新・光神話パルテナの鏡〜雷霆の歌姫〜   作:織姫ミグル

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第6章

 

 

ローブを着てフードをすっぽり被っただけの人間の男が、もはや別次元の存在に見えた。

 

 

ァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!??

 

「ほら!! 足掻け足掻け!! シンフォギアッ!!」

 

 

ライブ会場に電光が走る。

 

神の如き力を手に入れた錬金術師によって、その歌はどんどん掻き消されていく。

 

 

 

♡♥♡♥♡

 

 

 

同、付近に停泊していた潜水艦内部。 

 

国連直轄の超常災害対策機動部タスクフォース、『S.O.N.G』の艦橋に、クルーの叫びが響き渡っていた。

 

 

「会場近くの映像、一切拾えません!!」

 

「それに加え、装者達への連絡もできません!!」

 

 

一瞬にして艦橋内は殺伐と化した。

 

残業分働いてもお釣りが来るほどに一気に忙しくなったせいか、クルー達の焦りから生まれる不安感は、今ここの管理を任されている藤尭と友里にも充分伝わってくる。

 

 

「何か司令からの連絡は!?」

 

「ありません!!」

 

 

クルーの声に、皆が息を呑んだ。

 

司令だけでなく、問題が発生した場合はあちこちから連絡が入るはずなのだが、それすらもない。

 

国側や運営側などもどう対応するかに困っているのか、何にしても余計な仕事が増えないのは嬉しいことではあった。だが、それは同時に情報を共有できないということでもあり、最終的には余計な心配が生まれている。

 

 

「映像も連絡も取れないなんて、通信を妨害されているとしか思えないわね··········ッ!!」

 

「俺達で何とか対処するしかないけど、ここまで現場の情報が取れないんじゃ対処のしようがない··········ッ!!」

 

 

二人は他のクルーよりは落ち着いた、それでもどこか苛立たしげな声を上げた。 

 

だがそれも無理からぬことではあった。ただでさえ滅茶苦茶な状況の中、突然映像が途絶し、異常事態を知らせる警報も鳴り止み、観測機さえも何の感知もしなくなったのだから。SNSによって一般人から一般人へと情報が拡散してすぐにでも事件現場のことが知れる今の世の中でも、ネットを開いても詳しいことはわからない。精々、会場付近一帯が停電したということと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

あとは現場に行かないとわからない。

 

映像も何も拾えず、ニュースを見ても画面に映るのはアナウンサーと芸能人の中間ぐらいの女性や男性らが、急いで書かれたであろう原稿を読み上げているものしかない。パソコンで打ったような綺麗な文字ではなく手書きのせいか上手く読み上げられず、しかも早口で途中で噛んでしまっている姿から、かなりの緊張感がこちらにも伝わってくる。どの放送局もまだ詳しい情報が得られていないのかスタジオ画面しか映らず、そこでアナウンサーの隣に座っていたコメンテーターが何やら憶測みたいなことを語っている番組もあった。現場にリポーターがいるとは語っていたが、どういうわけか映像が繋がらないのだという。現場付近にいる関係者に電話をかけても電波が乱れてるみたいな電子音声が聞こえてきて、これもやはり繋がらなかった。

 

情報が全く掴めない、停電区域。

 

まさに、真の暗闇だった。

 

真実も謎という闇に包まれ、一切の情報が得られないのでは、人々は何が起きているのかわからずに事件の背景すらも掴めない。

 

 

「“エルフナイン”ちゃん!!」

 

「はい!! 今やっています!!」

 

 

友里に呼ばれ、藤尭との間にいる可愛らしい小さな少女の姿をした錬金術師の“エルフナイン”は、何やらヘッドギアのような機械を頭に被り、操作していた。

 

それはかつて、『神獣鏡』という聖遺物から作られたシンフォギアに搭載されていた『ダイレクトフィードバックシステム』を錬金技術によって再現した装置、『電界顕微観測鏡Beatrice』。電気信号化した自分の意識で相手の脳内を観察する機器としたものである。“ウェル博士”というマッドサイエンティストの手によって開発され、人間の脳内に直接的に介入するこの装置は、最悪の場合意識や記憶を操作して操ったりすることができる。

 

要は、他者の頭を弄る機械。

 

だが、今被っているのはその最新改良版。

 

その装置は精神感応もしくは読心能力、所謂『テレパシー』という能力を獲得した高性能な機械で、とはいえこれはあくまでも記憶を覗くことを念頭に置いているため、他者とのコミュニケーションを念話によって取るみたいなことはできないが、遠く離れた人の心を読んだりすることができる優れものだった。

 

以前、風鳴司令が忙しい自分のために息抜きにという想いから借りてきてくれ、そのヒーロー映画に出てきた登場人物の『下半身不随の地球最強のテレパス能力者』からインスピレーションを受け、開発に至ったらしい。

 

完全には再現できなくとも、電気信号化した自分の意識を電磁波によって他者の脳に割り込ませ、敵の情報を得るという計画から生まれたこの装置を使って、現場の状況を知るという作戦。

 

現場に態々向かって危険なリスクを負うよりも、遠く離れた所から相手のことを知ることができると言えば聞こえは良いが、実はまだ本番で使用したことはないため、安全のために作成者本人であるエルフナインが頭に取り付けて、今現場にいる観客達の誰かの脳内に入り込んで情報を得る。

 

装置の後ろに伸びているケーブルを専用端子に繋ぎ、装置の出力を上げる。

 

あとは意識を集中させれば、誰かの脳内に飛ばされて記憶を覗き見ることができるはず。

 

そう、()()()()()()()()()()()()()

 

 

「では、やってみます!!」

 

「ほ、本当に大丈夫なのか?」

 

「もしエルフナインちゃんに何かあったら────!!」

 

「大丈夫です!! 部品の一つに至るまで徹底的に改良して作ったこの装置なら、安全に誰かの脳内に何の後遺症も負わせずに入り込めます!!」

 

 

二人が心配してくれるのに対して、笑ってそう言うエルフナイン。

 

彼女は頭に装着した装置の電源を入れ、本格的に他者の意識へと自分の意識を送り込もうとした。神経の機能が切れ、暗闇へと誘われるエルフナインの意識。現実空間での感覚が消えていくごとに、外部へと意識を飛ばす準備が整っていく。最初はぼんやりとした脳に違和感があったが、徐々にその現象に慣れると、誰かの意識と繋がったのかエルフナインの頭の中に景色のようなものが映り込む。

 

暗闇が晴れ、()()()()()()()()()()()()()()()────その瞬間。

 

 

バチンッ!!!!

 

 

頭のヘッドギアから何の脈絡もなく、『青白い火花』が散った。

 

ゴトン、という音が続いた。 

 

ふらり、とその体が後ろへ揺らいだと思ったら、唐突にエルフナインがそのまま何の抵抗もなく床に転がってしまった。バタン、という結構大きな音が聞こえたが、それきりエルフナインが動く気配がない。二人はギョッとして、それからエルフナインの元へ駆け寄る。

 

 

「エルフナインちゃん!?」

 

「どうしたんだ!?」

 

 

耳元で名前を呼んでも、倒れているエルフナインの頭を揺すっても、全く反応してくれない。

 

鼻から赤い鮮血を垂らし、瞳孔を開き、()()()()()()()()()()()()()()()()()姿()()、見るからに苦しそうな様子だった。

 

サイバー攻撃による反動か、エルフナインの体に電流が走り、身体中を痺れさせていた。

 

友里は知恵が足りていないながらも、医療ドラマで見たことを真似して口元に掌を当てて呼吸の有無を調べ、首筋に手を当てて脈を測った。とりあえず生きているようだが、そういった事をしてもやはり一向に目が覚める様子はない。

 

とりあえず、彼女の頭から火花を出している装置を取り外し、楽な姿勢にしようとしたところ友里と藤尭の耳に、とある音が聞こえてきた。 

 

艦橋のドアが開く音。

 

床を強く蹴る音。

 

そして──────

 

 

「尋常ではないようだな」

 

 

 

♡♥♡♥♡

 

 

 

会場までの道のりは険しすぎた。

 

もう目と鼻の先であったにも拘らず、一向に辿り着けなかった。周辺に展開された人の波の中を歩くのは、満員電車の車両を一番端から端まで歩いていくようなもの。

 

体を圧迫されながら突破するのに時間がかかり、それでもという思いから人混みを掻き分け、緒川に事前に言われていた関係者用の入り口へと辿り着くと、響はタックルするようにしてそのドアの中へと転がり込む。

 

分厚い扉を背中で押すように閉め、背後からガンガンという暴力的な音や衝撃が跳ね返る。急いで逃げる人々が隙間なく道に広がっているせいで、扉に肩や腕が当たっているのだろう。

 

響は扉に背中を預けつつ、床に腰をゆっくりと下ろす。

 

 

「いったぁ·········ッ!!」

 

 

無論、無傷では済まなかった。

 

落ち着いて呼吸をする響の肺に、人の叫びが混じっていない酸素が流れてくる。

 

だが、それでも異様に息苦しかった。

 

先程まで人の塊の中を進んでいたんだ。無理もないことだが、それでもここら一帯の空気は何か別のものでも混じってるのか、あの体力バカとまで言われた響でさえ息切れを起こしている。それだけじゃない、彼女のこめかみには一筋の血が垂れ、顔中に引っ掻き傷が刻まれている。

 

やはり、あの波の中を無傷で進むのは無茶だったか。

 

肩で息をしながらも、背後のドアの向こうから聞こえる人混みの叫びから離れるように歩く。

 

心なしか、足元はフラフラでおぼつかない感じだった。

 

注意しないと細い廊下の壁に肩がぶつかりそうであった。

 

 

「みんな·········ッ!!」

 

 

しかし倒れるわけにはいかない。

 

ここで倒れたらみんなが危ない。

 

何が起きているのか、全体の状況は把握できずとも、何か良くないことが起きているというのは流石の響きでもわかっている。

 

親友や先輩、後輩二人にオカン的な存在である彼女達の身にも危険が迫っていると思うと、響は決して足を止めるわけにはいかなかった。

 

電気が全くない廊下は薄暗く、この先は一体どうなっているのかすらわからない。

 

けれども構わずその先へと進む響。

 

そんな彼女の耳に──────

 

 

ァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!??

 

「ッ!?」

 

 

唐突に響き渡る悲鳴。

 

会場内のスピーカー全てから放送されたその悲鳴は、自分が最も尊敬するあの『歌姫』のものだった。停電した状況下、電気はどこも死滅しているはずなのに、どういうわけかスピーカーから聞こえてきた悲鳴。

 

叫びのあまり音割れを引き起こし、苦しそうな感情が余計に伝わってくる。

 

まさか、という焦りが響の胸に襲いかかる。

 

 

「翼さん!!」

 

 

響は灯りのない廊下を走り抜ける。

 

その悲痛な叫びを聞いた瞬間に寒気を覚え、傷だらけの体を動かして目的地へと急ぐ。

 

 

 

♡♥♡♥♡

 

 

 

その周辺だけ、電気が点いたり消えたりするという現象が起きていた。

 

錬金術師は翼に向かって、その電流が走る両腕を伸ばした。

 

その一◯本の指先から目の眩むような青白い電撃が放たれ、魔法の稲妻のように会場を渡って翼の脳天から足先まで貫き、引き裂こうとした。剣の歌姫は避けることもできずにそれを喰らい、激痛に身悶えした。

 

 

ァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!??

 

「ほら!! 足掻け足掻け!! シンフォギアッ!!」

 

 

魔法の稲妻の余波が会場中に散る。

 

その瞬間に死滅した電気系統は一時的に息を吹き返し、だがそれもすぐに消える。歌を歌う翼を映し出すための大型モニタにノイズが走り、乱れた映像が映る。舞台に立つ翼を注目させるための色鮮やかな照明も点滅し、無様に地面に転がっている彼女の姿が一瞬だけ見えた。

 

放たれる電撃は死に至る一撃ではないものの、断続的に続くために受ける時間が長く、その上異様な曲がり方をして放たれるために避けることが難しかった。枝分かれした木の枝のような残像が見えても、それは一瞬にして放たれ、着弾する時はまさに刹那。当たったと脳が認識した頃には激痛が走り、その痛みによって思考が消し飛ばされる。

 

空気を突き破る電撃は空気中の酸素を分解してオゾンに組み替え、どんなに距離が離れていても一瞬で到達する。

 

シンフォギアという、聖遺物の欠片を組み込んだ装備でも、この圧倒的な破壊力には敵わない。

 

これほどのパワーは聞いたこともなければ、もちろん経験したこともなかった。

 

辛うじてシンフォギアのおかげで威力は最小限となり、意識は手放さない程度には収まっているが、しかしその高圧電流には解剖学的にも人間の体では耐えられない。たとえシンフォギアという異端技術でも、電流を受け続ければ人体がどうなるか想像に難くない。

 

少なくとも、普通の人間の体にスタンガンを受け続けさせているようなものだろう。

 

うつ伏せになったまま動けなくされた翼のシンフォギアの所々から、線香のように薄い煙がゆったりと漂ってくる。長時間テレビゲームをやっていると、ゲーム機本体が熱を持つように、物体に電気を通すとジュール熱という熱量を生み出す。

 

高圧電流が生み出す膨大なジュール熱は、翼の体のあちこちに軽度の火傷を刻み付けているようだった。

 

シンフォギアの防御フィールドをも突破してくる電撃は、もはや雷撃だ。

 

当然、痺れている体ではシンフォギアの力を引き出すための歌は歌えない。

 

舌が痺れ、肺を動かすための機能までおかしくなる。

 

このまま受け続ければ──────

 

 

バンッ!!

 

 

乾いた音が響き渡る。

それが聞こえた瞬間には、錬金術師の男のこめかみ付近に何か小石程度の大きさの物体が突き刺さっていた。

 

 

「大丈夫ですか翼さん!?」

 

「お、緒川·········さんッ!!」

 

 

舞台の上手、そこには自分のマネージャーである緒川慎次が拳銃を引き抜いている姿があった。

 

痛めつけられている彼女を救うために、マネージャーモードからエージェントモードへと切り替えた彼は、突き刺すような目で錬金術師の男を見る。

 

 

「ざーんねん!」 

 

「ッ!?」

 

 

そこには、無傷のまま立っている姿があった。

 

バシィッという雷鳴音が弾け、次の瞬間には緒川が撃った銃弾があさっての方向に弾き飛ばされる。

 

なんだ、いまのは? 

 

一瞬のことだったが、銃弾と錬金術師の間に青白い燐光を見た。

 

 

「そんなもので殺せると思ったか?」

 

「ッ!!」

 

 

その時を見計らっていたかのように、緒川は標的を人とは思わず、化物を見るような目になり、構えている銃の引き金を引きまくった。耳をつんざく発砲音、おかしな軌道を描いて放たれる銃撃。再びの雷鳴音と共に、今度はよりはっきりと青白い燐光が見える。

 

ピリピリと、男の周囲の空気が帯電している事に気づいた。

 

電磁波のバリア。

 

金属製の銃弾を貫通させず、バリアを張ることで当たる前に止めてみせた。

 

男は緒川が放った銃弾を手に取り、両手の指の間に挟むと、

 

 

「お返しだ」

 

 

男の体に電流が走った瞬間、手の中から銃弾が放たれる。

 

花火のようにも見えた。

 

男の電撃によって指と指の間に超強力な電磁波を発生させ、磁力の反発力と吸引力を使って金属の銃弾を撃ち出した。

 

見た目で言えばクールで派手好きなオートスコアラーの“レイア・ダラーヒム”が使っていた技にも見えたが、威力も速度も桁違いだった。

 

周囲の大型モニタや客席が吹き飛び、硝煙のきついにおいが漂う奇妙な静けさの中、運悪く跳弾が当たったのか、側にいた翼の呻き声が聞こえた。

 

 

「ぐっ!?」

 

「翼さん!?」

 

 

失態だった。

 

緒川は大切な存在である彼女を守るどころか足手纏いになってしまったことを悔やみ、酷く苦い唾の味をどこかこの世のものではないような心地と共に飲み込んだ。弾痕だらけの会場の中央で錬金術師が周囲を見下ろしていた。

 

倒れている翼は麻痺したように動かない。 

 

そもそも電撃を間断なく受けて、ほとんど意識を失いかけていたところに被弾したのだ。途方もなく痛めつけられ、自らの本質までも枯渇させる弱さに向き合わされ、これ以上ないくらいに絶望させられた。

 

当たったところは太股付近で、命に別状はないだろうが、アーティスト活動をしている彼女にとっては傷一つでも致命的な欠陥と化す。

 

錬金術師が鷹揚に両手を広げる。

 

 

「ほら、死ぬ気で守らねば大切なこの女は死ぬぞ?」

 

「ッ!!」

 

 

壊れたように笑う男が、闇の中に広がる嵐のように見える。 

 

引き裂いたような笑みと共に、青白い閃光が視界いっぱいに広がる。 

 

電流が走った口が罵声を放ち、こちらを見下してくる。

 

 

「うおらァァァアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 

そんな両者の間に、鼓膜を突き破るほどの轟音が鳴り響いた。

 

それは通常の銃弾ではない。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

当然ながら、それが金属である以上は錬金術師には届かない。

 

だが問題はそこではない。

 

第三者が横槍を入れたのだ。

 

その証拠に、男が忌々しげに舌打ちすると放ってきたであろう方向へと目を向ける。

 

突然の出来事に驚く翼の前で、観客席の方に『五人』のシルエットが見えた。人間の姿でも、みんな形が違い、まるで武装を纏っているようにも見える。

 

 

「無事か!? 先輩!?」

 

 

聞こえてきたのは、愛しい後輩の声。

 

援護してきたであろう赤い武装を身に纏った少女の隣には、同じくそれぞれの色を象徴とした武装を装備した彼女達の姿があった。

 

 

「待たせたわね翼!!」

 

「遅くなってしまって申し訳ないデース!!」

 

「避難は完了! これで思いっきり戦える·········ッ!!」

 

「今助けますから!!」

 

 

同業の歌姫、一番下の後輩二人組、そしてシンフォギアではなく錬金技術によってファウストローブという装備へと変えたものを身に纏う少女。

 

仲間達がようやく駆け付けた。

 

それぞれ、聖遺物を手にして。

 

 

「·········」

 

 

そんな彼女達を目にしても、男は全く興味がないのかまるで道端に転がっている虫の死体でも見るような目つきで一瞬だけ見ると、すぐに視線を外してため息をつく。

 

 

「おいテメェ!!」

 

 

翼の後輩、雪音クリスが叫び、無視する男に絶大なる敵意を向ける。

 

 

「テメェ·········ここまでのことをやっておいてタダで済むなんて思ってねぇよな?」

 

「·········」

 

 

気の強い彼女の言葉に、男はもう一度横に並んでいる少女達の方へと目を向ける。

 

心底、興が醒めたように、

 

 

「面倒だな·········」

 

 

低い、重低音加工されたような声に混じって静電気のような殺意が周囲の空気へと漏れる。

 

翼からクリスへと移されるその視線。

 

フードに手をやった。だがすっかり脱がずに、端を折り返すに留め、かろうじて目、鼻、口の配置の特徴を全員が認識処理できる程度に見せた。

 

体全体に電流が走り、透き通る青色に染まっていた。血管や体内の電気の流れが透けて見えるなど、クリーチャー染みた恐ろしい外見。

 

歩く度に地面に電流が走っている。

 

会場内はライブのためにあらゆるところに電線が張り巡らされ、そこに男の電流が流れて四方に散っていく。

 

青い瞳が、冷酷に染まる。

 

その笑みが薄く広がっていったかと思うと、虫でも払うように片手から何かを放った。

 

電撃ではない。

 

いくつもの、『宝石』のようなものだった。

 

それが地面で砕け散ると、魔法陣のようなものが展開されて『悍ましい災厄』達が召喚される。

 

 

“アルカ・ノイズ”

 

 

触れればその体を分解させ、赤い塵へと化す脅威的な存在。

 

シンフォギアを纏った彼女達なら、容易に対処できる敵。

 

だが。

 

どうも見た目がおかしかった。

 

あらゆる種類のノイズが召喚されたが、どいつもこいつも青く染まっていた。よく見ると、身体中から青白い閃光を放っている。

 

見ればわかる。

 

電流だ。

 

男と同じように身体中に電流を帯び、飛び道具以外でその身に触れればどうなるか、お決まりな展開すぎてすぐにわかった。

 

そしてそれが一瞬で会場中を埋め尽くし、少女達の逃げ場をなくした。

 

 

「「「「「!?」」」」」

 

 

囲まれた装者達。

 

包囲網がじりじりと狭まってくる。 

 

どこに目があるか分からないノイズ達からさえ感じる、突き刺さるような視線。与えられた本能が闘気となって発散されているようだ。 

 

その無数の感情なき殺意全てが自分達に向けられている。

 

そして──────

 

 

ビュン!!

 

 

それら全てが一斉に襲いかかってきて、皆声を引きつらせながらも懸命に歌い出し、各々武器を振り回す。

 

 

「あいつらに触れるな!! 触れた瞬間に感電するぞ!!」

 

 

飛び道具使いのクリスが皆にそう指示し、彼女は持ち前の命中率で敵を消し炭にしていく。

 

彼女は大丈夫だろうが、ここにいるほとんどが接近戦に特化した聖遺物を纏った者達ばかり。攻撃を遠くに放つ技でもない限り、倒すのは至難の業だった。

 

クリスが突破口を作り、皆が散開して対処にあたるが、

 

 

「そんなこと言われても、鎌とノコギリの調とアタシ達じゃ難しいデスよ!?」

 

「マリアも·········! 射撃技があるとはいえ辛そう·········!!」

 

 

後輩組にも一応そういった技があるとはいえ、限定的になると倒すのに時間がかかる。

 

戦女神ザババの振るう双剣では感電する恐れがある。

 

 

「く·········!! この程度の敵なんて、いつもなら簡単に倒せるのに·········ッ!!」

 

 

マリアもドリルを兼ねたビーム砲にして倒しているが、技が絞られているせいでどこか不満げだった。爽快感というものだろうか、鞭のように展開される片手剣をメインに戦ってきたため、あまり使用していない技を使うことになってしまってやりにくかった。

 

 

「手強い·········!!」

 

 

未来に至っては、技は問題ないだろうが実戦経験が圧倒的に不足しており、そういう意味では倒すのに苦戦している。

 

 

「くく·········っ!!」

 

 

そんな彼女達を嘲笑う錬金術師。

 

これでこっちに集中できる。

 

メインディッシュである瀕死の翼に目を向けると、あのスーツに身を包んだマネージャーの緒川が彼女に肩を貸して避難しようとしている姿があった。

 

 

「ッ!!」

 

 

見つかった、そんな顔をする緒川に、錬金術師は右手を突き出す。

 

男の掌に青白い火花が発生。

 

──────これで終わり。

 

そんな絶望的な思考が頭を過った時、

 

 

Balwisyall Nescell gungnir tron

 

 

歌声が響き、

 

ヒュン、という風切り音が二人の思考を断ち切る。

 

 

「うおりゃァァァアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 

落雷のような怒号。

 

男に避けるだけの余裕はなかった。

 

もしかしたら、拳銃の弾丸よりも早かったのでは、と緒川は思う。

 

だが、

 

 

「馬鹿が·········」

 

 

男の表情は変わらない。

 

突っ込んできた少女がその舐めた表情をする男の顔に拳が突き刺さる直前に、青白い電磁バリアフィールドが扇状に膨張し、恐ろしい勢いで駆け付けた少女の拳に電流が殺到する。

 

 

「あッ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!?????」

 

 

凶暴に吼える雷撃の一撃が、立花響の体を走り抜ける。

 

 

「立花ッ!?」

 

 

再起した翼が見たのは、電磁バリアに触れて空中に固定された響の姿。

 

錬金術師の男は、それを楽しそうに受け流したかと思うと胸に衝撃。胸にめり込んだ拳打に響は吹っ飛び、後ろの大型モニタに背中から激突────歌が途切れる。

 

 

「あ········がッ!?」

 

 

激痛に顔を歪めながら地面へと落ちる響。

 

そんな彼女の元に急いで駆け寄る翼と緒川。

 

 

「無事か立花!?」

 

「大丈夫ですか響さん!?」

 

「は、はい········」

 

 

笑って誤魔化す響だが、やはり拳による接近戦では相性が悪かった。

 

吹き飛ばされた響は痺れる体を動かして、錬金術師の方へと目をやる。

 

 

「愚か者めが」 

 

「「「「「「「「!?」」」」」」」」

 

 

錬金術師は響だけでなく、そこにいる全員までも罵倒した。

 

 

「これでわかっただろう。貴様らのたわいない力など、完全聖遺物の相手ではない。これが愚かさの報いだ。さあ、シンフォギア共、報いを受けよ。お前らは死ぬのだ!!」 

 

 

錬金術師が激しく笑う。信じがたいことに、その指先から放射される閃光はさらに強まった。轟音が響き渡り、残忍な雷光が辺りを圧倒した。 

 

譬えるなら、直径三メートル程度のレーザー兵器。

 

当たっただけでも無事では済まない。

 

雷の一撃。

 

ゴムのような電気を通さないものでなければ防ぐことはできない········いや、もはやそんなもの何の役にも立たないだろう。

 

聖遺物の破片ごときで、完全聖遺物に敵うわけもない。

 

けど、

 

だとしても、

 

 

「ッ!!」

 

 

立花響は腰にある噴射口から火を噴かすと、その一撃を食い止めるべく壁となるように後ろの翼と緒川を守る。 

 

 

「立花!?」

 

「響さん!?」

 

 

庇うように前に立つ響だが、武器が拳しかない彼女にその攻撃は防げない。

 

 

「響!?」

 

「お、おい!! よせ!! やめろ馬鹿!?」

 

「今の貴女では無茶よ!? 逃げてッ!!」

 

「「響さん!?」」

 

 

響はその瞬間、周囲の仲間達の叫び声を聞いたような気がした。 

 

それが親友か、可愛い先輩か、あるいは世界の歌姫の声なのか、後輩達の声だったのか、それすらも響には分からなかった。

 

走馬灯みたいなものまで見えた気がした。

 

本能でもわかってるのだろう。

 

────死ぬ。

 

それでも、彼女は退かない。

 

たとえどれだけ強力な攻撃だろうと、困っている人を助ける。

 

────へいきへっちゃら。

 

そう言うように守るべきものに微笑みかけ、両手を横に広げて守り抜く。

 

 

「立花ァァァアアアアアアアッ!!!!!!」

 

 

彼女の尊敬する人、風鳴翼が吼える。

 

その光景が、翼のパートナーである天羽奏の最後の姿と重なって見えたのだ。

 

響もそれに倣うように守る姿に、翼は手を伸ばす。

 

雷のレーザーが迫り来る。

 

それに呑み込まれ、立花響は消えゆく────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウリャリャリャリャリャリャリャリャッ!!!!!!」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突如、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

轟!! と空気が押し潰される。ほとんど隕石の墜落に近い一撃が襲いかかる。緒川は翼を押さえつけながら身を縮め、前を見ようとする。

 

眼前にいるのは、響だけではなかった。

 

“それ”は思い切り手に持っている『黄金の弓』を回し、風を切り空気を割りながら、放たれたレーザーを弾いて四方八方へと飛び散らせていく。

 

 

()()()()!?」

 

「え──────?」 

 

 

響も命の危機が迫っているというのに、そんな呆然とした言葉を発していた。 

 

 

だってその姿は、

 

 

()()()()()()()()()()()()、“()使()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

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