素敵な【覚醒素材】   作:覚醒素材を分けてくれ

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1話 【覚醒】とは

 

 

 

 

『覚醒とは──眠っていた力・潜在能力・本質が解き放たれる瞬間を指す。

 

 人間であれ、魔族であれ、竜や精霊であれ、「覚醒」とは通常の成長や訓練を超越した“境界の突破”のこと。魂、肉体、魔力、精神など、あらゆる要素が限界を破り、新たな存在段階へと至る現象のことをいう 』

 

 

 

 

 

 

 

 

 人間、誰しも【覚醒】したいと思ったことはあるだろう。

 僕はある。だから皆もある筈だ。どんな分野であろうと【覚醒】して、無双ウハウハやってみたいと思ったことが絶対にある筈だ。

 

 【覚醒】は良い。凄く良い。夢があるし浪漫もある。

 

 どんな物語であれ、劣勢を強いられていた、もしくは今までずっと辛い思いばかりして報われない生活を送ってきた者が【覚醒】する瞬間は、興奮を覚える。

 

 『お前……遂に殻を破ったんだな!』と感慨深い気持ちになるのだ。カタルシスと言うのだろうか、そいつが一気に噴出し、魂がギンギンになる。

 

 それに【覚醒】と聞けば主人公及び主人公陣営、もしくは敵キャラの重要ポジションの専売特許みたいなところがある。

 

 誰であろうと生物の成長し【覚醒】する瞬間というのは、人々の目を引き、魂を魅了する効果があるのだろう。だからこそ【覚醒】する者は何時だって物語の必須キャラに選ばれるのだ。

 

 そして、そんな素晴らしい物語の盛り上げ要素を担う【覚醒】だけれど、そこに至るまでの道中も当然重要になってくる。

 

 軽い条件でいきなり【覚醒】して無双なんてしても誰もカタルシスを感じないし、共感もできない。そんな物語は只の自己満自慰行為のなにものでもないのだ。

 

 人々が求めるのは【覚醒】と、それに伴う覚醒条件──【代償】だ。

 

 辛く苦しい道のりを丁寧に描き、その道を歩ききった後に辿り着く領域。それこそが人々の──いや、僕の求める【覚醒】だ。

 

 楽な道などには用はない。悲劇、絶望、喪失、友情、愛情、救世。【覚醒】とは、様々な要因が積み重なった険しい道路の果てになければならない。そうじゃなければ【覚醒】などとは呼べないのだ。カタルシスも感じられんし。

 

 そしてカタルシスのある【覚醒】には必ず“代償”が必要だ。

 

 それは命か、心か、もしくは「かつての自分」という存在そのものだ。【覚醒】とは、古い己を壊し、新しい己として生まれ変わること。つまり【覚醒】とは、死であり再誕でもあるのだ。

 

 故に【覚醒】は尊く、とてつもなく重い。

 

 努力や執念の果てに到達する者もいれば、絶望と狂気の淵でたまたま扉を開いてしまう者もいる。けれど共通して言えるのは──【覚醒】は、誰もが等しく望んで得られるものではないということ。

 

 才能でも、血筋でも、努力でも、時にそれだけでは足りない。必要なのは、魂を燃やし尽くすほどの「覚悟」だ。

 

 人は限界を超える時、何かを捨てなければならない。それが大切な想い出であったり、失いたくなかった誰かであったり、時には「人間としての理性」そのものであったりする。覚醒者の多くは“何かを喪った者”でもあるのだ。

 

 ──では、なぜ人は【覚醒】を望むのか。

 

 きっと、「自分の無力さを知っている」からだ。

 

 叶わぬ現実に抗いたい。

 守れなかった後悔を、次こそは覆したい。

 届かない夢に、手を伸ばしたい。

 

 そういった願いの延長線上に【覚醒】はある。絶対にある。人は本能的にそれを知っている。だからこそ、誰しも一度は思うんだ。

 ──『自分も覚醒したい』と。

 

 真の【覚醒】は、ただの“力の解放”ではない。“存在意義の再定義”だ。

 

 力を得る目的だけで【覚醒】するのではない。自分が何者であるかを知るために、人は【覚醒】する。大切なモノを護り、強大な敵を打ち倒すために人は限界を超えるんだ。そいつがカタルシスを生み、物語に厚みと旨味を齎す。

 

 ……ぶっちゃけ僕は力を得て無双ウキウキダンスがしたいから【覚醒】したいのだけどもね。

 

 

 あはは、ここまで熱く語っておいて何だが──【覚醒】ってのは、願ったところで簡単に起きるものじゃない。才能や努力なんてのは、せいぜい“扉の前に立つ資格”に過ぎない。本当に扉を開くためには、“鍵”が必要なんだ。

 

 その鍵こそが──【覚醒素材】だ。

 

 名前だけ聞くと何やら簡単に獲得可能みたいに思えるが、実際のところこれは根源的で、もっと危険な代物だ。

 

 【覚醒素材】とは──“魂の扉を開くための触媒”。即ち、自分の限界を壊すために、世界の理を捻じ曲げる力の断片だ。

 

 けど当然、そんなものが街角の露店で売ってるわけがない。普通の人間が触れれば、心が焼き切れて即死コースだ。

 そもそも【覚醒素材】は、存在そのものが“試練”みたいなもんで触れること、見ること、所有すること、その全てが“覚悟の証明”になる。

 

 例えば、竜の逆鱗。

 それは竜が最期に残す“怒りと誇りの結晶”であり、魂の燃え殻。それを手にする者は、竜と同じだけの代償を支払う覚悟をしなきゃならない。

 

 また、古代の精霊石。

 それは千年の記憶を封じた魂の欠片で、触れた瞬間に人の心を呑み込む。

 他にも、誰かの“遺志”、誰かの“犠牲”、あるいは“後悔そのもの”すらも【覚醒素材】になり得る。

 

 つまりだ。

 覚醒素材とは、力の源ではなく“魂の鏡”なんだ。何を捧げ、何を望むかによって、その姿はまるで違う。

 

 愛する者を救うために使えば聖なる光となり、復讐のために使えば呪詛の黒焔と化す。同じ素材でも、扱う者の心ひとつで結果が天と地ほども違ってくる。

 

 そして、そこにこそ浪漫がある。

 人の在り方がそのまま力の形になる──そんな瞬間、熱くならないわけがないでしょう?

 

 覚醒素材を得た時点で、そいつはもう“運命”が動き出している。

 覚醒を望んだ瞬間、後戻りはできない。「力を欲する者」としての生を選び取った以上、代償は必ず訪れる。それが肉体か、心か、未来か、あるいは誰かの命か。何を代わりに差し出すのかは、神すら干渉できない。

 

 ──だから、【覚醒】とは尊い。

 “選ばれた者”の物語ではなく、“選び取った者”の物語だからだ。

 

 ああ、なんてロマンチックな物語だろう。

 

 叶うことであれば、僕もそんな素敵な【覚醒】をしたいものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあ、人型かつ犠牲タイプの【覚醒素材】である僕には不可能なんだけどもね。

 

 

 ほんと、カタルシスもなにもあったもんじゃないね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 とある名もない小さな集落に。『勇者』に憧れるとても元気で、素敵な少女がいた。

 

 少女の名前はソーテリアと言い、朝日よりも明るく、風よりも駆け回るのが好きな子だった。

 裸足で駆ける草原、泥にまみれた顔、笑い声が響くたび、村人たちは思わず目を細めた。

 

「私、絶対に【勇者】になるんだ!」

 

 そう胸を張って言うたびに、誰かが笑いながら頭を撫でてくれる。誰もが微笑ましく思っていた。

 

 

 ソーテリアは心優しく、他人の笑顔が大好きな娘だ。

 困っている人がいれば共に悩み、空腹の者がいれば自分のパンを半分に割って渡す。

 そんな、この戦火の時代には相応しくない善意に溢れた『優しさ』を、彼女は当たり前に持っていた。

 

 その日向が当たるような温かい笑顔と優しさに心を救われた者は少なくない。

 

 ソーテリアは、大切なモノを護るために自分の命を懸けることができる。無意識下であろうと、真の【勇者】に相応しい精神性と「覚悟」を備えた子どもであった。

 

 

 

 ソーテリアに、困っている人を助けないという選択肢はない。人は助け合わなくちゃ生きていけない。沢山の人達に見守られ、助けられて育ってきたソーテリアには、その生命の第一前提がよく理解できていた。

 

 

 

 だから。  

 

 

 

「……う、うぅ」

「だ、大丈夫!?」

 

 

 

 森の奥。夕陽が差し込む木々の隙間で倒れている小さな子どもを助けることにソーテリアは何の躊躇も戸惑いもなかった。

 

 倒れていたのは、自分とそう年の変わらぬ、少年とも少女とも判別のつかない中性的な見た目の子どもだった。とても幻想的な子ども、村の人間ではない。血の気が引いたような白い顔、細く呼吸する胸。服はボロボロで、まるで長い間逃げ続けていたかのような姿だった。

 

 ソーテリアはすぐに駆け寄り、その身体を抱き起こす。

 子どもの身体は驚くほど冷たい。まるで命の温度が薄くなっているようだった。

 

「ねぇ、しっかりして……! 聞こえる? 誰か、誰かいませんかーっ!」

 

 呼びかけても森は静寂を返すばかりで、声はない。

 遠くで鳥が一羽、羽ばたく音がする。風が葉を揺らす。その温かい音の中で、子どもの唇がかすかに動いた。

 

「……けて」

「あ、ねぇ大丈夫!? しっかりして!」

「……つけて」

「え!? な、なに!?」

 

 何かを訴えようとするその表情に、ソーテリアは不安が募る。もしかすると森で良からぬことが起きているのかもしれない。もしそうだとすれば、私がこの子を守らないと!

 

 か細い声を喉から震わせる子どもの声に、覚悟を決めたソーテリアは必死に耳を澄ませた。

 

 

「近くに……痺れキノコがある。解ってたのに……とても美味しそうな見た目でつい手が……気、気を付けてッッ」

 

「…………へ?」

 

 ソーテリアは素っ頓狂な声を上げた。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 ソーテリアの家の中。

 

 小さな木造の家は、外の森のざわめきと対照的に、静かで暖かい空気に包まれていた。薪ストーブの炎がゆらりと揺れ、壁に柔らかい影を落とす。

 痺れきのこを美味しそうだからという困った理由で頬張ったらしい子どもは、まだ少し震える体を椅子に預けながらも、顔には屈託のない笑みを浮かべている。

 何が楽しいのかは解らないけれど、楽しそうに笑ってくれる子どもを見るのはソーテリアとしても嬉しかった。

 回復できたようで何よりだ。行動は本当に困ったものなので、後で完全に治ったら、しっかりと注意するが。

 

 子どもは、椅子にふわりと体を預けたまま、まだ少し震える手を小さく握りしめながらも、澄んだ笑顔をソーテリアに向けた。

 

「何から何までありがとう。キミのような親切な人に拾って貰えて凄い嬉しい!」

 

 子どもの言葉には、森での恐怖の色はまったく見えなかった。すべてが夢のようで、今この瞬間を心の底から楽しんでいるみたいな朗らかさだった。

 

 ソーテリアは、その笑顔を見て思わず引き締めた心の奥が温かくなるのを感じる。

 

「……ほんと、変な子ね。でも、多少は元気になってよかったわ!」

 

 まだ少し青ざめた顔に残る血の色や震えを見て、心配の念は残るものの、その無邪気な笑みにソーテリアは安心する。

 

「けどやっぱり怒ることは怒らないとダメだね。身体が治ったらキツーく叱りつけるわ。痺れキノコを頬張るなんて、危なすぎるんだから」

 

 ソーテリアは少し諭すように言いながらも、優しい手で毛布の端を直してあげる。

 弟や妹はいないが、居たらこんな気持ちなのかもしれない。

 

 子どもは、毛布にくるまりながら小さく頷いた。まだ体が震えているものの、目には好奇心と眩しい光が宿っている。

 

「苦しみは【覚醒】に必要なものでしょ? あはは、ワンチャン出来るかなって」

「? よく解らないけれど、危ないことをするものじゃないよ。偶々未来の『勇者』である私が見つけたから良かったけれど、運が悪かったら魔物に見つかることだって──」

「キミは『勇者』に成りたいの?」

 

 言葉を遮って、ジッと何かを確かめるように子どもがソーテリアの瞳を見つめた。小さな手が毛布の中で握られたまま微かに震えており、瞳はどこか誇らしげで希望に満ちた光が輝いている。

 

 この瞳だけは逸らしてはいけない……そんな予感にソーテリアは襲われた。

 

 

「……そうだよ。私は絶対に【勇者】になる!」

 

 ソーテリアの声には揺るぎない決意があった。笑顔の裏に、誰かを守るという「覚悟」が滲んでいる。

 困っている人、苦しんでいる人、悲しんでいる人。そうした『今』に希望を抱けない全ての人達の心に、希望の焔を灯す存在になる。

 

 例え、どれだけ険しい道を歩むことになろうとも。絶対に折れたりしない。

 

 子どもはその言葉を聞くと少し首を傾げ、小さく笑った。

 

「……へぇ。そっか、だからキミの所に飛ばされたのか……小さいのにスゲーじゃん」

「どういう意味?」

「いや、こっちの話。……ふふ、じゃあ僕たち、ちょっと似てるのかもね。僕もワンチャン覚醒して、強くなれたらって思ってるんだ」

 

 『浪漫は追い求めてなんぼだし』と、子どもは軽いテンションで言う。

 余りにもふんわりした物言いに、ソーテリアは僅かに眉をひそめる。

 

「ワンチャン覚醒って……危ないことはやめなさいってば。一時的に命を拾った以上、身体が治る暫くの間は何があっても私が面倒を見て守るけど……でも、無茶はしちゃダメ。私に関わったのなら、生きて幸福になる以外の選択肢なんて与えないよ?」

「あはは! 傲慢な【勇者】様だ。けれど、英雄なんて目指す人は大体傲慢だし、それで良いんだろうね」

 

 クスクスと、子どもは年齢に相応しくない笑みを溢した。『見知らぬ人間を救って、巣立つまでの面倒まで見ようとするなんて、お人好しにも程があるでしょ』と、肩を振るわせては、楽しげに頭を揺らしている。

 

「ふふ……改めてだけど、ありがとう僕のことを救ってくれて。お蔭でスライムが『キングスライム』に覚醒するような事態にならずに済んだ。本当にありがとう」

「え? ……ああ、うん。やっぱり貴方……あー、ごめんなさい、名前を聞いてもいい?」

 

 頓珍漢なことを言う子どもの笑顔に、この子はやっぱり頭が残念な『お馬鹿』だとソーテリアは考えた。

 不思議ちゃん気質もあるし、人間離れした可憐な容姿も相まって、妙な雰囲気がある。

 

 ちょっと……いやかなり変わった変な子。その印象が、覆すことの難しいモノとなり、ソーテリアを支配した。

 

「名前? うーん……そうだね、うん! テュシア。キミのことすっごーく気に入ったし、これが僕の名前だよ!!」

「まるで今決めたような反応だ……って、テュシア? 何処かで聞いた言葉な気がする……何処だったかな」

「未来の【勇者】様! キミの名前は一体なにかな?」

 

 ソーテリアはその問いに一瞬きょとんとする。けれどすぐに、いつものように胸を張り、眩しいほどの笑顔を浮かべて言った。

 

 よく聞け、世界を救う偉大な【勇者】の真名を!

 

 

「私の名前は──ソーテリア! 何処かの言語で“救済”って意味なんだって! 大好きだったお父さんがつけてくれたの。……だからね、絶対にこの名前に恥じない人に私はなるんだ!」

 

 その瞳は真っ直ぐで、迷いがなかった。

 天に住む太陽そのもののように、眩しく輝いている。テュシアは一瞬だけ言葉を失い、ぽかんとその顔を見つめる。

 

 それから、ふっと唇の端を上げて、

 

「そっか。とっても素敵な名前だ──」

「そうでしょ! 私の自慢なの!」

「く、食い気味だね」

 

 引き気味な声が響いた。

 

 

 

 

 

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