだからな。特に騎士なんかの専門分野は遅くまで授業に拘束されるし、反対に俺の居る文官や嫡子向けの学科なんかは終わるのが早い。

 

 しかし、出来る気がしなかった所作もいつの間にか自然にやれるようになった。まあ俺も成長したもんだとプラスに考えよう。

 

 取り敢えず今やれることはこんなもんか。後は"ティアマト"経由でセレストゲイルの返事待ちだし、動くにしてもウォルフが来てからだ。それまでは大人しくしておこう。

 

 

 

 ───そう、大人しくしとく予定だったんだよ。唯でさえ悪目立ちしてるし、出来ればこのままフェードアウトしたかった。

 

 貴族(ラリマー子爵家)の御家騒動ですら滅茶苦茶振り回されたんだ。あれより更に難易度ルナティックな厄介ごととか絶対に関わりたくなかった。

 

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「───ご足労感謝します。今このような時期に会うべきではないと思ったのですが・・・・・・セレン先生に無理を言って場を設けていただきました」

 

 

 ねえ、何で俺の前に王子さまが座ってんの?生命が惜しくないのかアンタは??

 

 

 

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