ウルトラマンケレス   作:リョウギ

2 / 4
第1話「光との再起」

朝日(あさひ)町のある商店街

そこには小さいながらも活気ある花屋があった

 

店先で花を眺めている婦人に背の高い青年が近づく

 

「いらっしゃいませ。なんかお探しの花はありますか?」

 

あら、と顔を上げた婦人が一瞬たじろぐ

 

青年はにこやかな笑みを浮かべていたが、切長の三白眼などどこか強面だった。いきなりこの顔に声をかけられたら驚いても不思議じゃなさそうだ

 

「あ、あぁ、えーと……」

 

婦人が目を泳がせていると背の高い青年を押し除けて小柄な女性が顔を出す

 

「すみませーん、お客さん。この人顔怖くて…昔っからこの無愛想なんですよぉ〜」

 

えへへ、と笑う女性の応対に婦人も緊張を解く

 

「善ちゃん。こっちは大丈夫だから、お父さんとこの荷物運びとか手伝ってあげて」

「あ、ああ。わかった」

 

女性ー花村(はなむら) (すず)に言われて青年ー豊島(とよしま) 善吉(ぜんきち)は軽く会釈をして去っていく

その背を見送った鈴の隣で婦人が少し申し訳なさそうな顔を見せる

 

「……お客さんが見比べてくれてたそこのお花たちなんですけど、実はさっきの善ちゃんがずっと世話してくれてた花なんですよ」

「あら、そうなの?」

 

にひひ、と鈴が得意げに笑う

 

「顔は怖いですけど、善ちゃんはとっても優しいんです。昔から。私の自慢の幼馴染なんですよ〜」

 

店の中からその様子を見ていた善吉に鈴がウインクする

善吉はそれを見て少し目を伏せたが微笑みを返した

 

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

 

「……さっきはありがとな。鈴」

 

エプロンを脱いで帰り支度を終えた善吉が花の配置を整えていた鈴に声をかける

 

「幼馴染だもん。これくらいは当たり前だよ」

「いや、そんなことねぇよ。毎回、助かってる」

 

善吉は頬をかきながら口を開く

 

「……俺は、鈴の言うように優しくなんか無いけどよ」

 

そんなことを呟く善吉の胸を鈴が小さな握り拳で小突く

 

「善ちゃんは優しいよ。私は、そんな善ちゃんをずっと見てきたんだもん。それは、本当だよ」

 

自嘲気味に笑って善吉が首を振る

 

「そんなこたぁない。俺は、ただのー」

「違う。違うから…!」

 

善吉の言葉を遮り叫ぶ鈴

その泣きそうな瞳を見た善吉は申し訳なさそうに目を伏せる

 

「……悪ぃ、今日はこれで」

 

善吉はぽんと鈴の頭をひとなですると、花村花店を去っていった

 

鈴はそのどこか縮こまった背を見て複雑な表情を浮かべていた

左手首に巻いたミサンガをそっと撫でて、小さなため息が一つもれた

 

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

 

朝日町のはずれには、新しく建設された大きな施設群があった

 

KRC

Kaiju Research Circle

 

近年になって目撃例が頻発し始めた巨大生物ー「怪獣」の観測と研究を専門とした政府機関の研究施設兼、特捜チーム・EINsの基地であった

 

そこの司令室にて、写真資料をいくつも広げて何かを考えながら唸っているショートカットの女性が一人いた

 

「うーん……なんとも…この子は性質的におかしいし、そもそもこっちの子に関しては活動時間が違うし……うーん……」

 

ボサボサになっていた頭を更に掻きながら女性が唸る

 

「おいおい、アキ。仕事が来てないからって司令室を散らかすのはやめてくれよ…」

 

司令室に入ってきた男性ー影浦(かげうら) 耀(よう)がため息をつきながら女性ー武蔵野(むさしの) (あき)を嗜める

 

「いいじゃない。あたしたち含めて現状4人しかいないチームなんだし、広いスペースは有効活用しないと」

「また夏樹からどやされるぞお前…自分とこのスペースに怪獣の人形が山ほど残されてたって」

「アレは……その……あたしの部屋に入らなかったのを置かせてもらっただけだからさ…」

「なお悪いわ!?」

 

ったく、とぼやきながらも耀が散らばる資料を片付けながら目を通していく

 

「……怪獣の対処報告書か」

「対処じゃない。駆除だろ、こんなのは」

 

吐き捨てるように言う秋にやれやれと耀が肩をすくめる

 

「まぁな。対怪自衛隊の連中は怪獣はとっとと排除すべき存在って話だからなぁ…」

「……まだあたしたちの活動も手探りなのもあるけど、こうも保護事例が少ないと参っちゃうわね」

 

現状、チームEINsの捕獲事例は12件。うち8件は負傷や病で保護区内で死亡してしまった

10年前ほどから既に数十件報告されてる中ですら、この数しか怪獣の捕獲は成功していない

 

チームとしての目標である、怪獣の研究と適切な対処・保護はまだまだ形としても不完全だった

 

弱気なことを呟く秋の頭を耀が書類ではたく

 

「お前らしくないなぁ、そんな弱気。僕と一緒にこんな組織立ち上げてやるって息巻いてたのに」

「……ふん、ならあたしが弱気なだけで終わらないってのもわかってるでしょ?」

「それもそうでしたっと」

 

ふと秋の手にした資料に気づき、耀が目を細める

 

「ー謎の振動源の移動、その調査記録だね」

「謎と言っても、十中八九地底型怪獣の移動痕なのよねコレ」

 

秋が立ち上がり、コンソールを操作して司令室のモニターに地図とデータを重ねて写す

 

一週間ほど前から朝日町に向けて、謎の局所地震動が近づいていることが示されていた。最後に確認された地点は朝日町から10kmほどとまだ遠方であるが、対怪自衛隊とEINs共に警戒を強めている

 

「地底型怪獣ねぇ…どんな怪獣かはわかってるの?」

「地震動だけでわかれば苦労はしないわよ。ゴルメデみたいな凶暴なタイプか、虹弓諸島に既に保護済みのゴモラとかスピットルみたいなおとなしいタイプか。それともまるっきり違うタイプの怪獣か…」

 

うーん、と唸りながらデスクに置いていたアイスコーヒーにガムシロップをだばだば入れてかき混ぜる秋を耀が信じられないような目で見つめる

 

「………というか、それよりも気になるのもあるのよね」

 

コーヒーを飲み干し、ついでに氷をガリガリ噛みながら秋は更にコンソールを操作する

 

モニターに加えて表示されたのはあるエネルギー数値

それは怪獣の移動地点に追いすがるかのように確認されていた

 

「こいつは……?」

 

秋が氷を噛み砕いて応える

 

 

「仮称、カオスヘッダー。混沌を手招くもの……って我ながらロマンチックがすぎたかしら?」

 

 

「過去記録の中で、謎に凶暴化した怪獣の近辺で目撃された特異なエネルギー反応群…としか今のところは言えないのよね。何せサンプルが無い現象でしかないから、怪獣との関連があるかどうかも不明だし」

 

うーんと唸りながら秋が腰に手を当てる

 

「……ただ正直、嫌な予感はしてるのよね」

「嫌な予感、ねぇ…秋の予感は割と当たるから怖いんだよ」

「そりゃ生物学者の経験と勘に基づいた予感だしね」

 

はぁ、とため息を吐きながら秋が頭を掻く

 

「…ネムちゃんも優秀だから助かってるけど、流石にもう一人くらいは研究畑側で動いてくれる人が欲しいのよねぇ…」

 

 

「………あの少年とか、いてくれたらいいんだけど」

 

 

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

 

自室に戻ってきた善吉は何をするでもなくベッドに体を投げ出して天井を見つめていた

 

白い天井にふと、昼間の幼馴染が見せた複雑な表情がフラッシュバックしてきたような気がして、自己嫌悪を抱いて顔を覆う

 

「……悪いこと、しちまったよな…」

 

そんなことを考えていると、目を閉じた闇の中に別の鈴の顔が思い浮かぶ

 

 

まるで怪物を見るかのような、泣きそうな顔

胸の内が抉られるような、幼馴染の顔

 

 

「………俺が優しい人間なんかじゃないって、一番知ってるのはお前のはずなのにな」

 

自嘲気味の笑みが溢れた

 

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

 

鈴のあの顔を見たのは、高校に上がってすぐくらいの時だったか

 

同じ高校に入ってすぐに、鈴がトラブルに巻き込まれた

 

 

『やめて!やめてください!!!』

 

 

善吉と鈴で世話をしていた野良猫たちがいた河川敷に、同じ高校の先輩にあたる学生が現れ、猫たちに暴力をはたらいていたところを見た鈴が割って入ったのだ

 

当然、年も背丈も上の男子に鈴が敵う訳もなく、逆に乱暴されそうになっていた。善吉も一緒に止めようとしたところを3人がかりで抑えられ、殴る蹴るの袋叩きにあっていた

 

その時、世話をしていた猫が鈴に手を出そうとしていた男子に噛みついたのだ

 

逆上した男子は河川敷に転がっていた石を掴んでその猫の頭を思いっきり殴りつけた

 

 

だくだくと血を流しながら冷たくなっていくその猫を見てからしばらくの間のことを善吉は視界が真っ赤に染まっていた以外は覚えていない

 

 

『ーちゃん、善ちゃんもうやめて!!!死んじゃう!!!』

 

 

気がついた時には、善吉に鈴が泣きながら縋りついていた

その周りに倒れていた気絶した男子生徒たち数人と、首を締め上げていたボコボコの顔をした男子生徒の呻き声でようやく善吉は我に返ってその手を離した

 

 

振り上げていた右拳の中には、薄く輝く透明な石を握っていた

子供の頃、光の巨人からもらったあの大切な石を

 

 

『ーこの、バケモノが!!!!』

 

 

這う這うの体で逃げ出す男子生徒と、恐怖に顔を歪めた幼馴染

 

そして、既に冷たくなっていたあの猫を見て善吉は、ただ呆然とすることしかできなかった

 

 

後に警察や親から聞いたが、あの時善吉はポケットから光る石を掴むと、抑えつけていた3人を吹き飛ばし、とてつもない力で気絶させた後、一回りほど体格が大きいリーダー格の男子生徒を締め上げて殴りつけていたのだという

 

気絶していた3人はそれぞれ手足に骨折までしていた

 

 

猫たちは、あの1匹はやはり助からず、残った2匹も虐待の傷から病気になって死んでしまった

 

 

鈴の証言から善吉には厳重注意としばらくの停学で事なきを得ていたが、復学してからは元の強面もあって寄りつく人間は鈴くらいしかいなくなっていた

 

それでいい。と善吉は思った

 

あの巨人が、自身の優しさを見て託してくれた石。そこには何か不思議な力があったのだろう

 

 

その力を、善吉は傷つけることに使ってしまった

その力があったのに、救えたかもしれない猫を見殺しにしてしまった

 

 

あの男子生徒の言った通り、

自分はただの『バケモノ』なんだ、と

 

 

善吉はそれから人を避けるようになり、なんとなくで大学には通って、卒業してからも何をするわけでもなくバイトをして過ごしていた

 

人を避けると同時に、自分のバケモノさを見るのが嫌だったからか、無意識に鏡を見ることも避けていた

 

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

 

ベッドから起き上がり、ポケットから取り出した石を眺める

 

「………いい加減、俺も未練がましいよな」

 

光の巨人からもらった石

不思議な力が込められているらしいその石

 

善吉はもう合わせる顔もないと思いながら、その石を捨てられずにいた

 

はぁ、とため息を吐き出すと石を机の上にそっと置いて、部屋の明かりを消して布団を被った

 

 

善吉の背が写る鏡の中に赤と青の光が渦巻く人影が一瞬写り込むのに、彼は気づかなかった

 

 

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

 

翌日

 

花屋へといつも通り向かっていた善吉だったが、その足取りはいつも以上に重かった

 

「昨日は…悪かった…いや、これじゃあダメだ。偉そうに聞こえる。昨日は、ごめん…いやいや、ガキじゃあるまいしこんな…」

 

ブツブツと呟いていたのは鈴への謝罪の言葉

曲がりなりにも、昨日悲しませてしまうことをしていたのは善吉の胸に後悔として残っていた

 

「……だぁぁぁぁっ、クソッ!いざ謝るとなるとこんな小っ恥ずかしくなるとか…俺小心者すぎるだろ…」

 

思わず苛立ちを口にしてしまった善吉に通りがかりの親子がビクッと体を揺らす

申し訳なさを感じて会釈して足早に善吉が通り過ぎる

 

(……会ったら多分言えるだろ…)

 

はぁ、と重い気持ちを吐き出して善吉が歩みを早めていく

 

 

瞬間、大地が大きく揺らいだ

 

 

ふらつき倒れた善吉の後ろから悲鳴が響く

 

さっき通りすぎた親子ーその母親が倒れてきた立て看板から咄嗟に子を庇っていたのが見える

 

「ーッ!!!」

 

考えるより先に体が動いた

 

看板の衝撃に目を瞑っていた母親がいつまでも衝撃が来ないことに疑問を感じて目を開く

 

「……つぅッ」

 

母親を庇うように割り込んだ善吉が右肩に看板を受け止めていた

 

「……大丈夫、ッスか…?」

「あ、ありがとうございます…!!」

 

呆然としていた母親がようやく我に返り、善吉の下から子供を抱えて逃げ出していく

 

看板をどかして善吉が痛む肩をさすりながら立ち上がる

 

 

 

ギャォォォォォォォォ!!!!

 

 

 

その鼓膜を、大音量の吠え声が揺らした

 

善吉の目の前の方向に現れていたのは暗い緑色の鱗を持つ巨大な生物だった。頭にはヘルメットのような分厚い甲殻を持ち、全体的なシルエットはまるで恐竜のような存在

 

ここ最近のニュースでよく見ていた、とはいえ現実味を持って見たことは無いソレが目の前に現れていた

 

 

「ー怪獣ッ!?」

 

 

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

 

「全くなんだってまたこんな時に…ッ!!」

 

悪態をつきながら耀がヘルメットを被りコクピットに着く

様々な機械が稼働するハンガーを青と銀に塗装された小型機ーテックスパークβが上昇していく

 

「ネムちゃんは怪獣の体組織調査で今沖縄だし、耀が選抜したって二人が合流してくるのもまた後日だし…はぁ、弱小部隊ってこんなにやってられないのね」

 

テックスパークβに続き、長方形のブロックを二つ並べたような形と上半分を青、下半分を赤に塗装した特徴的なボディを持つ大型機ーテックプラズマがカタパルトにローンチする

 

コクピットの二人が操縦桿を倒すと、二機の機体がカタパルトから浮上して発進。朝日町近辺の山肌が開いた発進口から飛び出していく

 

 

数分もしないうちに目標の怪獣を捉えた秋がむ、と口元をなぞる

 

「ゴルメデに近い古代獣タイプみたいね。血の気の多い怪獣たちが多い種族だけど、なんだって急に街中に……」

 

ーギャオォォォォォォッ!!!

 

近づいてくる二機の機体に怪獣は腕を振り上げながら威嚇し、尻尾を振り回して叩き落とそうとする

 

「危なッ!?ともかくまずは市街地から離すぞ。ファンクションレベル・オレンジ!」

 

機体内のカテゴリーランプがオレンジに点灯する

 

EINsでは対処する怪獣に対してファンクションレベルという作戦段階を設定している

 

グリーンは捕獲・保護優先、イエローは警戒と共に動向観察、オレンジは威嚇攻撃による簡易制圧を優先、レッドは即時殲滅優先である

 

「オーライ。じゃあ、フォーメーション・4でいいわね?」

「ああ、いくぞ!」

 

テックスパークβの背部からポインターシグナルが伸び、テックプラズマに接続、テックプラズマの機体上部のシグナルが緑に点滅する

 

《Formation 4》

 

テックプラズマの機体前半分が回転、同時に背部の長方形型ユニットが中央へと移動。前部の長方形ユニットは大きく横にスライドする

テックスパークβが両翼を格納してその接合部に着艦すると、挟み込むように両サイドの長方形ユニットがスライドしてバルカン砲の銃口と制御翼が展開、背部長方形ユニットは機体を上から包むように畳まれ、大型の砲身が延伸する

 

 

《TEC Lightning 4 Combine》

 

 

テックスパークβとテックプラズマが合体した大型作戦機ーテックライトニング。4形態存在する中で今回はシールドによる防御とバルカン砲による固定射撃を得意とするテックライトニング4が完成した

 

ーギャォオォォォォォォッ!!!

 

咆哮しながら怪獣は再度尻尾による一撃を放つが、テックライトニング4の機体に触れる寸前に青白いスパークと共に弾かれる

 

「悪いが、こいつには半端な攻撃は当たらんぞ」

 

よろめく怪獣の足元に向けてプラズマバルカンが放たれ、派手な火花を散らす

 

ーギャォオォォォゥゥッ!?!?

 

火花の炸裂音に驚いて怪獣は後退を始める

 

「よーしよしいい子だ。そのまま一旦市街地から離れるぞ」

 

耀の操縦の傍ら、同じコクピットに昇降機から入ってきていた秋がコンソールで分析と情報収集を行っていく

 

ふと、機体外カメラに映る地上の状況を見ていた時に瓦礫の中を何かが横切る様子が見れた

 

「ッ、なー」

 

それは民間人の青年だった。あろうことか、怪獣の方向へ向けて走っている

 

「耀、待って!地上に民間人が!!!」

「何ッ!?」

 

秋の言葉に思わず耀が振り返る

その青年がどこか見覚えのある顔をしていたようなことに秋は今更気がついた

 

「ーッ、まさか!」

 

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

 

上空から飛来したカラフルな機体が怪獣へと近づいていくのを見て、ようやく落ち着いてきた思考があることに思い至る

 

「……あの怪獣の現れた場所…まさか!?」

 

攻防が始まる中、善吉は弾かれたように駆け出した

 

 

怪獣の進行により、ほとんどの建物が倒壊したり火をあげたりしており、いつも見知っているはずの街が全く違うものに見えた

 

そんな中を走り抜け、善吉はそこに辿り着く

 

花村花店

 

いつも朗らかに笑う幼馴染が、「名字と店の名前でなんか韻踏んでるよね〜そこがうちの名物なんだけど」とか呑気に言っていた、いつものバイト先の看板は見るも無惨に割れて落ち、建物も半壊していた

 

「鈴!しっかりしろ鈴ぅ!!!」

 

呆然とする中、聞き覚えのある声が善吉の耳に響く

瓦礫に縋り付いていたのは壮年の男性ー鈴の父親でこの花屋の店長をしている花村 日向だった

 

「おじさん!!」

「善吉くん…あぁ、善吉くん!!!」

 

善吉の声に振り返る日向の額にはどこかでぶつけていたのか血が垂れていた

そこで見えたその先の瓦礫から見えているものを見て、善吉は全身の血が凍るような感覚を覚えた

 

 

見覚えのあるミサンガを巻いた小さな左手が、瓦礫の下から覗いていた

 

 

「鈴!!!!」

 

すぐに瓦礫に駆け寄り、隙間から中を覗く

中には苦悶の顔を浮かべた鈴が、飼い猫のベルを抱きしめて横たわっていた

 

その下半身は瓦礫に潰されている。血はさほど出ていないのを見るに、瓦礫が被さって身動きできなくなっているようだった

 

「か、怪獣がきて、あの子がベルがまだ家の中にって、わ、わ私が、代わりに行ってやれば、こんな……!!!」

 

混乱している様子の日向に代わって善吉は瓦礫を押し上げようと力を込める

 

「ーぁッ!?」

 

右肩に走る激痛に顔をしかめる

先程看板を受けた時に痛めたのか、右肩の激痛のせいで手にまともに力が入らなくなっていた

 

「こんな、時にッ!!」

 

混乱していた様子だった日向だが、善吉を見て立ち上がる

 

「何か、てこに使えるものはないか探してくる!」

「……助かります、おじさんッ」

 

「………善ちゃん…?」

 

瓦礫の下からか細い声が聞こえてくる

 

「!?鈴!!!しっかりしろ今助ける!!!」

 

その言葉を遮るように、瓦礫の隙間からベルが押し出される

 

「ベルとお父さん連れて、逃げて…ッ!!」

「ッ、バカ言ってんじゃねぇ!!!今助けてやる!!!」

「行って!じゃないと、みんな死んじゃう…ッ」

 

泣きそうな声が善吉の鼓膜を打つ

 

「だめだ……いやだ、嫌なんだよッ!!!俺は、俺はッ!!!」

 

痛む腕を無理やり動かし、瓦礫を持ち上げんと力を込める

 

 

脳裏に、血の海に沈んでいくあの時の子猫がよぎった

石を手に掴んで、ただそれを眺めるしかできなかった自分の姿が 

 

 

(もう、あんな思いはうんざりだ…ッ!助けるんだッ!!!)

 

 

懸命に力を込める中で頭上で爆裂音が響き、降り注ぐ熱風に思わず顔をしかめる

 

 

ーギャォオォォォッ!?!?

 

 

耀たちの目の前で、怪獣の背中に何発ものミサイルが突き刺さって爆発するのが見えた

 

「なッ!?」

 

怪獣の後方から飛来してきた黒い戦闘機の4機編隊。その翼に書かれていた鷲が飛翔するエンブレムを見た耀が眉間に皺を寄せる

 

『今怪獣ー識別名・グラルデは我々で殲滅する。EINsは下がれ』

「対怪自衛隊…ッ、待て!ここからあの怪獣を市街地から離せばー」

『市街地の中央に出現する危険生のある怪獣は排除する。逃して、再び現れる危険性があるならば、排除あるのみだ!』

 

対怪自衛隊の特殊戦闘機ーシュヴァルツアドラー編隊が怪獣ー古代怪獣グラルデに何発ものミサイルを撃ち込んでいく

 

悲痛な声を上げると共に興奮状態になったグラルデは口から火球を放ち、一発シュヴァルツアドラーをかすめた

 

『チッ、脱出ッ!!!』

 

パイロットが離脱したシュヴァルツアドラーが落下していく中、グラルデは喉を掻きむしるような動作と共に口から赤熱化した岩石を散弾のように吐き出した

 

「めちゃくちゃな…ッ、まだ市街地だってのに!?」

「あいつらからすれば、迅速に処理してしまえば被害は無しなんだろうよ!」

 

興奮状態に入ったグラルデはシュヴァルツアドラー編隊を鬱陶し気に払い除けながら、時折自分の体を掻くような素振りを見せながら、再び前進を始めてしまった

 

 

ーギャォオォォォォォォッ!!!!

 

 

 

咆哮と、大地を揺るがす足音を聞き、鈴が声を張る

 

「善ちゃん!!!逃げて!!!このままじゃみんなも!!!」

 

迫るグラルデの姿が善吉の目に入る

 

(クソッ、クソクソクソッ!!!考えろ、何か、何か方法をー)

 

 

『ー善吉』

 

 

どこからか、優しげな声が聞こえた

 

ハッと善吉が顔を上げ、あたりを見渡す

その声は、いつかの秘密基地で聞いたあの巨人の声だった

 

『善吉』

 

善吉が振り返る

 

 

割れた自動ドアのガラスには自分の姿と

ーあの赤と青の光の渦巻く人影が並んで写っていた

 

「ーあんた、は…!?」

 

人影は鏡の中で自分の左胸を触る

善吉は同じ場所ー上着の内ポケットを探る

 

あの輝石が、光り輝いていた

 

「こ、れは…ッ!?」

 

 

『ー私の力を、使ってくれ』

 

 

鏡の中の人影が、はっきりとそう告げた

 

善吉の脳裏に、あの記憶がフラッシュバックする

血まみれで倒れる猫、不良生徒を殴る自分

 

自分のことを、バケモノと呼ぶあの声

 

うまく息が吸えない

ひゅーひゅーと空気の漏れる音がする

 

怪獣の足音も迫ってくる

 

ギリ、と歯を食いしばり、善吉はキッ、と怪獣を睨み上げた

 

 

 

「う、ぉぉおおおおおおおおおッ!!!」

 

 

 

善吉が雄叫びと共に石を掲げる

 

赤と青の光が解き放たれ、白い光となって膨れ上がった

 

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎

 

突然の光に飲まれて目を閉じていた鈴は自分が何か暖かくて大きいものに包まれていることに気づいた

 

「……暖かい……」

 

ーみぃ……

 

ベルが顔を心配そうに舐めてくる中、意識がはっきりとしてくる

 

 

見上げた先に見えたのは、巨大な顔だった

どこか仏像を思わせるような、それでいて凛とした目つきをした光に包まれた巨人。自分はその巨人の手の上にいたのだ

 

「……善ちゃん…?」

 

何故か鈴は、その巨人があの不器用な幼馴染に被って見えた

巨人は頷くと、鈴たちを優しく地面に置く

 

「鈴!!!鈴!!!よかった!!!」

 

駆け寄ってきた日向が鈴を抱き起こす

 

それを見た巨人がゆっくりと立ち上がり、それと共に纏われていた光が晴れていく

 

赤い体に渦を巻くように青い模様が入った巨人は、静かにグラルデに向き直った

 

「光の……巨人…!?」

 

驚く耀の後ろで秋は計器類の数値を確認していく

 

「この波形って……確か数年前にも朝日町で……」

 

 

ーギャォオォォォォォォォォォッ!!!

 

グラルデが咆哮するのを見て、巨人は空手のような構えと共に拳を突き出して構える

 

ーハァッ!!!

 

向かってくるグラルデを巨人が受け止める

グラルデの発達した頭殻を持ち上げ、腹にキックをかましてよろめかせる。そこにすかさず拳を放ち、よりグラルデを後退させていく

 

ーギャォオォォォッ!?!?

 

グラルデが喉を掻きむしりながら熱岩弾を放つ

すかさず飛びすさり、目にも止まらぬ手刀の連撃で熱岩弾を破壊して防いでいく。

 

ーフゥッ、ハァッ!!!

 

巨人は超スピードでグラルデの懐に潜り込み、その胸に二つの拳を叩き込む。くの字に体を曲げた

 

「あの巨人は……味方なのか……?」

 

耀が呆然と巨人を見据える中、秋は分析するような目つきとなり、瞬きすらせずに巨人の動向を睨んでいた

 

 

ーギャォオォォォォォォッ!!!

 

グラルデが体を掻きむしりながら、尻尾を振り回す

突然の一撃に巨人は防御をとるが尻尾の一撃が思った以上に重たく、膝をつく

 

そこにすかさず更なる尾撃が打ち込まれ、巨人の巨体が揺らぐ

 

ーギャォオォォォアァァァァッ!!!

 

グラルデは更なる尾撃を放つーが、よろめきながらも巨人はその尻尾を腰だめに掴んだ

 

ーフッ、アァァァァァァァァッ!!!

 

巨人が力を込め、その尻尾を引っ張り上げる

 

ーァァァァァァァァッ!!!

 

巨人はそのままグラルデをジャイアントスイングの要領で振り回し、投げ捨てる

 

空き地に叩きつけられたグラルデは弱々しい声を上げながらヨタヨタと立ち上がった

 

ーハァッ、デリャアッ!!!

 

巨人が再度空手のような構えをし、グラルデに向き直る

 

ーギュアァァウゥゥ……

 

それを見たグラルデは一際弱々しい声と共に頭を抱えて身を縮めてしまった

 

構えていた巨人の拳が緩み、その巨体が震える

 

巨人の中ー善吉は、まるで怯えるかのような姿を見せたグラルデに、あの時の鈴の怯えた顔を重ねていた

 

巨人が膝を突く。胸に輝いていた青いクリスタルが赤く点灯し始めた

 

 

 

『……ッ、俺は…俺は、また……ッ』

 

 

 

善吉の動揺を示すかのように、巨人も自分の震える手を見て硬直してしまった

 

ただ、胸のカラータイマーの音のみが響いていた




怪獣グラルデと巨人の激突!
だが、巨人はグラルデを逃してしまう

「俺は結局、この力で何かを傷つけるしかできない…」

苦悩する善吉の前に現れたのは
かつて動物たちのことを教えてくれた秋だった

「少年ができるかどうかじゃない。少年はさ、今どうしたいんだい?」

再び現れる怪獣グラルデ
そこに、極彩色の魔の手が迫る

「怪獣の姿が……変わった…!?」

『キミと私が共に戦えば、皆を救える』
「善ちゃんは、善ちゃんだよ。今も昔も」

「俺は…俺はッ!!!」
「もう、自分に負けたままでいる暇は、ねぇんだ!」

次回ウルトラマンケレス
『ウルトラの誓い』

優しさと力、そして勇気
それを抱く勇士を、人々はそう呼ぶ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。