───カイツ殿のお陰で、俺の方に差し向けられた刺客はサクッと潰せた。 【
そういう訳で、全員に【
「えーっと何々・・・・・・『戦力的には問題ないだろうけど、【
「トマスの書き置きですか。しかしユークレス卿は魔力の動きを止められる筈。大抵の小細工はどうとでもなるのでは?」
「『大蛇衆』には俺の魔法は割れてますから。特に"バシュム"や"ザット"は規格外の技術者なので、こちらの常識は通用しませんよ」
アーサー殿下の生命なんて興味ないだろうが、折角の機会だからって何かやらかしてくる可能性はある。特に"バシュム"は悪意だけで梯子を外しかねない。
あの"汚れ役"は随分と常識的な理知に基づいた未来予想をしていたが・・・・・・実際に対峙した身としては甘過ぎるとしか思えない。
「───見えた。前方約200m、全員無事っぽいです!」
「了解、念のため【
そうやって話していると、少し離れた場所から金属同士の衝突音が聞こえてきた。カイツ殿が【魔技】で加速しながら、さっきの敵から拝借した槍をぶん投げて二人ほど串刺しにしてしまう。
唐突な乱入者に、しかし敵も場数は伊達じゃないからか動揺はしない。だけど俺のところに兵隊を割き過ぎたな。
まだ立ってる連中はざっと見た限り5人。未知の魔法による動揺がなくても、その程度じゃウォルフとカイツ殿は止められない。戦闘は二人に任せて、俺は一人尻餅をつく殿下の元へ合流する。
「ご無事ですか殿下。毒や呪詛の類いは喰らってませんね?」
「・・・・・・ああ、よく来てくれましたユークレス卿。僕はこの通り健在です。ウォルフ殿のお陰です」
「それは何より・・・・・・貴方の取り巻き達はどちらに?」
本来であれば、たとえ『治癒士』だろうが殿下に容易く近づけはしない。だが俺を止めるべき連中の姿が何処にも見当たらない。
懐疑の視線をアーサー殿下に向けるも、返ってくるのはかぶりを振るジェスチャーのみ。連中がもし刺客へ勇敢に対峙していれば、間違いなくそこら辺で冷たくなって転がってる筈。
もし生存しているのなら、殿下の傍で震えてるとばかり・・・・・・となると、コイツらに命令された坊々の襲撃の時か。その時点で殿下を置いて逃げていったと。大した取り巻きだなそりゃ。
「───馬鹿な、カーツ・ユークレスにカイツ・ラリマー!?あれだけの同志を割いておきながら・・・・・・貴様は必ず殺さねばならんというのに!!」
「ご評価いただけて光栄だなボケナス共。命運尽きたならとっとと投降しろ。時間が勿体ないからな」
この状況じゃ、証拠を消して逃げるなんて無理だろ。身元不明なのが売りっぽいけど、何処の血筋か調べる魔法や魔道具くらいはあるだろ。一人二人じゃ誤作動とか言って誤魔化せるかもだが、この人数ならその言い訳も無理筋だ。
流石に王族の責任は追及出来なくても、人材を提供した後ろ盾を削ぐことは出来る筈。安全云々を謳っておいて襲撃されたんだ。この事件をダシにすれば俺の退学は通せそうだし、一石二鳥だな。
「───やむを得ん。この手は使いたくなかったが仕方あるまい」
「寝言は寝てから言え。手札に加えた時点で使う気満々だろうが」
懐に手を入れた瞬間、ウォルフの槍がそいつの腕を胴体諸共吹き飛ばす。だが忍ばせていたのは切り札じゃなく"合図"だった。
両断された途端、中にあった石ころが空へ打ち上がり、花火みたいに発光する。それから一拍と経たない内に、あちこちから間欠泉みてぇに"汚泥"が吹き上がった。
「泥の隙間に見えるのは、骨───っ!まさか、ラリマーに隠されてたアンデットの発生装置か!?」
「知っているか、ならば話は早い。この森のいたるところへ魔導具を仕掛けた。出現した魔物は無差別に人間を襲うよう仕込まれている」
「ふざけるなっ!!そんなことをしたら───」
「沢山死ぬだろうな?今森に入っているのは『教育学部』をはじめ非戦闘要員ばかり。だがそれでいい、事件を揉み消す方法は証拠隠滅だけではない。たとえば
カイツ殿が睨み殺しそうな顔を一瞬だけ向け、その後すぐに入り口の方へ飛び出していった。きっちり進路上の刺客を殴り倒していったから、彼が欠けてももう問題はなさそうだ。
それはそうと、まずは状況整理だ。俺たちの後から森に入ったチームは、まだそんなに先へ進めてない筈。発生装置が満遍なく敷設されてたとしても、すぐ接敵する可能性は低い。カイツ殿のスピードなら造作もなく間に合うだろう。
だけど問題は殿下達のような早めに入った組の安否だ。
「さっきコイツらが放った合図に気付いて寄ってくる・・・・・・ってのは楽観的過ぎるっすかね」
「一部の人は行事の一環と勘違いするかもしれない。だけど好成績欲しさに視野が狭くなってる奴は危ういな」
そもそも今回の行事は"詳細を知らない魔物討伐"なんだ。突然現れたアンデットも討伐対象だと思い込んでもおかしくない。
ラリマーで世話になった、ライル率いる【一番星】の二の舞になりかねない。対アンデットでやばいのは深追いすることだからな。
特に発生装置の生産速度を考えれば、そんな事態に陥いる可能性は高い。ましてや複数同時に起動してるからな。一匹一匹は弱くても数の暴力は凶悪だ。冒険者ですら重傷を負う状況に、素人を放り込めばどうなるかなんて分かりきってる。
「ふはははっ!!地盤の弱い第三王子派閥に政治的宣伝など不可能。被害者遺族が貴様らを恨むよう誘導すれば主の勝──────は?」
「悪いんだけどさ、【
「き、さまぁ・・・・・・!!」
意志を持った無数の竜巻が、槍となって泥沼を直撃する。余波で巻き起こった突風に刺客達が吹き飛ばされるも、俺とカーツだけは包み込むようなそよ風の盾に護られている。
「───ご無事ですか、カーツさん!」
「よっ、久しぶりクイン。来てくれるって信じてたぜ」
「あ、ああああり得ん"っ!!?・・・・・・ゴボッ、ケフ・・・・・・・・・・・・どう、やって・・・・・・?」
「監視してたのにって?誰が教えるかよ」
過去の契約とやらで、【浄血】は学校には手が出せないし入ることすら叶わない。だけど此処は学校の敷地外だ。その制約は働かない。
・・・・・・とはいえ、コイツらはともかく『大蛇衆』が気付かないとは思えない。だから罠を警戒してギリギリまで伏せてもらってた。出番がないならそれが一番だったんだが。
「カーツさん、これを。魔力を検知する魔導具です。急拵えなので、精度はあまり良くないとのことですが」
「いや、凄く助かる。もし仕掛けてくるとしたらこのタイミングだろうし、出来ることは全部やっとかなきゃな」
───
・・・・・・いや逆か?セレストゲイルに介入させるために仕組んだとすれば。アーサー殿下を殺そうと企てたこの事件そのものが"陽動"だったとしたら────っ!?
「カーツ、全力防御!!」
「分かってらぁっ!!」
これまでの冒険で培われた"生存本能"。あらゆる理屈を吹っ飛ばし警報のようにがなり立てる。同じく"何か"を察知したウォルフが殿下を引っ張ってくるのを背に、込めれるだけの魔力を長杖へ注ぎながら地面へ突き立てる。
『──────』
間一髪で間に合った。閃光に目を焼かれはしたが、その
だけど轟音は一発で終わらない。至近距離でも何発も、耳鳴りの所為でよく聞こえないが、多分遠くからも鳴り響いてる。足に伝わる振動からそれを察した。
「ご・・・・・・ひゅ・・・・・・・・・・・・かぺ・・・・・・」
爆心地は刺客の
"仕掛け"が爆風でやられたのか、一人だけ不発で済んだ奴が燃え残ってやがる。【魔技】か何かで身体を守ったみたいだが、それでも四肢が炭化してしまってる・・・・・・もう長くはないだろう。
「そんな、自分の部下を・・・・・・仲間をこんな風に・・・・・・」
「クイン、辛いなら見なくていい。俺も正直胸糞が悪い」
「・・・・・・いえ、目を背ける訳にはいきません。それより、どうやってこれほどの爆破を隠蔽出来たのでしょう?魔力探知は問題なく機能していた筈です」
───多分、魔力は一切使われてない。材料はおそらくファンタジーな代物だろうが、それを科学的な方法で爆弾に変えたんだと思う。
攻撃が来るとすれば、魔力を伴うものだって先入観に囚われてた。俺も随分この世界に染まったもんだ、クソッタレ。上手く躱したつもりがまんまと踊らされるなんて、とんだ赤っ恥だよ。
何より不快なのは、この刺客連中は自分が爆弾だってのを多分知らないってとこだ。もし知ってたら何としてでもアーサー殿下を巻き込んだ筈だ。やり口はともかく、こいつらの忠誠心は本物っぽかったからな。
「・・・・・・過ぎたことは後回しだ。今はとにかく生きてる人間を助けないと」
「そりゃ同感っす。このまま糞どもの狙い通りやんざ───っておい嘘だろっ!!??」
こんな時に地震だと!?しかも滅茶苦茶デカいなおい!!足元から突然感覚が・・・・・・って落ちてる!!?
「マズ───っ、クイン!!殿下を連れて離脱しろ!!」
「ああもう、久しぶりの感覚っすね!!?二度と経験したくなかったぜ畜生!!」
「カーツさん!?ウォルフさん!」
着いてこようとするクインへ殿下をぶん投げる。俺たちはまだ自力で何とかなるけど、このタイミングで殿下に政治的空白が出来るのは致命的だ。
痛恨の表情でアーサー殿下をお連れするクイン。その後ろ姿へ詫びつつ、俺たちは障壁を纏ったまま暗闇へと堕ちていった・・・・・・。