異世界憑依生活記〜治癒士と厄ネタを添えて〜   作:章介

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第八十話 何が釣れるかな?

 

 

 

 

 

 

 ───第三王子との話し合いから1週間後、セレストゲイルからの手紙が無事俺の元に届いた。内容についてはある程度予想通りだった。

 

 王子さまと渡りを付けられたのは嬉しいけど、よりにもよって【献言する蛇(サマエル)】を通してか・・・・・・という葛藤が文章から滲み出ていた。気持ちは分かる、俺も同感だし。

 

 他に書かれていたのは、ウォルフがもうちょっとしたら編入出来そうって内容だった。遅れた日数から逆算するに、俺よりちょいマシレベルのデスマーチじゃないか・・・・・・?会えたら労いと感謝をいっぱい伝えよう。

 

 

「───王家最大の問題は、王権を保障出来る要素が何もないことです」

「保障、ですか」

「ええ、ダイヤモンド家が王朝を名乗れるのも結局は【浄血】の承認あってのこと。歴史の授業でご存知だと思いますが、『浄化』のため有力貴族を王家に据え平定させたのがヴィブギヨル王国の始まりです」

 

 

 王権神授説みたいなものか。神による絶対性も、『災害』に対処出来る唯一性も似たようなもんだよな。

 

 あれから俺は第三王子さまとよく話をする間柄になった。とはいえ既存の第三王子派閥が荒れそうだから、あくまで個人的なお友達って扱いだけど。

 

 面倒こどは多いけど、当事者から実情を知れる機会は貴重だ。元々陰謀とは無縁の平民さまだからな。セレストゲイル視点だけだとどうしたって情報が偏るからな。そういった意味でもこうして色々聞いてたりする。

 

 

「ただまあ、お仕着せの王冠とはいえ王族は王族。一度名乗ってしまった以上独立独歩という持病からは逃れられないようで。それに【浄血】の皆さんもセレストゲイルのように滅私奉公とはいかないようで」

「・・・・・・よくこれまで大事になりませんでしたね」

「そりゃそうですよ、そもそも歯牙にも掛けられていませんでしたから。【浄血】はもちろん、【献言する蛇(サマエル)】からもね」

 

 

 あ、自虐がすごく痛々しい。だけど悲しいかな、否定する材料が何処にもない。

 

 『災害』の予防は【浄血】頼り、地方貴族に睨みを利かせて大人しくさせてるのも【浄血】。仮に軍備を充実させたところで、クソジジイが【真言】を唱えるだけで万の軍勢が一瞬で蒸発する。この状況じゃ担ぎ上げる人間も居ないわな。

 

 まあつまり一言で表すなら、これまで王族は舐められまくってた訳だ。おそらく肝心の中央貴族にすら蝙蝠外交されてただろうし。

 

 

「なるほど、平民の武力組織であるギルドはともかく、地方貴族まで敵視する理由が分かりました。【浄血】と王族、どちらと一蓮托生を共にするかなんて考えるまでもありませんから」

「そういうことになりますね。もちろん理屈の上では当然なんですけど、やはり感情はそうもいきません」

 

 

 末期の足利幕府みたいなもんだしな。実体も保有する武力もない武家の頭領。でもその椅子に座る以上は風下に甘んじる訳にはいかない。そんなジレンマと鬱屈さを感じるな。

 

 

「ただ、実際のところどうなんです?俺の視点だと【献言する蛇(サマエル)】が王族と付き合うメリットって無い気がするんですが」

「ははっ、はっきり言いますねぇ」

「気に障ったならすみません。けど【浄血】が滅びるか他国に撤退するかすれば、地方も中央もなし崩しに恭順するしかありません」

「それなら実務に携わる末端貴族さえ抑えておけば充分・・・・・・言われてみればそうですね。ですが実際は、兄上達が狂喜する程度には配慮されてるみたいですよ?」

 

 

 まあ、そうじゃなきゃ態々【浄血】から鞍替えする価値がないもんな。いや鞍替えしたところで近い将来主導権争いするんだろうけど。100%王族が負ける出来レースだけど。交渉材料すら持ってないんだし。

 

 

「連中何考えてんですかね?」

「それは・・・・・・いや、止めておきます。本当になったら嫌すぎますし、『そっちの方が面白そう!』とか言われても困りますから」

 

 

 それはそう、話聞いてる感じだとオリチャーとか大好きだろうし。特に"バシュム"と"ザット"は。

 

 話も一段落したとこだし、周囲へ目を向けてみる。昼時の食堂はごった返してるけど、第三王子が居るお陰でこの辺りは空いてて息苦しくない。

 

 お陰で落ち着いて観察も出来る。分かりやすい視線があちこちから感じられるし、宣伝効果はばっちりだろう。

 

 

「これで事態も動きますかね?」

「ええ、少数ですが地方貴族の縁者も在籍してますからね。彼等経由で伝われば良いのですが」

 

 

 中央の"てんてこ舞い"に一番やきもきしてるのは多分地方の有力者だ。だって突然平和維持の要である【浄血】を見限ってテロリストに媚び売ってるんだ。冷静に考えなくても正気の沙汰じゃない。

 

 色々やらかしてる家もあるが、それでも積み上げてきた実績が違う。領地と領民のことを考えれば、中央を見限っても【浄血】を切る選択はあり得ない。

 

 そんな中で【浄血】と共同路線を取る方針の王族が現れた。今は半信半疑でも選択肢があるだけで大分違う。他の王族に容易く潰されなければ、向こうからコンタクトしてくる可能性は低くない筈だ。

 

 

「・・・・・・しかしこの調子だと、俺が当初危惧してた"事故死"が現実味を帯びてきましたね」

「まあ間違いなく一回は仕掛けてくるでしょうね。ですが貴方だけならともかく、王族弑逆は普通に族滅級の重罪です。返り討ちに出来れば揺さ振りを掛けられます」

「まともに処分されますかね?普通に揉み消されそうですけど」

「だからこそ今のうちに存在感を示す必要があります。兄上達に裁判所を抑えられてからでは手遅れですので」

 

 

 実際掌握に向けて色々動いてるんだろうな。そういった状況を見てきたからこそ、こうやってリスク増し増しの行動に出てるのかな。

 

 とはいえ一蓮托生にはまだ遠い。状況が好転すれば用済み、なんて可能性はゼロじゃない。嫡子の立場を奪うのが本命で、俺たちを【献言する蛇(サマエル)】の手土産って考えてるかもしれない。

 

 

「それじゃそろそろ食堂を出ましょうか。そうだ、図書館には私とフォウの連名で使用許可を出しました。全部とはいきませんが、これまで以上には利用出来るでしょう」

「本当ですか!?ありがとうございます。早速顔を出してみますね!」

「ふふっ、貴方は本当に分かりやすい人だ」

 

 

 ───とはいえ、利益を提供してくるなら協力するのはやぶさかじゃない。今の状況ならお互い利用するくらいが、寧ろ健全な関係性だろう。

 

 ただし警戒だけは怠らないようにしないと。"ティアマト"との関係が親密だったことを考えれば、【浄血】へのヘイトがどんなもんか正直まだ読めない。外への注意は当然だが、背中への備えもしっかりしておかないと。

 

 

 

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