項垂れる巨人を見たグラルデはそれに背を向けて地面を掘り進み始める
「あっ!?逃げる気か!?」
急速に地面を掘り進めていったグラルデは地中へと姿を消していった
それを待たずして、巨人も姿を消してしまった
『……ターゲットロスト。一時帰投する』
対怪自衛隊はその様子を見て撤退していく
「…俺たちも撤退だな。グラルデのこともまだまだ調べてみないと…」
やれやれ、と呟きながら耀が警戒を解く
「あ、あたしはちょっと野暮用片付けてからにするわ」
「へっ?」
秋はテックプラズマのコクピットにそそくさと戻ると、コンバインを解除して地上へと着陸していく
「え、ちょ、秋!?!?」
巨人がいたはずの地上地点
瓦礫の中に善吉が膝をつく
「はぁっ、はぁっ、はぁっ………」
荒い息を吐きながら、握りしめていた輝石を見る
輝石はまだ淡い光を放っていた
先の怪獣ーグラルデの怯えるかのような姿がまたフラッシュバックする
「何も…何も…ッ、変わってねぇじゃねぇか…ッ、俺はッ」
ふらついた体がそのまま倒れる
激戦のダメージが来たのか、善吉は気を失っていた
その姿を、砕けたガラスの中から光の人影が見つめていた
『善吉……』
倒れた善吉のところに一人の人影が現れる
「……ったく、見ないうちにまぁ、デカくなっちゃって…」
人影は通信機を兼ねたEINsライセンスを取り出す
「こちら秋。負傷者見つけたから拾ってく。……ぁあ、うん。この子はちょいと特別な人材だから、さ」
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
善吉が目を覚まして見たのは、味気のない白い天井だった
「……ここは…」
起き上がると、右肩には包帯が巻かれており、いつの間にか病院着に着替えさせられている
どうやら、あの場に倒れていたところを誰かに救助されたらしい
「おー、目が覚めたか?少年」
からからと愉快そうに笑いながら誰かが病室に入ってくる
その顔は、あの頃より少し歳を重ねていたがよく覚えている顔だった
「あ、
「うわぁ〜その呼ばれ方なつかし〜少年って感じするわほんと」
朗らかに笑い、女性ー
「よしてくれよ…もう少年なんてトシじゃない」
「言うねぇ…でもあたしから見たらまだまだ少年だから、少年は少年でいいだろ?」
「な、そんな横暴な…」
「い・い・よ・な?」
不満を口にしていたが、秋の圧のこもった笑みにぐぬぬ、と項垂れる
あの頃とちっとも変わっていなかった。少し横暴なところ。それ以上に太陽のように朗らかでいるところ。それを思うと、善吉も懐かしさを感じて笑みが漏れる
武蔵野 秋は善吉がまだ小学生の頃に世話になっていた恩師のような人だった
と言っても、学校の先生とかではない。学校の裏山で秘密基地作りをしている時にフィールドワークと静かな場所探しを兼ねて訪れていた秋と知り合ったのだ
「秘密基地ねぇ〜いいじゃん、最高。ね、少年、あたしも作るの手伝うからあたしもちょーっと間借りさせてよ」
「えーおれの秘密基地なのに…」
「減るもんじゃないだろ?い・い・よ・な?」
あの時も強引に押し切って秋は秘密基地として作った簡易的なツリーハウスの側に小さなデスクのようなものを組んで、研究書を読み込んだりパソコンと睨めっこしたりしていた
「こんな森の中で、そんなのして集中できるの?」
「できるできる。あたし、人の話し声になんか敏感だからさ。大学とかよりも集中できんだよね。少年が無口なとこも助かってるよ」
そんなことを言いながら自分の研究や論文作りに励む傍ら、彼女はたまに気分転換として生き物のことをよく善吉に教えてくれていた
彼女との交流で、元から大好きだった生き物のことが更に大好きになったのは今でもいい思い出だ
ある日に「ちょいと仕事ができた」と言って別れてからは秘密基地を訪れていなかった
「……あん時言ってた仕事って…」
秋は左手の制服についたワッペンを引っ張って見せ、ウインクする
「怪獣研究チームEINs。そこの副隊長よ。あたしと耀…隊長が発起人になってるってワケ」
「EINs……怪獣を保護するってヤツらだっけ?」
「まあそんな感じね。とは言っても、まだ4例くらいしか捕獲事例はないけどさ…」
秋の言葉に善吉は先程のグラルデによる街の被害を思い出す
ーギャオォォォォォォッ!!!
響く咆哮、崩れゆく街並み、巻き込まれていく人々
ニュースにたまに現れるのを注視したことはほとんどなかったが、実際に出会ってみるとその恐ろしさは痛感できた
「……秋姐…怪獣って……本当に保護してやる必要あるのかよ…」
秋はふむ、と口元に手を当て思案する顔つきに変わる
「……あの頃より、随分と怖い顔をするようになったね」
「………えっ」
パン、と秋が手を打つ
「そんなことより、少年が目を覚ますのを待ってたのはあたしだけじゃないんだぜ?」
と、誰かを呼び寄せるように手をこまねく
それに釣られ、パタパタと駆け足で小柄な人影が入ってきた
「鈴!!!」
驚く善吉の顔を見た鈴は泣きそうな顔をして善吉に駆け寄ってきた
「善ちゃん……!よかった……ッ!!!」
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
秋が善吉と出会う中、耀は対怪自衛隊の上官陣と話を進めていた
「あの怪獣を何故排除しなかった?市街地への侵入をした時点で、ファンクションレベルはレッドが相当だろう?」
軍服を纏う厳格そうな壮年の男ー右川司令が詰問する
机を挟んで座る耀ははぁ、とため息を吐きながら答える
「あの怪獣……識別名グラルデはこちらの方でもマークしていましたが、件の謎のエネルギーと共に観測され、市街地への侵入はまだ時間がかかる見込みでした。だが、それよりも早くあの怪獣は市街地に到達した」
耀はすっと目を細めながら、少し伸ばした顎鬚をなぞる
「……そこには、何か理由があるはずだと、私どもは判断しただけです」
右川の隣に座る男がそれを聞いてはっ、と鼻で笑う
「理由だと?怪獣に?ただ出てきて暴れるだけの害獣になんの理由があるというのか!?」
男ー瀬戸武官は机にドンと拳を下ろして耀を威圧する
耀はこめかみを少しひくつかせる
「害獣が出たなら処分する。当然の道理だ。相手が、街を壊してあまりある巨大生物ならなおのこと!」
瀬戸の言葉に耀は咳払いをし、薄く微笑みながら答える
「……世間一般に害獣と呼ばれる熊やイノシシも、出てくる理由がある場合もある。理由が動物側にあるにしても、柵を作るなりして命を奪うことなくその害を避ける対策もできる」
穏やかそうな垂れ目が鋭く細められた
「ー害獣、獣と同じというならば、怪獣のみそういった殺処分のハードルを下げてかかるのは、私としては容認しかねます。彼らも、また命であり、個体数の限られた貴重な種でもある」
肩を竦めながら耀は笑う
「何よりも、暴力とかに出なくていいなら、それに越したことはありませんでしょ?怪獣だろうが、人間だろうが、平和が一番ですから」
ヘラヘラと軽薄な耀の態度に瀬戸が肩を怒らせるが、右川がそれを制する
「……対応策があるならば、急ぐことだ。我々はいつまでも待てんぞ」
「承知しています。まずは知り、対処する。それが、我々のやり方です」
会議が終わり、瀬戸が退室した後に続いて退出しようと耀が立ち上がる
「……これが、お前のしたいことなのか?影浦」
すれ違いざまに右川が呼び止める
「……ああ、そうだよ。対怪自衛隊にいたままだったらできなかったことだ」
「ならば止めはしない。お前のロマンチシズムには慣れている。それに、お前と私の進む道に違いがないことも知っている」
右川が立ち上がり、背中越しに告げる
「……あの女に愛想を尽かすまで、好きにやってみるといい」
右川はそのまま会議室を去っていった
重いため息を一つ吐き出し、耀が頭を掻く
「右川のヤツ、まだ僕が絆されてると思ってるのか…」
「残念ながら、僕はロマンチストに加えて根っからの平和主義者なんだ。悪いね…右川」
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
「…………」
「…………」
再開した二人の間に重い沈黙が流れる
「……なぁ、足とか…大丈夫なのか?」
善吉が先に口を開き、丸椅子に座る鈴に訊ねる
「うん、大丈夫。骨折とかしてないし、痛めてもないよ。運良く硬い瓦礫は落ちてきてなかったみたい」
「そうか…ならよかった…」
善吉はほっ、と息を吐く
「………鈴、その…この前は、悪かった…」
「え…?」
鈴が首を傾げる
「いや、ほら……俺のこと、優しいって言ってくれたの、なんかこう…跳ね除けたみたいにしちまって…」
善吉の言葉を静かに聞いていた鈴がぎゅっと拳を握る
「……いいよ、大丈夫。気にしてないから」
「いや、気にしてなくてもさ…俺は、気にしちまうから…」
鈴がふふっ、と笑う
「……やっぱり、善ちゃんは優しいね」
「いや…そんなことは無い」
善吉は自身の手のひらを見下ろす
ーギュアァァゥゥゥゥ……
巨人と一身同体となって相対したあの怪獣ーグラルデが見せた怯えるような仕草。自分がまた、「力」を使ったことで傷つけてしまった
その様子を見ていた鈴が口を開く
「……あの光の巨人さ。善ちゃん、だよね」
「ーえ」
虚を突かれた一言に善吉が呆けた声を漏らす
「怪獣から、私とベルを助けてくれて、街のために戦ってくれた」
「あの時と……同じ……」
鈴が思い出しているのは、あの時。善吉が変身した巨人が怪獣を前に固まってしまった、いつか見た幼馴染の悲しげな背中に似ていたその姿
鈴自身がずっと、心に抱えた傷となっていたあの出来事
「………謝らなくちゃいけないのはさ、私なんだ」
「………」
「昔、クロが不良にいじめられてたのを助けてくれた時、善ちゃんが善ちゃんでなくなってしまったみたいで、とても怖かった」
鈴が胸を手で押さえてぎゅっと手を握る
「ーだからって、善ちゃんは善ちゃんなのに…私が怖がっちゃって、善ちゃんはずっとそれを思い続けてたんだって…」
「……謝ること、なんかじゃない…」
『ーこの、バケモノがァッ!!!!』
「……俺は、バケもー」
「ーバケモノなんかじゃないッ!!」
幼馴染の荒げた声に思わず善吉が怯む
「善ちゃんは…善ちゃんは、優しいよ。昔から、ずっと、ずっと!!あの時だって、クロたちを助けようとしてたんじゃないッ!!!」
ぽつ、ぽつと鈴の膝に涙が溢れる
「世界中のみんなが、善ちゃんを怖いとか、バケモノだとか言っても、私は……私はッ、善ちゃんの優しさを信じてるから……ッ」
鈴が袖口で目元を拭って立ち上がる
「……ごめん。ちょっと頭冷やしてくる…」
「……おう…」
鈴が出て行き、病室にまた静寂が訪れる
「……俺が、優しい…?そんなわけない。俺は…」
懐からあの輝石を取り出す
「………あの人の思いを、踏みにじって…何も助けられなかったんだぞ…」
『ーそれは違う』
優しく、澄んだ声が響く
善吉がハッと顔をあげ、声の主を探す
側の棚に立てられていたスタンドミラーに光り輝く人影が善吉と重なるように写っていた
「あんたは……」
善吉は思い出す
あの時、助けてくれた巨人が告げた名前を
「……ケレス」
鏡の中の人影が頷く
『ようやく、キミと再び言葉を交わすことができた』
「ずっと、見ていてくれたんだな。俺のこと…」
善吉は胸元を押さえると苦しそうに俯く
「………俺は、あんたからもらった力を、傷つけることに使っちまった。あの時も…今回も……」
善吉の独白をケレスは静かに聞いていた
「……俺は、あんたの力を使う資格は無い。俺は…結局優しくなんかなかったんだ…」
ケレスは静かに首を横に振る
『ーいや、キミのうちにあるものは、確かに優しさだ』
『それは、あの頃から変わってなんかいない』
ケレスの言葉に善吉がハッと顔を上げる
「……気休めはやめてくれ」
『気休めじゃ無い。結果として、傷つくものがいたことは事実で、それに対するキミの自戒を、私は否定しない』
『ーだが、キミのその行動は優しさの裏打ちであったこともまた、事実だ。それも、否定されるべきじゃない』
優しい声色の言葉を善吉は受け止める
しばしの沈黙が流れ、ケレスが鏡の中から姿を消す
それと同時に秋が病室に再び顔を覗かせた
「少年、色々話したいことあるけど、あの怪獣の対策しないとだからあたしは一旦帰るわ」
「あ、ああ…わかった…」
呆けていたところ我に帰り、善吉が頷く
「……そういやさ、少年。あの夢はどうなったん?」
秋の言葉に善吉は首を振る
「……俺にはもう、その資格はー」
「ー違うぞ少年。あたしが聞いてるのは、何がしたいかだ」
秋が善吉の顔を掴んで無理矢理視線を合わせながら告げる
「資格があるかないかとか、能力がどうとか、そんなのどうでもいい。少年ができるかどうかじゃない」
「ー少年はさ、今どうしたいんだい?」
顔から手を離して、細い指が善吉の胸を指差す
秋は懐から名刺を取り出すと善吉に無造作に渡す
「それ、あたしの今の連絡先。整理がついたらでいいからさ、また聞かせてよ昔みたいに」
「少年がどうしたいか、さ」
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
地底の空洞の中、逃げてきた怪獣グラルデはうずくまっていた
ーギャウゥゥゥゥ……
グラルデの体の中、這うように虹色の光が移動していく
ーグァウ…ギャウゥゥッ!?
光が這った箇所をグラルデが押さえて更に体を丸める
まるで、光が体を食い尽くさんとしているかのように苦悶の声を上げながら、グラルデがゆるりと顔を上げる
ー……ギシャアァァウゥゥ…ッ!!
一瞬、その顔が凶悪に歪み、瞳に怪しい赤の光が宿った
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
ビーッ!!!ビーッ!!!ビーッ!!!
EINs司令室にけたたましい警報が響く
善吉と別れてから翌日のこと、耀と秋が哨戒機の映像をメインモニターで確認する
ーギシャアァァウゥゥゥゥッ!!!
そこには怪獣グラルデが現れ、朝日町の街並みを蹂躙している姿が映っていた。前回とは異なり、今度は腕を振り下ろしたり尻尾を叩きつけたりなどして明確に「破壊活動」を行っていた
「なんで…!?急にどうしちゃったってのよ!?」
「昨日のデータからグラルデは攻撃的だが積極的に攻撃を行う怪獣ではないとわかったのはなんだったんだ…!?」
「わからない…わかんないわよ…」
秋が髪をかき上げて爪を噛む
「ともかく出動だ。どのみちこのままにはしておけん…」
唇の端を噛みながら耀が絞り出す
「……ファンクションレベル、レッドだ」
秋は耀のその悲痛な顔を見ながら、拳を握ることしかできなかった
テックライトニング4にコンバインした状態で急行してきた二人の目にグラルデの姿が映ると、向こうもそれを認識して頭を上げる
ーグァウゥゥゥゥッ!!!
グラルデがおもむろに口を開き、赤いエネルギー光弾を放つ
すんででバリアーにより直撃を避けたが、その威力にテックライトニングの機体が揺らいで機内に火花が散る
「な、そんな!?グラルデの分析結果にエネルギー光弾を吐く器官なんてなかったわよ!?」
「なら、今のはなんだ…!?」
驚愕する二人の前で更に怪獣に異変が生じた
急にぴたりと動きを止めたグラルデの体の中から一瞬、虹色の光が溢れ出し、再び頭殻と両腕、尻尾に沈着する
グラルデの体表がぐにゃりと歪み、頭殻、前腕には歪な赤い棘状器官がまるで剣山のように伸び、尻尾先端が棘棍棒のような形に変形する
ーギシャアァァウゥゥァァァァッ!!!
赤く獰猛に瞳を輝かせ、グラルデだったものが耳をつんざく不気味な声を上げて咆哮する
「体が…変質した!?」
「あの光…カオスヘッダー……」
様子を見ていた秋の頬に冷や汗が伝う
「まさか、あのカオスヘッダーは……取り憑ける体を探していた…!?」
「さながら…細胞に取り憑いて個体を増やす、ウイルスみたいに…」
ーギシャアァァウゥゥァァァァッ!!!
変質したグラルデーカオスグラルデが口から連続して光弾を放ち、街並みを一直線に吹き飛ばす
「な、バカな…なんで今になって!?」
「………」
秋の脳裏に昨日、グラルデがことあるごとに体を掻きむしるような様子を見せていたことがフラッシュバックする
「……昨日のあの時点で、カオスヘッダーはもうグラルデの体内に入っていたんだ…それで、グラルデを…『怪獣という生体』を分析して…今理解しきった…!!」
ギリ、と秋が奥歯を噛み締める
「怪獣たちは、体を変質して宿主にすることが可能だと…!」
更に凶暴さを増して暴れ出すカオスグラルデにシュバルツアドラー編隊の攻撃が突き刺さり、火花を散らす
「待ってくれ!まだあの怪獣は、有害と決まったわけじゃない!」
『寝ぼけたことを言うな!あの怪獣は破壊活動を率先して行っている。そちらもファンクションレベルはレッドを発令しているだろう!?』
「あの怪獣には、未知の光のウイルスが取り憑いている可能性がある!怪獣の凶暴性を刺激しているだけなら、どうにかー」
『そんな悠長なことができるか!!!あの怪獣は殲滅対象だ。速やかな殲滅を行う。こちらの邪魔をするような真似はやめてもらおう』
にべもなく通信が切られ、対怪自衛隊の容赦ない攻撃がカオスグラルデに降り注ぐ
ーギシャアァァウゥゥァァァァッ!!!
カオスグラルデは咆哮と共に棍棒様の尾を振り回し、シュバルツアドラーを一機叩き落とす
「クソッ!何もできないのか…!?」
耀が照準サイトを立ち上げる
照準越しに変容してしまった怪獣を見つめる
「…倒すしか、ないのかッ…!?」
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
病院の屋上から善吉と鈴は暴れる怪獣とそれと戦うテックライトニング4やシュバルツアドラー編隊を見ていた
「秋姐……!!!」
ーギシャアァァウゥゥッ!!!
変貌し咆哮を上げる怪獣カオスグラルデ
その姿は悍ましく、だが善吉には違った姿が見えていた
ーギュアァァウゥゥ…
あの時の怯えた姿
あれは、善吉がかつて捨てられた動物たちを拾った時によく見たことがある姿と同じだった
怖くて、寂しくて、どうしたらいいかわからない
だから、動物によっては噛みついたり、暴れたりする
善吉も、本心ではわかっていた
(怪獣たちも……同じなんじゃねぇのか……?)
何に対してからわからない。簡単に街を踏み潰せる巨大生物たち。そんな彼らが怖いものがあるなんて、考えがつかない
それは当然だ。自分たちは彼ら自身じゃない
いくら動物が好きでも、猫たちのことを全部わかってやれていたとは思えない
でも、だから倒してしまうだけでいいのか…?
善吉は握りしめていた輝石を見つめる
その心の揺らぎを映すように、弱々しい光が揺れていた
「……俺は、でも…ッ」
どうしようもなく震える手を、小さな手のひらが包んだ
「……鈴」
「……行って。善ちゃん」
凛然と告げた鈴が、カオスグラルデを見据える
「あの怪獣…怖いけど…でも、暴れるのもきっと理由があるんだと思う。善ちゃんは…あの時戦って、それに気づいてるんでしょ?」
「……でも、俺が力を使ったら…また…」
「私は……善ちゃんを信じるよ」
鈴は、善吉を見据えてそう告げる
「だって。私の幼馴染は、世界一優しいんだから」
いつものほんわかした柔らかい笑み
善吉は手の震えが少し収まった気がした
『ー行こう。善吉』
ケレスの声が響く
鈴にも聞こえているのか、不思議そうにあたりを見回す
「ケレス…」
『あの怪獣は、意思ある光によって体の自由を奪われている。すぐに助けてやらねば』
「……あんたには、できるのか?」
『ーああ』
ケレスは力強く頷く
『ー
『ーキミ自身の優しさを信じるんだ』
善吉はもう一度輝石を見据える
「……俺は、まだ、俺自身を信じられない…怖いんだ。また、傷つけるだけで誰も救えないのが…」
手の中に収まる輝石を、善吉が握りしめる
「ーだけど、もっと怖いのは…今救えるものを…鈴を、秋姐を、この街を…そしてあの怪獣を……救えないことだ…」
「ーいつまでも俺は…俺自身に負けたままじゃいられないんだ!!!」
善吉の決意に応えるように、手の中の輝石が輝きを増す
光の中から、青と赤の模様が刻まれた柄に蕾のようなものが取り付けられたアイテムーケレスプラックが現れる
善吉は一歩歩み出す
「ー鈴」
振り返って、微笑んで、胸を張って告げる
「ーいってきます」
鈴はその言葉に笑って応える
「ーいってらっしゃい!!!」
善吉はカオスグラルデのいる方に向き直り、天高くケレスプラックを掲げる
「ーケレェェェェェェスッ!!!」
ケレスプラックの先端部が開き、眩い光が善吉を包んだ
ーギシャアァァウゥゥッ!!!
暴れるカオスグラルデ
その目前に、進行を制止するかのように青い光が屹立した
「ーあれは…ッ!?」
光に目を細め、秋が見据える
そこに現れたのは、青い体に赤いラインが走る光の巨人だった
「この前の、巨人!?」
「色が…違う…?」
ーギシャアァァウゥゥッ!!!
ーハァ……ッ!
暴れるカオスグラルデに向き直り、巨人ーウルトラマンケレス・ルナモードは柔道のような静かな構えをとる
迫り来るカオスグラルデの攻撃をいなし、その勢いを利用して引き転ばせる。立ち上がり、再度突撃してくるところを受け止め、再び体捌きでそれを反対へといなす
ーフゥッ、ハッ!!!
よろめくカオスグラルデの腹に掌底を放ち、カオスグラルデを後退させる
ーギシャアァァウゥゥッ!!!
カオスグラルデは光弾を乱射するが、二発、三発と叩き落としたケレスは青白い光のシールドを張り、光弾を受け止める
ーハァァァァァッ……!!
次第に押し込まれるケレス
だが、息を切らしたのか、カオスグラルデの光弾が止まるのが先だった
ケレスは受け止めていたエネルギーを丸くまとめて撃ち返す
ーヘェアッ!!!
カオスグラルデはその直撃を受け、エネルギーをスパークさせてよろめいてうずくまる
ーハァァァァァ……ッ
ケレスは息を吐くようにその両手を下ろし、独特な組み手をして胸の前に両の掌を構え、カオスグラルデに向ける
そこに優しい光が集まっていく
ーフゥッ……!
押し出すように両の掌を突き出し、光のシャワーールナケレスエキストラクトを放つ
それを浴びたカオスグラルデはしばらくもがいていたが、ゆるりと力を抜く。その体から虹色の光の集合体ーカオスヘッダーが吹き出していく
カオスヘッダーが抜け落ちたグラルデは元の姿に戻っていた
大きく力を使った故か、ケレスは少しふらつき、胸のカラータイマーは赤く点滅していた
ークァァァ……
先程までと変わり、落ち着いた声を上げるグラルデにケレスは近寄る
その頭に手を伸ばしたケレス
一瞬驚いたような姿を見せたグラルデに手が止まる
ーグァウゥゥゥゥ…
グラルデは、まるで礼を述べるかのようにその手に頭部を擦り付ける
その姿を見たケレスは肩の力を抜き、その頭と顎を優しく撫でた
落ち着いた様子のグラルデから一歩退き、テックライトニング4を見据えたケレスは頷く
「そ、そうだな。レーザーケージスタンバイ!」
グラルデの頭上に移動したテックライトニング4の下部からレーザーでできた網状のケージが展開され、グラルデの体が包まれて運搬されていく
それを見届けたケレスは空へと飛翔していった
ーシュウワッ!!!
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
青い光の玉となって、病院の屋上に戻ってきた善吉を鈴が迎える
「おかえり、善ちゃん!」
「ただいま。鈴」
鈴に笑って応えた善吉は、ポケットに入れていた秋の名刺を取り出す
「……鈴、俺…やりたいことを思い出したんだ。だからー」
「怪獣の保護、でしょ?善ちゃんなら、言うと思ってた」
鈴が微笑む
「……私も、実は気になってたの。花屋の方はさ、お父さんに前からやりたいことを見つけたなら、それを優先しなさいって言ってくれてたから。家族会議にはなりそうだけど…」
「そっか……実は俺も、秋姐がいるとしてもちょっと心細かったから、それなら嬉しい」
善吉は秋の番号にスマホから電話をかける
コクピットで肩を回して脱力していた秋は通信に気付き、ニヤリと笑ってインカムを押さえる
「やぁ少年。ここにかけてきたってことは、そういうこと?」
「お見通しだよなぁやっぱり…」
善吉が苦笑する
「やりたいことは、思い出した?」
善吉が静かに頷く
「俺、生き物を助けたい。特に怪獣は…きっと苦しんでるヤツもいるのに、まだ手を伸ばす人が少ない……」
「俺なんかに何ができるかわからないけど、秋姐が今やってることを、手伝わせて欲しい!お願いします!」
善吉の真摯な言葉に、秋は満足そうに頷いた
「その言葉が聞きたかったんだよ、善吉」
通信を終えた秋は前の操縦席に座る耀の肩を叩く
「ごめん、耀。ちょっと附属病院寄って」
「あ?いいけど…何の用があるんだ?」
にひひ、と秋が笑って応える
「あたしの、最高の秘蔵っ子。EINsの新しいメンバーを迎えるのさ」
秋の言葉に耀は苦笑し、それでも満足げな表情を見せていた
EINsへと入隊した善吉と鈴
怪獣との関わりに慣れるために、秋は二人に新人研修を用意する
「ようこそ、怪獣保護区・虹弓諸島へ!」
「ちわーッす!新人くんちゃん!」
「キミらはここでボクたちの仕事をまずは手伝ってもらう」
『力仕事なら任せてくれ。それ以外にも色々頼ってくれよ?』
ーパムパム〜
怪獣保護区で暮らす怪獣たちの世話係
大変ながらも、彼らの個性に触れていく
中でも善吉は、荒くれ者の怪獣ザンダードの世話に苦戦していた
「待ってろよ…絶対お前に認めさせてやるからな!」
ーギャルルルゥゥ…!
めげずに取り組む善吉
そんな中、カオスヘッダーの魔の手が虹弓諸島にも伸びていた!
次回、ウルトラマンケレス
「分かりあうために」
「お前は絶対、俺たちが助ける!!!」