MUVLUV ALTERNATIVE the final episode 作:しおんの書棚
【 神宮寺 まりも 】
2001年10月22日14:30 横浜基地 シミュレータールーム
夕呼からの呼び出しが突然なのはいつものことだけど、今回は何か様子がおかしかった。
しかも呼ばれたのはシミュレータールームで、強化装備に着替えて来いなんて、誰かと対戦させられるのは間違いなさそうね。
「揃ったわね、これから3人にはある部隊と戦って貰うわ。機体も装備も好きな物を使って頂戴」
集められたのは、伊隅、月詠中尉、そして私。
「相手の人数は3人以下、機体は不知火。ただ言っておくわ、強敵よ。油断なく必ず勝ちなさい」
「失礼ですが香月博士、なぜ斯衛である私まで呼ばれたのか説明していただきたい」
そうね、斯衛の立場からいえば当然の主張よね。
「決まってるじゃない。ここにいる貴女達3人が、現在横浜基地にいる最強の衛士だからよ。それほどの相手だと認識して頂戴。そして、相手の要望でもあるわ」
月詠中尉は納得していない素振りだけど、強者と戦えることには異存がないのか了承したようね。伊隅にいたっては、疑問を抱くことすらないのか即答していたし。私には当然拒否権など無いことは言うまでもない。
「異論はないわね。じゃ、始めて頂戴」
部隊としては、伊隅と私がエレメントを組み、月詠中尉は遊撃ということになった。妥当な線だろう。
そして、市街地を舞台とした模擬戦が始まった。
月詠中尉とやや距離を取り、先行しつつ索敵。開始早々、前方を行く伊隅の眼前を不知火が横切った、あからさまな誘いね。
『神宮寺軍曹、誘いでしょうが追います』
伊隅の不知火が36mmをばら撒きながら追跡し、私は撃震で牽制の120mmを放つ。
徐々に相手を袋小路に追い詰めて行くけど、相手は一発の被弾も無く器用に避けながら先へ進む。
確かに良い腕をしてるようね。
『敵のエレメントについては月詠中尉に任せる』
『了解した』
このままなら相手は追い詰められ、いずれ蜂の巣になるから何か罠があるのは間違いないけど、どちらにせよ食い破るしかないでしょうね。とはいえ終点は目と鼻の先だし、どう足掻いても相手の逃げ場は無くなる。私は周辺をスキャンし、この場の敵機は目前の一機だけだと断定した。
「何を!?」
そして、追い詰めたと思った瞬間、咄嗟に回避行動を取った私は一撃で落とされた。
【 伊隅 みちる 】
完全に追い詰めた、逃げ場は無い。そう思った瞬間、目の前で爆発が起こり視界を塞いだ。
咄嗟に機体を止め、視界を確保しようとしたが目の前にいるはずの不知火が爆炎の余波で見えない。
『神宮寺機、コックピットブロックに被弾、戦死判定』
「馬鹿な!」
銃声とCPの声に反射的に叫んでしまったが、まさかと思いデータリンクを確認しても宣言通りの結果が見えるだけ。
そして、それが致命的な隙となった。
【 月詠 真那 】
『い、伊隅機、頭部・動力部・コックピットブロック両断、戦死判定』
別角度から見ていた私には、奴が何をしたのか良く見えていた。
まず、多目的装甲を地面に叩き付け爆発を起こし、爆風で巻き上がった瓦礫などによる煙幕を張ると、そのまま突進の勢いを殺さずビルに向かって跳躍し、その噴射でさらに煙幕の効果を上げる。
そして、跳躍前に起動した背部担架の支援突撃砲を神宮寺機に向けて発射。神宮寺機は、煙幕で位置・行動が特定できなかったはずだが、勘か経験か即回避行動に移った。しかし、放たれた120mmがまるで吸い込まれるようにコックピットを貫く。
その直後、奴は壁を蹴って伊隅機の背後上空に廻り、噴射降下しながら長刀にて一刀両断。一連の行動は狙ったものと見て間違いない。
エレメント警戒による私の行動抑制。
袋小路に追い詰めたと錯覚させる心理誘導。
煙幕による目晦ましからの跳躍狙撃による神宮寺機撃破。
作り出した隙を利用して長刀による伊隅機撃破。
全ては予定調和、見事の一言に尽きる。
『こちらCP。月詠中尉、敵は一機です』
「了解した」
思わず好戦的な笑みが毀れる。
敵は一機だなどと、そんなことはどうでもいい。奴と一騎打ちというなら、それこそ本望だ。何故なら奴は、ビルを背にこちらへ振り向くと、"長刀を除く全ての装備を捨てた"のだ。
オープン回線に切り替える。
「近衛の赤を相手に長刀での戦いを挑む、国連軍にも気概のある者はいるということか」
『私は、この国を護りたい只の日本人です。訳あって"横浜基地"にいるだけで、目的が果たせるのならば所属など何処でも良いのです』
存外興味が沸いた、この国を護りたいという男に。
「ほう、その目的とやら聞いても良いか?」
『友人、仲間、愛する人、敬愛する殿下が幸せに暮らせる未来を掴む。そのために日本を護り、その過程で世界中からBETAを駆逐する。ただ、それだけです』
「くっくっく、面白いな、貴様。つまり自分の幸せのために周りを幸せにし、結果としてBETAがいなくなるということか?
随分と利己的に聞こえるが、我欲を持ってなおその道を貫けるなら確かに素晴らしいかもしれん。だが、そのために犠牲を強いる者がいるとしても貫けるか?」
『無論です。すでに今の私を知る友人・仲間・愛する人・知人すら存在しない人間です。そんなことは今更な話。
それに道を指し示そうとする者は背負うべき責務の重さから目を背けてはならない、当然そこには犠牲も含まれます。この手はすでに血まみれだ、それでも明日を必ず掴み取ってみせる。
そして、そのためには安易に命を捨てることは許されないし、そんなことは自分自身が許さない。どんなにみっともなくても、どんなに蔑まれても生きて生きて生き抜いて最後の最後まであがき続けてでも目的を達成する。その末に、本当の最後に人としての強さをもって笑って死ねるように。
それが私の信念、決して曲げることのない己。
さて、私のつまらない話にお付き合いいただき感謝します。故に、先ほどの言葉を実現するためにも、貴女を此処で切り伏せます』
これは・・・・・・、本物だ。
全てを許容し、全てを覆す強い意志。目的のためならば手段を選ばず、手を汚すことすら躊躇わない。だが弁えることは弁え、簡単に死ぬことは罪だと言う。
言葉遣いは、まあ及第点か。だが、その言動や志には尊敬の念さえ覚える。あとは剣を交えれば判ること。
「いや、こちらこそ無粋なことを聞いたな、詫びよう。とはいえ簡単に倒されるつもりもないのでな、心してかかって参れ!」
『機密ゆえ名乗れぬ無礼をお許し下さい。国連軍、日本人衛士参る!』
「帝国斯衛軍、月詠真那中尉。その申し出、受けて立とう!」
そして、戦いの火蓋は切って落とされた。
【 イリーナ・ピアティフ 】
「・・・・・・凄い」
情けないことに、そんな言葉しか出てこない程の長刀による凄まじい近接戦闘が、モニターに映し出されていました。
かたや帝国斯衛軍の衛士、かたや名の伏せられた日本人衛士。その二人が尋常でない斬り合いを演じている。しかも、その最中に会話をしているなんて冗談としか思えません。
『くっくっく、やるな貴様。不知火で、よくもそこまで着いて来れるものだ』
『不知火もそう捨てた物ではないですよ? それに、お互い譲れない物がある。違いますか、中尉』
受け、捌き、交わす。
斬り、突き、なぎ払う。
際限ない斬り合いと会話、どちらも一撃すら受けていないのは脅威的です。
しかし、機体の状態、特に関節部の劣化具合は別でしょう。このままではお互いの機体に影響が出始めるのも時間の問題、特に不知火の方はスペック的にも戦闘時間的にも明らかに不利。ハイスペックの武御雷と比べれば、その影響は顕著だろうとも思っていました。
『まあ、それは言えるだろうが。しかし、そろそろそちらの機体に影響が出始めよう。このまま続けたいのはやまやまだが、お互い全力を振るえるうちに決着と行かぬか?』
『そうですね、では・・・・・・』
そう言うと、不知火がバックステップで距離を取り、武御雷が構えて双方が停止しました。
『中尉に平面機動による剣技だけで勝つには、"この不知火と今までの私"では力不足のようです。ですから私の"全力機動"による勝負、受けていただけますか?』
『確かに武御雷ならば、その腕をもっと活かせようが。
ふふふ、それにしても隠し玉があるということか? 受けて立とう、全力で来い!』
するとその直後、今までとは全く違う機動を始める不知火。
直線かと思えば、曲線。円運動かと思えば鋭角に。さらに上下の動きが入り乱れ、何を目的に動いているのか全く予想できません。
そして、武御雷が振るった一撃を難なく捌き、"全力機動"なるもので器用に背後へ廻る不知火。それと同時に逆手に持った長刀で機関部を破壊して勝負は決したのです。
「月詠機、機関部大破、戦闘不能」
『くっくっく、はっはっはっは! なんだ今の動きは!
全く理解できないが負けは負けだな。認めよう、貴様は強い』
こうして1:3の模擬戦は、大方の予想を裏切って、不知火の男性衛士が勝利したのでした。
横浜基地最強衛士トリオvsスーパー異世界人衛士をお送りしました。
<用語解説>
斯衛:征夷大将軍を守護する任を主とし、帝国最強との誉高い斯衛軍に所属する者の意。
全力機動:ご存知三次元起動、またの名を変態機動。
武が持ち込んだバルジャーノン(パロディー元はバーチャロンと思われ)のテクニック。