時刻は午後3時を過ぎた頃、ギルガメッシュはとある店から出た直後であった。ギルガメッシュは自分の手に持っている大量の紙に目をやった。
「これが、ミデンで物を買うために必要な道具か」
ギルガメッシュが手にしていたのはこの世界の紙幣、つまりはお金である。何故、ギルガメッシュがこの世界のお金を手にしているのかというと、先程入店していた店に秘密があった。
「まさか我の金が、こんな紙切れになるとはな…」
そう、ギルガメッシュは自分の手持ちの金を高価買取店で売ってきたところなのだ。店内に入って近くにいた店員にギルガメッシュが金を見せると、店員は驚いて店の奥へ案内した。ギルガメッシュにペコペコと頭を下げて、あれやこれやとするうちに、ギルガメッシュは金を分厚い札束へと交換することになった。
「ミデンの者は、金とこんな紙切れが同じ価値だと思っているとは」
何とも不思議な話であるが、この世界ではこれが常識なのだ。
「我が見るべき所はミデンのトリオン技術よりも、もっと別の部分なのかもしれぬな」
ミデンの独自で発展してきた文化、その根幹をギルガメッシュは今、垣間見得たのかもしれない。分厚い札束をしまうと、ギルガメッシュは何処ともなく歩き始めた。
三門市立第一高等学校に通う、国近柚宇、今結花、当真勇の三人は放課後、ボーダー本部に行くために仲良く歩いていた。三人は同じクラスで、その内の国近と当真はテストの成績が壊滅的である。一方、今は優秀な成績を収めているので、定期テストが迫ってくる時は、国近と当真は今に懇願して勉強を教えてもらっているのだ。今日も来週の小テストの為に、今にお願いして遅くまで残って教えて貰っていたのだ。
「いやー、今ちゃんのおかげで何とかなる気がするよー」
「持つべき者は友だな、やっぱり」
「二人とも、ちゃんと教えたんだから、これで追試になったら承知しないわよ」
毎日の授業を真面目に聞いていればテストなど問題ないはずだが、この二人にはそんなこと言っても無駄な事であるのはとっくの前から知っている。尻に火がつき始めるのが遅いこの二人にいつも悩まされている。今度絶対何か奢って貰おうと考える今であった。
「いらっしゃい、今日も来てくれたんですね」
「老婆よ、我はこのカレーパンを所望するぞ」
そう声が聞こえてくるのは、三人が歩いている道の向かい側にあるパン屋さん。三人の視線は、金髪長身の男が店員からカレーパンを受け取り、それを食べている姿に注目した。
「なぁ国近、太刀川さんが言ってた金髪イケメン外国人ってあの人じゃないか?」
「うーん、確かにそうかも」
「金髪イケメン外国人?」
当真と国近が何やら話し合う中で、何も知らない今だけが首を傾げていた。ギルガメッシュはカレーパンを食べている最中、自分に向けられた視線に気がついた。そして三人に近づいていく。
「貴様ら、何を見ている?」
ギルガメッシュの低いトーンと鋭い眼差しに三人の体はビクッと跳ねた。
(((この人、目つきが怖い………)))
声に出さずとも、三人の意見は一致していた。三人は蛇に睨まれたカエルとまではいかずとも、ギルガメッシュを怖がっていた。
「す、すいません!ジロジロ見てしまって」
今がすかさず頭を下げると、後に続いて当真と国近も同じようにして頭を下げた。
「なに、貴様らの考えていることなぞわかりきっておるわ」
「「「え?」」」
もしかして会話を聴かれていたのか、自分たちは過去の発言を振り返り、失礼な事を言ってはいなかったか記憶を掘り起こす。だが、
「我のこの輝く美貌を正面から見たかったのだろうよ。よい許す!こうして近くまで来てやったのだ、存分に我を拝むがよい!あまり輝き過ぎて目が霞んでしまうほどにな!」
「「「……………」」」
ギルガメッシュの言葉に、一同は口を開けて呆気に取られてしまった。確かに容姿はいいが、自分で輝く美貌なんて言うとはナルシストにも程がある。
(((この人、ヤバい人かも……)))
またも三人の意見は一致した。
「どうした美し過ぎて声も出せないか、フハハハハ」
笑い声を上げるギルガメッシュに、三人は笑顔を作ってその場を凌いだ。
「ーて事があったんだよ」
国近はボーダー本部に着いて、太刀川隊の隊室に入って来るなり、床にぐったりとしながら出水に先程までの出来事を話していた。
「ヤバい奴ですね、そいつ」
出水はテーブルの上に置いてあるお菓子をつまみながら、国近の話に聞いていた。ギルガメッシュは知らぬ間にヤバい奴認定されてしまった。
「目がちょー怖くてさ、殺されるかと思ったよー」
「その後どうしたんですか?」
「笑いながらどこかに歩いて行っちゃった………」
ギルガメッシュは知らずのうちにボーダー以外立ち入りを禁止されている警戒区域ギリギリまで来ていた。ボーダー本部を近くまで見ようと思いここまで来たが、もう日が暮れる頃であるため、今日はこれにて終了といった所で、思わぬ出来事が起こった。
「門(ゲート)が開いたか………」
あちらの世界とこちらの世界を繋げる黒い穴。そこから現れたのは5体のトリオン兵、名をバムスター。近界(ネイバーフッド)の多くの国で運用されている非常にポピュラーな奴である。
「何かと思えば、ただの雑魚か」
ギルガメッシュもこれには肩を透かしを食らった。面白い事が起きる事を期待していたのに、ただバムスターが数体出て来ただけであった。ギルガメッシュはつまらないと思いながらその場を去ろうとしたが、一体のバムスターが倒された。
「……ほう、ミデンの兵士が戦っておるのか」
ギルガメッシュはボーダーの隊員の戦いぶりを近くで見学する為に、警戒区域に侵入した。
「こちら生駒隊、門から出て来た複数のバムスターを確認。これより戦闘を開始します」
本部へ連絡したのち、建物から建物へ飛び移ってバムスターのいる場所へ向かっている。その途中、生駒隊の隊長、生駒達人は隊員に指示を送る。
「よし、俺が前の2体やるから他は一体ずつな」
「「「了解」」」
隊長の指示に従い、他の隊員たちは動き出す。生駒は、バムスターから約10mほどの地点に着差したのち、抜刀のモーションに入る。
「旋空孤月」
迅からボーダー屈指の旋空孤月の使い手と呼ばれる男から放たれるのは、凄まじい速度を誇る旋空、あっという間にバムスター2体を撃破する。ボーダー内では「生駒旋空」と呼ばれ、皆から畏れられている。ボーダーNo.6アタッカーの実力は伊達じゃない。
「海!そっち行ったで!」
「了解っす!」
南沢海、生駒と同じアタッカーのポジションであり、孤月とグラスホッパーを駆使して戦う機動スタイル。建物の上からグラスホッパーを展開し、空高く飛び上がったのち、上からバムスターの目を狙って切り裂く。バムスターは地面に倒れて動かなくなった。
「楽勝!」
「まったく、騒ぎ過ぎやで海」
水上敏志、生駒隊のブレイン、自由奔放な隊のまとめ役を担っている。かなりの切れ者であり、中学時代はプロの将棋を目指していた。戦術面では、将棋経験を活かして隊を勝利へと誘導する。
「隠岐、任せたで」
「了解です、水上先輩」
隠岐孝二、ポジションはスナイパーであり遠くから敵を狙撃する。生駒からは雰囲気がイケメンと言われており、本人は否定している。南沢海と同じくグラスホッパーをセットしており、素早い動きで狙撃場所を変えて敵を狙う。
「こんなもんやな」
生駒の目の前には倒されたバムスターが転がっていた。生駒隊にとってバムスターなど造作もないのだ。
「お疲れ皆んな、だけどまだ来るかもしれへんから注意しなよ」
「「「「了解マリオちゃん」」」」
「だからマリオじゃなくてマオリや!!」
連携の取れたチームワークを発揮して、手こずる事なく戦闘を終えた。その後何事もなく時間は過ぎ去り、夜からは東隊と交代であるため、生駒達は本部へと戻って行った。
ギルガメッシュは生駒隊のバムスターとの戦闘の一部始終を見ていた。生駒隊の連携の取れた戦いぶりに、ギルガメッシュは素直に賞賛した。
(ミデン独自のトリガーは、近距離、中距離、遠距離とバランスが取れている。そして最小限の部隊人数で的確な判断力、そして技術力、どれをとっても賞賛に値するものよ。あれがもしミデンの下級兵士だったならば、ミデンの戦力は我が思うよりも上をいくのかも知れぬ。それにまだ若いが達観しておるわ。我の国にスカウトしたいぐらいだ)
ギルガメッシュはミデンの評価を斜め上に修正した。これほどの人材が集まるのならば、数人くらい引き抜いても問題ないだろうと考えていた。今回の散歩は、ギルガメッシュがさらにミデンに興味を持つ結果となった。空が暗くなる。ギルガメッシュはボーダー本部を背にして去って行った。