【番外編】幼馴染にフラれたので旅に出ることにした 作:イグアナ
なんか最近Xでルリのファンアートが流れてくるようになってですね、今しかねぇなって思いました。
というわけで初の閑話です。大変おまたせいたしました。
それは、ライモンシティの遊園地に遊びに来ていたときのことだった。
「ん? これって……」
観覧車の近くを通りかかると、足元にライブキャスター*1が落ちているのを発見した。
誰かの落し物だろうか。踏まれるとかして壊れたら大変だし、拾って落し物センターにでも届けておくか。
「ねぇシバリ。なんかあの"やまおとこ"の人、こっちに向かってきてない?」
「へ?」
一緒に来ていたトウコに言われて振り向くと、確かにゆっくりこっちに近づいてきている気がする。
「いつも見せつけてくれるじゃないか……先に少年に目を付けていたのはボクだというのに……。そろそろボクとの関係も進展させてもらわないと、道理が立たないよねぇ?」
目が常人のそれではなかった。なんかブツブツ言っててホントにやばそう。
「ね、ねぇっ!? なんか早足になったわよ!? は、早くあっち行かない!?」
「そ、そうだな!!」
俺は拾ったライブキャスターを咄嗟にポケットに仕舞うと、そのまま観覧車から逃げるように立ち去った。
そんなことがあったからか、頭の中からすっかりライブキャスターのことが抜け落ちており──。
「…………やば」
遊園地から出てトウコと別れた後、ポケットの中のライブキャスターの存在をようやく思い出した。
ど、どうしよう!? 落とした人も多分困ってるよなぁ!?
ここから近くの交番に届けるか!? い、いや、でも落とした人からすれば遊園地の落としセンターに届けてあったほうが見つけやすいかもしれないし──!
なんて慌てていたそのとき、拾ったライブキャスターが突然鳴り始めた。つまり、誰かがこのライブキャスターの持ち主に連絡をしようとしてるってことだ。
……待てよ? てことは、このライブキャスターの持ち主の知り合いとコンタクトが取れるチャンスってことなのでは?
この連絡に出ることで、『遊園地で落ちていたのを拾って、持ち主に返したいと思ってるんですが……』とか伝えれば、もしかすると本人に返せる道が見つかるかも……!
一気に解決への道が見えてきた俺は、一先ずこの連絡に出てみることにした。
『あっ、繋がった……。……あの、もしもし……』
「もしもし。突然ですみません、実は俺、このライブキャスターの持ち主ではなくって……」
『あ、はい。わかってるので大丈夫です。私、そのライブキャスターの持ち主なんです』
「……へ?」
『今は古いライブキャスターから連絡しているんです。音声だけでごめんなさい。*2それと、拾っていただいてありがとうございます』
「そ、そういうことですか……。いえいえ、偶然見つけただけですし……」
どうやら連絡してきたのはこのライブキャスターの持ち主らしい。
良かった。一時はどうなることかと思ったけど、これならすぐに返すことが出来るだろう。
『実は、すぐにでも受け取りに行きたいんですけど、私仕事をしていまして、今受け取りに行くことが出来ない状態なんです』
「なるほど……じゃあどうしますか? もしあれならこちらから届けに──」
『その、よろしければ……しばらくの間、そのライブキャスターを預かってもらえないでしょうか』
「……え?」
預かる? いや、別にそれは構わないけど……。
……まあ、流石に届けてもらうまでしたら申し訳ないとか、そういう気持ちがあるのかもしれない。となれば、一旦向こうの要望通り預かることにしておこう。
「わかりました。受け取れるようになるまではこちらで預かっておきます」
『い、いいんですか……? ありがとうございます。わたしはル…… いえ、ルリっていいます』
「俺はシバリです」
『シバリさんですね。仕事が落ち着いたら受け取りに行きますので、しばらくの間よろしくお願いします』
「了解です」
『あと、受け渡しが終わるまでこちらの状況がわからないと心配ですよね。なので、こまめにシバリさんのライブキャスターへ連絡させていただきますね』
「わかりました」
それからというもの、時々ルリさんからの連絡が来るようになった。
『へぇ、シバリさんって男の子だったんですか? 顔が見えないと不便ですね……』
「それくらいは声で伝わってると思ってました……」
『ちなみに私は女の子ですよ。ふふっ』
「むしろその声で男性だったらびっくりですよ」
『シバリさんってひこうタイプが好きなんですか?』
「あとノーマルが好きです」
『えっ!? 私も好きですよ! ノーマル! なんというか、そのコの頑張り次第ではどんなポケモンにでもなれるっていうか、そんな魅力を感じませんか?』
「わかります! すてみタックルとか最高ですよね!!」
『う〜ん……それはちょっとわからないかもです……』
「──というわけで、ムクホークのブレイブバードさえあれば全て解決するというわけです」
『シバリさんのムクホークが特別なんじゃないかなぁって思いますけど……。……ふふっ、ムクホークのこと、大好きなんですね』
「本人には言いませんけどね」
「ホァ?」
「盗み聞きやめろ」
『あははっ……!』
ルリさんともそれなりに話すようになったある日、いよいよライブキャスターを受け取り行けるとのことで、俺達は実際に会うことになった。
待ち合わせ場所は、ライモンシティの遊園地にある観覧車の前。……普段はあの"やまおとこ"さんが陣取っている場所だ。
恐る恐る離れたところから観覧車を見てみると、どうやら今日は"やまおとこ"さんは居ないようだ。
代わりに、ということではないが、白い帽子にピンクの髪の同年代くらいの女の子が観覧車の前に立っていた。
……聞いてた外見と一致するし、多分あれがルリさんかな。
「こんにちは」
「ひゃっ!? わっ、私違いますからっ! け、決して、
「お、落ち着いてください! 俺はシバリです、シバリ!」
「……へ? シバリさん……?」
名前を名乗ると、ルリさんはすぐに落ち着きを取り戻して、安堵の息を吐いた。
「よ、よかったぁ……。すみません、勘違いしてしまって……」
「い、いえ、俺の方こそ……」
「いやでも私が──」
「いえ、俺が──」
なんて謝り合っているうちに、どこかおかしくなってしまって、二人して小さく笑ってしまった。
「それじゃあ改めまして……ルリです。はじめまして、シバリさん」
「はじめまして。シバリです」
「ふふっ、まさか同年代くらいの男の子だったなんて……。もし良ければ、もう敬語とかも外して、普通に話しませんか?」
「……そうだな。たくさん話してるし、今更敬語使うような仲でもないしな」
「うんっ! ありがとうシバリくん!」
そう言って嬉しそうに笑みを浮かべたルリに、俺は忘れないうちにルリのライブキャスターを差し出した。
「じゃあ、はい。これ」
「ありがとう。遅くなっちゃってごめんなさい。なかなか時間が取れなくって……」
「気にしなくていいよ。いつも忙しそうだったのはわかってたし、話してて楽しかったからさ」
「えへへ、私もシバリくんとのおしゃべりは楽しかったから、遅くなってラッキーだったかな」
少し寂しそうにそう言ったルリに、俺は首を傾げて尋ねた。
「……? 別に、これで終わりってわけでもないだろ?」
「えっ……?」
少し驚いたような表情で、ルリは俺の方を見た。
「い、いいの……? これからも話し相手になってくれるの……?」
「話し相手、というか……もう友達だろ? 俺達」
「─────っ! うん! これからもよろしくねっ!」
嬉しそうに手を掴んでブンブン振ってきたルリを見て、俺もなんだか少し嬉しい気持ちになった。
そのあとすぐに彼女のライブキャスターが鳴り始め、その場はお開きになってしまったが、今度はゆっくり出来るときに会おうと約束したのだった。
あれからも、ちょくちょくとルリとは連絡を取り合っていて、前と変わらず、色々な話をする関係が続いていた。
『えへへ……これからは顔を見て通話出来るんだね。シバリくんとは音声通話ばっかりしてたから、なんだか新鮮かも』
「確かに……。でも別に無理してカメラ通話する必要はないし、音声だけの方が気楽ならそれでも大丈夫だぞ?」
『ううん。折角ならシバリくんのお顔を見てお話したいな』
「そっか。じゃあそうするか」
『最近ヒウンシティで有名なヒウンアイスを食べてみたいんだけど、いつも行列が出来てて全然買えないんだぁ……』
「わかる。いつも完売してるよな」
『完売……? それは流石に見たことないけど……』
「えっ」
『えっ?』
「……俺、よっぽどタイミング悪いってことか?」
『そう、なのかも……? そうだ! なら今度二人で行ったらどうなるか試してみる?』
「わかったいつにする? 行列ならいつまででも待てるぞ」
『ふふっ、シバリくんはヒウンアイスに目がないんだね』
「元気なさそうだけど、何かあったのか?」
『えっ? な、なんでもないよ……?』
「いや、流石にわかるって……」
『そんな……マネ──先輩にも気づかれなかったのに……』
「……先輩?」
『うん、お仕事の先輩が居てね、いっつも私のために頑張ってくれてて、仕事を持ってきてくれたりするんだ』
「……良い人なんだな」
『そうなの。……でも、今はとにかく数をこなす時期だっていうのもあってたくさん仕事を持ってきてくれてるんだけど、いくつか請け負いたくないものもあって……』
「……それ、先輩には?」
『言ってない。というか、言えない……かな。私のためにやってくれてるのに、贅沢なことは言えないから』
「贅沢なんかじゃないよ。その先輩だってルリを潰したいわけじゃないだろうし、嫌なものは素直に嫌だって伝えるべきだと思う」
『で、でも……』
「大丈夫。先輩はルリのことを考えてくれるような人なんだろ? なら、きっと大丈夫だ。正直に伝えて、二人で話し合った方がお互いのためになると思うぞ」
『そっか……。……うん、わかった! このあとマ──先輩と話してみる!』
『あ、シバリくん。またちょっと相談しても良いかな? 実はちょっと、仕事で失敗しちゃって……』
「俺で良ければ何でも言ってくれ」
『ありがとう。実は──────』
「……えっと。それ別にルリは悪くなくないか……?」
『……へ? そ、そうなの、かな……?』
「前に話してた先輩に今の話ってしたか?」
『ううん。シバリくんにだけだよ』
「なら先輩にも話しておいたほうが良いかも。そのまま放置しておくのは良くないと思うんだ」
『わかった。マネ……先輩に話してみるね』
『おはよう。朝からシバリくんの顔が見れて嬉しい……かな』
「珍しく朝早いけど……なんかあったのか?」
『ちょっとお仕事で電波の届かないところに行くことになっちゃって……。しばらく連絡出来なそうだから、その前にシバリくん納めしておこうかなって』
「俺納めって何?」
『えへへ……シバリくんパワー、しっかり充電させてもらうね?』
「俺パワーって何!?」
そうしてルリとやりとりを続けていたある日、今度は仕事も休みでゆっくり出来る時間を確保できたとのことで、再び遊園地の観覧車の前で待ち合わせをした。
念のため確認するが、あの"やまおとこ"さんの姿はどこにもない。どうやら最近はヒウンアイスの行列にそれらしい人が並んでいるところを割と良く見かけるとルリが言っていた。
……まさか俺がヒウンアイスを買うために定期的に様子を見に行ってることがバレてるとか……ないよな?
……いや、今気にしても仕方ないか。
少し怖がりながら観覧車の前で待機していると、見覚えのある白い帽子を被った女の子がこちらに向かってきているが見えた。
その子に向かって手を振ると、向こうもぱぁっと表情を明るくして、小走りでこちらに向かってきた。
「おまたせシバリくん。えへへ……来てくれて嬉しいなぁ」
「友達なんだから当たり前だろ? ……じゃ、乗るか?」
「うん!」
少し緊張したような、しかし嬉しそうな様子で、ルリは観覧車へと乗り込んだ。そんな彼女に続けて、俺も観覧車の中に入る。
「ほ、ほら、シバリくん。お隣どうぞ?」
「じゃ、お言葉に甘えて……」
促されるまま隣に座ると、ルリはこちらに寄りかかってきた。
……なんというか、皆こういうもんなのかな? トウコやメイもこうやって寄りかかってくるし……。女の子ってわかんないな。
「えへ……こうしてると、ちょっと緊張するね……?」
「あー、なんかわかるかも。最初は俺もちょっと緊張したし」
「えっ」
「えっ?」
見ると、ルリがカタカタと身体を震わせていた。
「さ、最初って何……? ま、まさかシバリくん、女の子と観覧車乗ったことあるの……?」
「え? ま、まぁ……割と?」
「カヒュッ」
「ルリ!?」
「あ、あぅ……な、慣れてるってことは、つまり、その人も私みたいにこうやって……あぅぅ……」
何やら急に慌て出したルリは、しばらく頭を抱えたのち、混乱したような目をしながら俺の方に詰め寄ってきた。
「ね、ねぇ、シバリくん。あ、アイドルって、どう思う……?」
「へ……?」
「だ、だからっ……そのっ……、アイドルの女の子って、どうかな?」
「どうって、特に思うことはないけど……」
「〜~〜~ッ! た、例えばっ! 例えばだけどっ!」
「お、おう……」
「アイドルを好きになっちゃった……とかっ!
「……えっと、何の話?」
「じ、実はオススメのアイドルが居て──」
そう言って、ルリは1枚のチケットを渡してきた。
「
「えっ? でもこれ、ルリが貰ったものだろ? 俺が使うのは──」
「だ、大丈夫大丈夫! ただのVIP……じゃない、チケットの1枚だからっ! そ、そんなに特別なモノじゃないよ……?」
「今VIPとか言いかけてなかった?」
「え、えへへ、言ったかなぁ……?」
とてもわかりやすく目を逸らしてチケットを差し出してくる。
もしかしてアレなのかな。ルリはこのルッコってアイドルがめちゃくちゃ好きで、俺にも布教したいってことなのかな。
なんで今オススメしてきたのかは謎だが、こういうのは行ったことないし、経験してみるのも良いかもしれないな。
「……わかった、行ってみるよ」
「ほ、本当……?」
「こういう行ったことないし、チケットを使わないのも勿体ないだろうしさ」
「そ、そっかぁ……! な、なら絶対観に行ってね! それと、そのチケットには
「お、おう……」
めちゃくちゃ激推ししてくる……。ルリはホントに好きなんだな、このアイドル。
無くさないようにカバンにチケットを仕舞うと、ルリが再び俺の方に寄りかかってきた。
「……ね、シバリくん。その、普段一緒に乗る人は、寄りかかってくるだけなの?」
「え、まぁ、そうだけど……」
「……そうなんだ。なら──」
そう言うと、ルリは俺の腕に抱き着いてきた。
「ちょっ……!? 急に何を……!?」
「え、えへっ……わ、私だけ緊張してるのは、不公平……だよね?」
「だ、だからって……」
「……ドキドキ、する?」
普段のふわふわとした雰囲気ではなく、どこかいたずらっぽい表情でそう聞いてくるルリに、俺は顔を逸らした。
「た、多少は……」
「ふふっ、そっか……」
どこか嬉しさが滲んだような声でそう呟くと、ルリはそっと俺の耳元に顔を寄せて、まるで内緒話をするかのように自分の口元に手を添え、囁いた。
「────私も、だよ?」
・シバリ
今まで清楚系の女性との関わりが無かったので、耐性がまだ出来ていない状態で観覧車という密閉空間で急に密着され、流石に少し効いた。
・ルリ(ルッコ)
売り出し中のアイドルだが、自分がアイドルであることを隠している。アイドル名はルッコ。
ちなみに迎えたライブの日には、シバリの存在に気がついてウィンクや目線を送ってたくさんアピールしたり、握手会でシバリにだけちょっと長めでねっとりした握手をしたりしたのだが、本人には気づかれていない(これも書こうと思ったけど長すぎたのでカット)。
ちなみに原作でも落とし物のライブキャスターを拾ってからイベントが進行し、連絡を取り合っていく内に仲が深まっていく。
話を書くにしてもこの流れを追うだけになりそうだったので、本編ではカットになった。実際に本編でもあったやりとりをいくつか今回の話には入れてたりする。
・やまおとこ
皆のトラウマ。
知らない人は"ナツミショック"で検索。