仲間が増えたお陰で、退屈な学校生活にも彩りが───なんてことはなかった。予想通りというか、ウォルフとカイツ殿への勧誘が凄い。
まさか教師ぐるみで俺との接触を妨害されるとはな。すごく丁寧かつバカ丁寧に雑用を押し付けまくるとかどんなギャグだよ。一周回って笑っちまったわ。
『───つー訳で、言われた通り適当に吹き込んでたらようやく話を振ってきたっすわ』
「お、それは良かった。やっぱり同じ班に入れるかどうかで護りやすさが段違いだもんな。カイツ殿は・・・・・・まあ聞くまでもないか。だって俺と同じ班みたいだし」
『───あの人に面従背腹なんて無理でしょ』
今居るのは消灯間近の自室で、十中八九出入り口は見張られてるので室内は俺一人だ。だけど独り言を呟けば、
これも編入ついでにウォルフが持ち込んだ、トマス殿の新作だ。とうとうあの人電話まで作っちゃったよ。俺なんかよりあの人のがよっぽど研究し甲斐がありそうなんだけどなぁ。
まあ冗談はさておき、トマス殿が用意してくれたのは一見すると使い古された紙コップ。だけどコイツに向かって声を出せば、対になってるもう片方へ振動が伝播するって仕組みらしい。多分元ネタは糸電話だろうけど、この世界にもそんな文化あったんだな・・・・・・。
「それで、具体的な内容は聞けたか?」
『流石にその辺までは・・・・・・ただ、もし覚悟があるならトドメは譲るとさ。キメ顔で言われた所為で、つい吹きそうになったっすわ』
「俺なら我慢出来ずに爆笑してるよ・・・・・・新入りには一番ヤバい部分を押し付けようってか。どんな場所でも末端は似たり寄ったりだな」
所詮いつでも裏切れる捨て駒採用、か。見る目ねぇ連中だな。騙すより騙される奴が悪いって考えてる馬鹿は全員地獄に堕ちろってんだ。
とはいえ、
『そういや実習の開催地って、王都に隣接する雑木林だったっすよね?』
「そうそう、元々は薪やら何やらを収穫する為の場所だったらしい。だけどいつ頃からか狩りをしたり、実習の舞台も兼ねるようになったんだと」
『へぇ、到着した時にちらっと見たが結構広そうっすわ。アレなら悲鳴が上がっても王都までは届きそうにねぇな』
「定期的に巡回もしてるそうだし、住人もまさか想定外が起こるなんて思わないよな」
近衛や騎士団まで駆り出すんだから尚更そう思うだろうよ。流石に連中の全員が敵だとは思いたくないけど、責任者はほぼ確実に第一か第二王子派だろう。
外に通報しようとしたら無理筋でも拘束してきそうだ。こっち主導で丸く納めたいのなら、連中が介入する余地なく速攻で片付けるしかないよな。
『あと不安なのは、結局そのアーサーって王子サマと顔合わせ出来てねぇことっすね。肝心な時に信用されてなきゃ護り辛ぇわ』
「そこは殿下の聡明さを信じるしかないな。もちろん俺も可能な限り早く合流するつもりだけど」
『日程は二日あんだろ?カーツとは別日って可能性はないっすか』
「いや、そこは殿下がちゃんと捩じ込んでくれた。そもそも俺たちが別の学部とかならともかく、教育学部だけ日程を二つに分ける理由はないからな」
寧ろ怖いのは殿下より、殿下の取り巻きなんだよなぁ。ウォルフの意見や行動に無駄な反発とかされたら面倒だ。有能な敵より無能な味方の方が厄介だからな。
「色々出たとこ勝負で不安だけど、取り敢えず我が身大事で頼む。アーサー殿下には悪いけど、俺にとっては仲間の生命が一番大事だからな」
『・・・・・・了解っす。そんじゃくれぐれも、本番前に寝首掻かれたりすんなよ』
「そっちこそヘマすんなよ、それじゃ」
紙コップへ流す魔力を止め、念のためバラバラにして証拠隠滅する。万一バレてトマス殿に迷惑掛ける訳にはいかない。価値が分かる人間に知られたら地の果てまで追われそうだもんな。
いよいよ明日が実習本番だからな。睡眠不足で失敗しましたなんて洒落になんねぇ。さっさと寝て備えよう。
◇
───さて、そんなこんなで実習当日。俺は雑木林に来たのは初めてなんだが・・・・・・うん。馴染みのある嫌な気配を感じるな。
もしかしてだけど、【
さて、アーサー殿下は・・・・・・あ、見つかった。結構顔色が悪いな。【呪詛】の気配に詳しくなくても、不穏な気配は何となく感じるよな。殿下以外にも勘が鋭そうな奴はみんな不安そうにしてるな。
「───揃ったな、では早速実習の説明に入る。事前に通達しているように、今回は実戦を想定した内容となっている」
「前もって諸君に与える情報はない。戦いとは常に不測の事態への適応・・・・・・それは相手が人間であろうと、魔物だろうが変わりはしない」
「だが状況は我々が完全に掌握している。君たちの安全は我々が保証する。だからこそこの『実戦ごっこ』を堪能してほしい」
いけしゃあしゃあと宣ってるのは、ご立派な鎧に身を包んだ騎士の団体さんだ。ファンタジーなら見かけ倒しのお飾りな装備が定番だが・・・・・・どうも違うらしい。
装備は動き易さと強度を両立した実用的な逸品。身に纏う雰囲気もしっかりしてるな。というか、視線や指の動きすら見逃さず反応する様子から相当な"対人戦慣れ"を感じさせる。
「───それでは順番に森へ入りなさい。君たちの任務は、森に放った魔物に括り付けたこの"枷"を持ち帰ることだ。
わざとらしい抑揚に反応したのは、見える限りだと7人ほどか。だけど幾ら命令されたからって、実際に殺しを決心出来る坊々はそう居ないだろう。おそらくコイツらは狩場へ追い立てるための"犬っころ"ってとこか。
アーサー殿下はトップバッターとしてもう出発した。俺の班は最後から二番目だから、向こうから合図でもくれない限り合流は難しいな。
殿下のことは頼んだぞウォルフ。けどくれぐれも無理はすんなよ、お願いだから。