嵐山隊は、三門市にある小学校で広報活動をした帰りだった。隊長の嵐山准はボーダー入隊当時、メディア対策室社長の根付栄蔵からボーダーの広告塔として推薦され、現在の地位にいる。ボーダーが設立されてからまだ四年と若い。まだまだボーダーに懐疑的な者も多い中、嵐山隊の活動は、未来のボーダーの一役を担っている。
「みんな今日もお疲れ様」
嵐山が後ろにいる隊員たちに労いの言葉を掛ける。
「嵐山さんもお疲れ様です。子供達にたくさん引っ張られていましたね」
「あれくらいどうって事ないさ」
時枝の言葉に嵐山は笑顔で返す。
「木虎、お前の所にも子供達がいっぱい来てたよな」
「はい、少し疲れました………」
自分に厳しい木虎でも子供の相手は流石に疲れたようだ。声に元気がない。
「みんな、明日の土曜は休みだからしっかり休めよ」
広報活動は休日にも存在する時があるが、明日は根付から休みをもらっている。嵐山隊の全員は学生である。その中で木虎は中学生だ。ボーダーの活動も大事だが、学生の本分も忘れてはいけない。それに休みには友達と出掛けたりしたいだろう。そこは根付も十分に理解している。若者としての時間は有限である。こうしてボーダー本部へと足を進める嵐山隊の目の前に、他の者を寄せ付けぬ威圧感を放った金髪の男が近づいて来た。
「あっ」
「ほう、貴様はあの時の……確かハルカだったか」
嵐山隊の正面に立つは、綾辻が数日前、学校の正門であったギルガメッシュその人であった。
「綾辻先輩、この人と知り合いなんですか?」
「た、多分…………」
綾辻の横で歩いていた木虎が目の前のギルガメッシュについて耳元で尋ねて来た。綾辻は曖昧な返事を返した。綾辻は初対面からギルガメッシュのとこが苦手だった。ただならぬ雰囲気と真っ赤な瞳は綾辻を萎縮させた。
「そう怯えるでない、とって食ったりはせぬ。それに、我が知らぬ者がいるな。ハルカよ、貴様の仲間か?」
ギルガメッシュは威圧感を薄めて綾辻から視線を外し、木虎、時枝、佐鳥、嵐山の順に眺めた。
(何なの、この人……………?)
木虎は目の前の男の放つ雰囲気に、咄嗟に身構えた。何かしたわけではないが、ポケットにあるトリガーに手が伸びた。
「初めまして、俺は嵐山准と言います。貴方の名前を教えてもらえませんか?」
嵐山准はギルガメッシュに気押されることなく、一歩前に出て話し掛けた。ギルガメッシュは嵐山の行動に目を細める。そして少しだけ口角を上げた。
「ほう、貴様がリーダーか、少しは面白い奴が居たようだ。我の前で臆することないその行動、勇敢な男よ。褒美として我の名を教えよう。我の名はギルガメッシュである」
ギルガメッシュは嵐山の事を称賛した。ただの前に出たがりの馬鹿ではないことは理解した。そして何より、嵐山の目が気に入った。
「ギルガメッシュさん、綾辻とはお知り合いなんですか?」
嵐山はギルガメッシュの上からの態度を気にしなかった。だが、後ろにいた木虎は顔を顰めた。
「そうさな、我にはアキの後ろにくっついていた記憶しかないわ」
「アキ?」
「嵐山さん、アキはひゃみちゃんのことです」
嵐山はギルガメッシュの言う「アキ」が誰のことか理解できなかったが、後ろから綾辻が教えてくれた。
「なるほど、そうでしたか。それで綾辻にどう言うご用件ですか?」
「なに、偶々出会ったから声を掛けただけのことよ。他に意味はない」
嵐山は綾辻の萎縮した姿から、ギルガメッシュのことを警戒していた。決して相手にその態度を晒さずに。
「威圧感出して何言ってるんですか?」
「ちょ、ちょっと木虎ちゃん!」
木虎は嵐山の後ろからギルガメッシュに噛みつく。綾辻は慌てて木虎を制す。
「ほう、我に噛み付くか小娘。名は何と言う?」
「木虎藍です」
一歩前に出る。木虎は年上に舐められる事が嫌いな人間であり、プライドが高い故の行動である。
「ジュンとやら、その小娘にはちゃんと首輪を付けておくがよい。暴れて噛まれでもしたら堪らんからな」
「な、何ですって!?」
木虎は、ギルガメッシュに犬呼ばわりされた事で顔を真っ赤にして憤りを覚えた。さらにギルガメッシュへ近づこうとするが、綾辻と時枝、佐鳥に止められた。
「ギルガメッシュさん、彼女は俺の部下だ。犬呼ばわりふるのはやめて頂きたい」
嵐山は恐れる事なく、真っ直ぐギルガメッシュの赤い瞳を見つめた。その行動は、またもギルガメッシュの好感度を上げた。
「そうか、ジュンよ。貴様の部下を貶した言葉は撤回しよう。ハルカよ、よい隊長を持ったな」
ギルガメッシュはそう言って嵐山達の横を通り過ぎる。綾辻はペコっと頭を下げると、ギルガメッシュは満足そうな顔をして、嵐山達が来た道を歩いて行った。
「何なんですかあの男は!?」
ギルガメッシュの姿が見えなくなった瞬間、木虎はたいそう腹を立てていた。それを綾辻がドウドウと宥めている。
「ひえー、なんか凄い人でしたね。太刀川さんが言ってた人ってあの人の事じゃないですかね?」
佐鳥は太刀川が言っていた人物の特徴とギルガメッシュの特徴とで似ている点が多々あることに気が付いた。
「あの人、とても怪しいですよ。本部に報告した方が「それは待ってくれないかな」………迅さん?」
木虎の声に被せてきたのは、迅悠一だった。彼はここまで走ってきたようで、軽く肩で息をしている。
「迅、あの人と知り合いなのか?」
「まあ、そんなとこ。あの人の事は俺に任せて欲しいんだ。だから上に報告しないで欲しい」
迅と嵐山の視線が交わる。嵐山は迅の顔色が悪いことに気が付いた。だが迅は、それを隠そうと必死である。
「………わかった。だが何かあればすぐに呼んでくれ。協力するからな」
「ありがとう、嵐山。恩に切る」
迅はきっと、良くない未来を見たのだろう。それにあの金髪の男が関わっている、嵐山はそう考えた。本当は迅にどんな未来が見えたのか教えて欲しいと思っている。一人で抱えないで友である自分を頼って欲しいと。