薄暗い森を適度な速度で走っていく。今が朝なのと、此処が手入れされた場所だったお陰で視界は良好だ。これなら躓いてこけるようなことはないだろう。
殿下とウォルフの居場所は不明だ。念入りにってくらい引き離された挙句時間も出発した場所も時間も隠されたからな。とはいえそんな嫌がらせはとっくに対策済みだ。
「・・・・・・まあ対策してるのは俺じゃなくてトマス殿なんだけど。今更だけど何でもありだなあの人。よく南部の一令息に収まってるよ」
俺と違って尻尾隠すのも猫被るのも得意だもんな。暗躍大好きだから他人使ってアレコレするのは派手にやるけど、『細工師』については徹底して隠匿してるよな。
「能ある鷹は〜って言うけど、有能な長所を自己顕示欲に使わないのって才能だよな・・・・・・おっと」
「───止まれ、カーツ・ユークレス」
「おいおい、王子さまってのは躾も出来ねぇのか?お仕着せの爵位なんざ誇る気は更々ねぇけど、もう少し礼節ある対応ってのを期待してたんだが」
「ふっ、その口の悪さでよく言う。流石は過去に【浄血】の当主候補へ喧嘩を売っただけはある。大したクソ度胸だ」
殺気を感じて立ち止まると、物陰や死角からゾロゾロと図体デカいのが姿を見せる。狼や熊の毛皮を被ったその姿は、まるでゲームに出てくるベルセルクみたいだ。
多分まだ隠れてるのが居るだろうが無視だ。不意打ちを選んでる時点で、白兵戦は部が悪いと公言してるようなもの。隙さえ見せなければ問題ない。
「しかし随分とまあ、半端な策を大袈裟にやったもんだ。これで第三王子が無事なら王城は揺れに揺れるだろうな。派閥の末端ならともかく、近衛が下手人じゃ言い逃れ出来ないだろ」
「貴様が心配することではない。我々は元より家系図にすら名を残せない"裏の人間"だ。例え我らが全滅したところで主を糾弾することは不可能だ」
「・・・・・・ますます分からないな。アンタら王子さま達の虎の子ってことだろ。こんな作戦に注ぎ込んで良い戦力か?」
汚れ仕事専門に育てられた連中か。バレれば全てが終わるレベルの情報を任せられてるんだ。選別も教育も、想像を絶する難易度の筈だ。勿体ないってもんじゃねぇぞ。
「・・・・・・視点の違いというやつだな。寧ろこの局面で出し惜しむ方が愚かというもの。伸ばしてはならぬものに手を出した、恥知らずの裏切り者の処罰。我々以外に任せられるものか」
「地方貴族の支持を得ようとしたことが、そんなにご不満だったのかい?」
「語るまでもなかろう!!この騒動はあくまで王都の中で終わらせなければならない。そんなことも解さぬ者が王族など笑わせる!」
歯を剥き出しにして悪態をつく。まあ言いたいことは一部納得出来る。アーサー殿下のやり方は完全に国を割りに行ってるもんな。
国の舵取りは王城、ひいては王家が執り行うもの。そういう考えの人間からすれば、まるで選挙みたいに地方へ呼びかける姿は埒外の行動だろうな。
王都の小競り合いで済んでた話を、【浄血】派vs【
───とはいえ埒外の行動って言うならお互いさまだろ。
「テロリストに全賭けする姿を見せられりゃ愛想も尽かすし手段も選んでられねぇよ。連中が本気で助けてくれると思うのかよ?」
「では逆に聞くが、出し惜しむ理由が何処にある?【
「・・・・・・そういうことか。殿下が口籠った内容が何となく分かってきたぞクソッタレ」
要するにヴィブギヨル王国は"【浄血】が居なくても大丈夫な国"の広告として扱われる。だから安心して【浄血】と決別しましょうって魂胆か。
国家主権を妄執する王家にとっちゃこれ以上ない猛毒だな。そして準備も策もすっ飛ばして殿下を殺そうとしたのにも、やっと合点がいった。虎の子の戦力を出す訳だよ。
国家中枢を完全に乗っ取られれば、【浄血】は完全にヴィブギヨルを見限る。そして他国へと亡命するだろう。そうなれば地方貴族も生き残る為に、内心はどうあれ王家に帰順するしかない。国境沿いの貴族であれば同じく亡命の目はあるかもだが。
だけど今この段階で二者択一を迫られれば、【
「俺たち目線だとギリギリ踏み止まったってとこだが、アンタ達にとっては国体を維持出来るか怪しい内戦の開始前夜ってとこか」
「ようやく理解してもらえたか。奴等が我々に譲歩するのも、王国が大陸でも有数の大国だからだ。疲弊し広告塔になれなくなれば、奴等は他を当たるだろう。国への忠誠が僅かでもあるのなら、何をすべきかは分かるな?」
「ああ、言われるまでもなく分かってるさ・・・・・・お前らとは絶対相容れないってな」
───聞きたいことは聞けた。思ったより戦力がこっちに来てるし、長話に耳を傾けるだけの余裕も出来た。
アーサー殿下の糾弾対策って人員なら数はさほどじゃないだろ。そりゃあウォルフやカイツ殿でも使おうとするわな。だけどこれなら合流より殲滅の方を優先すべきか。
「・・・・・・『治癒士』が単独で我々を相手取るつもりか?正気とは思えんな」
「逃す気もない癖によく言うよ。盗み聞きが得意なら知ってんだろ?お前らの所為で、俺がどんだけ詰め込み教育を強いられたかって」
あ、思い出したら腹立ってきた。コイツらが主犯って訳じゃないだろうが、この際ついでだ。八つ当たりで憂さ晴らししとこう。
手に持ってた長杖を動かせば、その瞬間四方八方から何かが飛んでくる。だけど残念、コイツは空気を叩いても障壁が展開出来んだよ。
「───っ!?くそっ、散・・・・・・」
「遅ぇよ─── 【
「ぐ・・・・・・がはぁっ!?」
使うのは久しぶりな気がするけど、やっぱりこういう相手だと便利だなこの魔法。魔力が機能しない状況がこの世界だと完全な"未知"なんだろうなぁ。
腕っぷしが自慢の相手でも驚くくらい動揺するし、【魔技】を使って殴ってやれば簡単にダウンしてくれる。防御を魔力強化に依存してるからか、今の状況があり得なさ過ぎて反応が完全に遅れてるし、しかも脆い。
「バカな、もう4人やられただと!?」
「取り乱すな!奴に中距離以上を攻める手立てはない。間合いを離しておけばあんな魔法は喰らわん!!」
へぇ、やっぱり立て直しが早いな。得物を鎖分銅とかのリーチがある暗器に変えてきたな。これだと下手にこっちから攻めても躱されるだけだし、隙を生んで返り討ちだな。
まあいいや、それならそれでやり用はある。俺を殿下のところへ行かせないつもりらしいが、時間稼ぎをしてるのは
「さて、と・・・・・・それじゃ新技の実験───ゴホン、お披露目といきますか」
「・・・・・・何をするつもりだ?総員、油断するな」
随分警戒されちゃってるねぇ、だけど取り越し苦労だ。アンタら
「───【
「ひ、ヒイィやアアォアアぁっ!!!?」
「な、クソがっ!!」
「待て、列を乱すな!!見え見えの誘いに乗るんじゃない!」
冷静で結構、だけど残念だな。もし蛮勇を示していれば、お仲間は『障害』を持たずに済んだのに。
「あ、ああぁ・・・・・・!」
「どうした!?何をされた!情報を停滞させるな!!」
「ま、ままままま魔力が、何も、感じない・・・・・・?」
・・・・・・ちょっと効き過ぎたか?とはいえ自分を殺そうとする奴には情け無用だ。
やったことは至極単純、いつも通り【光属性魔法】をかけただけだ。傷一つ付けれやしないし、寧ろ万全の状態に戻してやったとも───ただし、この世界"以外"の常識でいう"万全"だが。
俺の
「───さて、次の被験者は誰かな?」
「・・・・・・っ」
そうだよな、こんな光景見せられたらお前らでも足が竦むよな?その調子で無駄な警戒をしていてくれ。この魔法は操作がかなり難しくて、今みたいに戦闘不能の相手にしか使えないんだけどな。
まあ相手さんがそんなこと知る由もないわな。そうやって手を拱いていたらほら───ゲームセットだ。
「───どっせい!」
「な───ぷぎっ」
「き、きさ・・・・・・があっ!!?」
「か、カイツ・ラリマー!」
いやぁ、お早い到着だな。速攻で"ティアマト"を見つけたとしても阿呆みたいなスピードでのお帰りだ。
アイゼナッハ支部長が"技量"の達人なら、カイツ殿は馬鹿力の化身だ。繊細な技がなくても頭おかしい腕力で速度を出し、意味不明な威力で敵を粉砕する。
連中もかなり金の掛かった装備だろうに、盾も鎧も関係なくぶっ飛ばされてるな。撤退したくても、そこらで拾った石で頭をかち割られてダウンする。念の為応急処置だけしておこう。
「・・・・・・あっという間に片付けましたね。俺は4人で結構掛かったのに」
「向き不向きは誰にでもあります!ユークレス卿が注意を引いてくれたお陰で、横っ腹を思い切り殴れましたよ」
おいおい・・・・・・まあ良いか。俺の本職はあくまで『治癒士』だからな。自力で四人倒せた成長を喜んでおこう。
「それじゃあ先を急ぎましょう。案内お願いします」
「了解です・・・・・・あれ?トマス殿の魔道具は?」
「此処に来る途中の襲撃で破損しました!」
「・・・・・・・・・・・・どうやって此処へ?」
「勘です!!」
それで良いのか子爵令息。