ひとまず足元の石ころを転がし、魔技も併用して長杖でフルスイングする。見た感じ【浄血】のプロトタイプだし、同じように耐久力に難ありかと思っての一撃だが・・・・・・やっぱ駄目か。
管から何か供給されてんのか、それともリミッターが壊れてるのか?常時纏ってる風の壁とか、シャボン玉みたいな滅茶苦茶頑丈な泡に阻まれて当たらねぇ。
「制御を放棄した魔法を鎧代わりにしてるのか?魔力操作はあって無いようなもの、だけど質と濃度で賄って───ってやば!?【
「ガアアアァアアッ!!!!!」
障壁だけじゃ無理だ、そう囁く直感を信じて【
子どもの癇癪を思わせる力任せな魔法行使。それでも込められた魔力量が非常識過ぎてハンデになってねぇ。辛うじて減衰させたお陰で怪我はないが、魔法を噛ませてなかったら体勢を崩されてたな。
【
だけど今みたいに、高速で飛んでくる攻撃は無力化する前に被弾するんだよな。障壁もこのレベルの魔法を防ぎ続けてたら魔力が幾らあっても足りやしない。
「───となると、やっぱ速攻で決めるしかないよな。武器の類いは持ってなさそうだし、近寄ってくれたお陰で射程に入った。それじゃもっかい【
とはいえ【
どれだけ能力が高くても、運用するための思考力を奪われちゃ宝の持ち腐れだ。今しがた披露したばかりなのに、全く警戒する素振りもなく間合いへ入ってくる。拍子抜けするほど想定内の状況───だが次の瞬間、その判断は覆された。
「ア、ア"ア"アアア"ァ"アッ!!!!??」
「ギィィイ"イイイイ"イ"ャア"ァ"アアッ??!!!」
「───えっ?」
───思考が明滅する。長杖を握る感覚が遠くなる。魔力をどうやって手繰ってたか一瞬忘れてしまうほど、ソレは衝撃的だった。
魔技で魔物を殺した時には感じなかった筈の忌避感。拳銃を向けて撃つより遠いと思えるのに、剣杖を突き立てるよりもはっきりと伝わる手応え。
「グルルゥ"ウ"ア"アッ!!」
「あ・・・・・・」
いつの間にか眼前に迫った指先。【
俺の目を抉るつもりか、あるいは喉を締め上げたいのか。間に合わないと知りつつも、身体は反射的にアデルから仕込まれた回避行動を選択する。
「───させるかぁっ!!」
「ガアァッ!?!」
「・・・・・・・・・・・・ウォルフ?」
だけど真横から扱き出された文字通りの"横槍"が、訪れる筈の未来を弾き飛ばした。緊張の糸が緩んで膝を着きかけるも、視界に映った火傷姿に慌てて自分に喝を入れた。
「───【
「そりゃこっちの台詞っすわ、この馬鹿!!敵の目前で気をやるとか何考えてんだ!」
「す、すまん・・・・・・それとありがとう。助かった」
「・・・・・・・・・・・・はぁ、いつも助けられてるんでお相子ってことで。詳しい話は後にするとして、このアンデット擬きはやっちまって良いんすよね?」
「───ああ、哀れな犠牲者だ。せめて苦しまないよう死なせてやってくれ」
自分がやりたくないことを押し付けるようで悪いが、『後衛が前に出てくんな』と視線で制されてしまった。
どうやら相当頭が茹だってるな・・・・・・不甲斐ないけど大人しくサポートに回ろう。今下手に動いても足引っ張るだけだろうし。
「どうも普段とは別の意味でアンタと相性が悪いらしいし・・・・・・槍に魔法を使ってくれ。反撃は回復にゴリ押すんで」
「───え"っ?いや幾ら何でもウォルフに負担・・・・・・ってああもう!?」
任せたとばかりに突っ走りやがって・・・・・・仕方ないから言う通り【
取り乱しといてどの口がって話だが、仲間の安全と独りよがりのこだわり・・・・・・どっちを優先するかなんて考えるまでもない。寧ろその二つを天秤に乗せることこそノア少年への侮辱だ。
吹っ飛ばされてたプロトタイプが、巻き添え喰ってた奴と仲良く緩慢に起き上がってくる。より近い俺が火傷しなかったところを見るに、攻撃に対して反応する呪詛型の炎魔法っぽいな。後ろの連中もいきり立ってやがるし、尚のことウォルフを無策で突っ込む訳にはいかない。
「合わせろウォルフ─── 【
「・・・・・・本っ当に損な性分っすね。けどまあ、仲間の献身に応えなきゃ男が廃るってもんだ。アンタらには悪いが、さっさと片付けるぞ」
再び響き渡る絶叫、それでも今度は必死に意識を繋ぎ止める。今まで散々『適材適所』って言葉で押し付けてきたんだ。誰かを"自分の手で傷付ける感覚"から逃げる訳にはいかない。
・・・・・・・・・・・・とはいえ、気合い入れただけで変われるなら人間苦労しない。ウォルフがトドメを刺していく度に、俺の腕の震えが増していく。あと5秒遅かったら魔法が解けてるとこだった。
「───ふぅ、終わったな。しかし随分と大苦戦だったなカーツ?」
「ああお疲れ・・・・・・自分でも驚いてるよ。素手や武器なら幾らでも殺れんのに、手段が魔法になった途端に卒倒しかけるなんてな」
ノア少年の魔法だから───ってだけじゃないな。もちろんそれが一番大きいんだろうけど。
「───まあ俺のことは後回しだ。"バシュム"に追い付かれてもマズいし、さっさと奥を調べよう。どうせその場で破壊するか、後で始末する代物だろうけど・・・・・・そういやさっきまで何処に居たんだ?」
「うげっ、またあの寄生虫擬きっすか。そりゃ急いだ方が良さそうだ。俺はついさっきまで、ずーっと同じ通路を走り回らされてたっすわ。目ぇ覚めた途端に・・・・・・なんつったっけな?確か『汝に資格なし』とか何とか」
「・・・・・・資格?」
資格、資格ねぇ・・・・・・ノア少年ならともかくとして、俺に有ってウォルフに無いもの・・・・・・・・・・・・・・・・・・分からん。
「まあいいや、どうせ色々調べなきゃいけないんだ。ついでに俺の身体も隅々まで調べとくか」
「あ、じゃあ俺も頼みますわ。信用出来る相手じゃないとおちおち診断もさせられねぇんで」
そーね、いきなり獣耳や尻尾が生えてきたら俺もそう思うわ。此処を出たら、暫くセレストゲイルの屋敷に引き篭もるとするか。
呑気に話してたお陰で、体調も大分良くなってきたな。どうせすぐにまた悪くなるかもだけど、これ以上こんなところに長居はしたくない。
門番らしき実験体ももう見当たらない。改めて一本道の通路を進んでいくと、無駄にデカい鉄扉が見えてきた。
「秘密の宝部屋っていう割には質素っすね」
「見せびらかす気はねぇってことだな。人目を憚かる秘密なんざ、大抵ロクなもんじゃねぇけどな」
「うーん・・・・・・春画とかなら喜んで持って帰るっすけど」
「ははっ、そういうのなら幾らでも来いってんだ」
男二人で馬鹿な話をしながら、鉄錆臭い扉をこじ開ける───チラッと見えた光景に、思わず反射で扉を閉めた。
「・・・・・・帰って良いか?」
「・・・・・・とても魅力的な提案っすね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・腹括るか」
「・・・・・・・・・・・・了解」
諦めてもう一回だけ扉を開くことにした。