ガギン!!!
鳴る爆音。奏でたのは、片腕を失っても尚最強と呼べる二人の傑物。
「オルステッドぉ……」
ゆっくりと、ねっとり放つ言葉。
燃やすのは『執念』ただ一つ。
「そろそろ終わらせようぜ……」
血が滴り落ちる。
しかし、その赤は、人族にとっての絶望を意味しない。
「俺が、お前を、最強を殺してやる」
「ルーデウス・グレイラット……」
物語は佳境へ。
人知を超えた殺し合いの始まり、憎しみと執念が終わる時、最強は決まる。
────────────────────────
切断した左腕を凍らせた。
止血するために行ったこの行為に、オルステッドは痛みは感じないか……と言ってきた。
俺は、この言葉に、こう返す。
「何も、感じねぇよ」
これは、強がりでもなんでもなかった。
もう、俺は、何も感じなかった。
痛みも、苦痛も。そして、喜びさえも。
感情が死んでる。俺は、ぶっ壊れちまってる。そんなことは、とっくの昔に知っていた。
だから、これから喜ぶんだ。
シルフィの優しさを思い出して、ロキシーの魔術を極めて、家族の暖かみを感じて、友が作ってくれた鎧を着て、エリスと過ごした日々を思い出して、ヒトガミの恩返しをする。
ヒトガミの、親友の期待に応える。
最強を、殺す。
俺が壊れてる?上等。
それで仇を、最強を殺せるなら、俺は何度だってぶっ壊れてやる。
失った感情。
取り戻すのは……俺だ。
決意を固めて。
俺は痛覚を捨てて、光る銀線へと飛び込んだ。
────────────────────
ガン!
一度の爆音。
俺とオルステッドが剣を交える。
「やはり、力では俺に分がある」
「……チっ」
一度交わった魔剣。
たった一度の斬り合い。しかし、その一回で俺は思い知る。
この、何度目かも分からない力の差を。
(同時に打ち合えば、俺が確実に打ち負ける。俺の水神流の脱力も簡単に貫通してくる)
本当に、イカれてやがる。
俺も神級の水神流なのに、そのはずなのに、まるで歯が立たねえ。
スピードも、俺がボロボロに負けてる。
ガン!ガン!!!
「くっ!」
「……」
俺の鎧を切り裂く、最強の剣。
恐らく、あと数回打ち合えば、俺は死ぬだろう。
きっと、何も出来ずに俺は終わる。
でも、でもなぁ、これで終わるほど、俺の執念は甘くねえぞ。
俺は奴を補足する。
最強の剣を受けながら、最強を補足する。
完了した補足。放つのは、あの技一択。
「ストーンキャノン」
刹那、剣を振るう俺の後方に無数の岩が浮かぶ。
鋭く、最硬度を誇る岩。
俺は、ここに来て可能にする。
ガトリング砲を使わない、神級の斬り合いをしながら行う、まるで呼吸のように行う、神級の人体破壊。
「やはり、この程度では終わらないか」
オルステッドの言葉。刹那、鳴る爆音。
「オルステッドォォォォぉぉぉぉぉ!」
ズガガガガガ!
剣と魔術。
神級の打ち合いをしながらの魔術。
左手無しの補足。
王竜剣カジャクトを握り、成長した俺だけが出来る、自信を持って言える俺の神業。
「自身へ掛け続ける重力魔術、左腕を覆う氷、そしてストーンキャノン。これほどの魔術を使っても、魔力の底が見えないとはな」
オルステッドの言葉。
しかし、この言葉を放った奴は、目を見開かない。
ただ、淡々と、冷たく、俺を睨みつける。
ガギン!
俺のストーンキャノンの雨を弾き、攻め始めた俺の剣さえも、弾く。
俺の全てを迎え打つオルステッド。
俺の全てを無力化する最強。
そう、俺は、最強の前では無力。
それは間違いない。
でも、でもなぁ、無力は、無意味じゃねえぞ?
バン!
オルステッドの後方に飛んでいた、奴の左腕が消し飛ぶ。
「ふふっ、はははっ。これで、お前は片腕確定だ!」
「……なるほどな。これが貴様の狙いか」
俺が先ほど試みた上級治癒魔術の腕の結合。
それを、今度は俺が封じる。
奴の後方に飛んだ左腕を破壊するという荒業で、奴の左腕を封じる。
さぁ、オルステッド。この無数のストーンキャノンの雨を受けて、欠損を治せる高度な王級治癒魔術を使えるなら、使ってみろ。
使えるもんなら、使ってみろ。
そして、使えねぇなら、やっと見えてくるぜ。
『最強の死』
これが、見えてくるぜ。
さぁ、最強!死ぬぞ、死ぬぞ!!!
「オルステッド。左腕からドクドクと血が滴ってんな」
良い誤算だ。
俺の雨のように降り注ぐストーンキャノンは、最強に上級治癒魔術すらも使う隙を許さない。
ここに来て、最強を追い詰めるのは小細工無しの俺の技。
止血出来ねえなら、俺と同じ。
弱くて、クズで、壊れている俺と同じ。
はは、雑魚じゃねぇか。
お前を殺すのは、俺じゃねえ。
お前の腕を斬った、シルフィの風魔術だ。
「死ね、死ねよ。死ねよ!オルステッド!!!」
笑い、叫ぶ。
掴もうとする喜びという感情。
しかし、その笑みは、喜びは、一瞬で終わる。
俺の喜びが、俺の手のひらから滴り落ちる。
「俺に、出血死は無い」
「……やっぱり、バケモンじゃねぇか」
俺の言葉。刹那、オルステッドの出血が止まる。
オルステッドの左腕が、縮む。
奴は、最強は、筋肉に力を込めて、出血を止めやがったんだ。
治癒魔術でしか出血を止められない。
この前提を覆す、最強による一手。
ガギン!
最強が、ストーンキャノンを弾く。
(奴の動きが鈍い。そうか、いくら貴様でも、あれほどのストーンキャノンと氷の維持は併用出来なかったか)
いつのまにか無くなった、俺の左腕を止血していた氷。
ポタポタと、俺の左腕から血が滴り落ちる。
大量出血、貧血、冷えた身体、フラフラとする俺の視界。
「あれだけ魔術を使いながら、先に無くなるのが血液か」
最強は、恐ろしいとは言わない。
しかし、異質だ、異常だったと認めてくる。
「失血死。このまま続ければ、それで終わる」
オルステッドの言葉。
きっと、時間稼ぎをすれば、俺のしようとした時間稼ぎを利用すれば勝てる。そう思ってんだろうなぁ。
最強の思想。すごく、すごく合理的な思想。
でも、もしも、俺が思わせたのだとしたら?
だとしたら、差し込める。この、俺の細い勝ち筋を。
『俺は、右手に風魔術を込める』
刹那、オルステッドが目を見開く。
流石は最強。俺の狙いに気付いたな。
時間稼ぎによる出血死。
それと対になる、最速の短期決戦。
『無くなった奴の左腕に回り込み、対応できない左側から一撃で破壊する』
バン!
音が鳴った。
俺は剣を振るのを辞めて、風魔術で加速し、最強の左側へ移動する。
時間稼ぎしようと考えて、水神流の構えをするお前じゃあ、移動するだけの俺は捉えられねえだろ。
「甘いな。貴様の方に向き直れば……「甘いのは、お前だよ」
左側に回り込む俺。
しかし、来たのは俺だけ。
あれは、あの魔術は、置いてきた。
奴の正面に浮かぶ、無数の岩。
(貴様の重力魔術は、一つしか……いや、重力魔術は関係ない。生成場所を俺の正面にしたのか)
置いてきたのは『ストーンキャノン』
無数の岩が、無数の圧が、オルステッドの正面に圧を掛ける。
神級の圧。それに隠れて左側に回り込んだ俺は、さらにストーンキャノンを生成する。
一つを、最速で。
あー、ボヤけちまってる。
貧血で、お前の顔が。
これじゃあ、見えねえじゃねぇかよ。
お前の、死ぬところが。
俺は、生成したストーンキャノンを放つ。
同時に、踏み込む。
小さな踏み込み。しかし、俺は全てを込める。
これまでの全てを、剣神流に込める。
究極の攻め。
狙うは、ただ一つ。
奴の頭、ただ一つ。
無数のストーンキャノン。
俺の剣。
生成した一つのストーンキャノン。
この、俺の全てを賭けた三つ。
さぁ、終わりにしよう。
俺の全てを、終わりにしよう。
刹那、奴の左腕が光る。
(ここに来て、治癒魔術?)
腕の光。
俺は、それを見て考える。
上級治癒魔術……奴の無詠唱が、俺の瞳を光らせる。
ここに来て、奴が魔術を放つ。
魔術、治癒魔術……何のために?
いや、そうか、なるほどな。
俺に傷付けられた時、一瞬で治して切り返すためか。
先に治癒魔術を使い、傷を負った時に一瞬で発動する。
最強にしか出来ない、無詠唱だから出来る芸当。
合理的。最強と呼ぶに相応しい。
でも、関係ねぇ。
俺の狙いは、元からただ一つ。
『一撃での頭部破壊』
次なんてねぇんだよ。
治癒魔術なんて、使わせねぇ。
「オルステッド、終わらせてやる」
俺の言葉。
近付くのは、俺の刃と魔術。
見えてくるのは、奴の、最強の死。
「俺が、終わらせてやる……この地獄を!俺が!!!」
明確な殺意を向ける。
俺の、確実な殺し。
誰にも受けられない、そんな殺し。
しかし、刹那、聞こえてきたのはあり得ない言葉。
「水神流奥義……」
オルステッドの、言葉。
「流」
バン!!!
「……は?」
爆音と同時。
刹那、俺の右肩に深い傷がつく。
「……流石に、硬いな」
「水神、流?」
肩を斬られた俺。
ぶらんと、皮一枚の右腕が揺れる。
そして、まるで噴水のように、俺の右肩が勢い良く流血する。
「意表は、突いたはずだ。ただの意表じゃない。俺の全てだ。三方向、全て神級の攻撃だ。それなのに、それなのに……「貴様の攻撃を、俺は三回見た」
……は?
オルステッドの言葉。
俺は、理解することが出来なかった。
「意味、わかんねぇよ」
「……」
オルステッドは意表に弱い。
そう、その筈だ。
あれだけ苦戦していたストーンキャノン。
最強の意表を突き続けた、俺の小細工無しの主軸。
それを、奴は、今、カウンターしてきた。
弾くんじゃない。完璧に、反撃してみせた。
は?意味わかんねぇよ。
なんで、無数の神級を、三回見ただけで対応してくるんだよ。
「おかしい、おかしいだろ……」
俺の言葉。
それと同時、ここに来て理解する地力の差。
俺と、オルステッド……俺と、最強との力の差。
友と、大切な人と強くなって、それでも遠く及ばない地力の差。
俺は、皮一枚で繋がる右腕を揺らして考える。
ブランと、自らの死に際を確信して、理解する。
(俺は、死ぬのか?)
「もう、何もさせん」
オルステッドが、俺に向かって剣を振りかぶる。
近距離。その距離を、さらに潰さんと半歩踏み込む。
音が遅れて聞こえてくる。それほどの踏み込み。
俺の視界が揺れる。ボヤけて、揺れる。
奴の速さで揺れているのか、はたまた貧血で揺れているのか。
それは、俺にも分からない。
何も、何も分からない。
何も出来ない、俺。
時々考える。
俺は、何のためにこの世界に産まれたのか、転生したのか。
ふとした時、何の前触れもなく考える。
エリスと幸せになるためだろうか?
家族と幸せになるためだろうか?
人生をやり直すためだろうか?
……きっと、全部正しい。
全部、全部。そう、そのどれもが間違いなんかじゃなくて、正しくて、俺のすべきことで、俺の生きる理由なんだ。
もう叶わないものも含めて、俺が立ち続ける理由なんだ。
「……なら、俺は、まだ、倒れることは出来ねぇ」
俺は、まだ幸せになってない。
分かってる。家族が、お嫁さんが、俺の大切な人を失ったこの世界じゃ、俺は幸せになんかなれない。
分かってる、そんなこと分かってる。でも、それでも、俺は生きなければならない。
苦しくても、血反吐を吐いても、俺は、自身が転生した理由とは『何か』を探して、動き続けなければならない。
そして、俺は、その『何か』をまだ見つけていない。
そうだ、俺は!まだ!何も出来ていない!!!
『俺は、水神流の構えを取る』
覚悟を決めて。同時、俺は予見眼を力強く開く。
開いた予見眼。そこに映るのは、無数にブレる奴の姿。
このままでは、カウンターは取れない。
ははっ。だろうな。そんなことは百も承知。
「もう、小細工はねぇよ」
右腕に力を込めて、ストーンキャノンを生成。
俺が放とうとするのは、剣ではなく、魔術での水神流。
カウンターのタイミングでストーンキャノンを放つ、威力は間違いなく最上のカウンター。
でも、分かってる。
これじゃあ、根本の解決には程遠い。
「……運任せ、だな」
刹那、俺は笑った。
俺が対峙する最強の攻撃は、正に無限。
水神流、剣神流、北神流。タイミングをズラす一人時間差。そして、その一つ一つの動きは正に神速。
その全てが、神級を超えた神級。
千、いや、一万分の一。
それほどの細い勝ち筋。
その無限とも言える攻撃に、俺は山を張る。
「俺は、神に愛されてんだよ」
刹那、俺は動き出した。
一瞬で生成したストーンキャノンを、奴の攻撃に合わせる。
左腕はもうない。右腕はボロボロ。
でも、それでも、俺は諦めない。
万に一つ?
上出来だ。
その可能性で勝てるなら、俺はこの運に喜んで身を任せる。
「さぁ!来やがれ!オルステッド!!!」
万に一つの生存。
万に一つの勝ち筋。
そう、その筈。
しかし、あくまでそれは、俺の期待。
弱い、弱い俺。
弱者の期待は、儚く散っていく。
「ぶえぇぇぇ!」
ドゴン!!!
爆音が鳴る。
同時、俺の右腹が抉れる。
肋骨が、臓器が、ミシミシと音を立てて、ボロボロに崩れる。
(なんだ、なんだ。俺は、何をされた……?)
俺は、血を吐きながら視線を動かす。
神刀は動いていない。奴の右腕は動いていない。
俺は、斬られていない。
じゃあ、なんだこれは。
この吐血は、折れた肋骨は、なんだ?
弱者の俺では、理解が遅れる。
しかし、それでも、否応にも理解した。
奴の『左腕』を見れば、否応にも。
「それは、俺の左腕?」
クリフと、そしてザノバが作った魔導鎧。
奴に斬られた、俺の左腕。
その左腕が、奴の左腕にくっ付く。
拳を鮮血に濡らして。
「とてつもない魔力消費……それが、その老体を強くするカラクリか」
「……ごふっ」
奴の上級治癒魔術は、このため。
決して、失敗のための対応じゃない。
奴は、俺の後方にあった俺の左腕を、自身の左腕へとくっ付けやがったんだ。
正に神業。
神頼みの俺を、万に一つも勝たせない、奴が成す絶望。
「俺は、神を殺す。神頼みの貴様では、俺には勝てん」
『ボディブロー』
それこそが、奴が俺に行った神殺しの一撃。
膝が、産まれたての子鹿のようにガクガクと揺れる。
腹に走った衝撃。それによって、俺の足が止まる。
俺の視線が落ちて、衝撃に負けた俺の身体が止まる。
刹那、奴が動き出した。
奴は俺のカウンターを警戒し、ジグザグと動きながら、フェイントを仕掛け、俺の目の前で攻撃を作る。
俺の腹を殴ったのは、俺の動きを封じるため。
俺の動きが止まれば、必然、俺の弱点が浮かび上がる。
『失った左腕。左側が弱点となる』
止まった足では、左側に向けない。
弱点の左側が、完全に露呈する。
ボトン
奴の左腕にくっ付いていた、合っていなかった細い俺の左腕が、奴の足元に落ちる。
「ごふっ」
吐血する。
俺の口から血液が溢れる。
両腕からは、血液が滴り落ちる。
肋骨はボロボロに砕けて、臓器もぐちゃぐちゃ。
それでも、痛みは感じない。
でも、身体は正直だ。
(……もう、身体は動かせねぇ)
動かない、動かせない腕。
身体も、動かない。
でも、それでも、俺は……
俺は!まだ!何も出来てない!!!
「光の海に舞い降りて、純白の翼を広げよ」
(これは、上級治癒魔術……それも、途中からの詠唱か)
動くのは唇。そして、脳みそのみ。
ならば、俺はそれをフル稼働させる。
動くところを、動かせるところを、俺は動かし続ける。
それが、俺に出来る執念。
「さすれば赤は駆逐されん」
先ほど終わらせた上級治癒魔術。
それを、俺は途中から詠唱する。
中断した治癒魔術。
シルフィの治癒魔術は、まだ終わってないんだよ。
「弱点を弱点と見せない。やはり、貴様は強い。だが……」
奴が踏み込む。
そこは、俺の左側。
「無詠唱が出来ない。それが弱点であることに変わりはないぞ」
奴の言葉。
俺は、それを聞いて俯いた。
一度中断した魔術を途中から詠唱する。
その弱者の技術は、最強の意表を突くなんて大層なことは出来ない。
シルフィみたいに無詠唱で出来ない。
分かってる。それは、俺の弱点だ。
「オルステッド、知ってるよ」
痛いほど分かってる。
それは、俺の弱点だ。
でも、それでも、俺には『あれ』がある。
俺には『執念』がある。
「何を、している……」
「弱者の足掻きは、終わらねぇ」
俺が生成したのはストーンキャノン。
それを『右腕』へと向ける。
もう最強には通じない。それは事実。そんなことは分かってる。
でも、だからこそ、分かった上で右腕なんだ。
最強の右腕じゃない。
俺が補足したのは、ボロボロになった自分自身の右腕。
バン!
右腕が斬れる。
満身創痍の俺から、右腕の感覚が消える。
この時、自分でも気づく。
俺の腕が斬れたということに。
俺が、俺の腕を千切ったということに。
俺が行ったのは、自らを傷つける行為『自切』
刹那、俺の右腕が宙を舞った。
勢い良く斬った己の右腕は、握っていたカジャクトと共に天高く弧を描く。
まるで、空にある希望を映すように、華麗に。
舞う血飛沫。
その綺麗な赤が、空を舞う。
刹那、最強の目が、浮いた。
ゴン!!!
「ぐっ」
小さな音。
刹那、奴の腹部に衝撃が走る。
奴の腹に当たったのは、俺の足。
視線が上に浮いた奴では見えぬ、蹴りという死角からの手段。
「動かせねぇ、そう思ったよな?最強」
俺の執念は腕を叩き斬ったことか?
否、違う。
俺の執念は『蹴り』
本来であれば指一本も動かせないこの身体。
その身体で、思いっきり蹴ってみせるという、不可能を可能にする執念。
「醜い、本当に醜いよなぁ」
分かってる。こんな醜い蹴りは、神級とは程遠い。
最強には遠く及ばないし、強者と呼べるものですらない。
でも、それでも、そんな醜さが、最強に隙を作る。
「……」
最強にダメージは無い。
しかし、奴は下がる。
半歩、後ろへ。
確かに、後退する。
「シャインヒーリング」
宙を舞った右腕。
それが、言葉と同時、俺の左腕へと結合する。
右腕を左腕へくっ付ける。
完了した結合。上級治癒魔術は、ここに完成する。
光る身体、止まる血液。
そして、くっ付いた左腕は、大きな事実を証明する。
失った左腕が復活する。
これが意味する、たった一つの希望。
『俺の左側が、弱点ではなくなる』
弱点は変化する。
失った物が変化する。
右腕を左腕へ付ける。弱点は、左側から右側へ変わる。
この事実に、最強が声を漏らす。
「自切。そこから流れるように繋いだ希望」
オルステッドの言葉。
左側に回り込んでいた奴が、剣神流から構えを変える。
「ふぅー……」
呼吸を整える最強。
奴が水神流の構えを取る。
流石だ。
構えのスイッチ速度が速い。
その速度は異常。対応力は正に異次元。
俺のストーンキャノンを対応出来る奴にとって、水神流は正解以外の何物でもない。
でも、だからこそ、そんなお前を殺せるとしたら、俺しか居ない。
間違え続けた俺でしか、最強という正解はぶち壊せない。
「やっぱり、お前が最強だ。認めてやるよ」
少し綺麗になった身体。
そんな身体に、俺は力を込める。
(ここまで戦って分かった。本当に、本当に、目の前の男は最強だ)
龍神オルステッド。
間違いなく最強の男。
そこに弱点はない。
弱いところなんてない。
でも、それでも、最強に微弱と言えるほどの隙があるとしたら、きっと、きっと、これだ。
(最強の隙。それは、自分から攻めないこと)
刹那、俺はバックステップを取った。
水神流の構えを取る最強から離れる。
それと同時、俺の口から何かが溢れ出す。
「ごふっ」
溢れ出たのは血液。
俺の身体に、腹に残るダメージ。
(治癒魔術は施した。切断は結合した。それでも、最強から受けたボディブローは治せなかったか)
ぐちゃぐちゃになった肋骨と臓器。
それは、上級治癒魔術では治せないほどだった。
治せなかった俺。吐血する俺に、時間はない。
決めるならば、これで最後。
距離を取って行う、俺のラストアタック。
「残るダメージ。そんなもん、関係ねぇなぁ」
吐血して、ゆっくりと言葉を放つ。
「なんにも、関係ねぇ」
吐血してるとか、時間がないとか関係ない。
だって、俺は、一撃で破壊するから。
お前の、最強の頭を、一撃で粉砕してやるのだから。
さぁ、しっかり準備しようか。
俺のラストアタックを。
俺の、最後の夢を。
「来い」
奴が身体を隆起させる。
闘気を、力を練り上げる。
そして、そのまま。距離を取る俺を見つめて、奴が水神流の構えを取る。
見ただけで分かる力の差。
あの構えは、ストーンキャノンでは貫けない。
もう対応された技では無理。
ならば、どうするか。
俺の脳裏に過ぎったのは、一つの可能性。
勝利への道筋。
刹那、俺は右腕を上げた。
補足するのは、天空。
「泥雨、撃っといて良かったよ」
俺の魔術に反応し、光る空。
俺の最初に撃った聖級水魔術が、王級へと変わる。
(泥雨で作った雨雲を利用し、雷を放つか……)
補足を、天空から最強へ。
最初に放った魔術を利用した俺に、溜めという概念は存在しない。
「だが、甘い。貴様のストーンキャノンに比べれば、雷も神級には程遠い」
「……だろうな」
オルステッドの言葉。
刹那、俺の頬が上がる。
俺のストーンキャノン。確かに俺の中で最強の技は土魔術だ。
でも、それは単体の話。
組み合わせなら、ストーンキャノンを超えることは可能。
そして何より、ライトニングはロキシーから教わった魔術。ロキシーは、世界で一番偉大な師匠で、お嫁さんで、そして、俺のもう一人の神様。
そんなロキシーの教えは、俺にとって最強なんだよ。
ボトン
刹那、オルステッドの身体が、半足分落ちる。
(泥沼、だと?)
「土魔術なら、泥沼なら、俺はお前を超えられる……」
上から下への誘導。
天空という上に雷を作り、視線を誘導してから下への泥沼。
巨大な、巨大な泥沼。
それは、最強の足元を掬う。
「足に踏ん張りが効かん……だが、何も変わらん」
オルステッドの言葉。
最強が、構えを整える。
グリグリと、泥の中で足に力を込める。
「雷は、俺には当たらんぞ」
「……」
俺は、補足する。
雷を当てるために補足する。
……当てる対象は誰か?
当然、普通に考えれば最強だ。オルステッドだ。
でも、違う。
俺が当てるべきは、俺のこれまでの軌跡。
刹那、鎧の中で笑う俺を、最強が見た。
ドン!!!
鈍い爆音と同時、雷が落ちる。
その音は、水神流みたいな綺麗なものじゃない。
雨のような透き通ったものじゃない。
この音は、執念。
奴に纏わりつく、俺の心。
降った雷。
当たったのは、最強ではない。
当たったのは、俺が狙った対象は、俺自身が作った俺の泥沼。
「ぐっ!」
(巨大な泥沼。それは、俺の足場を崩すためではない……)
逃がさない。
雷は、泥沼を捕捉した。
ここに来て、俺が行ったのは『感電』
泥沼が雷を通し、最強へと通ずる。
雷が、最強を崩す。
「最強に溜めのデカい雷が当たる。そんなもん、考えたこともねぇよ……」
「くっ。泥に雷を通す。泥沼は、俺を痺れさせるためだけの一手か……」
普通なら無理だ。
泥の中を雷が通る。
そんなことは、無理だ。
でも、でも、俺なら出来る。
いいや、違う。
この魔術は、俺の魔術じゃない。
「最強。これは、ロキシーの分だ」
俺がオルステッドを超える。
そんなことは、無理だ。
分かってる。分かってる。そんなことは分かってる。
でも、ロキシーなら、俺の大切な人たちとなら、きっと、俺は、最強を超えられる。
「ふぅー……みんな、力を貸してくれ」
気持ちを、全てを乗せて。
始める、俺の最後の攻撃。
「まだ、俺の優位は変わらん」
痺れるオルステッド。
奴が、俺を睨みつける。
しかし、それでも、奴が意表を突かれて痺れたのは事実。
龍聖闘気を貫く雷。
ロキシーは、すげぇだろ?
俺が身体に力を込める。
それと同時、奴も構え直す。
(身体は痺れた。しかし、それでも直撃ではない)
俺を睨みつけて。
奴が、冷静に分析する。
(俺を殺す技、ストーンキャノン。まだ、受け切ることは可能)
構えは水神流。
それは、痺れても尚神級。
しかし、それでも奴は、目を見開く。
攻撃以外の、俺の行動に。
「闘気を無視できるのは、雷だけじゃねぇよ」
俺は言葉を放つ。
そして、懐から剣を取り出す。
その剣は、愛しの人の剣。
愛しの人の、俺の世界で一番大切な人の温もりが残る、魔剣。
『鳳雅龍剣』
握る魔剣。その俺の姿を見て、目を見開くオルステッド。
しかし、奴の驚きは、決して敗北ではない。
(確かに、鳳雅龍剣ならば俺の龍聖闘気を無視できる。それは間違いない。しかし、それでも、カジャクトの能力向上が無ければ……)
オルステッドの考え。
俺は、それを、一刀両断する。
「カジャクトのステータスアップ。その恩恵。身に付けてれば問題なく受けれるよなぁ?」
ズチャっ。
俺の言葉と同時、魔剣 王竜剣カジャクトが、俺の右腕に刺さる。
無くなった右腕、その断面に。
「魔剣を右腕に刺す……ダメージは、想像を絶するはず」
「ごふっ」
ボタボタと血が落ちる。
吐血は止まらなくなる。
ただの剣じゃない。俺が行ったのは魔剣による自傷。
世界一と謳われる剣、王竜剣カジャクトによる自傷。
大きくなるダメージ。
しかし、それでも、俺は止まらない。
「さぁ、行こうか」
「……もう、生きることは捨てたか」
出血多量なんて関係ない。
俺は吐血し、ボタボタと血液を溢す。
俺の姿、満ちていく俺の姿を、オルステッドが睨んだ。
ドン!!!
爆音が鳴る。同時、俺が飛び出す。
ダメージなんて関係ない。
俺の全てを賭けて、最強に向かって踏み込む。
「オルステッドぉぉぉ!!!」
俺が叫ぶ。
それと同時、奴が腰を落とす。
(ここに来て最速の踏み込みか。やはり、貴様は強い)
「これは、これは!エリスの分だ!!!」
俺の脳裏に浮かぶ、愛しの人。
叫んだのは、そんな愛しの人の名前。
俺は取る、仇を。
『最強に勝つ』
愛しの人の目標を、俺が代わりに達成する。
近付いていくオルステッドの姿。
はっきりと見える、ビリビリと痺れる最強の姿。
足元は泥沼、雷は奴を痺れさせる。
俺がここまで行った、命を賭けたデバフ。
それは、最強を鈍らせる。
最強を鈍らせたのは俺の全て。
無駄じゃない、無駄なんかじゃない、俺の全てだ。
勝てる、勝てるに決まってる。
絶対、絶対に!
俺は勝てる。
信じる心。
決める覚悟。
しかし、それでも、その決意を持っても、奴は最強。
「速く、鋭い。だが……」
ブン!!!
鳴ったのは、風切り音。
鳳雅龍剣が空を斬る。
「貴様でも、片手では光の太刀は打てなかったか」
斬ったのは、虚空。
俺の愛しの人。エリスの形見は、最強には届かなかった。
「……」
「……」
とても、とても静かだった。
虚空を斬ったエリスの剣。
とてつもなく速く、とてつもない威力を誇っているはずの剣が振り下ろされて一瞬、辺りはとても静かだった。
(あ、そうか)
魔導鎧の中で、俺は視線を揺らす。
(エリス、エリス……)
空振った剣。
エリスの形見を握りしめて、俺は考える。
剣術が出来ない俺の、最後の思想。
「エリスなら、俺のお嫁さんなら、この状態でも光の太刀が打てたのかな……」
刹那、最強の身体が隆起する。
俺の全てを受け切った最強。
奴が、身体を、闘気を、精神を隆起させる。
近付いてくるのは『終わり』
俺が感じる、幾度となく感じる絶望。
「……」
揺れる視線。
黙りながら、ポロポロと白髪を落とし、限界を超えた身体で考える。
吐血、大量出血、死に損ない。
きっと、シルフィなら治せた。
ロキシーなら、もっと上手くライトニングを打てた。
エリスなら、きっと。いや、絶対に。
この鳳雅龍剣の、全てを込めた太刀で決めていた。
分かってる。俺は弱い。
シルフィの分も、ロキシーの分も、エリスの分も、自分なりに出した。
今までの俺の分は、出し切った。
でも、違う。
今の俺は、違う。
まだ、コイツの。
俺の大親友の分が、終わってねぇ。
ドン!!!
オルステッドが振りかぶったタイミング。
完璧なカウンターのタイミングで、俺の手がオルステッドの胸へ。
「半歩前へ……何かが、貴様を押した?」
「ふふ、ふはは」
力ない笑い。
透明な何かが、俺の背中を押す。
「カジャクトを右腕にブッ刺す。それは、能力アップだけじゃねぇ」
俺の背中を押す透明な物。
それは、まるで神の手のような、俺にとっての導き。
「重力魔術……カジャクトの重力操作を、俺は最後まで捨てなかった」
オルステッドの胸に付くのは、俺の左手。
そう、踏み込めた半歩。
俺の背中を押したのは、先ほどオルステッドの左腕を斬った、シルフィの風魔術。
透明な刃。
それを、俺は操作し、長い時間を経て、普通の風になった所で俺の背中を押したんだ。
重力魔術で見えない風を補足する。
俺の神業……いや、違うな。
神業は違う。俺にとっての神業は、俺にとっての神が最初に教えてくれた、俺にとっての最初で最後の必殺技。
「これは、ヒトガミの分だ」
俺の左手が光る。
俺の魔術が、奴の心臓を捕捉する。
ゼロ距離で、最速で。
この技を。神が教えてくれた、この『ストーンキャノン』を。
俺の大切な友人が教えてくれたこの技に、想いだけを乗せて。
「死ねぇ!オルステッドぉぉぉ!!!」
ドン!!!
鳴ったのは爆音。
強烈な魔術は、光と共に希望を打ち鳴らす。
「……」
舞う砂煙。
手応えは、あった。
(……勝った)
もくもくと舞う砂煙。
俺の神が教えてくれた技は、オルステッドを、最強を貫いた。
「……やった、やったよ。ヒトガミ、ヒトガミ。俺は、俺は……「俺を、甘く見たな」
(……は?なんで、は?は???)
消える砂煙。
それと同時、俺は目を見開く。
その理由は単純。
俺の目の前に居たのは、俺が手のひらを当てていたのは、死体ではない、最強の姿だったのだから。
「……貴様には、負けん」
振りかぶられる神刀。
それを見て、俺は足に力を込める。
(なんで、なんで耐えた?確かに当たった、確かに殺した。なのに、なんで?死んだどころか……奴は無傷。いや、そんなこと考えるな。体勢を、気持ちを整えろ!)
込めた足に、気持ちを乗せて。
手のひらに、俺は魔術を込める。
「舐めっ……「遅い」
バン!!!
爆音と同時。俺の左腕が、宙を舞う。
(コイツ、俺の自切でくっつけた脆い関節部分を狙って……)
込めた魔術。それが放たれることは、永遠に訪れなかった。
「……両腕を失えば、魔術は撃てん」
「くそっ、くそがっ、くそが!!!まだ、まだだ!まだだ!!!」
失った両腕。
ボトボトと滴る、俺の血液。
両腕を失えば魔術を撃てない。
この原理を覆すことは、凡人の俺では出来なかった。
ドン!!!
二度の爆音。
足元にあった、鎧に包まれた俺の左腕が、最強に踏み潰される。
「何が、まだなんだ?」
「まだ、まだだろ……だって、だって」
上級治癒魔術すらも壊す、最強の一手。
俺は、弱々しく言葉を放って、震えた。
「うあ、うあ、うあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
地団駄を踏んだ。
胴を揺らした。
首を揺らして、ただ叫んだ。
「死ね、死ね!殺す、殺してやる!!!オルステッド、オルステッドぉぉぉぉぉ!!!!!」
ドン!!!
俺の叫び。
同時に鳴ったのは、三度の爆音。
「ぼ、ぼえええええ」
少なくなった血液。
爆音が鳴ったのは、俺の脇腹。
「執念。貴様のそれに負けるほど、俺の執念は甘くない」
鮮血に濡れる。
奴の手刀が、俺の脇腹を貫いた。
ドン……
弱々しい音。
四度目の音と共に崩れ落ちたのは、俺の膝。
「あ、あぁ、うあ、あぁ」
まるで糸の切れた人形のように。
俺は前のめりに、力なく倒れる。
腹を貫かれた俺。
両腕を失った俺。
誰が見ても満身創痍。
しかし、それでも、俺はこの言葉を呟く。
「殺す、殺す。お前を、殺す。俺が、お前を……」
殺す、殺す。最強を殺す。
決めていた決意の塊。
俺は、それを曲げない。
だって、だってよ。
それでしか、返せないから。
大切な人の仇を討つことでしか、俺は、アイツに恩返しが出来ないのだから。
恩返しを、恩返しを……俺は、しなければならないのだから。
(まだ、俺には出来ることがある。両腕を失っても、まだ出来る。かつて魔神ラプラスが死に際に放ったと言われる最終奥義。今の俺なら、必ず出来る)
自らの身体を媒体として放つ奥義。
今の俺なら、必ず、必ず出来る!!!
「オルステッド、俺を殺さないなんて甘……「自爆でもするか?」
奴の言葉。
それと同時、俺の表情が消えた。
「かつて、魔神ラプラスが放った最終奥義。全ての魔力を一気に込めた奥義。それを、少量の魔術で隕石を降らせることが出来る貴様が行う。そんな貴様ならば、可能であると同時、とてつもない威力だろう」
人族の貴様の身体は、耐えることが出来ないだろうがな。
そう言って、奴が神刀を俺に向ける。
……あー、そうか。全部お見通しか。
どうしても奥義には溜めが要る。ストーンキャノンとは違う。
いくら威力があっても、この状況で最強に当たるなんてことはありえない。
「でも、それでも、良いよ」
ヒトガミのために。
一ミリでも奴が魔術を使うなら、それで。
最後までヒトガミのために。
俺の、俺の全て。恩人のために。
奴のためなら全てを賭けられる。
心の底から、そう思っているはずだ。そのはずなのに。
俺の視界は、この時初めて、じんわりと……濡れたんだ。
「……」
光る身体。
恩返しのために光る、俺の身体。
あー、終わる。俺の人生。
二度目の、俺の最悪だった人生。
でも、それでも、みんなに会えたから。
シルフィ、ロキシー。ノルン、パウロ。そしてエリス。みんな、みんなに出逢えたから。
ヒトガミという恩人に、出逢えたから。
……待たせてごめん。今から俺も逝くよ、みんな。
終わる人生。
放ち続ける光。
爆発する身体。
しかし、その光は、止まる。
希望に向かっていたはずの光を、俺はあろうことか敵の、この言葉に止めることになる。
「貴様は、弱い」
この言葉に。
俺は、爆発を止めた。
「……知ってるよ」
お前は最強で、俺は最弱。
そんなことは、知ってる。
しかし、俺は驚くことになる。
奴の、次の言葉に。
「……そうか。そして、俺は貴様より弱い」
「……は?」
何を言ってるんだ。
俺は、そう思った。
だって、そうだろ?
奴は最強。誰がどう見ても、奴は強い。
俺なんかより、ずーっと。
「俺は、ずっと孤独だった。それに回避方法はなく、そもそも、あの時掛けられた呪いに、後悔はない」
喋る最強。
呪いさえ無ければ、コミュケーション能力もあるはずの最強。
しかし、奴の言葉は、少し震えていた。
「今の貴様は、一人だ。孤独だ。だから弱い。一人ではない貴様は、恐らく強かったはずだ」
最強と同じ孤独。
俺は、目の前の地面を見つめる。
俯いて、耳を傾ける。
震える言葉に。ただ、静かに。
「弱い貴様を強くする、周りの強い者たち。その強い者を、弱い俺が、本当に殺せると思うか?」
奴の震える声。
その声が、俺には本心に聞こえた。
「決めろ!ルーデウス・グレイラット!!!」
最強に似合わぬ大きな声。
その声が、俺の想いを作り出す。
最強に傷を付けた、シルフィの風、ロキシーの雷。
次の一手に繋げた、エリスの剣術。
すごい、すごい俺の大切な人たち。
残すは、俺自身の攻撃。
凡人の俺が向ける、俺自身の執念。
奴の言葉。
最強の大きな言葉が、俺の心を揺らす。
「ここで死ぬか!孤独の俺に付き、真の敵であるヒトガミを殺すか!選べ、ルーデウス・グレイラット!」
奴は、もう呼ばない。
ヒトガミの使徒とは呼ばない。
それが、俺の答えだった。
「お願いします、オルステッド」
俺の執念。
向ける先は『神』
「俺を、クズな俺を……」
二度目の人生。
その終着点は、ここではなかった。
「配下にしてください」
孤独で、凡人な俺。
しかし、そんな俺は、この日、孤独では無くなったんだ。
このシリーズは残り1話か2話になります。
それが終わったら、エリスが別れなかったらを完結させますのでご了承ください。
ちなみに、エリスが別れなかったらの三部(最終部)はオルステッドが主役のものになるので、楽しみにしていただけると幸いです。
老デウスVSオルステッドについて。
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