───アーサー殿下は意識不明の重体。クインから齎された情報は、予想出来たことではあるが当たってほしくない部類の内容だった。
頼りにならない取り巻き、息を潜めてきた所為で乏しい影響力、経験不足ゆえの立ち回りの拙さ・・・・・・思い当たる節なら幾つもある。
それらを補う為の乾坤一擲が、あの襲撃へのカウンターだった。末席とはいえ王家の血筋への弑虐未遂だ。上手くいけば敵対勢力を大きく削れたし、地方貴族も見込みありと判断したかもしれない。今となっては絵に描いた餅だけど。
「クイン、俺の魔法なら解除が可能かもしれない。面会は可能か?」
「申し訳ありません、情報が届いた時には既に一切の接触が出来ない状況でした。歯痒い思いをさせてしまい申し訳ありません」
「いや、仕方ないよ。殿下と接点があったのは俺だけだし、そもそもが因縁のある間柄なんだ。連携しようっても無理がある」
第三王子派閥を窓際に追い込んだのは【浄血】だからな。利用するってだけでも問題だらけなのに、信用なんて無理難題も良いところだ。
だけど殿下は本来憎い筈の【浄血】関係者すら利用するくらい腹を括ってた。そんな人が碌な準備も出来ないまま凶手に倒れた・・・・・・考えるには情報が足りないな。
「───アデル、は今居ないんだったな。御当主殿は今回の件をどう見てるか、クインに何か話してたか?」
「そうですね・・・・・・今回の下手人を捕らえられなかったこと。それがこの流れの発起点だと仰られていました」
「やっぱりそこだよなぁ」
"バシュム"の爆弾で吹っ飛ばされた連中か。せめて死体だけでも残ってればマシだったんだろうが。ご落胤対策に血筋を確認する魔道具を利用すれば、関与を疑うには充分だった。
もちろんそれ相応の言い訳は用意してるだろう。汚れ仕事専門の人材らしいしな。だがそれでも、弑虐事件なんて想定していたとは思えない。
しかも対象であるアーサー殿下は生き残ってるからな。多分連中にとって一番の誤算だろう。証拠さえ確保出来てたら、詳しく調べられる前に連中の実家を切り捨てさせることが出来たのに。
「それが原因で、宮廷の風見鶏達を振り向かせることが不可能になりました。【
「───参加するなら、絶対反撃されない立ち位置からじゃないと嫌ってことか。立場が弱いってのは本当に苦しいもんだな。しかしそんな有様なら、どうして殿下は動いたんだ?」
普通に考えたら状況はもう損切りの段階だ。確たる証拠を逃した以上、学校の管理体制とかに牽制入れるのが精々だろう。
・・・・・・それを殿下が分かってない筈もない。俺よりずっとこういう環境で生きてきた訳だし。つまり、碌な護衛も用意しないまま動かざるを得なかったってことだ。
「御当主さまも騒動について把握しておられたので、殿下の援護の準備を進めておいででした。しかし───『あの崩落はセレストゲイルによる犯行の可能性が高い』と王宮が宣言したことで、我々はその対処に追われました」
「・・・・・・はっ?いや待て待て待て!?何をどうしたらそうなるんだ!」
「学外活動へ私が乱入したという"事実"。そしてその後調査という名目で、おそらく証拠隠滅にやってきた第一王子派による"証言"。その他諸々の情報を都合良く使われました。申し訳ありません・・・・・・」
頭を下げようとするクインを慌てて制止する。これはどう考えても俺たちじゃどうしようもなかったと思う。
王族殺しなんて強行する以上、生半可なことはしない。俺たちはそう予想したし実際にそうだった。特殊部隊を差し向けてくるわ、事件の本質を有耶無耶にする為に無関係な学生も殺そうとするわ。
あの場面でセレストゲイルを傍観させるなんて選択肢はなかった。寧ろ事件を闇に葬るでもなく、よりにもよって【浄血】に擦りつけるなんて想像すらしなかった。
「なるほど、そりゃ殿下も穴熊を気取れない訳だ。此処で黙ってたら全部が終わるもんな」
「ええ、【浄血】との断絶を最も恐れておられましたから・・・・・・幸いトマス殿がカイツ殿に預けていた魔導具の中に、記録を行える品がありました。証拠としては受理されませんでしたが、何とか疑義を挟むことが出来たようです」
「だから『犯行の
とはいえ、アーサー殿下が倒れた以上は時間稼ぎにしかならないよな。俺たちに王城内での影響力がない以上、もう王子達を邪魔出来る奴は居ないんだし。
殿下を殺さなかったのはこれ以上騒ぎを大きくしないためか。崩落のせいで完璧な証拠隠滅は不可能になったし、下手に地方の注目を集めて探られる方が不味いって判断したのか?
「俺が起きる前のことは分かった。教えてくれてありがとうクイン。それで、これからどうするんだ?」
「いえいえ、お役に立てて何よりです。それでこれからについてですが、今はどうすることも出来ません。王家が次にどう動くかで、全てが決まると思います」
盤面に干渉出来ない以上、待ちに徹するしかないか。力尽くでいったところで、テロリストが"ザット"を送り込んでくるだけだ。無策で突っ込んで良い相手じゃない。
「そういえば、今回の一報を聞いた他の【浄血】はどんな反応なんだ?」
「芳しくありませんね。ヒュアランレインは本格的に"ヴィブギヨル王国からの撤退"を視野に入れたそうです。アガットランドも膨大な資産を海外に移し始めたと聞きます」
「オニキスフレアだけでなくセレストゲイルまで攻撃対象だもんな。明日は我が身って考えるわな。いよいよ殿下が危惧してた通りになってきたな」
「・・・・・・アーサー殿下は、何と?」
直接喋っちゃくれなかったが、自分なりにあれこれ考えてはいた。そしてこれだけ情報があれば、俺でも何となく予想はつく。
【浄血】のうち二つの家が撤退───いやもはや亡命か?他国に居る分家に身を寄せようとしてる。だけどそれで終わりって訳にはいかないだろう。
この国の『浄化』が滞ってしまえば、遠くない内に『災害』が発生するだろう。完全に発達した『災害』は大陸中の文明を残らず破滅させていく。そうさせない為に息の掛かった国を大国に育てたんだ。
「───逃げてきた【浄血】の情報を聞いた国外の人間に、見て見ぬフリは赦されない。『災害』で祖国を奪われない為に、そして『【
「・・・・・・それでは、彼らの目的は───」
「ああ、かつて行われた"戦争"以上の地獄を生み出すこと。連中の狙いは、大陸中の国家を巻き込んだ"
恐らく撤退する【浄血】の動きは全て見逃すだろうな。世界中に危機を伝える為の大事なメッセンジャーだからな。
何が目的か、なんてのはさっぱり不明だけどな。それにしても本当に傍迷惑な連中だ。もし予想した通りになったら、俺の人生設計が狂うどころの話じゃない。
「こんな厄介事、絶対関わりたくないんだけどなぁ・・・・・・けど関わるしかないんだよふざけんなよこの野郎」
「カーツさんは、ヒュアランレインのように亡命は考えたりしないんですか?」
「考えたこともそりゃあるぞ?どう考えても俺の手に負える話じゃねぇし・・・・・・変態どもに顔と名前覚えられてなきゃアリだったよなぁ」
「あぁ・・・・・・」
やめてクイン、そんな可哀想な目で見ないで。
「まあそんな先の話は置いておこう。嵐の前の静けさって感じだが、今は少し時間が出来た訳だよな?」
「はい、事件をきっかけに王立学校も休校しています。それに安全面を理由に、学校側はカーツさんの中途退学を認めました。一応いつでも復学は可能とのことですが」
「それは良かった。少なくとも今の状態の学校には通いたくなかったからな。俺の身体調査には丁度良いな」
「はい、一刻も早くノアさんに会えるようにしないとですね」
それは本当にそう。せっかく復活してくれたのに碌な恩返しも出来てないからな。このままじゃ後ろ髪引っ張られ過ぎてハゲそうだわ。
「しかしカーツさん、調査といっても心当たりはあるのですか?」
「うーん、心当たりって程じゃないんだが。色々先送りにしてたこともあるし、『アガペレ修道教会』に行ってみようと思う」
光属性魔法で手に負えるかは分からない。だけど擬似迷宮の記録には教会らしき存在は載ってなかった。
【浄血】や一般の魔法とはまた違った独自技術を持ってる可能性は高い。闇雲に調べるよりはずっと良いだろう。