MUVLUV ALTERNATIVE the final episode 作:しおんの書棚
【 白銀 武 】
2001年10月22日16:00 横浜基地 香月夕呼執務室
執務室に戻って来た俺が、さっきと同様ソファに座ると、夕呼さんは天然物のコーヒーを入れ始めた。いい香りが漂う出来上がったばかりのコーヒーを俺の前に置いた夕呼さんは、そのままデスクへと向おうとしたが、そのタイミングで声をかけた。
「良かったら、ここに霞も呼んではいかがですか? 私にとっては長い付き合いのある大切な人ですし、副指令もソファで寛ぎながら建設的な話をしませんか?」
少し考える素振りを見せてから、そうねと言って霞を呼び出すと、現れた霞を伴って正面に二人が座る。さて、まずは霞に挨拶だ。
「はじめまして、俺の名前は白銀武。君が話し相手になってくれている鑑純夏の呼んでいた"たけるちゃん"だよ。君の名前は?」
「・・・・・・私のことを知っているんですよね、なぜ名前を聞くんですか?」
「確かに沢山の君を知っているけど、それは目の前にいる君じゃない。俺は、今、目の前にいる君と思い出をいっぱい作りたいんだ」
「思い出・・・・・・。私にも出来るでしょうか?」
「ああ、いっぱい出来るさ! 今だって、"白銀武と出会った"っていう思い出ができただろう? こうやって、一つ一つが思い出になるんだよ?」
「霞・・・・・・、社霞です。よろしくお願いします」
「ああ、霞。おっと、霞って呼んでも良いかな?」
「・・・・・・はい。そう呼んで貰えるのは嬉しいです」
「そうか、じゃ改めてよろしくな! それと、誕生日おめでとう。ちゃんとプレゼントもあるから後でな」
霞はウサギの耳のようなアクセサリーをピコピコと振りながら喜んでいる。
「あ、ありがとうございます」
「早速社に手を出すなんて、しかも保護者の前でやるわねぇ、ロリコン」
「誰の前であれ関係ありません。大切な人、護りたい人との時間は大切にしたいんです。あと、ロリコンは余計です。
それと自分はそこに入ってないつもりなんでしょうが、香月夕呼という女性もその中の一人です」
「ちょっと、いきなり口説かないでくれる? 年下は性別認識外って言ったでしょ!?」
うーん、この頃の夕呼さんは本当に余裕がないんだな、結構素の感情が表に出てる。
わかる様になったのは経験か。まあ、若干頬が赤いのは見なかったことにしておくとしよう。
「口説くってのはあれですがまあいいでしょう。さて、本題に入ります。
霞も俺が嘘を言ったら教えてあげてくれ、そんなつもりは一切無いけどな」
霞がコクリと頷き、夕呼さんは聞く態勢になった。
「私はAL1~3までの成果・結果と自分の経験を踏まえて、自分なりにBETAが何か調査・検討したことがあります。
副指令はBETAはなんだと思いますか? 正直な所をお願いします」
少し考えるような素振り。まあ、いつもの顎に手を持っていくポーズ、あれをしながから話し出す。
「炭素系生命体でありながら人類を生命体と認識していない存在で、どのように生まれ、共生しているのかも不明。種族的特長を共有しない。
知性というには乏しいが、何がしかのそれに似通ったモノを持っていて、それは大戦初期の光線級の出現や脅威度・優先対象などの変遷で証明されているわ。
人間のことは災害か何かと思っている節があるけど、行動原理は不明で、強いて言えば生息圏の拡大と言った所かしら」
「さすがですね。それを踏まえて、まず抜けていることをお話します。
人間を生命体として認識しないということは、炭素系生命体はBETAにとって生命体ではないと言い換えることができます。つまり、BETAにとっては、自分達も生命体ではないということになります。
さらに、同種BETAには、サイズ・能力・構造・行動規範の全てで個体差がありません。この事実に気づいていましたか?」
「考えたことがなかったわね。で、それがなんだっていうのよ」
「全く同じ"生命体じゃない物"が大量にあるんですよ? "いる"ではなく"ある"です。
何かに似ていませんか・・・・・・、人間が使っている物に」
一瞬考えて、驚いたような顔をする。
「まさか! いえ、ありえないことじゃないわね、そう考えれば・・・・・・。白銀、あんたはBETAが機械で、種族は機種だっていうの?」
「そうです、あれは炭素系生物機械。
ハイブからは時折何かが発射されていますが、ここまで言えば"仕事の内容"もわかるでしょう?」
「資源採掘・・・・・・」
愕然としている二人、俺はそれをじっと見つめていた。
「そして、ここ横浜ハイブでの人類研究は、災害の研究。BETAにとって、自分も人間も生命体でないのですから、当然研究しますよね? ここを明け渡したのも、人類研究のためかもしれません。
ああ、人間すらも資源としか捉えていませんが、災害対策には人間を調べるのが有効と判断したんでしょうね。実際、人類の軍事行動がBETAの"仕事"を邪魔してるのですから」
黙考する二人に、これでトドメだ。
「ある世界で、AL4は00ユニットを完成させました。そして、今の俺の考えは全て肯定されました」
「なんですって! あんた、冗談じゃ済まされないのよ!? 証拠があるんでしょうね、証拠が!」
興奮した夕呼さんは、俺の胸倉を捕まえて揺すってる。
「落ち着いて下さい、副指令。証拠はこれから提示します」
そういうとピタリと止まった夕呼さんは、何事も無かったかのように座り直して先を即した。
「どうやって、証明するつもり?」
「AL4最大の戦果、オリジナルハイブ攻略戦。これを霞に読み取って貰って、副指令にプロジェクションする。それが証拠です」
これには流石に驚いたのか絶句する二人。そして、確認するように夕呼さんが問いかけた。
「あ号標的は・・・・・・」
「勿論、撃破しました」
その言葉の意味を噛み締めるように黙り込む夕呼さん。俺は夕呼さんをそのままにして、霞に話しかけた。
「霞、驚いている所ごめんな?
でも、こうするのが一番早いのと、霞は俺と純夏と3人一緒にXG-70d凄乃皇四型でオリジナルハイブを攻略した本物の英雄なんだ。
あれは本当に苦しい戦いで、戦果は得られたけど失った物も限りなく多かったし、普通はならこの世界の誰にも共有できない。けどさ、純夏とずっと一緒にいてくれた霞だけは、きっと俺と共有できるはずだ。
すごく悲しい思いをするけど、俺はこの世界でそれを防ぐために此処にいる。その第一歩として頼む、霞。やってくれるかないか?」
俺は、霞の目をまっすぐ見ながら、心を込めて、悲しみを堪えて、全ての思いを込めて真摯に訴える。それを読み取ったのだろう、こくりと頷くと夕呼さんを見つめる霞。
「何も出来ないのは嫌です。やります・・・・・・。いえ、やらせて下さい」
話の行方を見守っていた夕呼さんは、霞の初めて見せる気概に驚いていたけど、俺には判っていた。今の霞が何も出来ないと思い、自分を責めていることを。
「そうね、それが一番良い方法なら仕方ないわ。でも、そう簡単にいくかしら・・・・・・」
「方法はあります。精神的距離を縮めるには物理的距離を縮めるのが一番だと、かつて副指令に教えていただきました。
霞、嫌じゃなかったらこっちに来てくれるか?
そして、霞のやり方で俺に触れてくれ。手を握ってもいいし、触るだけでもいい、やり方は霞に任せるよ。
その状態で、俺を信用できるまで色々な思い出を思い浮かべるから、ちょっと大変かもしれないがそれを読んでくれ。その中には沢山の霞がいるからさ。
まずは信頼関係が大切だからな」
「はい」
こうして、霞と俺の信頼関係構築は始まった。
復活を祝ってくださった方々、ありがとうございます!
ちなみに作中にもありますが、社霞の誕生日は、10月22日(公式)ということになっております。