エイジが暮らしているシンオウ地方の西にある都市、ミオシティ。
良く言えば海と森に囲まれた自然豊かな街。悪く言えば田舎寄りの街の端。そこにエイジの住む家があった。
付近一帯は、開発途中で放棄された区域であり、不便さ故か人口も加速度的に減少している。ただ一つ良い点を上げるとすれば人が少ないため、このような空き地で大っぴらにバトルが出来る事だろう。
そこで初めてのポケモンバトルが始まろうとしていた。
「安心して、本気の勝負じゃないわ。危なくなったらすぐに止めるから」
威嚇し続けるゾロアを尻目には平然と語る少女。その様子は彼女のポケモンに対する"経験"というものを雄弁に示していた。
対してこっちは──まだゲットすらしていないポケモン。
……不安だ。だがそれ以上に期待していた。
ゾロアの事情が知れる事は勿論だが、相手はどのようなポケモンを使って来るのか、ひょっとしたら手紙にあった過去のポケモン──ヒスイ地方のポケモンを持っているかもしれないのだ。
「じゃあ、初めましょうか」
お互い、少し開けた所に立つ。
ゾロアは何も言わず、俺の前に飛び出してきた。
……本当にどうしたんだろう。
少女のボールからポケモンが現れた。
その姿は──白いゾロアだった。
「……これが、ヒスイのゾロア。あなたとは違うけど、確かに同じ種のポケモンよ」
声が出なかった。真っ白な毛色、虚な雰囲気、大きく違っていたのにその顔は──少しだけ垂れた目を除けば──ゾロアそのものだったからだ。
声にならない叫びを上げながら突進して行くゾロア。
「ま、待て!不用意に突っ込んじゃ……!」
ゾロアからの返事はなく、白いゾロア目掛けて、爪を振り下ろす。しかし、その爪は空を切った。避けられたのでも、外れたのでもない。すり抜けたのだ。
! 効果がない?……あの白いゾロアはゴーストタイプのポケモンなのか?
「スピードスター!」
体勢を崩しているゾロアに容赦なく光の玉が襲う。一発、二発となんとか避けるが三発目はゾロアの死角だ。
「前に3歩!残りはしゃがんでやり過ごせ!」
出来る限りの大声で指示を出す。
ゾロアは一瞬驚いた様子を見せたが指示通りに動いてくれた。
……なんで睨む?
だが今はじゃれあっている場合じゃない。次の指示を……。
声を出す前にまたゾロアが勝手に動く。
「おい、突っ込むなって!」
聞こえてはいるはずだ、なのに──
今度はあの時の黒い衝撃波、悪の波動を放つが当たらない。まるで遊ばれている感じだ。避ける。躱わす。相殺する──あらゆる方法でいなされている。レベルはそこまで差が無いように見えるのに、なぜ?
ゾロアも遊ばれている事に気付いたのか攻撃の手を止める。白いゾロアはつまらなそうにこちらを一瞥すると、少女の方に視線を向けている。
「……いいわ。ちょっとだけなら本気出しちゃっても」
その声と同時に白いゾロアが光に包まれた。
光が止むとそこには──死神がいた。
ゾロアーク。ゾロアの進化形である。以前と違い二足歩行が可能になり
自分が変化するだけでなく、幻影を見せることが可能になった。
これも図鑑の受け売りだ。勿論姿形もその本には載っていた。だが今目の前にいるのは知識の中の姿とは来ても似つかないポケモンだった。
「……何故ヒスイでゾロア達がそんな姿になったのか教えてあげる。別の地方から移って来た彼らは、ヒスイでも忌み嫌われたの。人間にも、他のポケモンにもね。そして生存競争に敗れて死んでいったの」
……何故ゾロアがここまで苛立っていたか、ようやく分かった。人に命令されるのが嫌だったんじゃ無い。同胞に昔起きていた事に対して怒っていたのか……。なんで俺は気付けなかったんだ!
ゾロアークの周囲に凄まじいエネルギーが集まっていく。この技は……破壊光線!不味い、この距離じゃかわせない!
「逃げろ!やられるぞ!」
必死で叫ぶが逃げようとはせず、ゾロアの周囲にもエネルギーが収束する。
「……そして彼らは大勢殺されていったわ。でもその後にこの姿、ヒスイの姿となって生まれ変わったのよ」
ゾロアークから破壊のエネルギーが放たれた。ゾロアも応戦するが、どちらの技が勝つかは誰の目にも明らかだった。そのままゾロアは光に呑まれた。
……きこえる?なんでそのニンゲンと一緒に戦わなかったの?
……迷惑をかけたくなかった?ううん、君のことを迷惑だなんて思ってないと思うよ。
……何?正体を知られたく無いって?どうせ遅かれ早かれバレちゃうんだから、気にしない方いいと思うな。
……それに今まで散々イタズラして来たから嫌われてるかもしれない?
嫌いな奴のためにここまでしないって。
……そこまで言うならこっちのニンゲンに頼んでみようか?ゲットしてやってくださいってさ。嫌なの?何だやっぱりもう決めてるんじゃない。
……ともかく、目が覚めたらさ、もっと素直になった方が良いと思うよ。同族として、年上としてのアドバイス。それじゃまたね!
ゆっくりと、目が開いた。
「大丈夫か!?」
我ながら気の利かないセリフだな。さっきまで気を失っていた相手にか
ける言葉じゃない。
そのままゾロアの頬に触れる。あの少女が薬の買い出しに行くと言って席を外してくれた事に感謝した。あまり人に見せたくない顔をしていただろうから。
ゾロアも同じだったようだ。瞳が潤んでいるのがはっきりわかる。
言葉は見つからなかったが、体は勝手に動いてくれた。
優しく抱きしめる。少し体を強張らせたが、抵抗はなかった。
自分は今、どんな顔をしてるだろうか。
服が少し重くなった頃だった。
「ただいまー!色々買ってきたわよー!……あれ、お取り込み中だった?」
「いいや!なんでもない!」
……テッカニンより早く動いたぜ俺達。
***
「私の名前はリアン。こう見えて16歳だからそこのところよろしくね。この件の調査チームの一員なんだ」
買ってきた弁当を食べながら少女……リアンは色々と教えてくれた。ていうか年上だったのか……。
まず一つはこの件について。
手紙には書いてなかったが、過去のポケモンが現れる時には奇妙な空間が出現し、その空間は時空の裂け目と呼ばれているらしい。
リアンのゾロアークもそこから現れたらしい。また他の調査員の中にも既にヒスイのポケモンを捕獲し、調査を兼ねてそのまま手持ちに加えている者も何人かいるそうだ。
肝心のゾロアについてだが両親や兄弟など、同じ原種のゾロアはまだ一頭も確認されていないそうだ。
で、母さんからのプレゼントについてだが……
尋ねると思い出したかのように小さな箱を渡された。中にはスマホ?のような物が入っていた。
何でもこれは調査員に配られている物と同じらしく、ある程度ならその時空の裂け目とやらを探知できるらしい。勿論普通のスマホとしてもちゃんと使えるとの事。
嬉しいけど、俺には調査を断る権利はないのだろうか?
……今更断るつもりもないが。
用も済んだとの事でリアンは帰っていった。
帰り際にお互い電話番号を交換したが……その時ゾロアがすごい顔で睨んでいたのは、見なかった事にして欲しい。
で、最後に。これから冒険するにあたって、最も重要な手続きをしなくちゃいけないんだが……
気づいたのかゾロアもこちらに視線を送って──。
送ってきたのは視線だけではなかった。
ぽい、と器用にモンスターボールを投げる。
……わかった。
目を閉じているゾロアの額に優しくボールを押し当てる。
光になって、ボールに吸い込まれて行く。
少しの間の後、カチッと音がした。
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