ワールドトリガー 〜ウルクの王〜   作:パクチーダンス

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第九話 ウルクの王、試練を与える その1

 

『王よ、ミデンは如何ですか?』

 

「興味が尽きん。ミデンにあるもの全てが、我が目を引くに値するものばかりよ」

 

『随分とお気に召した様ですね』

 

「もうしばらくはここへ滞在するつもりだ。シドゥリ、我がいない間の政は任せたぞ」

 

『王よ、もしやミデンをウルクの傘下に収めるおつもりですか?』

 

「それも悪くないが、もしそうと決めた時は、我自らが裁定してやる」

 

『……王の御心のままに』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここはボーダー本部の食堂、日々の戦闘訓練を経てお腹を空かせた若者達が集まる休息所である。そんな食堂の窓際の一角には、A級・B級隊員が楽しく昼食を取りながら談笑していた。

 

「オイ鋼、食べたらもう一度10本戦するぞ」

 

「あぁ、いいぞ」

 

 影浦に対してそう答えたのは、鈴鳴第一、来馬隊の村上鋼。彼は最近ボーダーに入隊したのだが、持ち前のサイドエフェクト『強化催眠記憶』によってメキメキと成長している有望株。

 

「そういやもうすぐ小テストやろ?大丈夫なんかお前ら?」

 

「おいおい水上、ここでテストの話はやめてくれよ」

 

 A級2位冬島隊、当真勇。彼は超感覚派ボーダーNo.1の狙撃手。現代には合わないリーゼント風の髪型を愛する男である。天才肌かつ職人気質な彼は、当たらない弾を撃ちたがらない。彼のプライドがそうさせているのだが、逆を言えば、彼が撃つ時は必ず当たるのだ。

 

「当真、今回は手伝わんからな」

 

「そう言うなよ、俺が赤点取っても良いのかよ?」

 

「良いか悪いかは、真木ちゃんに決めてもらおか?」

 

「ひでーな。なら国近と一緒に今に教えてもらうか」

 

 ボーダー隊員のほとんどは学生である。中学生から大学生まで幅広く、彼らは上手くボーダーと学生を両立しながら、青春を謳歌しているのだ。

 

「そういやカゲ、お前噂の外国人に会ったんだって」

 

 当真がソファにもたれて、頭の後ろで手を組みながらそう言った。

 

「んぁ?何だそれ?」

 

 影浦は当真の言ってる事が分からず怪訝な顔をする。

 

「あれ?違ったか?ゾエが言ってたぜ。帰り道、金髪で赤い目をした金髪の外国人に出会ったってさ」

 

「そうなのかカゲ?」

 

「……あぁアイツか」

 

 影浦は思い出したかのように神妙な面持ちとなり、友人達は普段見ない影浦に不思議に思う。

 

「アイツ、散歩するかのように平然と警戒区域の中を歩いてたぜ」

 

「警戒区域の中を?」

 

 一般人は立ち入り禁止なはずの区域で、しかもさらに奥へと歩いていく金髪の男の姿を影浦は見ていた。

 

「金髪の外国人か、そういや学校でも聞いたことあるな。なんやスゴいイケメンで近寄りがたい雰囲気やったって、クラスの女子が話しとったで」

 

「ボーダーの人間なのか?」

 

「いや、俺は見たことねぇ」

 

 村上の疑問に影浦は首を横に振る。

 

「俺もないな。そんな奴がボーダーにおったら、絶対耳に入っとる」

 

「だよな………」

 

 確かに水上の言う通りだと影浦は思う。あれだけ色んな意味で目立つ奴がいたら話の一つや二つ、嫌でも耳に入ってくるものだ。

 

「実は俺もよ、ソイツに会った事があるんだよ」

 

「それホントか当真?」

 

「あぁ。国近と今とボーダーに行く途中にな。向こうから話しかけてきてよ」

 

「何を話したんだ?」

 

 今だ話が分からない村上が、置いてけぼりにならないように当真に質問する。

 

「話たって向こうが一方的でよ。自分の美貌がどうとか言ってたな」

 

「何だそれ?」

 

 訳がわからず村上の頭には、幾つもの「?」が頭を埋め尽くす。

 

「上にはもう伝えたんだろカゲ?」

 

「伝えたのは光だけどな。不審者が彷徨いてるってよ」

 

 そう言って最後の一口を食い終えた影浦は、手を合わせてソファから立ち上がった。それに倣って他三人も立ち上がる。

 

「案外、上層部のうちの誰かの知り合いかもしれないぞ」

 

「まぁ、その可能性もあるかもな……」

 

 村上の言葉に、影浦は納得はいかないものの可能性の一つとして受け止めた。彼らは食べた食器を片付けようとした時、突如、ボーダー内でアナウンスが鳴り響いた。

 

『緊急連絡、只今より、全隊員及び職員はボーダー本部から外へ出ることを禁じます。ボーダー本部にいるB級以上の隊員は、速やかに自身の隊室に集まり待機せよ。C級隊員は訓練施設で待機せよ。繰り返す、只今より、全隊員及び職員はボーダー本部から外へ出ることを禁じます。ボーダー本部にいるB級以上ー』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 既に警戒区域に入ってるギルガメッシュは、そびえ立つボーダー本部を見上げながら、ポケットからある物を取り出した。それは白くて四角いブロック。大きさはルービックキューブと同じくらいである。

 

「あの時は雑魚の観戦だったが、此度は以前よりも見応えはありそうだ」

 

 ギルガメッシュはそのブロックを地面に放り投げた。ブロックは地面を転がり静止すると、ガチャガチャと音を立てて、その大きさを拡大し始める。

 

「ミデンの力を推し量るにはコイツは丁度良いかもしれぬ」

 

 ギルガメッシュが独り言を話している時でも、そのブロックは成長をし続け、あっという間に10メートル程まで大きくなった。すると、ブロックの一面の外壁が剥がれ落ちる。

 

        グルルル…………

 

 ブロックの中から出てきたそれを一言で表すならば、白い犬。ブロックと同じ10メートル程の大きさで赤い瞳がガラリと光っている。だが驚くべきことは、その犬の頭が3つある事だった。

 

「さぁ行け、『ケルベロス』。その強靭な顎でミデンの戦士を噛み砕くが良い」

 

 

    『ガオォォォォーーーーーーーー』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 足早と隊室に入った風間だったが、既に他の隊員達は集まっていた。

 

「遅いですよ風間さん」

 

 菊地原が風間に文句を言うが、別に責めているわけではない。いつもの事である。

 

「すまない。それで三上、現れたトリオン兵はどんなだ?」

 

「モニターに出します」

 

 モニターに映し出されたのは白い犬。だが、その大きさが馬鹿でかい。既に警戒区域内の建物を何件か破壊して煙が上がっている。

 

「遠征先でも見た事ないですね。新型のトリオン兵ですか」

 

 モニターを凝視しながら歌川がそう呟く。

 

「上層部の話では、門も発生せず突如現れたようです」

 

「門が発生しなかった……?」

 

 通常なら、この世界と別の世界を繋ぐ為に門が必要となり、そこからトリオン兵が現れる。門が発生しなかったのなら、コイツはどこから現れたのか。

 

「歌川、それを考えるのは後だ。三上、今何処の隊が向かってる?」

 

「生駒隊、東隊、影浦隊、二宮隊です」

 

「それ、僕たちの出番ありますか?」

 

 菊地原はそう言いながら着々と準備を始めている。

 

「………少し様子を見よう。いつでも出れる用意はしておけ」

 

 確かに菊地原の言う通り過剰戦力だ。いくら新型トリオン兵とはいえ、B級上位の4チームがいれば問題ない。そう思った風間だが、その読みは簡単に覆る事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ケルベロス』にいち早く辿り着いたのは、東隊の攻撃手の奥寺常幸と小荒井登であった。

 

『東さん、小荒井と一緒に新型トリオン兵の約5メートル付近まで辿り着きました』

 

『2人とも慎重にな。まずは相手の出方を見たからだ』

 

隊長の東春秋が通信で2人に伝えたその時、『ケルベロス』が小荒井、奥寺目掛けて動きだした。

 

「うわぁ!?」

 

「小荒井避けろ!」 

 

 『ケルベロス』の真ん中の頭が大きな口を開けて、小荒井と奥寺が立っている家ごと噛み砕こうとした。しかし、2人はグラスホッパーを展開して、数件離れた家に飛び移って攻撃を避けた。

 

「危ねぇー」

 

「気を付けろ。何してくるか分からないぞ」

 

 距離を取って2人は安堵する。だが、その一瞬が命取りだった。家を噛み砕いた頭とは別の左の頭が、その場で大きな口を開けた。家が破壊された事で煙が撒き上がり、小荒井と奥寺の位置からはその頭が見えなかった。『ケルベロス』は口の中からビームを放った。

 

「ぐわぁー!?」「何!?」

 

    『戦闘体活動限界、緊急脱出』

 

 煙の中から現れたビームは、小荒井と奥寺がいる家を含め何軒か吹き飛ばし、2人のトリオン体は消し炭になり緊急脱出した。

 

『コチラ東、奥寺と小荒井が緊急脱出!敵は口からビームを放つもよう。その威力は二宮隊員のメテオラを遥かに凌駕する』

 

「オラァ!」

 

 遅れて到着した影浦がスコーピオンで『ケルベロス』の胴体を切り付けようとするが、傷一つ付かなかった。

 

『ガルルルル!』

 

「クソが……!」

 

 想像以上の硬さ。次なる敵を見つけた『ケルベロス』が、影浦を前足で踏み潰そうとする。それを邪魔する様に、北添が擲弾銃型のメテオラで応戦するが、

 

「嘘でしょーー!?」

 

「逃げろゾエ!」

 

 『ケルベロス』は無傷だった。影浦から北添に狙いを変更し、小荒井と奥寺を吹き飛ばしたビームが北添を目掛けて放とうとする。

 

「旋空孤月」

 

 『ケルベロス』の隣に建っている建物から、生駒が旋空を放ち『ケルベロス』の頭部を攻撃を邪魔する。しかし、攻撃は止むことはなかった。

 

「マジか、すまんゾエ!」

 

 ビームは北添に向けて放たれた。北添は苦し紛れに集中シールドを展開するが、無駄な足掻きであった。そのシールドは防ぐ事なく木っ端微塵に消し飛んだ。

 

    『戦闘体活動限界、緊急脱出』

 

 戦闘が始まってからまだ3分と経ってもいないのに、もう3人の隊員がやられてしまった。

 

『やばいでアレ、俺の旋空もカゲのスコーピオンも全く効かへん』

 

『隊長、早くそこから離れてください。次狙われるのカゲか隊長ですよ』

 

 通信で水上と会話する生駒だが、『ケルベロス』の頭の一つは、静かに生駒を捉えていた。

 

『あっ、ヤバい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ボーダー本部の屋上でスコープを覗き込んでいた絵馬が見たのは、生駒のいた建物が破壊される光景だった。煙がモクモクと撒き上がる。

 

『カゲさん、大丈夫?』

 

 隊長の無事を確認する絵馬。

 

『俺は問題ないが、イコさんは知らねぇ』

 

『緊急脱出してないから多分無事だよ』

 

『ゾエさんは無事じゃないけどね』

 

『おいゾエ、何早く緊急脱出してんだよ』

 

 一足先に緊急脱出したゾエにオペレーターの仁礼が叱っている。呑気な事だ。絵馬はスコープを覗き込むのをやめた。

 

「絵馬」

 

 同じくボーダーの屋上にいた東が声を掛けてきたからだ。

 

「どうします東さん。あのトリオン兵、メチャクチャ硬いですよ。俺たちのアイビスでも多分無理だ」

 

「そうだな………」

 

 今ある情報としては、強靭な顎で家ごと噛み砕く力。集中シールドでも防げないビーム。そして傷一つ付かない体。

 

「東さんも気付いていると思うけど、あの新型の右の頭、今の所何もしてないよね」

 

 それは東も気がついていた。先の戦闘では、真ん中の頭が噛み付く攻撃。左の頭がビームの攻撃。しかし、右の頭は一切何もしなかった。それが気がかりでならない。まだ何かを隠している。

 

「誰かが緊急脱出を覚悟で情報を落とすしかない」

 

『東さん、俺が奴に合成弾を撃ちます』

 

『二宮……』

 

 東の通信から二宮の声が入ってきた。

 

『徹甲弾(ギムレット)なら、奴の硬い装甲に傷をつけることができるかもしれない。後続の為にも、色々と試した方がいい』

 

『分かった。頼んだぞ二宮』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『生駒隊は奴の注意を引いてくれ』

 

『無茶言いますね二宮さん、そんなに長く持ち堪えられませんよ』

 

『分かってる。それでもやってくれ』

 

『了解』

 

 二宮隊は『ケルベロス』から20メートルほど離れた地点でいた。二宮はその場で合成弾を作り始める。 

 

「俺が撃ったら全力で走るぞ」

 

「Hit and Awayって事ですね」

 

「危険なのは奴の遠距離攻撃だ。あのビームは防ぎようがない。もし撃ってきたら、シールドで守らず避ける事だけを考えろ」

 

 そう犬飼や辻に伝えているうちに、二宮は徹甲弾を完成させる。

 

『氷見、奴の正確な位置を送れ』

 

『はい、二宮さん』

 

 オペレーターの氷見から受け取った『ケルベロス』の現在位置に向かって合成弾が飛び出した。

 

「徹甲弾(ギムレット)」

 

 徹甲弾は『ケルベロス』目掛けて飛んでいく。自分の方へ何かが飛んで来る事に気が付いて迎え撃とうとした時、それを邪魔する者が現れた。

 

「「アステロイド」」

 

 水上と南沢が、アステロイドで『ケルベロス』の頭部、特に目を集中的に攻撃する。攻撃を受けた左の頭部はそれを鬱陶しそうに、首をブンブンと振り回し始める。

 

「海、下がれ!」

 

「ハイっす!」

 

『ガルルルル……』

 

 残る真ん中と右の頭は、水上と南沢に向かって唸り声を上げた。

 

「うわ、メッチャ怖いやん。やけど、予想通りやな」

 

 その2つの頭からはビームを発射することは無かった。これでビームを放てるのは右の頭だけと分かった。時間稼ぎは出来た。二宮の徹甲弾が『ケルベロス』の頭に直撃する。

 

「…………マジか」

 

 二宮の徹甲弾は『ケルベロス』の装甲に傷を付けることは無かった。微動だにしない。いよいよ後がなくなってきた。

 

「コイツ、何やったら効くねん」

 

『ガォォォォーーー!!』

 

 水上と南沢に『ケルベロス』の鋭い爪が襲い掛かる。水上と南沢はシールドを展開するが、まるで豆腐かのようにシールドは破られ、そのまま水上と南沢の体は引き裂かれた。

 

    『戦闘体活動限界 緊急脱出』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤベェな」

 

 隊室のモニターで『ケルベロス』とB級上位4チームの戦闘を見ていた太刀川の第一声がそれであった。

 

「生駒旋空や二宮の合成弾も効かないとなれば、俺が出て行っても意味が無いかもな」

 

「硬すぎだよあの新型、太刀川さんでも無理なの?」

 

「難しいかもな……」

 

 バトルジャンキーな太刀川にしては、今回は珍しく落ち着いた雰囲気である。それだけ、事態は深刻なのだろうと国近と出水は悟る。

 

「ならどうするんの太刀川さん、このままゲームオーバー?」

 

 国近が不安そうな顔をすると、太刀川はフッと笑う。

 

「今回は俺の出番じゃないって事さ。せいぜいが敵の視界に入って注意を逸らすことだろうよ。それよりも出水、お前のトリガー構成変更しろ」

 

「え?どういう事ですか?」

 

「今、奴を倒す手段が無いと分かれば、やる事は一つしかねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギルガメッシュは、遥か遠くの場所からボーダーと『ケルベロス』の戦闘を眺めていた。

 

「攻撃が止んだか」

 

 先程5人の隊員が倒されて以降、ボーダーに動きは無い。『ケルベロス』は再び建物の破壊を開始した。

 

「まさか、逃げたのではあるまいな?俺を失望させてくれるなよミデンの戦士よ」

 

 このまま何も出来ず、破壊の限りを尽くされるのか。ギルガメッシュの表情には、退屈の二文字が浮かんでいる。

 

「ほぅ、やっと来たか」

 

 期待しすぎたのか。そう思った矢先、ボーダー本部からぞろぞろと人が出てきた。

 

「さぁ第二ラウンドだ」

 

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