ワールドトリガー 〜ウルクの王〜   作:パクチーダンス

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第六話 ウルクの王、飯を奢る

 氷見亜季はボーダー本部の廊下を歩いていた。彼女は先程まで、オペレーターに欠かすことのできない情報の並列処理能力を鍛えるため演習を行った帰りである。オペレーターとは、部隊の中で必ず一人は居なくてはならない重要なポジションである。データの収集、解析、戦闘員への的確な補助、これらをまとめて行うのがオペレーターの仕事である。その点、氷見はオペレーターとして優秀な人材であり、あの二宮匡貴が認めるほどの腕前を持つ。そんな彼女が廊下で出会したのは、本部に顔を見せることが珍しい人物であった。

 

「やっほー、氷見ちゃん」

 

「迅さん………」

 

氷見が出会ったのは自称実力派エリート、迅悠一であった。迅はニコニコとしながら氷見の側まで近付いてくる。

 

「さっき演習が終わったぐらいかな?」

 

「そうですけど………」

 

なんで知っているんだ、とはならない。迅が『未来視』のサイドエフェクトを持っていることは、ボーダーのみんなが知っている。

 

「今日はさ、氷見ちゃんにお願いがあるんだ」

 

「お願い……まさか!」

 

自分にお願いとは何だろうか、しばらく考えた末に氷見は咄嗟に自分のお尻に手を当てて守った。なぜその様な行動を取るのかというと、迅はセクハラエリートとしても有名で、女性隊員は迅と会うと露骨に嫌な顔をしている。

 

「違う!違う!そうしたいけどそうじゃないよ!」

 

迅は慌てて否定するが、言葉の中に欲望を隠し切れていなかった。氷見はジト目で迅を睨みつけるが、あることに気が付いた。

 

(迅さん、何だか疲れてる……?)

 

迅はうまく隠せていると思っているが、迅とあまり接点のない氷見ですら迅の顔色が悪いことに気付いた。それぐらい、迅の様子は悪い。

 

「今度、とある人物が氷見ちゃんにご飯を奢ってくれるんだけど、絶対に行ってほしいんだよ」

 

「はぁ……」

 

ご飯を奢ってくれるのは嬉しいが、「誰が」と「何故」の部分が明確ではない。だが、迅の表情はどこか焦っているようだった。

 

「わかりました……」

 

「ありがとう、氷見ちゃん、じゃあ」

 

迅はそう言って氷見の横を通り過ぎて何処かへ行ってしまった。氷見は振り返って迅を見つめていた。サイドエフェクトで何か悪い未来が見えたのか、それがご飯を奢られることに関係があるのか、いくつか疑問が残るが、氷見は頭の隅に置いといた。

 

 

 

 

 

 迅との出会いから数日が経った頃、氷見は防衛任務が終わり、辻と犬飼と共にボーダー本部から家に帰る途中だった。今日はバムスター3体、モールモッドが2体が現れ、二宮がバムスターを辻と犬飼がモールモッドを倒して、その日は終了した。防衛任務が終わると、こうして一緒に帰るのだが、本当ならここにもう一人、鳩原未来がいたのだが、彼女はここではない何処かへ行ってしまった。それを口にすることは無く、皆が心の中にしまっている。

 

(ん?あれは………)

 

氷見の前方から、見たことのある金髪と赤い目の男が歩いて来た。その男は氷見達の前に立ち止まり、こちらを見ていた。

 

「おや、誰かと思えばアキではないか」

 

「ギルガメッシュさん……」

 

やはりギルガメッシュだった。氷見がこうして会うのはもう何度目だろうか。夜の公園、休日、学校、そろそろ片手の指では数え切れなくなりそうなところまできている。

 

「ひゃみさん、この人知り合い?」

 

横にいる辻がそう聞いてきた。辻と犬飼はギルガメッシュとはこれが初対面だった。犬飼は二人の一歩後ろから、ギルガメッシュの事をジッと観察するように見ていた。

 

「うん、何度か話した事があるの」

 

「アキよ、そこの男どもは貴様のボディーガードか、それとも下僕か?」

 

「げ、下僕って…違います。彼らは私の友人達です」

 

ギルガメッシュの言葉に、氷見は自分をなんだと思っているのかと問いてやりたかったが、グッと堪えて辻と犬飼を紹介した。

 

「ほう、貴様の友か。名をなんと言う?」

 

ギルガメッシュは氷見の横いる辻に視線を移した。辻はその赤い瞳にギョッとした。

 

「つ、辻新之助です」

 

「そうか、では貴様は?」

 

ギルガメッシュは次に、先程から自分を観察するような視線を向けていた犬飼に視線を移した。

 

「……犬飼澄晴と言います」

 

「シンノスケとスミハルか………アキよ、貴様腹が空いてはいないか?」

 

「え?、空いてますけど……」

 

「今日の我は気分が良い。いや、この三門市という場所に来てから我の興味が尽きぬのだ。ここで会ったのも何かの縁、この我自らが貴様に奢ってやろうではないか」

 

「え!?それって……」

 

氷見はその時、数日前の迅との会話を思い出した。とある人物とはまさか、ギルガメッシュの事ではないかと。

 

「ここには我が食すのに相応しい食べ物が溢れておる。そして今から我に興味を感じさせた飲食店とやらの場所へ行こうとしていたのだ。アキよ、貴様には一度世話になった。今度は我が奢ってやろう」

 

まだ行くとも言っていないのに、ギルガメッシュは連れていく気満々である。だが、氷見は迅のお願いを聞いてしまったので、行くことは決まっていた。

 

(これが迅さんの言ってたことか分かんないけど、とりあえず着いていくか)

 

「分かりました、ご馳走になります」

 

「フン、それで良い」

 

ギルガメッシュはその言葉に満足した。

 

「あの、ひゃみちゃん。俺達はどうしたら良いのかな?」

 

後ろから顔を出した犬飼が、氷見に質問する。辻も犬飼の言葉に頷いた。

 

「あの、ギルガメッシュさん、私の友達も一緒に良いですか?」

 

「構わん、ついてくるが良い」

 

そう言ってギルガメッシュは一人スタスタと歩いて行った。三人はその後を追いかける最中、ギルガメッシュに聞こえないようにヒソヒソと話始めた。

 

「ねえ、ひゃみさん。あの人とどこで知り合ったの?」

 

「家の帰り道にある公園で会ったわ」

 

「なんかあの人、目が怖いよ。それに太刀川さんが言ってた金髪イケメン外国人ってあの人のことなんじゃ………」

 

「え?なにそれ辻ちゃん。俺知らないんだけど」

 

辻は太刀川とソロランク戦を終えた時、雑談で太刀川からその話が出ていた。太刀川があの烏丸よりもイケメンというから辻も気になっていたのだ。そして目の前にその人かもしれない人物がいる。

 

「何をコソコソしておる、早く来んか」

 

「「「は、はい」」」

 

確かにイケメンだけど、自分はもっさりイケメンの方が良いなと思った辻であった。

 

 

 

 

 

 ギルガメッシュと出会った場所から歩いて5分ぐらい経った頃、先頭を歩いているギルガメッシュはおもむろに立ち止まった。後ろからついていた氷見達も静止する。

 

「ここだ」

 

目的の店に着いたようだ。だが、

 

「ここって……」

 

氷見達の目の前にある店の看板に書かれていたのは、「お好み焼き かげうら」。なんと影浦隊の隊長、影浦雅人の実家が営んでいる店であった。

 

「ここ影浦先輩の……」

 

「俺、会ったら嫌な顔されそうだなー」

 

ギルガメッシュが店の扉を開けると、「いらっしゃいませ」と元気な声が聞こえてくる。店内は客が多く賑わっているようだ。ギルガメッシュに続いて氷見達はかげうらに入店する。

 

「いらっしゃいませ、何名様ですか?」

 

「四人だ。空いておるか?」

 

「はい、こちらのテーブルへどうぞ」

 

ギルガメッシュ達は店員に四人テーブルへと案内された。さて、ここで問題である。ギルガメッシュの横、そして対面に座るのか。

 

「どうした?早く座るがよい」

 

「ちょっと待って下さい」

 

氷見はギルガメッシュにそう伝えると後ろを振り向き、辻と犬飼と目で会話し始めた。

 

(誰が座るの?)

 

(横はもちろんひゃみちゃんでしょ。俺はあの人の斜めに座るから辻ちゃんは対面ね)

 

(嫌ですよ。俺、あの人怖いです)

 

なかなか話が決まらない中、ギルガメッシュのまだかという視線が氷見を射抜いた。ビクッと体が跳ねて氷見は自分の拳を天井に突き上げた。

 

「じゃんけん」

 

氷見その言葉と聞いた二人は、氷見と同じように手をグーの形をして、天井に突き上げる。

 

「「「じゃんけん、ポン!」」」

 

 

 

 

 

     氷見   |   ギルガメッシュ

          |

     犬飼   |      辻

 

 

 

 

 

 結果はご覧の通りである。まず犬飼がパー、他二人がグーを出して一人勝ち。残った氷見と辻は、3回あいこを繰り返したのち、氷見の勝利となった。ギルガメッシュの横か対面か、どっちもあまり変わらない気もするが、氷見はギルガメッシュの対面を選んだ。

 

「何をしておったのだ貴様ら」

 

「いえ、すこし儀式を……」

 

三人がテーブルに着いた時、厨房から一人の店員が歩いて来た。

 

「初めてのご来店ですか?」

 

「はい、そうです」

 

「かしこまりました。なら店員がお作りしますね」

 

犬飼が店員と話している時、氷見はメニューを取り出してギルガメッシュが見やすいように広げた。

 

「何を食べますか?」

 

「この店一番のものを頂こうではないか」

 

一番のもの。氷見も辻と犬飼同様ここに来るのは初めてなので、一番なものが何か分からないが、とりあえずオススメを選ぶことにした。

 

「これとこれ、あとこれで」

 

「はい、かしこまりました。少々お待ち下さい」

 

店員は氷見の注文の品を聞いた後、軽く頭を下げて厨房へと歩いて行った。

 

「「「…………」」」

 

この待ち時間、一体どうすれば良いのか。三人は互いに目でサインを送ってギルガメッシュに何か聞けと促す。

 

「シンノスケとやら、貴様は剣を使うのか?」

 

沈黙を破ったのはギルガメッシュ出会った。会ったばかりの辻に声を掛ける。しかもその内容が辻には驚くべき事だった。

 

「えっ!?なんで分かって………」

 

「そう驚くこともなかろう。貴様の立ち振る舞いから容易にわかる事よ。それに中々の使い手だろうよ」

 

辻新之助は孤月一本でマスタークラスまで上った男である。その実力は、あの太刀川も認めている。

 

「す、すごいですね……ギルガメッシュさん」

 

「そう褒めるでないわ、我の目は全てを見透かす。当然の事よ」

 

ギルガメッシュの全てを見透かす真っ赤な瞳、犬飼はサイドエフェクトを持っているのではないかと疑った。

 

「アキ、そしてスミハルよ、貴様らさっきから何も喋らないではないか、我に聞きたいことはないのか?今の我は気分が良い。聞きたい事があるなら、今だけは遠慮せずに申すが良い」

 

「…‥じゃあ、俺からいいですかギルガメッシュさん。貴方はどこの国の人ですか?」

 

すこしギルガメッシュに切り込んだ質問をしたのは犬飼である。犬飼はギルガメッシュにあった時から、只者ではない存在感を肌に感じ取っていた。その口調、その立ち姿、とても高貴な人間であるように見受けられた。

 

「そうさな、我の国はここからずっと遠い場所にある。そう簡単に行けるところではない、とだけ言っておくか。さてアキよ、貴様は何かないか?」

 

「あの、奢るって言ってましたけど、ちゃんとお金はあるんですか?」

 

「貴様、我が嘘をついていると?不敬の罪で首を跳ねることも出来るが、今回は不問としてやろう。そして見るがいい!我の財力を!」

 

ギルガメッシュが懐から取り出したのは、バンバンに膨れ上がった財布であった。その中に何が入っているのか、三人はゴクリと唾を飲み込んだ。ギルガメッシュが財布のチャックを開けると、そこから飛び込んできたのは、

 

(((さ、札束だ………!!)))

 

見たこともない諭吉の数、財布にぎゅうぎゅう詰めにされている。氷見達は驚きのあまり口を開けて放心状態。

 

「フンッ、少しは我を見直したようだな」

 

「お待たせしました。今から鉄板を温めますね」

 

店員は火をつけて鉄板の上で生地を焼く。その後、生地の上にたっぷりの野菜、そして天かす、豚肉をトッピングさせてヘラでひっくり返す。最後に上からソースをかけて出来上がり。

 

「かげうらオススメのお好み焼きです。どうぞお食べ下さい」

 

「ほう、またこれも珍妙な食べ物よ」

 

ギルガメッシュは四等分に切り分けられたお好み焼きの1つを皿に乗せて、箸を器用に使って口に運ぶ。氷見達ははその様子をじっと見ていた。

 

「フハハハハハ!!」

 

「「「!?」」」

 

いきなり笑い出すものだから、氷見達はどうしたんだとギルガメッシュを見る。

 

「やはり我の目に狂いは無かった。さすがは我!こうも美味なるものに出会えるとは!」

 

どうやらギルガメッシュは大変ご満悦のようである。

 

「何をしておるお前達、早く食べよ」

 

止まっていた氷見達も切り分けられたお好み焼きに手をつける。その後もギルガメッシュは次々と注文して、「もう無理だ……」と氷見達の胃袋を満腹にするまで続いた。

 

 

 

 

 

 氷見と辻がお手洗いに行って、席にはギルガメッシュと犬飼だけが残っていた。二人の間に会話は無い。聞こえてくるのは厨房の音、そして他の客の話し声。夕食を奢ってくれたことには感謝しているが、犬飼はギルガメッシュを疑っていた。最近、二宮隊はA級からB級へと降格した。何故ならそれは、仲間の一人、鳩原未来が一般人にトリガーを横流しして近界に行ってしまったがために、上層部から言い渡されたのだ。あの時の二宮の酷く落ち込んだ顔は鮮明に覚えている。それはもちろん、B級に降格したことでは無く、信頼していた部下が黙っていなくなった事だ。あんな悲しい顔は二度とさせてはいけない。させたくない。目の前の男は一体は何者か。ただの奢ってくれるいい人か、それとも…………。

 

「スミハルよ、そう警戒するでないわ」

 

「!」

 

「我がここに来たのは唯の旅行よ。満足したら国に帰るつもりだ」

 

「……俺の考えもお見通しですか?」

 

犬飼は冷や汗をかいた。やはりこの男は………。

 

「我とて万能ではない。だが貴様の胸の内にあるアキやシンノスケを心配する気持ちは理解しておる」

 

「……………」

 

「だが、一つだけ言っておこう。もしも、お前達から我に何か仕掛けるつもりならば………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………………死を覚悟せよ」

 

ゾワっと犬飼の体に恐怖が走る。ギルガメッシュの真っ赤な瞳は犬飼の心臓を貫くが如く鋭い眼光であった。犬飼は不意に心臓に手を当てた。バクバクと鼓動が速くなっているのを感じた。

 

「お待たせしました」 

 

辻がお手洗いから帰って来て、犬飼の顔色が悪い事に気が付いた。

 

「犬飼先輩、どうしました?」

 

「………いや、なんでもないよ辻ちゃん」

 

辻は犬飼に心配の眼差しを向けながら、氷見が早く帰ってくる事を願っていた。そんな二人を、ギルガメッシュは横目に見ながら水を飲を飲んでいた。

 

 

 

 

 

「今日はありがとうございました」

 

店を出てすぐに、氷見はギルガメッシュに頭を下げた。それに続いて辻と犬飼も同様にお辞儀する。

 

「礼は良い。我はこれで帰るとしよう。アキ、シンノスケそしてスミハルよ、また会おうではないか」

 

ギルガメッシュは氷見達に背を向けて何処かへ歩いて行った。ギルガメッシュの姿が見えなくなったところで、辻がゆっくりと口を開く。

 

「なんか……すごい人だね、ひゃみちゃん」

 

その言葉に対して、氷見はコクリと頷く。

 

「なんかあの人、俺たちとは違う世界の住人みたいですね」

 

「そうだね………」

 

辻の何気ないその言葉は、しばらくの間、犬飼の頭から離れることはなかった。

 

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