───視界一杯に広がっているのは
その風景は、一言でいえば『近未来SF』って感じだった。ドラマのセットや映画村を見てるみたいで、人が居ないのも含めて作り物感が凄まじい。
「・・・・・・迷宮災害は魔力の『具現化現象』、時に過去の遺物が蘇るってのは冒険者の常識っすけどね。こんなモンは見たことも聞いたこともねぇ」
「あんまりにもこの世界と噛み合わないよな・・・・・・違和感や忌避感が勝手に湧いてくる」
おそらく此処は、賢者を産み出したイカれ異邦人の故郷なんだろうか?それとも記録に書かれてた"私の考えた最高の理想郷"かもな。
こうして形に残してるのは、復活した際に世界を改造するためのモデルにするためか?けどこんな迷宮の最奥に設置した理由は何だろうか。
「わざわざ悪趣味な門番まで用意してたんだ。相応の秘密なり隠したいものがあると思うんだけど・・・・・・こういう時は無難に、一番目立つ建物を目指してみるか」
「───となると、あの塔っすかね?目立ち過ぎて逆に怪しいんだが」
ウォルフが指差したのは、この箱庭の中心に聳え立つ巨大なビル。見上げれば首が痛くなりそうなほど高いし、顕示欲が凄いな。
「しかし・・・・・・どう考えても俺たちが落ちてきた高さより上だよなアレ。エレ───昇降機の分差し引いても異常だろ」
「言われてみればそっすね。けどまあ、此処じゃ非常識が常識なんだろうな」
「詳しい話は地上に帰ってから話すけど、どうやらこの空間は此処を作った奴にとっての理想郷らしいぞ?最終的にには地上をこんな感じにしたいらしいな」
「おいおい急に話がデカくなりやがったな?世界をテメェの都合で作り替えようなんざ、まるで神様みてぇな気位っすわ」
本当にそれな?俺も大概好き勝手生きてる自覚はあるが、余所者の癖によくそこまで利己主義に生きられるもんだといっそ感心する。
もちろん功績がデカいのも理解してる。この世界は何処かで歯車が狂ったせいで、文明をまともに築くことすら出来なかったんだからな。それをここまで整えた"大事業"については素直に尊敬してる。
だけどそれも結局は、自分のためだけの世界を創る下準備でしかない。これがこの空間でやってるみたいな、誰の迷惑にもならない地下でやるなら理想郷でも帝国でも好きにしろって思えるんだがな。
「・・・・・・やけにあっさりと着いたもんだ。もう罠や番人は打ち止めなのか?」
「そもそも嗅ぎつけられる想定じゃないのかもな。入り口の連中も、処分するのが手間だっただけじゃないっすか?」
「うわーありそう・・・・・・え?中身は手抜きなのか??」
何十階とありそうなビルだったし長期戦も覚悟してたんだが・・・・・・待ってたのは見た目に反して簡素なエントランスのみ。階段もなければエレベーターもなし、それどころかフロア以外の小部屋すら存在しない。
「───どうやら此処を作った奴は、随分と見た目や虚栄心ばっかり重視するらしいな」
「あるいは、そういうチマチマしたもんは下々の仕事だって見下してるんすかねぇ?技術は大したもんだけど、人間性は本当に"アレ"っぽいな」
・・・・・・まさか復活出来てないの、そういった細かいところで足掬われてるからじゃないよな??カタログスペック凄いのに大成出来ない奴の典型というか何というか。
いやでも今のこの世界の基礎を作った偉人・・・・・・違うか。そっちが上手くいったのは早々に"代行者"へ委託したからだな多分。どうやら反面教師としては相当優秀だったらしいな。
『照合結果開示』
「「───っ!?」」
『個体A:真人躯体照合率2%、開示不適応。個体:B:真人躯体照合率7%、残滓付着を確認。第一権限を開示』
突然頭上からアナウンスが響く。照射された光に二人揃って身体を強張らせたが、どうやらただの検査機能だったらしい。
ウォルフは秒で打ち切られたが、俺の方は念入りに───正確に言えば俺の《右腕》をしつこく調べてきやがった。
「どうやら当たりらしいな。何で外れてほしい予想ばっか当たるかな・・・・・・」
「・・・・・・心当たりがあんのか?」
「ああ、上の資料を見てちょっとな。あの北の迷宮での暗躍が、実は此処の黒幕あるいは『始祖の賢者』を復活させるためなんじゃないかって」
「───っ!そうか、あの気色悪い【
俺も身体の不自由はなかったから今まで忘れてたわ。【硬気丹術】を使えなくなったり、光属性魔法の性能が落ちた方がよっぽど問題だったしな。
いや待てよ?もしや諸々の不調の原因もこの右腕なのかも。ただでさえ元々の持ち主がノア少年だったところへ、更に別人・・・・・・というか規格がそもそも違うかもしれない別種の右腕。何かしらのエラーが発生してても不思議じゃない。
当初はノア少年のサポートがないのが原因かと思ってた。だがアデルと地獄の特訓やっても治癒関係と【硬気丹術】は全然改善されなかったもんな。今は長杖の性能で色々誤魔化せてるけど。ただの推測だけど間違ってはないと思う。
「・・・・・・で、何か出てきやがったっすけど?無警戒に触れて良いもんかね」
「同感だけど残していく選択肢はないな。【
「だよなぁ、俺が代わってやりてぇっすけど・・・・・・さっきの無機質な声から察するに、カーツじゃなきゃ駄目だろうな。気をつけろよ」
虚空から突然実体化したのは、マイクロチップに似た形状の物質。空中にぷかぷか浮いてる姿はゲームみたいで面白いが、触れと言われればもの凄く躊躇する。
俺の光属性魔法だと、精神操作系の攻撃は治療出来ないんだよな。脳の疲労とかはイメージしやすいんだけど、形のない精神ってやつはいまいちピンとこない。
赤の他人の身体に居候してた分、普通の治癒士よりは感覚的に掴めてるとは思うけど・・・・・・とはいえ此処で日和ってる場合じゃないな。さっさと腹括ろう。
「───お?」
「右腕に溶けるみてぇに消えやがったな。体調とかに変化はないっすか?」
「多分大丈夫・・・・・・な筈。何か記憶に無理矢理付け加えられてるような気持ち悪さは感じるけど。あ、コイツの使い方とかだから心配しなくて良いぞ」
まあ記憶だか精神だかに干渉されたら普通ビビるよな。俺は光属性魔法の研究が捗るなーって・・・・・・いやいや待った待った。何普通に受け入れてんだ?もしかしてそういう細工なのか?
うん、帰ったら隅々まで検査しないとな。幸い今感じた経験から、対策用の魔法に取っ掛かりそうだし。とはいえ一人だと不安だからトマス殿に魔導具借してもらえないか頼むとするか。
『計画委譲シークエンス完了。残存タスクを検索───該当案件はありません。よって送還プログラムを実行します』
「へぇ、歩いて帰らなくても良いってか?気が利いて───ん?」
「・・・・・・猛烈に嫌な予感がするんすけど気のせい、じゃねぇよなやっぱり!?」
アナウンスの声に釣られて上を見る。さっきまであった筈の天井は綺麗に無くなってて、あのデカいビルはそういう理由かー・・・・・・なんて思ってたら突然足元の感覚が消えていた。
まるでスペースオペラのトラクタービーム、あるいは斥力発生装置か?もう宙に浮いちゃった以上俺たちは何も出来ないんだけど・・・・・・どんどん速くなってないか?
「おいおいおいっ!?何が送還だコラ!新手の処刑じゃねぇだろうな!!?」
「洒落になってないっすよカーツ!!」
「「おわああああ"ぁ"あ"っ??!!!」」
男二人でなっさけない声を上げてると、いつの間にか意識が飛んでいた。本当に誰が考えたんだあんなショートカット・・・・・・。