ワールドトリガー 〜ウルクの王〜   作:パクチーダンス

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第十話 ウルクの王、試練を与える その2

 

 ここはボーダー本部の警戒区域外の6ヶ所存在する支部の一つ、玉狛支部。かつてはこの支部が、ボーダー本部であった場所である。

 

「近界民にもいいヤツがいるからなかよくしようぜ主義」を掲げる玉狛支部は、「近界民は絶対許さないぞ主義」である城戸司令派と対立しているが、三門市の危機ともなれば手を取り合い力を合わせている。

 

 玉狛支部のスタッフの数は指で数える程度しかいないが、彼らは少数精鋭の実力派集団、忍田本部長からは「ボーダー最強の部隊」と呼ばれている。そんな彼らは今、リビングに置かれているテレビで『ケルベロス』が映し出された映像を見ている。

 

「あの新型、とても硬いっすね。二宮さんの合成弾も効かないなんて」

 

「なんか、神話に出て来そうな見た目だね」

 

「……………」

 

 迅は、鳥丸と宇佐美が話しているのを目を動かさず耳で聞いていた。それよりも、自分はテレビに映し出された新型のトリオン兵に注目していた。

 

 (遂に来たか…………)

 

 手を組む力が自然と強まっていく。『未来視』によって見た未来の中には、この光景の一部があった。「あの人」は何処かでこれを見ているのだろうか。

 

「ねぇ迅、私たちは行かなくていいの?」

 

「……あぁ、今回は俺たちがいなくても大丈夫だよ。俺のサイドエフェクトがそう言ってる」

 

「……その割には顔が暗いわよ。アンタ」

 

 小南が迅の顔を覗き込もうとするが、迅はそれを避ける為にソファから立ち上がった。

 

「ちょっと何処に行くのよ?」

 

「少し野暮用だ」

 

 そう言って迅はリビングから出て行った。小南はその様子に眉をひそめていた。

 

「なんか最近、迅のやつ変じゃない?」

 

「……そうだな」

 

 小南の言葉に、レイジも前から何かを感じ取っていたのか同意を示す。

 

「まぁ迅が大丈夫だと言ってるから、俺たちの出番は無さそうだな」

 

「そうだけど………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ケルベロス』に立ち向かうべくボーダー本部から続々と戦闘員が現れた。その中で、ボーダー隊員の中でも年長である諏訪隊隊長、諏訪洸太郎が、口にタバコをくわえながら同じ隊の堤大地と話していた。

 

「二宮の攻撃も効かないなんて化け物かよあの犬」

 

「遠くから見てもおっかないですね……」

 

 空き家を破壊し続ける『ケルベロス』に堤はそう言葉を漏らす。

 

「あっ来た来た。諏訪さん、堤さん、こっちです」

 

 諏訪と堤を呼んだのは、太刀川隊シューターの出水公平。その他にも、出水の周りには隊員が集まっている。

 

「東さん、皆んな集まったようです」

 

 嵐山が東にそう伝える。

 

「分かった」

 

 

 太刀川隊 出水公平

 

 冬島隊  冬島慎次 当真勇

 

 嵐山隊  嵐山准 時枝充 木虎藍 佐鳥賢

 

 三輪隊  奈良坂透 古寺章平

 

 二宮隊  二宮匡貴 犬飼澄晴 

 

 影浦隊  絵馬ユズル

 

 東隊   東春秋

 

 荒船隊  荒船哲次 穂刈篤 半崎義人

 

 諏訪隊  諏訪洸太郎 堤大地

 

 柿崎隊  柿崎国治 照屋文香 巴虎太郎

 

 

 総勢21人もの戦闘員が集まった。A級上位からB級中位のチームまで様々。だがいくつか気になる点がある。それは、攻撃手がいないことである。

 

 集まった戦闘員は、どれも中距離・遠距離担当の者達ばかり。万能手(オールラウンダー)が数名いるが、近距離担当者がまるで不足している。

 

「では、今から作戦を伝える」

 

 その後、東からの指示によって各隊員が戦闘配置につく為に動き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ケルベロス』が空き地を破壊している最中、弾丸の一つが『ケルベロス』に被弾した。だがそれは、石ころが当たったも同然のこと。『ケルベロス』の硬い装甲には何一つ傷は付かない。だがしかし、

 

『グルルルル…………』

 

 その命中した場所には、黒い錘がくっ付いていた。またミデンの戦士が現れた。そう思った『ケルベロス』は、周りを見て敵の存在を察知しようとした時、ソレは訪れた。

 

『一斉射撃開始!』

 

 東の通信の合図によって突如物陰から現れた佐鳥を除く嵐山隊、そして柿崎隊の攻撃が始まった。ほぼ全員が突撃銃型を手にしており、無数の黒い弾丸が『ケルベロス』に被弾する事となった。

 

『ガウ……!?』

 

 被弾した場所から次々と錘がくっ付いてくる。『ケルベロス』の巨体では、小さな弾丸を避ける事は難しい。

 

『ケルベロス』は事態を速やかに理解し、ミデンの戦士の駆除に取り掛かる。

 

『ガオオォォォーーー!!』

 

『ケルベロス』の右の頭が咆哮を放った。そのまま大きな口を開けた状態で空を向いた。

 

『何か来るぞ!警戒しろ!』

 

 新しい攻撃モーション。東からの通信で嵐山隊、柿崎隊の面々は注意を払いながらも攻撃の手はやめなかった。

 

    ババババババババババババババ

 

『ケルベロス』の右の頭の口からは10を超えるミサイルが発射された。高く上がったミサイルは、やがてバラバラに配置された隊員達の前へと落下し始めた。

 

「総員散開!」

 

 嵐山の呼び掛けで『ケルベロス』を撃っていた隊員達は攻撃の手をやめてその場から退散した。ミサイルは追尾型で隊員達目掛けて飛んでくる。

 

       ドゴーーーーーン!!!

 

 ミサイルが落下し、煙が巻き上がった。『ケルベロス』の視界が悪くなった所で、ボーダー隊員の攻撃がまた始まった。

 

「「アステロイド」」

 

 二宮と出水の攻撃が煙の中から現れる。『ケルベロス』は回避する暇もなくアステロイドが被弾する。

 

『ガウゥゥゥゥ……!?』

 

 そのアステロイドは黒く変色していた。先程の弾丸同様、『ケルベロス』の体に被弾した場所から錘がのしかかる。

 

『アステロイドの被弾を確認。その場からすぐに離れてください』

 

「分かった。出水、行くぞ」

 

「了解」

 

 奈良坂の通信を聞き、二宮と出水はすぐにその場を後にする。すると、先程いた地点に『ケルベロス』のビームが飛んできた。直撃した地面は抉れてクレーターを発生させる。

 

「ひぇー、とんでもないっすね」

 

「次のポイントまで急ぐぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボーダーの作戦はこうだ。「倒すことができないのなら、動けないよう無力化すればいい」と。生駒旋空、二宮の徹甲弾(ギムレット)で何一つ傷がつかない相手に対抗できる事は、もはや一つしか無かった。

 

 鉛弾(レッド・バレット)。射撃オプショントリガーの一つで弾丸に特殊効果を付与する。直接的な攻撃力をなくす代わりに、着弾すると六角柱の錘となり敵にくっ付くことで機動力を奪うことができる。これで『ケルベロス』を無力化しようとする作戦である。

 

「オラオラ喰らえ!」

 

 一発一発の攻撃が『ケルベロス』の体を徐々に重くする。いずれは機動力を完全に無くして地に這いつくばる事になる。

 

「堤、トリオンの消費は気にするな。じゃんじゃん撃っちまえ!」

 

「了解!」

 

 鉛弾(レッド・バレット)は「重くする効果」に大量のトリオンを割いており、その分弾速や射程が下がってしまう。この作戦は、先にトリオンが尽き果てる前に決着をつけることが重要になっている。

 

『アオーーーーーーーン!!』

 

『ケルベロス』は諏訪と堤の場所へ突進をかました。レットバレットを受けていても、その機動力はすぐには消えない。諏訪と堤は建物の陰に逃げたが、建物ごと吹き飛ばした。

 

「おゎあ!?」

 

「諏訪さん!」

 

 不幸にも吹き飛ばされた建物の破片が直撃し、諏訪は後方に並ぶ建物まで吹き飛ばされた。叫ぶ堤だが、すぐ後ろには『ケルベロス』の3つの頭が堤に唸っていた。

 

『グルルルル………』

 

「あっ、終わった」

 

 

     『戦闘体活動限界 緊急脱出』

 

 

『ケルベロス』の強靭な顎に噛み砕かれた堤の戦闘体は破壊されて、本部へ光となって戻って行った。

 

『ケルベロス』は自身の体の動きが鈍くなっているのを感じていた。一人一人駆除していてはいずれ錘で動けなくなってしまう。

 

『アオーーーーーーーン!!』

 

『ケルベロス』の左の頭、右の頭が咆哮を上げた。

 

「一体なんだ?」

 

 吹き飛ばされていた諏訪は、『ケルベロス』が吠えているのを眺めていた。吹き飛ばされたのがまさかの幸運だったのか、『ケルベロス』は見失って諏訪に気が付いてはいなかった。

 

『ケルベロス』は左の頭からビーム、右の頭からミサイルを放った。それは特定の場所にではなく、自身の周辺を平らにする勢いだった。

 

 何処に隠れているのか探し出すのが手間だと判断したのか、『ケルベロス』は警戒区域を更地にするよう考えをシフトしたのだった。

 

『マズイ、奴が暴れ出した!一気に終わらせるぞ!』

 

 そこからの戦いは、作戦なんて呼べる程のものはなく、不恰好なものであった。『ケルベロス』がボーダー隊員を駆除するのが先か、ボーダーが『ケルベロス』の動きを封じるのが先かの戦い。

 

 ボーダー隊員の降り注ぐ鉛弾。『ケルベロス』のビームとミサイル。激化した戦いは、遂に終わりを迎える。結果として、勝ったのは数の暴力であった。

 

『クォーーーン』

 

『ケルベロス』は弱い声を漏らしながら、冷たい地面に崩れ落ちた。『ケルベロス』の体には、白の表面が見えない程の錘がくっ付いていた。身動き一つとれない『ケルベロス』に出来ることは、目だけを動かして佇むボーダー隊員を睨みつける事だけだった。

 

「はぁはぁ、やりましたね嵐山さん」

 

「やっと止まったか………」

 

 十分な距離をとって『ケルベロス』を見据えていた嵐山は、敵はもう完全に動けないと判断し、東に通信を取る。

 

『こちら嵐山、東さん、新型は完全に止まった。作戦は終了だ』

 

『良くやった皆んな………と言いたい所だが、今何人残ってるんだ?』

 

 東はそう言うのも無理もない。『ケルベロス』との戦いで緊急脱出した戦闘員は15人。残っているのが6人。半分以上の犠牲を経てやっと『ケルベロス』を無力化する事に成功した。

 

『こちら東、目標である新型トリオン兵の無力化に成功しました』

 

『良くやってくれた。今から解析班をそちらに向かわせる』

 

 東は本部長の忍田と連絡を取る。あの新型は未知のサンプルとして、いずれはボーダーの何かしらの技術に組み込まれる事だろう。

 

(しかし気になるのは………)

 

 あの新型は、何故ボーダー本部を狙って来なかったのか。空き家を破壊するばかりでボーダー本部に近づこうとしなかった事。それが東には気掛かりだった。

 

『東さん!』

 

 嵐山の通信が入った瞬間、爆発が起こった。

 

「何だ!?」

 

 黒い煙がモクモクと空へと昇っていく。爆発が起こった場所は新型がいたところだ。

 

「まさか……自爆か……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ケルベロス』は跡形も無く消え失せた。その後は上層部の指示で火の鎮火を行った。まだ侵攻が起きる事を懸念して、A級部隊が見張りを行っていた。会議室では、回収できるパーツも無く、開発室長の鬼怒田は嘆いていた。

 

「おのれ、コチラに情報を渡さないつもりか……!」

 

「確かに残念でしたが、街に被害が出なくて良かったですよ」

 

 ぐぬぬとなる鬼怒田を横目に、メディア対策室の根付栄蔵がホッとため息をつく。

 

「あの新型は今までのタイプとは大きく違っている。性能は桁違い、あんなのが何体も出て来たら対処は至難だ」

 

「それは流石にゾッとしますね………」

 

 鬼怒田の発言に、根付はハンカチで汗を拭く。

 

「………ここ一週間は警戒を最大限に引き上げ、隊員達に防衛任務を就かせることにしよう。A級部隊は何かあれば直ぐに出れるようにさせる。それで良いですか、城戸さん」

 

「……あぁ分かった」

 

 忍田の言葉に、ボーダー本部最高司令官の城戸正宗はゆっくりと頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 氷見がボーダー本部から家に帰る時は、もう夜7時を過ぎていた。辺りはすっかりと暗くなって街灯が道を照らす。

 

(今日は疲れたな………)

 

 新型トリオン兵の戦い。オペレーターの氷見は実際には戦っていないが、的確な情報を戦闘員に与える仕事は、一つのミスも許されない。隊員の命を預かっている、その気持ちで望んでいるのだ。

 

 いつものように公園の横を通って家に向かう。今日は母親が自分の好きな酢豚を作ってくれる。足早と急ぐ氷見だが、その足は目の前を歩いてくる人物によって止まることになる。

 

「ギルガメッシュさん………」

 

「息災であったか、アキよ」

 

「えっ、あ、はい。元気です」

 

 ギルガメッシュはその言葉に満足したようにフッと笑う。そしてこんな言葉を続けた。

 

「此度の戦い『ケルベロス』に勝った事は、素直に褒めてやろう」

 

「えっ?」

 

 氷見はギルガメッシュが何の話をしているのか、一瞬理解できなかった。

 

「奴の頑丈な装甲を破る事が出来ないと直ぐに理解し、行動を無力化させることに転じた機転、俺は少し貴様らを甘く見ていたようだ」

 

「そ、それって………」

 

 段々と思考が働き始める。突如として現れた新型トリオン兵、それを出した張本人は、

 

「やっと理解できたか?あのトリオン兵を貴様らと戦わせたのは、この我よ」

 

 親指で自身を指差し、不適な笑みを浮かべるギルガメッシュに、氷見は一歩後ずさる。

 

「貴方は、近界民(ネイバー)………」

 

「遠くで観戦していたが、ミデンの戦士の質は中々のものだ。まだ若いというのに、よく動けておるわ」

 

「ど、どうして………」

 

 まだ困惑した様子の氷見に、ギルガメッシュはさらに続ける。

 

「貴様らミデンの民が、我に支配されるに値するのかどうか見定めている所よ」

 

「し、支配……!?」

 

 目の前の男はこの町を、ひいてはこの世界を支配下に置くつもりなのか。

 

「しかし、まだ不十分だ。『ケルベロス』ごとき退けて喜んでもらっては困る。次は、更なる試練を貴様らに与えるとしよう。その時が来るまで、万全を期すが良い」

 

「し、試練………」

 

「然り。この我を楽しませてみせよ」

 

 そう言葉を残し、ギルガメッシュは氷見の横を通り過ぎた。氷見はただ、歩いて行くギルガメッシュの後ろ姿を眺めることしか出来なかった。

 

 

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