【番外編】幼馴染にフラれたので旅に出ることにした 作:イグアナ
え、タイトルでネタバレしてる? ソンナー
というわけで、いつもの↓
永住ルート条件:同年代シロナさんの居る時代に飛ばされ、存在を認知されること
「シロナさん、コーヒー淹れたので置いときますね」
「ありがとう」
自宅にて資料の精査をしていたところ、シバリくんがコーヒーを持ってきてくれたので、一息つくことにした。
「あ、お菓子もありますよ」
「……なんで私が好きなお菓子知ってるのよ」
「シロナさんの好きなお菓子くらい把握してるに決まってるじゃないですか」
「貴方ねぇ……」
このシバリという男の子とは、少し前に偶然出会った。
初対面のはずなのにこちらのことを知っている素振りだったので訳を聞くと、
『仮にその話が本当だとして……そういうの、本当だとしてもあんまり言わないほうが良いんじゃないかしら?』
『例えば、シロナさんが子供の時代に飛ばされたとかなら誤魔化してたと思いますけど、流石に今の俺と同年代くらいのシロナさんに見つかってしまったのなら、誤魔化すのも無理があるかなと思いまして』
『……それは、そうかもしれないけど』
彼から聞いた事情は荒唐無稽で、普通なら信じるに値しないような内容だった。
でも、彼の私を見る目に嘘はなくて、尊敬してくれているというのもひしひしと伝わってきて、それで私は何を思ったのか──。
『……なら、私の研究を手伝ってくれるなら衣食住くらいは提供してあげる』
なんて、自分でもおかしいと思う提案をしてしまったのだった。
「……なんで私、あんなことを……」
「どうかしました?」
「なんでもないわ」
彼から目を逸らして、お菓子を口に運んだ。
「……美味しい」
「良かったです! 今回は手作りしてみたんですよ!」
「手作りって、貴方ね……」
道理で私好みの味付けになっているはずだ。
私は彼のことをほとんど知らないのに、彼は私のことをたくさん知っている。
それが何故か、ちょっと悔しかった。
「……貴方、ほんとに私のこと好きよね」
「勿論! 大好きです!」
「はぁ……。聞いた私が悪かったわ」
今の大好きが"LOVE"の意味ではないことくらいわかる。一体未来の私は彼に何をしたんだろうか。
でも、自分の頑張りをこうやって認めてくれる人が居るというのは、少し嬉しかった。
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彼が来てからしばらく経ったある日、私は寝室のベッドに顔を埋めていた。
「……最悪だわ」
今日は論文の発表会だった。しかし、重鎮の方々に重箱の隅をつつくような指摘をいくつもされ、私の論文は認められなかった。
明らかに自分の時だけ指摘が多かったように思える。あの人達のニヤついた顔からは、悪意しか感じなかった。
私が女だから? それとも未成年だから? 年齢や性別で論文の内容にケチをつけるなんていつの時代なのだろうか。
どれだけ頑張っても、私の研究は評価されないんだろうか。
……そもそも、何のためにシンオウ神話を研究してたんだっけ?
「……なんか、わからなくなってきちゃったな」
もう、シンオウ神話の研究なんてやめてしまおうか。そんな風に思ったときだった。
「……すみません、入っても良いですか?」
彼の声だった。今は誰にも会いたくない気分だったけど、そういうわけにもいかない。
「……好きにしたら?」
こんな言い方しか出来ない自分が嫌になる。気分が沈んでいるからといって、彼に当たって良い理由にはならないのに。
「では、失礼します」
彼は部屋に入ってくると、ベッドの前まで近づいてきた。
……失望、されただろうか。論文の発表会には彼も同席していて、私の情けない姿をバッチリと見られてしまった。
帰り道だって、彼とは一言も喋らずに家まで歩いてきた。
私は彼の言うような立派な人間じゃない。なんなら、この一件で彼は私から離れていくかもしれない。
それも仕方ないと思っていた。だからこそ、私は彼から失望の言葉を投げかけられる覚悟をしていたのだが──。
「ご飯の用意ができましたよ。さ、行きましょう」
「……へ?」
「今日はシチューです。自信作ですよ」
彼の口から出たのは、いつもと同じ。普段通りの言葉だった。
「……なんで?」
「はい?」
「なんで何も言わないのよ。私、あんなに情けないところ見せちゃったのに……」
止めておけば良いのに、口から言葉がどんどん溢れ出す。
「私、自分がなんで研究してたのかわからなくなっちゃったの。どうしてあんなに熱意を注いでいたのか、どうしてあんなに惹かれていたのか」
「……ごめんなさい。私、貴方の期待するような立派な人間じゃないの。失望したのなら、出て行ってもらっても構わないわ。私は、もう──」
「──シロナさん」
シバリくんはしゃがみこんで、私と目線を合わせてくれた。
「シロナさんが初めてシンオウ神話を触れたとき、どう思いました?」
「初めて、触れたとき……?」
いつだっただろうか。確か、偶然手に取ったシンオウ神話の本を読んだときだ。
世の中にはこんなポケモンが居たんだと、こんな事があったんだと、心躍ったのを覚えている。
そして、
「きっと、楽しかったんじゃないですか?」
「……何よ、知った風に言って」
「知ってますから」
彼は得意気な表情でそう返して、言葉を続ける。
「未来のシロナさんも言ってました。自分の書いた論文が受け入れられなくて、苦しんだ時期もあったって」
「でも、自分が何故シンオウ神話の研究を始めたのかを振り返って、前に進むことを決めたそうです」
「だってシンオウ神話が好きだから。誰に何と言われようと、それだけは譲れないからって」
「……好き、だから……」
不思議と、その言葉は自分の心にすっと入ってきた。
でもそれは当然かもしれない。何故ならそれは、私の言葉なのだから。
「シロナさんはどうですか? シンオウ神話、お好きですか?」
「……ふふっ。そんなの、当然じゃない」
ゆっくりと、私は身体を起こした。
寝ている場合ではないと感じたから。あの重鎮達の鼻を明かすためにも、こんな風に沈んでいる暇はないと思ったから。
「私にやる気を出させたのよ。覚悟は出来てるのよね?」
「当たり前じゃないですか。是非こき使ってください!」
「……ほんと、貴方って私のこと大好きよね」
「はい!」
顔色も変えずに返事をする彼を見て、どこかムカつきを覚えながらも、私は寝室を後にした。
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「……ふふ」
あれからしばらく経ち、私は正式に認められた自分の論文を見て笑みを浮かべていた。
あの発表会は最高だった。内容を詰めに詰めた論文にはくだらないツッコミを入れる隙間はなく、かろうじて入った指摘にも、完璧に対応してみせた。
そしてようやく、私の論文がひとつ認められる形となった。
たったひとつ、されどひとつ。確実で、大きな一歩だった。
「シバリくんにも感謝しなきゃ……よね」
文句ひとつ言わずに手伝ってくれた彼にも、お礼を伝える必要があるだろう。
思えば、今までお礼らしいお礼をしていなかった。いくら本人が自分から進んで手伝ってくれたとは言っても、筋はちゃんと通すべきだろう。
だからこそ、私はシバリくんに自室として与えた部屋を訪ねてみたのだが……。
「すぅ……」
「……寝てる?」
珍しく彼は机で居眠りをしていた。なんなら、居眠りしているところは初めて見たかもしれない。
もしかしたら私の論文がひとつ認められたことで、少し気が緩んでいるのかもしれない。……なんて思うのは、自意識過剰だろうか。
でも、寝ているところを起こすのは申し訳ない。今まで彼は頑張ってくれたんだし、ここはひっそりと部屋を出て──。
「──あら?」
そう思ったところで、彼の顔の下にある紙に気がついた。どうやらこの紙に何かを書いている最中に寝てしまったらしい。
「『シロナさんへ』……? もしかしてこれ、私への手紙……?」
盗み見るのは申し訳ないと思ったが、目に入ってしまったものは仕方がない。
気になる気持ちを抑えきれず、彼が起きないようにゆっくりと紙を引き抜いて──。
「──は?」
そこに書かれていたのは、私への別れの手紙だった。
あれだけ好きだと言ってくれたのに、あれだけ献身してくれたのに、彼は元の時代に戻るつもりなのだと、そう言っているのだ。
「……ふふ。そう、そうなのね。貴方という人は、まったく……」
「……んぇ?」
どうやら私の声を聞いたからか、彼は目を覚ました。
丁度良い、確かめておきたいことがあるのだから。
「……ね、シバリくん。これは何かしら?」
「へ……? あっ!? それは……!」
何もなくなった机の上と、私の手にある手紙を交互に見て、彼は慌て始めた。
「ち、違うんですよ! 今すぐ出ていくとかそういうつもりじゃなくて、もし元の時代に帰れるようなことがあれば、一言残しておこうと思っただけで──!」
「ええ、ええ。わかってるわ。やっぱり、そうなのね」
「そ、そうなんです! だから、それは──!」
「ダメよ」
私は手紙を握り潰して、ゴミ箱へと捨てた。
「……えっ?」
「ねえシバリくん。貴方、私のこと好きなのよね?」
「へ? あ、はい。そう、ですけど……」
「そうよね? ならいいじゃない。このままでも」
椅子に座る彼を、私はぎゅっと抱きしめた。自分の気持ちを伝えるために。
「私も貴方のことが好きよ。同じ気持ちなのだから、離れる必要はないでしょう?」
「そ、そういうわけには……。それに、未来でまた会えますし──」
「会えないわ。絶対に」
「え」
そうか。彼はそれを理解していなかったのか。であれば、未来に帰ろうとするのも無理はない。
「それって、どういう──」
「未来の私と初めて出会ったとき、私から何か言われた? 例えば、"久しぶり"とか」
「いえ、何も……」
「そうよね。ということはつまり、シバリくんから見れば、ここは時間軸だけでなく、世界線も違うということよ。少なくとも貴方の言う未来の私は、過去に貴方とは出会っていないのだから」
「そん、な……」
要するに、彼を未来に返してしまったら最後、私は彼と会えなくなるということだ。
そうしたら彼は、ただ大人の私のところに戻るだけ。そして、私が彼と再会することは、二度とない。
「それだけはダメよ。貴方と二度と会えないなんて、そんなことは、そんな、ことは……」
「……シロナ、さん?」
「……お願い、ずっとここに居て。私と一緒に、いつまでも、一緒に──」
彼が居なくなることを想像しただけで、自然と彼を抱きしめる力が強くなる。
この温もりを失ったら、私は、私は──。
「……そうだわ。温もりを貰うだけじゃ不公平、よね?」
「温もり……?」
「ふふ。そうよ、そうだわ。なんでこんな簡単なことに気が付かなかったのかしら」
「……あの、一体、何を──」
「ふふ。今からそれを教えてあげる」
私は彼を立ち上がらせると、横にある彼が普段寝ているベッドへと押し倒した。
「ちょっ……!?」
「大丈夫よ。初めてだけど、シバリくんとならきっと──」
顔を真っ赤にする彼に、私はゆっくりと顔を近づける。
抵抗しないってことは、そういうこと……よね?
「私の温もり、貴方にだけ教えてあげる」
未来のことなんてどうでもよくなるくらい、思い出しもしなくなるくらい、私の存在を彼に刻み込めば良い。
絶対に、逃がしてあげないんだから。
・シバリ
この後どうなったかはご想像通りです。
・シロナ(同年代)
実は世界線も違った人。
未来に帰られたら二度と会えなくなるので、その前にモノにした。