六頴館高等学校。ここは、ボーダーが提携している2つある高校の1つである。ここに在籍している者の多くは、大学へ進学する為にこの進学校へ通っている。氷見亜季も、大学の進学を目指してこの高校へ通っている。ボーダーは大学へ進学、特に三門市立大学への進学を推奨しており、ボーダーからの推薦で容易に進学することができる。氷見もその推薦枠を狙っており学力も申し分無いので、苦労せずに進むことが出来るだろうと考えている。氷見亜季は現在、高校2年生。順調に進めば再来年からは大学生。時間はあっという間である。ボーダーの仲間たちもそれぞれ自分の道を進んでいくだろう。進学する者もいれば、就職する者もいる。氷見は日々の時間を大切に過ごしている。
「ひゃみちゃん、おはよう」
「おはよう、遥」
氷見に声を掛けたのは、この六頴館高等学校のマドンナ、綾辻遥である。同じクラスメイトである彼女は、A級の嵐山隊に所属するオペレーターであると同時に、この学校の生徒会副会長を務める完璧超人。この学校やボーダー内にも多くのファンを抱えている。
「おっはよー二人とも」
教室に入ってきたのはもう一人のクラスメイト、宇佐美栞である。昨日登場したが流石に紹介はしておこう。宇佐美はメガネが好きで、世界にメガネ人口を増やそうとしている以上。
「今日の一限目はなんだっけ?」
「体育よ」
「えー、体操服に着替えるのめんどくさいなー」
なんてたわいもない会話を繰り広げているのが日常。そして、その日常を脅かそうとしている『近界民(ネイバー)』をやっつけるのがボーダーの仕事である。実際に戦うのは正隊員であり、オペレーターである彼女達はその支援である。オペレーターは非戦闘員であるため、戦うことができない奴らとバカにされることは偶にあるが、彼女達は自分たちの仕事に誇りを持っている。そんな事を言う奴には鉄拳制裁である。
「ねぇそう言えばさ、他のクラスの女子から聞いたんだけど、最近この三門市でめちゃくちゃイケメンな外国人を見たらしいの」
「「…………」」
「その男性は髪が金髪で、顔が黄金比、まるで彫刻のような美しさだって言ってたよ。流石に言いすぎたと思うんだけど」
「「………………………」」
氷見と宇佐美には、その人物に心当たりがある。というか、昨日の休日に会いました。
「…………へぇー、そんな人がいるなら是非見てみたいね、栞」
「そうだね、ひゃみちゃん」
互いに苦笑いしながら、綾辻の話に合わせる。ギルガメッシュを知る人間は、今のところ氷見と宇佐美だけだろう。確かにイケメンだが、変なイケメンである事は間違いないだろう。
(上から目線で俺様気質でもあるし、それを知ったらガッカリするかもしれないわね………)
そんな事を考えているとチャイムが鳴った。そろそろ先生が来る頃だろう。それぞれが席についてこの話は終わり。朝の会を済ませ、氷見は席を立ち、友人たちと更衣室へと向かった。
体育の授業は、まずは準備体操、そしてグラウンドを1周する。他の学校とあまり変わらないだろう。一限目から体育があるのは氷見達のクラスのみ、朝の眠たい身体を覚醒させるのには最適。しかし氷見達のクラスの今日の授業は持久走である。めんどくさい事この上ない。午前から体力を大幅に消耗して、午後は眠気が襲って来るだろう。だから氷見のクラスの生徒達からは、あまりやる気が見られなかった。
「なんで朝から走らないといけないの〜」
隣で文句を言っている宇佐美がヘトヘトになりながら走っている。
「後少しよ栞、頑張って」
そう言って応援するのは氷見。本当はもっと早く走れるのだが、余計な体力を消耗したくないため、遅く走る友達のペースに合わせて走っている。綾辻はとっくの前に終わっており、グラウンドの白線の内側で氷見と宇佐美を見守っていた。
「ゴーール、もう疲れたよ〜」
「お疲れ、栞」
「二人ともお疲れ」
氷見は肩で息をしている宇佐美に水を渡す。渡された宇佐美は、キャプを素早く開けて、ペットボトルが空になるまで水を飲み干した。
「プハー、生き返る」
「いきなりそんな飲んじゃ駄目よ」
「いやいや、これがうまいんだよー」
「ひゃみちゃんも飲まないとダメだよ」
綾辻は氷見の水筒を持ってきて、それを渡した。流石に水分補給はしないといけないなと思い、水筒のお茶を飲む。
「よーーし、これで今日の授業は終わりだ、皆んなお疲れ様」
体育の先生からの労いの言葉を頂き、本日の体育の授業はこれにて終了。授業の終了チャイムまで10分と時間が余っているのだが、着替える時間も考慮して早めに切り上げてくれるらしい。ぞろぞろと校舎の方へ歩いていくクラスメイト達。氷見もヘトヘトな宇佐美を引っ張って校舎に連れていく。だが、
「遥、何してるの?早く行くよ」
何故か進まずに立ち止まっている綾辻を呼ぶが、彼女はこちらを見向きもしない。
「正門に誰かいない?」
綾辻は学校の正門を見つめていた。氷見もそちらに視線を向けると、確かに誰が立っている。いや、誰かではない。きっとあれは……………。
(まさか…………)
氷見は宇佐美を放置して、正門にいる見覚えのある金ピカな髪の人物へ近づいていく。
「ひゃみちゃん?」
氷見がスタスタと正門に歩いて行くので、綾辻はそれを追いかける様に後ろからついていく。氷見達が近づいて来るのを金ピカさんも気がついた様だ。それも、見知った顔の人間であれば、自然と口角が上がる。
「何をしているんですか?ギルガメッシュさん」
「ほう、また会ったなアキよ」
やはり正門に立っていた人はギルガメッシュであった。特徴的な金ピカな頭を持つ人物は氷見の中でギルガメッシュしかいない。
「何をしているかと言ったな、我はただ散歩していたに過ぎん。だがふとこの建物が気になってな、今から入ろうとしていた所だ」
「いや、それダメですから」
「何?」
「ここ学校ですから、関係者以外入って来たらダメですから」
「ひゃみちゃん、この人と知り合いなの?」
後ろからついて来ていた綾辻が、氷見とギルガメッシュを交互に見ていた。
「アキよ、こやつは誰だ?」
ギルガメッシュは氷見から綾辻に視線を移す。綾辻はギルガメッシュの向ける鋭い眼差しに、少し怯えた様子を見せる。
「は、初めまして氷見亜季さんの友達の綾辻遥です」
だが流石は六頴館高等学校のマドンナ、先程の怯えた様子を払拭するかの様に、その場で綺麗なお辞儀を見せる綾辻。それにギルガメッシュは関心する。
「ほう、貴様もそうなのか。アキよ、お前は友が多いようだな」
「有難いことにね」
「ならば大事にするがいい、努忘れるでないぞ」
「う、うん」
何故だろうか、ギルガメッシュのその言葉は、氷見にとても重くのしかかった。ギルガメッシュが一瞬、悲しそうな顔を見せたのはきっと気のせいだろう。
「それでギルガメッシュさん、話は戻るけど、ここには入れないですよ」
「学校と言ったか……ここは何をしている所だ?」
そんな質問が飛んでくるとは思いもしなかった。氷見は綾辻と顔を見合わせた後、ギルガメッシュの質問に答えた。
「学校は、大人になる為の基礎的な知識を身につける為の場所です」
「なるほど学び舎か、ここで学ぶ子供らの人数はどのくらいだ?」
「えーと、各学年4クラスあって1クラス40人前後だから、約480人くらいかな」
「……………」
氷見の言葉を聞いたギルガメッシュは、顎に手を当てて考え込んだ。
(480人……もし全てが兵士になり得るのだとしたら、ミデンの戦力は相当なものだろう)
ギルガメッシュはここに来るまでも似た様な建物を複数見かけている。それが全てが学び舎であった場合、なおかつそこで学ぶ者達が兵士になるのならば、一体どれほど………。
「ギルガメッシュさん?」
自分を呼ぶ声に気付き、ギルガメッシュは顔を上げて氷見を見る。
「どうかしました?」
「……いや、何でもない」
ミデンの進歩は目覚ましい様だ。ギルガメッシュは、さらにこの星を深く知る必要ができた。
「とにかく、ここには入れませんからね」
「アキよ、何度も言うでない。わかっておるわ」
「……本当ですか?」
ギルガメッシュを信用できない氷見は疑いの目を向ける。それを不快に思ったのか、ギルガメッシュは氷見に、見るものを殺すかの様な眼光で睨み付ける。
「アキよ、貴様に免じて一度はその目で我を見る事を許してやろう。だがニ度目はないぞ」
「………わかったわ」
氷見は、ギルガメッシュの真っ赤な瞳が自分自身を真っ赤に染め上げるのではないかと恐怖を覚え、疑いの目を向けることをやめた。後ろにいる綾辻も氷見の後ろに隠れて怯えている。そんな時、
「あれー、ギルガメッシュさんじゃないですか!?」
体力が回復した宇佐美が氷見達の元へやって来た。
「シオリではないか、貴様もこの学び舎にいたのか」
凍った空気であったところに、宇佐美が来てくれたおかげで元に戻った。
「ギルガメッシュさん、私達そろそろ次の授業が…」
「そうか、ならば我も帰るとしよう。アキ、シオリ、そしてハルカよ、またどこかで相まみえようぞ」
ギルガメッシュは校舎に背を向けて、何処かへ歩いて行ってしまった。
「私、名前覚えられちゃった………」
綾辻の誰に言ったかもわからない独り言の様な言葉を、拾ってくれる人間はいなかった。
(あの人、一体何者なんだろう…………)
氷見の頭の中はそれでいっぱいだった。