「クソ!何故こうも上手くいかんのだ!」
ここはとあるテントの中。そこでは1人の真っ赤な鎧を纏い、獅子を想起させる見た目の美丈夫が机に拳を打ちつけ怒りに身を震わせていた。
「だから言ったのに……」
その後ろには控えるように佇むこれまた容姿の整った青年がいた。青年の名はマリウス・ウィクトリクス・ラキア。ラキア王国の王子である彼はこれ見よがしに、「はぁ」とため息をつきながら己が主人…いや
主神の名はアレス。軍事国家であるラキア王国で軍神と崇められる彼は、ただいま絶賛敗走中であった。
ことの発端は一週間前。「オラリオを攻め入るぞ!」と宣言したアレスは50万を超える兵力を率い、
ここまで話しを聞いた諸君には幾つか疑問が湧いただろう。オラリオとはなんぞや?神がなんでおる?青年て誰や?そもそもここどこや?はよ本編行け。などなど……全て話せばキリがないのでまず1つ答えよう。
ここは剣と魔法と魔物、そして
神々は普段天界におり、仕事やら何やらで忙しくしている神もいる。だが逆に退屈している神もいた。そう言った退屈な神々は、ある時天界から
そしてこれは、そんな世界にやってきた。閉ざされた大地からやってきた。1人の剣士のお話。
* * *
「はあ」
私、マリウス・ウィクトリクス・ラキアは今日何度目かわからないため息を吐く。理由は、今目の前にいる我らが馬鹿しn……主神のアレス様にある。アレス様はこちらへ、苦虫を噛み潰したような顔で本気でわからないという声を上げる。
「なぜだ!マリウス!なぜ我が軍勢があんな冒険者なぞに負ける!」
私はまたしてもはあとため息を吐いてこの馬鹿……ではなく阿保……でもなく主神に事実を話す。それも極力この主神が癇癪を起こさないように細心の注意を払いながら。
「簡単な話です。相手側の冒険者達の方が、私たちラキアの軍よりも強かったからでしょう」
細心の注意をしたにしては随分な物言いだが、ここでハッキリと言わなければ私が我慢できない。
(まぁ、何を言っても聞く耳持たないだろうけど……)
アレス様は私の言葉を聞いて信じられないと言った顔をする。……信じらんないのはこっちなんだが…?
アレス様はそのまま立ち上がると、私の方へと詰め寄り大声で「我が軍が雇われの冒険者などに負けるわけがなかろう!!」と怒鳴る。……いや負けとるやろがい。
怒り出したアレス様をどうにか落ち着けようと四苦八苦していると私とアレス様がいるテントに1人の兵士が大慌てでやってきた。
ただ事ではないことを察した私は一旦この馬鹿……主神を放っておき、やってきた兵士に言葉をかける。
「何かあったか」
慌ててやってきた兵士は全身汚れや傷、包帯が目立っている。後ろで未だ喚く主神のせいでこんな姿になったことへと、国の王として不甲斐なさを感じる。だが今は気にしている暇はない。
「ほ、報告!何者かが野営地へ侵入!その後兵士たちが次々とやられています!!至急、指示を願います!」
私はこの報告を聞いて青ざめた。
ここはラキアとオラリオの間にある、山々に囲まれた野営地。こんな場所で襲撃を仕掛けるなんて賊は何者だ……?
敗走中とは言え、この大軍を前に
……いや、それは違うだろう。追手が来ていたならもっと早くに来るはず…だよな?ではどこの連中だ?
私は口元に手を当てながら思考を巡らせる。その間に報告に来た兵士は不安そうな目をこちらに向ける。私はその目を見て(しっかりしろ)と心の中で喝を入れる。
「賊達のかz「そのような賊、我1人で事足りよう!!」はあ!?」
質問しようとしたら後ろから妙に静かにしていた主神……じゃない馬鹿がおかしなことを言い始めた。コイツ……!静かだと思ったらまた変なことを……!
「ちょ!アレス様!?何勝手なことおっしゃってるんですか!!」
「たかが賊如き!この軍神アレス様が遅れをとるわけがなかろう!」
「いやいやアンタが万が一死ねばうちの国ヤバくなる事ぐらい想像着くでしょう!?大人しくしててください!?」
私はテントから飛び出そうとするアレス様の腕を引っ張りながら声を大にして叫ぶ。
「第一!アンタ1人で賊達に敵うわけがないでしょう!?」
「ぬ?」
アレス様は突然動きを止めた。私は引っ張り会うようにしてとっていたバランスを崩されそのまま後ろに尻もちをつく。慌てた様子で報告に来た兵士が助け起こそうと近寄るが、私はそれを手で制しながら汚れを払い立ち上がる。
「なんで急に止まるんですか!?」
「マリウスこそ何を言っておるのだ?」
アレス様は先程のムカつくドヤ顔から打って変わって心底不思議そうな顔をしてこちらを見る。
「はあ?」
私は言っている言葉の意味が理解できずに疑問符を頭に浮かべる。するとアレス様はこちらに向き直り確認するように聞いてくる。
「賊
「そりゃあ賊たt「賊は
アレス様は思考停止した私の顔を見て首を傾げるとそのままテントを出て高笑いしながら手ぶらで走って行ってしまった。
「……て、現場がどこかも分からず武器も持たないで飛び出してんじゃねえよ!この馬鹿!!」
私はアレス様の剣を持ち、報告に来た兵士に案内を頼み即座に馬鹿を追いかける。
……アレス様の言葉は何かの間違いだろう。あの馬鹿神が視認してもいない賊の数をわかるはずがない。そうだ、きっと気のせいだ。この嫌な予感は気のせいなんだ…!
# # #
兵士の報告にあった場所へ神アレスに追いつかないまま辿りついたマリウス。現場を見たマリウスは目を見開き、驚愕に顔を染めていた。
視線の先には100…最低でも500は超える、倒れた兵士達の姿があった。そして倒れ伏す兵士たちの中央には月明かりに照らされた1人の少年…いや、もう青年と呼べる見た目をした男がいた。男の右手には片刃の直剣とも呼べる形をした片手剣が握られている。
その様を茫然としていたマリウスは、はっと息をつき一番近くにいた兵士へと近づき脈を測る。生きてることにホッとしながら周りの兵士を見渡すと、周りの兵士は全員微かに動いていた。そのことを確認してマリウスはその事実に顔をしかめる。
生きている。そう、
賊などではない。そんな言葉で片付く相手ではない。マリウスは状況を見てすぐにそう判断した。こんなのにあの馬鹿……もとい主神が挑んだところで負けるのは目に見えている。この場にまだアレスはいない。今のうちにできる限りのことをしようと、マリウスは青年を正面から見据えて口を開く。
「貴様は何者だ?」
「……あ?」
問いかけに対して大分威圧的な返答を返した男に、マリウスは怯えや動揺を悟られないよう注意して再度口を開ける。
「これは我らをラキア王国の者と知っての狼藉か?」
「あァ?……いや待て、ラキア?ンだそれ」
マリウスはその言葉を聞いて眉を顰める。
(ラキア王国を知らない……?どこの
男の口ぶりから察するにラキア王国を知らない……ということになる。だがマリウスはその事実を信じられなかった。ラキア王国は周囲に戦争をふっかける軍事国家であり、豊かな大国である。それ故恨みを買うことも多く、この男もその類だとマリウスは考えていた。
だがもしも青年の言葉が正しければ、どこの誰が何の目的で兵士たちを皆殺し(誰1人死んでないし全員やられたわけでもない)にしたのかがわからなくなる。
マリウスが考え込んでいると今度は青年が口を開いた。
「なあアンタ」
「……なんだ?」
マリウスは突然話しかけてきた青年に警戒しながらも、返事をしないことに逆上して攻撃してくることを恐れ返答する。
その様子を見た青年は腕組みをしながら眉間に皺を寄せてウンウン唸り、しばらくしてマリウスの目をしっかりと見ながら真剣な顔で口を開けた。
「ここって……どこ?」