ホシノが先生と一緒にクジラに会いに行くお話   作:空を飛ぶジンベエザメ

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最終話 きっとまた、あの島へ

「はぁ...今日からまた学校かぁ...」

 

セリカは古びた下駄箱に自分のスニーカーを放り込み、踵がすっかりくたびれた上履きに履き替える。

 

ホシノが教えてくれた情報のお陰で一日早まった船に無事乗れた4人は、同じ船に乗った先生とホシノがぐっすり寝ていたことで、幸運にも最後の最後まで二人に気付かれる事無く、アビドスに帰って来ることが出来た。今日からまた、いつもの日常が始まる。

 

(色々大変だったけど、でも楽しかったなぁ...)

 

ノノミのミスによって強いられた、一週間近くのサバイバルモドキ生活。でも豊かな自然に囲まれながら過ごすというのは、アビドスでは絶対に出来ない事だったし、それに皆でお泊りをするというのも、セリカにとってとても新鮮で、楽しい出来事だった。最終日にノノミが持って来てくれたトランプやパーティーゲームを狭いテントの中で遊び、皆で夜を明かしたのは、きっと忘れられない思い出になるだろう。

 

「おはよう~あれ、先生?」

 

教室の扉を開けると、そこにはホシノを除いたいつもの三人に加え、先生がいた。皆で机をくっつけ、その上に広げられた沢山の写真を囲っている。

 

「セリカおはよう。久しぶりだね」

 

「久しぶりって変じゃない?だって...」

 

その時ノノミ、アヤネ、シロコから鋭い視線を向けられ、セリカは急いで口を抑える。そうだった、先生は自分達がずっと近くに居た事を知らないのだった。それに加え自分達も本来なら、この一週間二人が何をしていたのか、知っているはずがないのだ。

 

「ごほんっ!そ、そうね久しぶりね!先生、今日は何の用?」

 

セリカはいつか神社の裏で隠れていた時のように、わざとらしく咳き込む。

 

「ふっふっふ...!セリカ、まずはこの写真を見てもらおう...!」

 

先生はもったいぶった態度で一枚の写真を見せる。そこには、白い砂浜の上でピースサインをしている先生とホシノが写っていた。

 

「え、え~!?何この写真!?先生、ホシノ先輩と何処か行ってたの!?」

 

「そうなんだって!先生、偶々ホシノ先輩と同じ期間で有給休暇取ったらしくて、それで偶々水族館でホシノ先輩に会って、一緒に離島でバカンスしようってことになったんだって!そこで二人でスキューバダイビングもしたんだって!」

 

「凄いわね!そんな偶然ってあるんだ!他の写真も見せて!」

 

白々しさが隠しきれていない下手くそな演技をしながら、セリカは空いている席に座り、無造作に広げられている写真を眺める。

 

水中で宙返りをしているホシノ。海底の砂の上に頬杖をつき、本当のおじさんのように寝転がっているホシノ。巨大なクジラと並走するように泳いでいるホシノ。先生自身や島の風景を写したものも多少は含まれているが、その多くは海中にいるホシノを写していた。

 

(ホシノ先輩、本当に幸せそうね...)

 

写真の中の先輩の顔を見て、セリカは冬にバイトを頑張って良かったと心から思えたし、「先輩が幸せな時間を過ごせるようにお金を稼いでいる」と大将の前で宣言した甲斐があったとも思えた。

 

「先生。この写真は何?」

 

写真を漁っていたシロコは、民宿の食堂でイセエビ料理を囲むホシノ達が写っているものを引っ張り出す。

 

「あ、それ?それはお世話になっていた人達と一緒にイセエビを食べている時の写真なんだけどね、このイセエビ達、実はホシノが島の神社で神様とお話して、そのお礼に貰ったイセエビ何だって!ホシノ、神様とお話したんだよ!?凄くない!?」

 

「う、うん。凄いね...」

 

自分で話題を振っておきながら、シロコは言葉に詰まる。そのお喋りしていた相手が目の前にいることなど、当然口が裂けても言えない。

 

「あれ、意外と反応薄いね...。あ、そっか!シロコのことだから、『このイセエビ達、売ったらいくらになるだろう』とか考えてたんでしょ?」

 

「う、うんそう。ホシノ先輩のお金を稼いでいる時に、『魚って結構高く売れるんだな』って思ったから」

 

「シロコらしいね~。あ、そうだ。さっき先生、船が動かせるって言ったじゃん?だから二人で漁師でも初めてみる?私、シロコの為なら船とか買っちゃうよ?」

 

「本当!?」

 

瞬間、シロコは目を輝かせながら先生を見つめる。冗談で言ったつもりだったのだが...

 

「ただでさえ普段からプラモ買ったりゲームに課金してるのに、先生の給料で船なんて買える訳無いでしょ...。というか、もし転職するってなったらシャーレはどうするのよ?」

 

「先生?明日から仕事だからって、現実から目を背けないで下さいね☆」

 

「ひぃん...」

 

「ん。残念...」

 

セリカとノノミの容赦無い言葉で、先生とシロコが肩を同時に落とした時、再び教室の扉が開く。

 

「皆おはよう~」

 

相変わらずの眠そうな声で、ホシノが入って来た。手には大きな紙袋を持っている。

 

「ホシノ先輩!?お休みは今日までですよ?それなのに何で...」

 

「うへへ。何だか皆の顔が見たくなっちゃってね...。あれ、先生?」

 

「おはようホシノ。ホシノも皆に会いたくなったみたいだね」

 

「何だ先生もか~」

 

先生と穏やかな笑顔を交わした後、ホシノは机の上の写真に気付く。

 

「あ、これって船長が撮ってくれてたやつ!?でも、私ばっかり写ってない...?」

 

「昨日帰った後に、船長から貰ったデータからホシノが写っている奴を中心に現像したんだ。それはホシノの旅の記録。好きなだけ持ってって良いよ」

 

「本当!?ありがとう先生!あ、でもその前に...」

 

ホシノは写真に伸ばしていた手を引っこめると、こちらを見つめる後輩達を眺める。

 

目の前の写真も、先生との思い出も、自分自身の成長も。この一週間での出来事全て、彼女達が居なければ存在しなかった。だからホシノは、誠心誠意、心からの感謝を伝えた。

 

「皆。私の為に時間とお金を作ってくれて、本当にありがとう。お陰で私、今度こそユメ先輩のことを受け入れられた。本当に本当に、ありがとう」

 

ホシノの言葉に、四人はゆっくりと頷いた。ありがとう、それ以上の言葉は不要だ。何故なら感謝を告げたホシノの顔からは、一週間前までこびりついていた冷たい影が、綺麗さっぱり無くなっていたから。

 

「そしたらこれ、お土産ね~」

 

感謝を告げたホシノは早くもいつもの態度に戻り、手にしていた紙袋に手を入れる。

 

「じゃじゃーん!どうこれ、カッコよくない?」

 

ホシノが取り出したもの。それは中心にクジラがダイナミックにプリントされたTシャツだった。

 

「島のお土産屋さんで買って来たんだ~。先生の分もあるからね」

 

「お~!ホシノいいセンス!何だか皆で旅行していたみたいだね!」

 

「あはは...。そう、ですね...」

 

先生のその言葉に、四人はシャツを受け取りながら複雑な感情を抱いていた。いや、全員であの島を訪れたというのは事実ではあるのだけれど...。

 

「よし!皆それに着替えて!記念写真撮るよ~」

 

「え、写真撮るんですか?」

 

「勿論!ほら急いで急いで~」

 

ホシノに急かされ、四人と先生は貰ったTシャツに着替える。そして黒板の前に集合し、先生が操作するスマホのレンズを見つめる。

 

「セット完了!」

 

タイマーをセットした先生が駆け足で戻る。

 

『はい、チーズッ!』

 

 

パシャリッ!

 

 

シャッターが切られる音が響いた。

 

「うん、皆良い表情!後で人数分プリントアウトしておくね!」

 

「ありがとうございます!」

 

「集合写真って久しぶりだね」

 

「そうかしら。初詣の時にも撮ってたと思うけど」

 

「おめでたいことや楽しいことがあったら皆で記念写真!それが私達ですから!」

 

先生の周りではしゃぐ後輩達を、ホシノは見つめる。借金に砂漠化。解決しなければならない未だに山積みだ。けれどこの五人ならきっと大丈夫。それに私はもう、本当の意味で、一人じゃないから。

 

「そしたら皆、そのTシャツ大切に取っておいてね。今度はそれ着て、皆であの島に行きたいから」

 

「良いですね!その時は私、色んなパーティーゲーム持っていきますね!皆で夜更かしして遊びたいです!」

 

「先輩はスキューバダイビングやってたんでしょ?私もやってみたいな~。海の中を自由に泳ぐって絶対楽しい」

 

「私は度が入ったゴーグル買っておかないとですね。目が悪いせいで綺麗な海を堪能できないなんて悔しいですし...」

 

「私は水中銃を...」

 

「シロコちゃん、それ密漁だよ?分かってるよね?」

 

「ん、冗談...」

 

ホシノに釘を刺された時、シロコはとあることに気付いた。

 

「そういえばホシノ先輩。お金って全部使ったの?」

 

「あ、確かに」とホシノは溢す。貰ったお金、あといくら残っているのだろうか。ホシノは鞄から自分の財布を取り出す。

 

「あ、やっちゃった...。自分が持ってた分のお金と混ぜちゃってる...」

 

「使った分のお金を引いたら分かるんじゃないんですか?」

 

「それだ!先生、今回払った分のレシートとかってある?」

 

「任せて!シャーレ名義でつけられるやつがあると信じて、領収書は一つ残らず貰ってあるよ!」

 

「先生...」

 

ホシノは先生から渡された領収書とにらめっこを始める。

 

船長に払ったダイビングの料金35000円。宿代の30000円。高速船に8000円。皆のお土産に9000円。それにラーメンと水族館、そして神様へのお賽銭を含めると―

 

「6000円残りか~」

 

その時、ホシノの脳裏に、学校から出た時の光景が浮かんだ。

 

「ねぇ皆!お昼になったらさ、皆で柴関ラーメン行こうよ!この6000円があれば丁度一人千円分使えるし!」

 

「でも千円っていったら特盛の値段よ...?私達が食べきれる量じゃ...」

 

「そしたら普通のラーメンにシャーベットも頼もう!そしたらぴったり1000円だよ!」

 

「え、何それ...。大将の店にシャーベットなんてオシャレなもの、ある訳ないじゃない...」

 

セリカはキョトンとした顔をする。バイトとはいえ従業員の自分が知らないメニューなんてある訳が無い、と言った表情だ。

 

「え、セリカちゃん知らなかったの...?この前水族館に行く前に寄ったんだけど、その時大将が『最近親戚がアイスクリーム屋を始めて、そのメニューの一部を置いている』って言ってたよ...?」

 

「聞いてないわよそんな事!私が知らない間にシャーベットなんて置いてたの!?バイトの私に知らせないなんて、ヒドくない!?」

 

「そ、そうかなぁ...?」

 

「えぇそうよ!ホシノ先輩、お昼になったら大将の店行きましょう!文句言ってやるんだから!」

 

その日の昼、紫関ラーメンの屋台ではちょっぴり理不尽な文句を付けるセリカとそれを困った笑顔で受け流す大将。そしてそれを見て笑う者達の愉快な声で溢れていた。

 

 

 

 

 

 

ホシノが先生と一緒にクジラに会いに行くお話 おしまい

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