幼い頃、星を見たことがあった
俺はある人の影響で小さい頃から生き物が好きで、小学校の頃なんかはよく学校の裏の山に行っては秘密基地を作ったり、昆虫採集したりをしていた
男らしく無いとか言われたこともあったが、植物を育てるのも好きで、母さんや幼馴染の鈴が喜ぶからと秘密基地の側に花を植えて育てたりなんかもしていたか
あの頃はそんな秘密基地生活に小さな仲間ができた頃でもあったっけ
学校の側に捨てられていて、ぼろぼろになっていた猫を拾った
家で飼いたいところではあったが、母さんが猫アレルギーだったので秘密基地で飼うことになった(アレルギーだが動物大好きだった母さんがしばらくしょげていたこともよく覚えている)
ある日、大雨が降る予報を見た俺はいても立ってもいられずに家を抜け出して秘密基地に泊まり込んだ
外が大雨の中、震える小さな猫を抱きしめて、俺自身もビビってたのに泣くもんかって踏ん張ってすごしていた
そんな時、空から赤い星が一つ降りてきた
大きな風と共に木々を薙ぎ倒して秘密基地の目の前に降りてきたのは、見上げるほどデカい翼を持ったバケモノだった
後々に各地で発見が相次ぐそれは、今では「怪獣」と呼んだ方がいいだろう
ーギャォオォォォォオン!!!!
巨大な赤い目を光らせ、その怪獣が秘密基地の窓からこちらを覗き込む。腹が減っているのか、よだれをダラダラ垂らしながら迫り来たソレを、俺は震えながら睨むことしかできなかった
『ちびには手を出させない…!負けるもんか!!』
俺がここを離れたら、コイツは1人になっちまう
コイツを抱えて逃げたりしたら、俺もコイツも1人になる
そんなのは、どっちも嫌だった
そんな俺たちに大口を開けた怪獣が迫り来る
が、その口は秘密基地には届かなかった
ーギャォォォォオ!?!?
怪獣は何かに引きずられるように秘密基地から離れ、後方の山に大きく吹き飛ばされた
代わりに秘密基地の前に立ちはだかったのは、巨人だった
青と赤が混じったマーブルの光をその身に纏う巨人が身をかがめ、窓からこちらを見る
空に輝く星のように明るい、それでいて優しい瞳がこちらを見据えて頷いた
吹き飛ばされた怪獣が立ち上がるのを見て巨人も相対し、まるで太極拳のような構えと共に、右手から光のシャワーを放つ
優しい光のシャワーが怪獣を包んでいくと、暴れていた怪獣が大人しくなり、その体から虹色の光の粒が溢れる
光が晴れた中にいた怪獣は、先程までの赤い瞳ではなく、穏やかな目に戻っていた。体の刺々しさも消えているように見える
ークァァァァァァァ……?
おどろおどろしかった鳴き声も嘘のように優しくなった怪獣に巨人は近づき、その頭を優しく撫でる
巨人にお礼を言うかのように頭を下げた怪獣は大きな翼を広げて空へと帰っていった
なんて優しくて、強いんだろう。俺の憧れはそこからあったのかもしれない
猫を抱えたまま飛び出した俺の前に、巨人は膝をついてこちらを見下ろす
巨人の指が俺に向けられた
『キミの勇気は、優しさは、必ずキミの力になる』
不意に手の中にぬくもりを感じて、そこを見る
手の中にあったのは、巨人の纏う光と同じ赤と青の混ざった綺麗な石だった。透き通るように煌めくそれを掲げながら巨人を見つめる
『もしキミが、その勇気と優しさを忘れていないのならば、またいつの日にか会えるだろう』
そう告げた巨人は、空の彼方へと飛んでいった
赤と青の尾を引く流星が、いつまでも見えていた
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
ぱちり、と目を覚まし、起き上がる
(なんだか、懐かしい夢を見た気がする…)
くぁ、とあくびを一つすると、俺ー豊島 善吉はベッドから立ち上がり、身支度などを済ませる
あれから月日は経ち、俺は大学も卒業して特にやりたいことも見つからないままにぶらぶらと日々を過ごしていた
世間では、怪獣が頻繁に出現するようになって大混乱が起こったこともあったが、対怪獣のために特別に組織された対怪自衛隊や、その怪獣を分析していくための組織KRCも設立され、怪獣の出現にも人々は慣れすら見えてきていた
最近KRCにできたチームなんかは怪獣保護とかもやってるらしいが、目立った真価は見られていない。「そもそも怪獣を守るために国の予算を使う必要があるのか」とかテレビで議論されたりもしてるが、正直なところ世界が違いすぎて関心は持てていなかった
バイトに出かける準備を終えて、最後に机の上のペンダントを手に取る
その先にぶら下げられた綺麗な石を見ながら、あの日を思い出す
「勇気と優しさを忘れなければ……ね」
瞬間、脳裏に光景がフラッシュバックする
顔面血だらけで倒れ込む学生
そのうちの1人の首を掴んで、がっしりした体をものともせずに持ち上げる俺
泣きながら尻餅をついている幼馴染の鈴
「ーこの、■■■■が!!!!」
響く、俺のことを叫ぶ声
顔をしかめながら、ペンダントを丸めてズボンのポケットにしまい込む
「……どの面で会えるってんだ。俺が」
自嘲気味に俺はそう呟き、項垂れるしかなかった
ため息を一つ吐き出して気持ちを切り替えると、バッグを手にしてバイトへと出掛けていく
出がけの玄関脇の鏡に映った顔は、ひどいものだった