───カランコロン。何かが転がる音で意識が浮上した。寝ぼけた頭で身体を触ってみるが、擦り傷の痛みや打ち身の違和感は感じられない。
結構な高さから落ちたと思ったんだが・・・・・・まあいいか。取り敢えず状況確認を、と思ったけど光源が見当たらない所為で自分の掌すらよく見えない。
「ひとまず【
「止めときなよぉ、不透明な先行きで魔力の浪費は御法度さぁ。はい魔石灯ぅ」
「お、悪いな・・・・・・何でお前がこんなとこに居やがる」
思わず返事してしまったけど、嫌に間延びした喋り方と聞き覚えのある子どもみたいな声。猛烈に嫌な予感がしたけど見ない訳にはいかない。パッと照らされた視界の先には、予想通り幽鬼みたいなチビの姿があった。
「それはこっちの台詞だってぇ、なぁんで王子サマの喧嘩に君が首突っ込むんだよぉ。せっかくキミがヒマしないようにぃ、"ティアマト"ちゃんまで来てもらったのにさぁ」
「お前らが視野狭窄した連中煽って、学校行事使って"潰し合い"させるからだろ。俺だって余計な面倒降りかかるし良い迷惑だよ」
「えー意味分かんないよぉ?王族なんてどーでも良いじゃんかぁ、そもそもぜぇんぶ無視して引き篭もってればそれで済んだのにさぁ」
・・・・・・何言ってんだコイツ?いやでも本気で不思議そうにしてやがんな。あの状況で、王城の要請をフル無視すんのが正解だと?
「裸の王様が僕たちをダシに威張ったってさぁ、こっちが手伝ってあげなきゃなぁんにも出来やしないんだよぉ?召集なんて無視しておけば良かったのにぃ、本当にキミたちって真面目だよねぇ」
「・・・・・・」
「ラリマーや南部の貴族たちは協力的だしぃ、極論キミさえ居るなら【浄血】の問題は何とかなるよねぇ?僕たちもまだまだキミで遊ぶつもりはないんだしさぁ」
「・・・・・・・・・・・・それは今初めて聞いたな。いやそんなことより、散々邪魔した俺達を後回しだと?どういうつもりだ」
最初の"コアトル"戦、そして『迷宮騒動』はまだ分かる。どっちも偶然カチ合ったというか、特に『迷宮騒動』はこっちから危険地帯に突っ込んだようなもんだし。
だが普通は計画を邪魔した奴なんて、優先して排除するもんだ。だってのに報復はおろか、【黒星事件】に至ってはバカ丁寧ってくらい安全な場所に避けられてた。
そしてトドメは今回の王立学校の編入についてだ。さっきの言葉をそのまま返すが、何で関係ないところに世話焼きにきやがった?"ティアマト"が潜り込むのは何かの作戦っぽいけど、わざわざ同好会立ち上げるってのは完全にやり過ぎだ。
「お、気になる?気になるぅ??そっかそっか、気になっちゃったかー」
「うぜぇ・・・・・・言う気がねぇならもう良いわ」
「ああうそうそ、ちゃんと喋ったげるからさぁ。もう、ホントせっかちさんだよねぇ。キミとぉ、キミのオトモダチはぁ───"でざぁと"なんだぁ」
「・・・・・・・・・・・・デザート?」
急にカタカナを・・・・・・って、そういやコイツ何百年も生きてんだったな。それなら"同郷"と面識があっても不思議じゃないか。
衛生面と一緒に、食文化も結構流入してるっぽいし。デザートくらい記録に残ってるよな、多分。
「最初はさぁ、ちょっと変わり種くらいに思ってたんだよぉ?けど北の迷宮で会った時にはもう目を惹く玩具に育ってたしぃ、オニキスフレアをお仕置きする頃には凄く美味しそうになってたじゃんかぁ」
「・・・・・・そういやあの頃からヤバい目で見てたよな、アンタは」
「ンヒヒヒィ、そういやそうだったっけぇ?まあいいや、だから君を
・・・・・・だから『デザート』ね。自分達の螺子が飛んだ計画を終わらせたあとで、ゆっくりじっくり楽しもうって訳か。光栄過ぎて頭が痛ぇよ、まったく。
「ま、そーいう訳だからさぁ。火遊びくらいなら付き合ってあげるけどぉ、無くなっちゃう前に楽しんでおきなよぉ。束の間の平穏ってのをさぁ?」
「・・・・・・お前らの言いたいことは分かった。だがこっちが素直に聞いてやる義理はないよな?」
「───アッハハハハ!そぉでなくっちゃぁ。けど今日は勘弁してねぇ、やっと空けれた"穴"だからさぁ」
変わらず気色悪い笑みを浮かべちゃいるが、こっちに背中を晒してやる気がないとアピールしてくる。まあコイツの場合は殺されたくらいじゃ死なないってのもあるだろうけど。
「空けれた・・・・・・?おい、あの爆弾ってまさか───」
「んー、爆弾?ああそうそうぅ、おーじ様を殺せる道具貸してーって言われたんだっけぇ?だから身体に刻んであげたんだった。思い出したー」
「なるほど、結局連中もアンタらの実験体って訳か。それで派手に動いてまで何の用なんだ?」
「えー失礼しちゃうなぁ。ちゃぁんと注文通りだったじゃんかぁ。寧ろあれだけお膳立てしてあげたのにぃ、素人一人殺せない方がどうかしてるよぉ。用事は見ての通りお宝発掘さぁ。せっかく正攻法で"ティアマト"ちゃん捩じ込んだけどぉ、結局力押しって訳ぇ」
ああ、そういや紳士協定だ何だって不干渉を要求してたな。実習までにそれっぽいモノが見つからなかったから放置してたけど。
「・・・・・・で、此処がその探し物なのかよ」
「かもしれないねぇ。学校から離れてるしぃ、無理臭いなーって思ってたんだけどねぇ。まさか王都の地下がぁ、丸々迷宮の模倣品なんて大したもんだなぁ」
「模倣、ね。【浄血】が絡んでるならそのくらいやってのけるか」
「じゃあそーいうことでぇ、お宝は早いもの勝ちかなぁ?それとも真っ直ぐ帰っちゃうぅ??僕としてはそっちがおすすめだよぉ。ばいばーいぃ」
突然ランプみたいな魔導具をこっちへ放り投げてくる。落とさないよう慌ててキャッチして前を向けば、闇に溶けるように"バシュム"の姿は消えていた。
「───いや、帰って欲しいなら出口教えていけよ・・・・・・」
まあ大人しく帰ってやるつもりはないけど。とはいえ長居は不味いし、したくもない。取り敢えずまずは、一緒に落っこちたウォルフを探さないとな。