ホシノが先生と一緒にクジラに会いに行くお話   作:空を飛ぶジンベエザメ

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八話 離島でサバイバル...!?

「ごめんなさい...!ごめんなさい...!全部私のせいです...!今回のことは全部私に任せてなんて言ったばかりに...」

 

島の沿線に並び立つ集落。その集落に囲われるようにして聳える、島の中心の小山の中にポツンと作られた小綺麗な東屋の下で、ノノミは何度も何度も頭を下げる。普段の先輩からは想像もつかないその取り乱し様に、アヤネとセリカもただアタフタするしか出来なかった。

 

「落ち着いてノノミ先輩...!別に無人島に漂流した訳じゃないんだから、本当に不味くなったら先生に助けてもらえば...」

 

「そうですよ!それにこれからの事はシロコ先輩に任せれば、お金が無くてもきっと何とかなります!ひとまずは先輩が帰って来るのを待ちましょう...?」

 

後輩達のその言葉で幾分か落ち着きを取り戻したノノミは、最後に二人に大きく頭を下げた後、ため息混じりの声でこう告げた。

 

「そうですね...。本当にごめんなさい...。まさか離島でサバイバル生活をすることになるとは、思いもよりませんでした...」

 

 

 

時間は数時間前、ホシノと先生が波止場近くの砂浜から宿に向かって歩き始めた頃に遡る。

 

「...行きましたね」

 

「ホシノ先輩、ホントに私達の事に気付いてないのね...」

 

「あんなにはしゃいでるホシノ先輩を見たの、久しぶりです...」

 

波止場の直ぐ近くに設置された待合室。島の観光案内や小さなお土産屋が併設されているそこで、ノノミ、アヤネ、セリカの三人は持ってきた双眼鏡で砂浜の上で子供の様にぴょんぴょん動き回るホシノをじっと観察していた。

 

お休みは私達抜きで過ごして欲しい

 

そうホシノに伝えたものの、色々と危なっかしい先輩を一週間も放って置いたらバカンスを楽しむどころかまた無理な事をするのではないか。そんな心配を最後まで断ち切れず、結局4人は自分達も対策委員会としての仕事を一旦休み、ホシノの動向を影から見守ることにしたのだ。

 

もっとも、まさか先輩が同じ期間の休みを取った先生と離島でバカンスを楽しむことになるとは、流石に誰にも予想出来なかったが。あの時ノノミの素早過ぎる判断と彼女のカードが無ければ、彼女達の尾行は初日で破綻していただろう。

 

「そしたら私達も移動しましょう...あれ、シロコちゃんは...?」

 

ホシノが集落の中にその姿を消したことを確かめ、双眼鏡を外したノノミは、少し前まで隣にいたシロコがそこにいないことに気付く。

 

「シロコ先輩ならあそこにいますよ。私、呼んできますね。ノノミ先輩達は先に出てて下さい」

 

ノノミと同じように双眼鏡から目を離したアヤネは、自分達の少し後ろで壁に貼られたポスターを眺めるシロコに駆け寄る。

 

「シロコ先輩、さっきから何を見ているんですか?」

 

「この島にいる魚のポスター。見てアヤネ。この島、こんなに大きなハリセンボンがいるみたい。素潜りで獲れるかな?」

 

シロコの言う通り、そこには観光案内のポスターに混じって、この離島に生息する魚介類の写真が所狭しと並ぶカラフルなポスターが貼られていた。その中にある、まん丸に膨らんだ巨大ハリセンボンを指さすシロコの目は、砂浜の上のホシノに負けず劣らずな光を湛えている。

 

「あの、シロコ先輩...。水を差すようで申し訳ないんですけど、その横に張ってあるポスターも、見たほうがいいと思いますよ...?」

 

アヤネは困った顔で、魚のポスターの横にある注意書きを指さす。それはヴァルキューレの局長、尾刃カンナがスクール水着姿で「密漁は立派な犯罪です!」という注意をしているポスターであった。誰のセンスかは知らないが、中々にインパクトのある絵面だ。

 

「ん、分かってる。だからアヤネ。私は」

 

そこでシロコはやたらキリッとした顔でこう返す。

 

「密漁をする」

 

「なんでそうなるんですか!?」

 

暇さえあれば銀行強盗を企てようとするこの先輩のことだから嫌な予感はしていたが...。アヤネの鋭いツッコミが、朝日で照らされた待合室に響き渡る。

 

「そこは気に入ったっていうべき。それにアヤネもここの魚達、食べてみたいでしょ?」

 

あまりに能天気なその発言と態度に、アヤネの修正スイッチが入る。

 

普段無気力なくせにいざという時は自己犠牲の精神に支配され一人で突っ走って行ってしまう3年生。それぞれ別ベクトルで常識の無い2年生。真面目で真っすぐだけど、一人でキヴォトスを生きるには財産が幾らあっても足りなそうな位には騙されやすい同級生。

 

癖のあり過ぎるアビドスの面々の軌道修正をするのはいつだって、常識人であるアヤネの仕事だ。

 

「確かに見た事も無い魚達ばかりですけど!密漁なんてキヴォトスでもかなりの重罪なんだから絶対にしないで下さい!それに今回私達がここに来たのはホシノ先輩を見守る為なんですから、島の人達に迷惑をかける行為なんて言語道断です!!」

 

「ご、ごめん...」

 

アヤネの余りの剣幕に、流石のシロコも及び腰だ。

 

「ほら、行きますよ!ホシノ先輩に見つかる前に食糧の買い出ししないと!シロコ先輩も荷物ちゃんと持って下さいね!」

 

「う、うん...」

 

名残惜しそうにポスターを見つめるシロコの腕を引っ張り、アヤネはぷんすかしながら待合室を後にした。

 

しかしこの時のアヤネは知らなかった。アビドス高校随一のアウトロー、砂狼シロコ。堂々と密漁をすると言い切るその胆力と、それを可能にする彼女の泳力が無ければ、自分達は帰りの船が出るまで飲まず食わずで過ごす事になっていた、ということを。

 

 

 

 

「あ、ごめんなさいね。うちの店、現金しか使えないの...」

 

「え...」

 

お米や肉、野菜、それとスナック菓子...。島唯一のスーパーマーケットでこれから島で過ごす間の食糧を買おうとしていたノノミは、レジにて店主に言われたその言葉で思考が停止する。

 

「あ、えっと...そ、そしたらお金下ろして来ますね...!一番近くのATMって...」

 

「えっと、ごめんなさい。この島、ATMも無いのよ...」

 

「...え」

 

機能停止しかけていた頭が、今度は真っ白になる。

 

「この島、観光地になり始めたのが本当に最近のことだから、そういうインフラもまだまだ行き届いていなくてね...。もしかしてお嬢さん、現金持たずに来ちゃったのかしら...?」

 

心配そうな店主の言葉が右から左に、ノノミの耳をただ通り抜けていく。ノノミはぽかんとした顔で、手元の食糧を見つめる。

 

(嘘...。そしたら私達、これからどうやってこの島で過ごせばいいの...?)

 

急遽として決まった離島への旅。十分すぎるお金があるホシノとは真反対に、それぞれ稼いだお金をホシノへの贈り物として折半した後は全て借金返済に回していた4人に、その旅を可能とするだけの持ち合わせが無かった。唯一人、セイントネフティスの令嬢であるノノミを除いては。

 

「今回の旅の費用は全て私が払うので、皆さんはキャンプの準備だけをお願いしますね!」

 

集落にある民宿に泊まったらホシノや先生に見つかるかもしれない。それを見越し、4人はこの島での滞在はキャンプで行うことを決め、その間の食糧は全てノノミのポケットマネーで賄うことに決めていた、のだが。カードが使えないとなれば、話は全く変わって来る。

 

「え、と...。と、とりあえずお会計中止して貰って良いですか...?商品は自分で戻して来るので...」

 

心ここにあらずと言った様子で、ノノミは商品の入ったカゴを持ち、ふらふらとレジを後にした。

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