………………む。
頭が、痛い。
と言うことは……夢じゃない?
ここは一つ古典的な方法を取ってみよう。自分の頬をしっかりとつねる。……痛い。
そんな事をしていると後からクスクスと笑いが聞こえた。振り返ると、そこには見慣れない──まだ見慣れてはいないポケモンがいた。
……思い出してきた。ドロボウは?ドータクンは?どこへ行った?確かゾロアが前に出て来た後、凄い光が出て……あれ、思い出せない。
と、その時ポフポフと心地よい感触。
ゾロアが得意げな表情で背中を叩いて来た。
……何か言う事あるんじゃないのか?
「あ、ありがとうございました?」
俺がそう言うとゾロアは満足そうに頷く。
何か取られた物がないかと調べてみたが、特に取られた物はなさそうだった。つまりドロボウ達は逃げて行ったと言うことだろうか。
何にせよよかった。……壁に大穴が空いている事を除けば。
壁を板やらでなんとか補修し終えた頃にはすでに日が落ちていた。
いつもならもう夕飯は済ませているが、今日はそうもいかなかった。
……めし作るのはは手伝ってくれんのかい。
「おーい、出来たぞー」
居間でテレビを見ているゾロアに呼びかける。
声を聞くや否や、素早く行儀良くテーブルに座って待っている。
……まあいいか。
「食う前に話がある。分かる範囲でいいから答えてくれ。
……お前、何者なんだ?」
首を傾げるゾロア。
「あー……、質問が悪かった。誰かと一緒に戦ったことはあるか?」
また首が傾く。なるほど、手紙でも書いてあったが記憶が怪しいのは本当らしいな。だがあの戦い方、どう見ても野生のポケモンのそれじゃない。完全に訓練を受けたポケモンの戦い方だ。
だが、それよりも──。
モンスターボールを差し出す。
するとゾロアはそっぽを向いてしまった。
「で、でもさっき助けてくれたじゃないか。一緒に冒険しようぜ!」
器用に耳を塞いでご飯を貪るゾロア。
……どうやらまだトレーナーとして認められていないらしいな。
食事も済ませた。風呂にも入った。最もゾロアを風呂に入れようとしたら逃げられたけど。
時計を見ると10時を回っていた。少し早いが今日はもう寝よう。
ベッドに横になっていると顔に重みを感じた。
……どうやら嫌われている訳ではなさそうだ。
クーラーはついているから、暑くはない。
何でちょっと顔が熱いのだろうか。……不思議。
独特な匂いがする。初めて嗅いだ時はちょっとくさいと思ったが……意外と悪くない、かも。
夢中で吸っているけど反撃がない。寝ている訳でも無さそうだ。スキンシップはいいけど人のポケモンになるのは嫌なのだろうか?
こんなことをしていると瞼が重くなってきた。
……母さんからも何か届くって言ってたな。まさか別のポケモンじゃないよな。……今日はもう疲れた。おやすみ……。
ゾロアの寝顔が見れないのを少し残念に思いながら、眠りに落ちて行った。
***
いつものように7時に起きる。普段なら眠い目を擦って朝の支度をするのだが、今日から夏休みだ。
だけど、昨日の戦いは夏休みという非日常よりずっと非日常だと思う。
朝のニュースには、昨日の事が……ない。それもそうだ。
警察にも連絡はしていないし、この家は町の外れにあるから目撃者もいないだろう。
ふと、隣を見る。視線の先ではゾロアがあぐあぐとポケモン用のご飯を食べている。
やっぱり、普通のポケモンじゃないよな。
ドロボウが言っていた事を思い出す。向こうはゾロアの事を知っていたのだろうか。
洗い物を片付けながら考えていると──
ピンポーンとチャイムが鳴った。
思わず身構える。ん?チャイム?……ドロボウではないらしい。
警戒するゾロアと共にそっとドアスコープを覗いてみる。
そこには小柄な少女がいた。
スコープ越しだったので表情を窺い知る事はできなかったが、とても目を引くものが二つあった。
一つはボブカットに揃えられたワインレッドの髪と瞳。もう一つは──少女には不釣り合いであろう、黄色と黒のボール。ベルトに5つ携えられたそれは彼女がかなりの実力を持っている証だった。
ゾロアを居間に残し、ゆっくりとドアを開ける。
少女は何も言わず立っていた。
「あの……どちら様ですか?」
沈黙を破って聞いてみた。
しかし、返ってきたのは期待した言葉ではなかった。
「ゾロア、この家にいるでしょう。……これで察してもらえた?私達は頼まれて来たの。あなたの……お母さんからね」
「…………!」
「とりあえず上がらせてもらえる?あなたも知りたいでしよう?あの子の事情や、今何がシンオウで起き始めているのか」
不意に居間のドアが勢いよく開いた。
「おい!出て来ちゃダメ……」
様子がおかしい。酷く興奮しているようだ。
なんとか抑えて込んで止めるが、何故だ?何故いきなり暴れ出したんだ?
「……やっぱり同族には分かるのね。ここに来る途中に空き地があったわ。そこで一回勝負しましょう。戦いながら教えてあげるから。」
……なんだよ。一体何があるっていうんだよ。
俺はまだゲットすらしていないゾロアを必死に宥めながら、本当のポケモンバトルに望もうとしていた。
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