「───お久しぶり・・・・・・ってほどでもねぇか。割と元気そうで安心したっすわ」
「おう、相変わらず厄介事が助走つけて殴り掛かってくる以外は想像よりマシだったよ。ウォルフも巻き込んで悪いな」
表面上だけ平和な学生生活を過ごすこと数日。ようやくウォルフが編入生として合流してくれた。
しかし見違えたというか何というか・・・・・・俺も大概なビフォーアフターだったけど、こいつの変化も凄い。いや凄いで済ませて良いレベルじゃなくね?
「アンタも"垢スリ"されたと思うんだが・・・・・・何で髪色までちょっと変わってんだ?いやそもそも、
「あー、アレはキツかったっすねぇ。痛いのは慣れっこだが、身動ぎ一つ許されねぇのは応えたっすわ。それとこの耳については俺もよくわかんねぇ。『黒星事件』の時はまだ出てなかったすけど、迷宮から帰って以来徐々にこうなっちまって・・・・・・」
スッと頭を下げてきたので遠慮なく触らせてもらう。触れたらビクッと反応するし、作り物の感触じゃない。体温も少し高いけどばっちり人肌の温度だ。
制服の所為で見えないけど、どうやら尻尾も生えてるらしい。本人も理由が分からないから詮索のしようがないが、取り敢えず不調がないなら問題ないか。
「まあ、こうして潜り込むには丁度良い変装ってことで。これなら万一会ったことのある奴が居ても、俺だって分かんねぇだろ」
「そりゃそうだけど・・・・・・警戒はしとけよ?そのガタイで素人は無理があるからな」
元々2m近くありそうな長身に、候補生じゃ真似出来ない実戦用の筋肉でバッキバキだ。ウォルフには悪いけど、迫力の所為で制服がコスプレに見えるんだよな。目付きも鋭いから余計に貴族令息っぽくないし。
今俺たちが居るのは錬金術同好会の部室だ。他人に聞かれたくない話は此処くらいでしか出来ないし。"ティアマト"には知られるだろうけど今更だ。この場に居るのは俺とウォルフ、それから
「───ところで、そっちの人は初めて見るんだけどどちら様ですか?」
「はっ、お初にお目に掛かりますユークレス卿。エイブラハム・ラリマーが第一子、カイツ・ラリマーと申します!お噂はかねがね、お会い出来て光栄です」
「えっ、ラリマー・・・・・・それに第一子ってまさか───」
「はい、トマスがいつもお世話になっております!この度嫡子から外されましたので、復学ついでにウォルフの補助を任されました!!」
わあ、普通ならショック受けてそうなことを凄く快活に喋っておられる・・・・・・やばいくらいタフな人だな。
まだ会ってすぐだけど、とても"陽"の気配がする。以前トマス殿も言ってたが、確かに腹芸が出来る感じじゃなさそうだ。
「自分難しいことや魔法については空っきしですが、徒手空拳と剣なら多少自信があります!御身の安全は私とウォルフにお任せを」
「一応補足しとくっすけど、この人"多少"なんてもんじゃねぇわ。試合形式じゃ俺のボロ負けだし、今日まで散々扱かれましたわ」
───へ?『迷宮騒動』を潜り抜け、『黒星事件』でも活躍したウォルフより上なのこの人。二等級冒険者より強い貴族令息って何だよ。
ラリマー子爵家って確か人智未踏を開拓した猛者の末裔だったよな。そう考えると真っ当に血が引き継がれてる、のか?"策"のトマス殿に"武"のカイツ殿・・・・・・ラリマー領の未来は明るいな。
「ウォルフ、俺たちだけの時は構わない。だがそれ以外の場ではユークレス卿に敬語を使いなさい。何度もパーティを組んだ君たちにとってはやり辛いだろうが」
「おっと、そうでした。気を付けねぇとボロが出そうだ」
「まあいざとなれば、トマスお手製のチョーカーが敬語に聞こえるよう調整してくれるけどな!だけど過信は禁物だろ?」
そ、そんな便利な物作れたのトマス殿?【錬金術師】も大概だけど、【細工師】も使い手次第で化けるよな。当の本人が"俺と同郷"だから応用の幅も広いし。
・・・・・・正直俺も欲しい。ウォルフじゃないけどボーっとしてたら敬語飛びそうで怖い。とはいえ道具に依存するのも怠け癖が付きそうだし、後ろ髪引かれるけど今回は諦めよう。
「しかし・・・・・・事前にある程度お話は伺いましたが、中々厄介なことになっているようで」
「ええ、正直お二人が間に合ってホッとしてます。アーサー王子も派閥から選りすぐってるみたいですけど、中々選考が難航してるそうで」
「───今更人員の選抜っすか。何か催しごとが?」
「ああ、魔物討伐の
貴族の役割で最も大事なものの一つ、それは領地の平定である。中央であれば交易路の保全、地方貴族なら防人が王国全土を『浄化』出来るよう領内の安全を確保しなければならない。
だからこそ魔物討伐を肌で感じ、兵士の育成や慰撫の重要性を学ばせる実習が全学部で行われる。とはいえ現代では貴族自身が魔物討伐を行うのは稀であり、この実習も現地集合に限るが自領土から戦力を呼ぶことを許されている。
「・・・・・・知らせが遅過ぎませんか?場所にもよりますが実家へ手紙が届くまで1週間か10日。そこから人員の選定と遠征の準備を考えれば、どう考えても間に合いません。中等部でも実習はありましたけど、遅くても2ヶ月前には通知された筈です」
「ええ、通達を任された先生も困惑していました。どうやら相当上の方から横槍があったみたいです」
先生によると、今回は『不測の事態へ即応する経験を積ませる為の実験的かつ実戦的な実習』だと説明があったらしい。王城の近衛部隊や騎士団が監督するから、生徒の安全は保証するとのことだ。
・・・・・・白々しいよなぁ。本来学校に監督責任のある実習の実権を奪いにきてる。しかも問題を起こしたところで学校が責任追及するとは思えない。
トップである学校長をはじめ、この学校の人事権は全て王城が掌握してる。この絶対的な上下関係を前に、文句を言える筈もない。おそらく担当者に全ての責任を負わせて後は有耶無耶にってとこだろうな。
「いやでも、王子さまも参加するんすよね?そんな人を実験に巻き込むとか・・・・・・ああ、そういうことか」
「取り繕ってすらいないよな。学校側には『第三王子のご安全』っていう最強の交渉カードがあるんだ。それを握り潰せる相手なんて平民だって察しが付く」
明け透け過ぎていっそ関心するよ。自分達の考えてることが全部上手くいく、なんて夢想出来る単純さには。実際のところ、第三王子派閥だけじゃ厳しそうだから油断するのも分からなくない。
まあ敵が慢心するのは好都合でしかないんだし、これからも驕り高ぶってくれるとありがたい。逆に考えれば、この件を無事に終えればアーサー殿下が色々動けるきっかけになる。
「そういう訳だから、二人には俺よりアーサー殿下の護りに尽力してほしい。正直俺が考えてるより人材の層が薄いっぽいし」
「今まで王位継承者筆頭だった第一王子に、現在ノリに乗ってる第二王子。そりゃ第三王子に人は集まらないっすわ」
「おいおい、不敬だぞウォルフ?とはいえここまであからさまな状況だと、派閥の人間ですら正直信用するのは難しいだろうな」
それはそう。中立よりの日和見連中は尻尾巻くだろうし、他に行き場がない連中も調略されればコロっと裏切りそうで怖い。
まあ逆に言えば、此処で殿下と一蓮托生しようとする人間はある程度信用出来るだろう。身内の選別に丁度良いイベントだって、前向きに捉えるしかないな。
「しっかし、尽力するのは構わねぇっすけど王子さまに近寄れますかね?ラリマー子爵家がカーツと懇意にしてるのなんざ、調べりゃすぐ分かりそうなもんすけど」
「いや、ウォルフの対外的な立ち位置は『旧長男派閥に担ぎ上げられた養子』ってことになってる。公の情報だけだと、俺とウォルフは指名依頼でパーティを組んだだけの関係だし」
「・・・・・・『迷宮騒動』は徹底的に秘匿されてるし、【明星】が矢面に立ってくれたんすねそういえば。そう考えれば俺も調略ってやつの対象なんすかねぇ?」
不思議そうな顔でウォルフが思案する。俺も殿下に言われるまで全然気付かなかったからその気持ちは分かる。
そもそも見た目がかなり変わってるから、"冒険者の"ウォルフと"ラリマー子爵家養子の"ウォルフを同一人物だと思わないんじゃないか?それに【浄血】寄りが殆どの南部貴族に食い込めると考えれば、担ぎ上げられたばかりのウォルフに接触する可能性は少なくない。
「だからもし出来ればで良いんだけど、ウォルフにはトマス殿やラリマー子爵家と仲悪そうに売り込んでくれ。もしかしたらカイツ殿にも接触があるかもしれない」
「えっ、俺ですか?・・・・・・なんで??」
「いや何でって・・・・・・俺だったら、『もう一度嫡子に返り咲きたくはないか』って勧誘掛けますけど」
「───おおっ!」
・・・・・・良い人そうだし、決して頭の回転が悪い訳でもなさそうなんだけどなぁ。けどトマス殿の言ってた通り、この人やっぱり貴族に向いてないよな。