「───そう硬くならないでください。僕まで緊張してしまいます」
「いや、それは無理ってものでしょうよ。どうしてこの場を用意させたのか、まるで意図が掴めませんから」
優雅に紅茶を嗜む姿はまさしく貴公子といった佇まい。だけどやってることはただの命知らずだ。どういうつもりなのか、どう対応して良いものか判断しかねる。
目の前の人物はアーサー・ダイヤモンド。れっきとした王位継承権第3位にして、先日懇々と関わってはいけない理由を教えられた相手その人だ。
「ああ、きっかけは偶然なんですよ。まさかフォウが王都に戻ってきていて、しかも教師をやっているなんて思いもしませんでした」
「あの、殿下・・・・・・出来れば名前ではなく"セレン先生"とお呼びいただければ───」
「殿下だなんてつれないですね。昔のように"アーサー♡"と呼んでください」
「呼べるかあっ!!?つーかそんな言い方してねーっつーの!!」
・・・・・・なんか、聞いてたイメージと違うな。快活というか、人で遊ぶのがお上手というか。
「あははっ、やっと懐かしい喋り方をしてくれましたね。あーすっきりした」
「───えっ、こい・・・・・・この人貴族令嬢の頃からこうなんですか?」
「そうなんですよ、貴族社会きってのお転婆お嬢さんで有名だったもので」
「くだらねーこと言ってんじゃねぇ!!どうせすぐ聞き耳立てる奴が出んだからさっさと話進めやがれ!」
真っ赤になってガルガル言ってる"ティアマト"。もう何度目かになる感想だけど、お前本当にテロリストなんだよな?
「───そうですね、場も和んだことですし本題に入りましょうか。彼女と再会した私は無理を言ってこの状況の用意を頼みました。生命を狙われる危険を飲み込んででも、貴方と・・・・・・正確には貴方の後ろ盾との繋がりが必要なのですよ」
「・・・・・・お見受けしたところ、貴方とセレン先生は親しい間柄でしょう。そんな先生の実家を滅ぼし、結果的に貴方を追い落とした【浄血】と誼を得たいと?」
「その疑問は当然かと。ですが派閥としては兎も角、私個人の恨みは【浄血】ではなくオニキスフレアにのみ向けられています。彼らが滅ぶのなら───いえ、滅ぶからこそ"仲直り"がしたい。単刀直入に聞きますフォウ、兄上達が言う『切り札』は、本当にこの国を救うと思いますか?」
切り札・・・・・・まあ噂の"ザット"のことだろうな。"ティアマト"の反応は───まあそうだろうな。相手は"バシュム"も認めるイカれ野郎だからな。
「有り得ねぇ。あのクソ馬鹿の興味はそこの治癒士ともう一人、それから愉快な二重生活だけだ。もし目的を達成するか、あるいは飽きればこの国は見離されるだろうよ」
「・・・・・・まあ予想通りですね。もしそんな未来が訪れれば、【黒の防人】を喪ったヴィブギヨルはそう遠くない内に滅びるでしょう」
「にも関わらず二人の兄君は脱・【浄血】を掲げ、しかも強烈に推し進めている。貴方が動いたのはそのためだと?」
頷く王子さまに、俺も紅茶で口を湿らせ思案する。王族の【浄血】アレルギー自体は理解出来る。セレンディバイト侯爵家が最たる例だが、オニキスフレアが相当やらかしてたのは事実だ。だからこそ掣肘しようと踠いていたのは当然だろう。
だが突然降って湧いたジグムント爺さんの敗北、そして焚き付ける【
だが王子さまの言った通り、テロリスト集団が本当に救世主になってくれる保証はない。思いっきり関係者から否定されてるしな。イカれ野郎以外に同じことが出来るならともかく、この様子だとその線はなさそうだ。
「しかしどうしてこのタイミングで動いたんですか。貴方の立場なら寧ろ、セレン先生を通じて【
「フォウを通じて他称"救世主"さまに繋がるという線ですか・・・・・・可能なんです?」
「無理無理。アイツ今コイツらに夢中だし、殿下にそれを上回るモン見せらんねーだろ」
いや、"バシュム"に聞いてどうすんだよ・・・・・・本当に掴みどころのない人だな。
「冗談はさて置き、僕が慌てて動いた理由は『中央が地方貴族に見離される危険』があるからですよ」
「───あっ」
そ、その視点は抜け落ちてた。そうだよ、ラリマー子爵領がそうだった。『浄化』や偶々出会したトラブルの解決とかで、地方(特に領民)と【浄血】の中は悪くない筈だ。
オニキスフレアは悪い意味で、セレストゲイルは良い意味で例外だけど多分他の二つもそう変なことはしてない筈だ。ましてや今まで貢献した【浄血】を切り捨てて、代案をテロリストに全掛けするような王都を見限る可能性は充分あり得る。
「───ご理解いただけましたか?今は地方にまで情報は届いていませんが、このままだと中央貴族と王家は『亡国の先導者』として愛想を尽かされかねません」
「・・・・・・『迷宮騒動』の時も余計なことして不審を買ってますからね。そうしたこれまでの積み重ねが爆発しかねません」
「爆発
その可能性の方が濃厚だよな。ヤバい認定されてる奴がどいつもこいつもマッドサイエンティスト味あるし。
「・・・・・・本音を言えば、このままひっそりと忘れられたかった。ですがこのまま手を拱いていたら取り返しが付かなくなります。王族の端くれとして、動かないという選択肢はありません」
「心意気は買うけどよぉ、王城じゃ孤立無援なんだろ?今のままじゃ殿下はただの自殺志願者さ。止めときな」
「ありがとうフォウ、僕を心配してくれて。だけどまだ言い訳の余地はあります。先程も言いましたが、【
「・・・・・・地方の民意を離れさせないための重石になる。今回の会合はその一端だって申し開く訳ですか」
それなら多少生き延びる芽もあるか。"ティアマト"が関係性を告げれば、少なくとも第一王子は手が出し辛い筈だ。まだ繋がりを得てない状況で『大蛇衆』から憎まれるリスクは負いたくないだろう。
逆に第二王子は対抗馬の登場に焦るかもしれない。とはいえ確固たる繋がりがあるなら既に継承権持ちを蹴落としに動いてなきゃおかしい。まだ盤石の関係は築けてないと思う。
「もちろん同盟の見返りは可能な限りご用意するつもりです。セレストゲイルは当然ですが、ユークレス男爵個人に対しても」
「寛大な御心はありがたいんですが・・・・・・やはり今動くのは早計では?俺───失礼、私の見立てでは王族の独立心は想像を絶します。彼らが貴方の動きに勘付いた時、果たして理性が働くでしょうか」
「それでも、自体解決に動こうとした王族が居たと【浄血】の皆様に示すことは出来ます」
め、面倒くさい・・・・・・!私欲と保身に走る貴族も嫌だけど、覚悟完了した貴人も相当だ。そもそもこうして俺たちが会ったことも知られるだろうし、もう賽は投げられてる。
実際のところ、王子殿下の提案は俺とセレストゲイルにとっては凄く都合が良い。上手く立ち回ってくれれば王城内の情報収集や牽制が滅茶苦茶捗るし、仮に殺されてもこっちに損害はない。寧ろそれを奇貨とすることも可能だ。
・・・・・・問題は、俺の寝覚めがもの凄く悪くなるってことだ。助けを求めてきた相手を使い捨てるような真似は御免蒙る。やるならお互いハッピーな結果を、それが取引ってもんだろ。
「───おそらくですが、セレストゲイルはかなり前向きな解答をしてくれる筈です。俺個人としても、きっちり見返り込みで頼ってきた相手を無碍にしたくありません」
「・・・・・・ありがとう、貴方に感謝を。ユークレス男爵という仲介役が居なければ、僕は交渉すること自体叶いませんでした。これからもよろしくお願いします」
やれやれ、手紙をまた出さなきゃいけなくなった。それに結局騒動に巻き込まれてるよ。しかも貴族から王族にスケールアップしてるし。
とはいえこの人以外じゃお先真っ暗なんだ。仕方ないと割り切るしかない。引き受けた以上はやれるだけやってみよう。