ホシノが先生と一緒にクジラに会いに行くお話   作:空を飛ぶジンベエザメ

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エピローグ 先輩の証

立ち込める炎と煙。砲身がひしゃげた状態でひっくり返った戦車。そして、砂まみれの道路のあちこちに転がる、カイザーPMCの兵士達の残骸。一目で激戦だったと分かるその惨状の中、ホシノは至って涼しい顔で、まだ生きている兵士の頭に銃口を押しつけた。

 

「相変わらず、しつこいね」

 

ホシノはその捨て台詞を最後に、容赦無く引き金を引いた。散弾の接射を受け、兵士の頭が跡形も無く吹き飛ぶ。脅威が全て去ったことを確認し、全身に付着した煤と埃を払い落としていると

 

『大丈夫ですか!?』

 

という、焦ったアヤネの声が無線から流れて来た。

 

「だいじょぶだいじょぶ~。まさかこのタイミングで襲撃を受けるとは思わなかったけどね~」

 

ゲヘナとアビドス、そしてハイランダーまでをも巻き込んだ列車砲の一件。元凶の兵器そのものは既に処分されていたが、被害に関する諸手続きや、列車砲に関する情報共有は未だに終わっていない。そして、これまで何度も痛い目に合わされているにも関わらず、カイザーからの侵攻は未だに止む気配が無い。今ホシノが排除した戦力も、そんな”ちょっかい”の一つだった。

 

『かなりの大部隊だったみたいですが、ホントに大丈夫ですか...?』

 

「問題無いよ~。それに、さっき強力な助っ人が来てくれたからね~」

 

『助っ人...?』

 

アヤネがそう呟いた瞬間、爆音と、金属が激しく擦れる不快音を伴って、真っ二つになったヘリが目の前に降って来た。直ぐに銃を構え直すホシノだったが、ぐにゃりと曲がったローターの上に立つ姿を見て、安堵の息をもらした。

 

「...びっくりさせちゃった?」

 

ヘリの上から降りて来たのは、こちらも涼しい表情をした、”もう一人”のシロコだった。どうやら飛んでいるヘリを、文字通り叩き落としたらしい。

 

(う、うへ~...こんなことまで出来るようになったんだ、こっちのシロコちゃん...)

 

ホシノはそう思いつつ、面倒事に付き合わせてしまったことへの罪悪感も相まって、ばつが悪そうに微笑んだ。

 

「大丈夫だよ。それよりも、巻きこんじゃってごめんね。カイザーの奴ら、本当に諦めが悪いから...」

 

「ん、知ってる」

 

そこでシロコは初めて、くしゃっとした笑みを溢した。いつも目を細め、最低限の言葉しか口にしない彼女からは想像しにくいが、それはホシノも良く知る、可愛らしい笑みだった。

 

「シロコちゃんも笑うんだね。そうやってニコニコしてるほうが、可愛くて良いと思うよ~?」

 

笑顔を向けてくれたことが嬉しくて、ホシノはついそんなことを口走ってしまった。瞬間、シロコは鳩が豆鉄砲を食ったような顔になり、その笑みも困惑の中に消えてしまう。

 

「...ごめんなさい」

 

「あ、ごめんね...!嫌な気持ちにさせちゃったなら...」

 

シロコは首を横に振った。

 

「ううん、大丈夫。でもやっぱり、人の前で笑うのはまだ苦手みたい...」

 

しかしそう言いつつも、シロコはホシノの顔を真っすぐ見つめると、再び優しく微笑んだ。

 

「先輩も、あれから変わったね。今のホシノ先輩のほうが、私は好き」

 

「え...」

 

思いもよらぬ言葉に、今度はホシノのほうが言葉に詰まった。

 

自警団としての活動も行っているとは聞いていたが、列車砲の一件から一切音沙汰が無かった彼女が助太刀してくれたというだけでも驚きなのに、まさか彼女の口から”好き”という言葉が出て来るとは。

 

でも、それと同時に、胸に温かいものが込み上げて来るのが分かった。後輩達や先生の力で、自分は前を向けている。その実感が、ホシノの心を満たしていく。

 

「ありがとう」

 

「ん」

 

「ねぇシロコちゃん、見て欲しいものがあるんだ」

 

ホシノは胸ポケットに手を入れると、徐に何かを取り出した。彼女が手にしているものを見た瞬間、シロコの顔が強張る。

 

「その手帳...」

 

それは紛れもなく、たのしいバナナとり手帳だった。ホシノの禍根の象徴ともいえるそれを前にして、シロコは言葉を失ってしまう。

 

「ううん。これは、私が探し求めてたものじゃない。ほら、私の名前があるでしょ?」

 

ホシノは手帳の隅に書かれた自分の名前を指し示した。

 

「実は私、この間まで先生と一緒に旅行に行ってたんだ。この手帳はその時に泊まった宿の人に貰ったもの。今は私の日記帳になってるけどね」

 

そしてホシノは手帳を裏返し、そこに貼られている写真をシロコに見せた。先生と皆でお土産のTシャツを着ている、あの記念写真を。

 

「シロコちゃん。あの時助けてくれて、本当にありがとう。シロコちゃんのお陰で私は、今度こそ変われた。この手帳を、先輩の証として受け入れることが出来た。本当に本当に、ありがとう」

 

ホシノの感謝の言葉を、シロコは相槌もせず、ただ静かに聞いていた。そして、三度微笑んだ。

 

「私も、見て欲しいものがある」

 

シロコが取り出したのは、以前先生に貰ったスマートフォンだった。

 

「先生に貰ったんだ。今度、連絡するね。その時は旅行の話、聞かせて欲しい」

 

そこまで一息で言い切ったシロコはくるりと踵を返し、炎上するヘリコプターを乗り越えてその場を去ろうとする。

 

「シロコちゃん!」

 

その背中を、ホシノが引き留めた。

 

「その時は皆と一緒に、次の旅行の計画立てようね!」

 

シロコは、ゆっくりと振り返った。

 

「...ん、楽しみにしてる」

 

シロコの瞳の奥に、無邪気な光が灯る。その輝きを保ったまま、シロコはヘリの向こう側へと、姿を消した。

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