ジョーカーにとってみれば久しぶり、双葉からすればいつも来ているルブランの屋根裏部屋で二人は無言の時間を過ごしていた。
ジョーカーがソファーに腰をかけ、双葉がベッドを占領していることを鑑みると、今のこの部屋の主は双葉なのだろう。
どうやらほんのつい先程まで片付けをしていたようだ。
ジョーカーの視界の端に映るのは山のように積まれたゴミ袋であり、短時間で相当頑張ったようである。
正直な話、部屋がきれいかと聞かれれば微妙だと言える出来だったが、頑張って掃除しようとしたその努力がジョーカーにとっては微笑ましかった。
「……惣治郎と何話してたんだ?」
膝を抱えて、自分の体をなるべく小さくして、そうして私はジョーカーに言葉をかける。
自分の体を小さくしていると安心する。
もしジョーカーが怖いことを言ってきても、そうして小さく縮こまっていたら、なんだかやり過ごせる気がする。
ジョーカーがそんなことを口にするなんて、そんなわけないって知っているのに。
「双葉のことを話してた」
「なんて?」
「……その前に隣に座ってもいいか?」
「……いいぞ」
ジョーカーが座れるだけのスペースをベッドに空けて、私はベッドの上で膝を抱えて座る。
場所こそ以前とは反対だが、この状況は私がジョーカーに振られたときと同じだ。
あの時のことを思い出して頭に鈍い痛みが走る。
思い出したくもないことを思い出して胸に鋭い痛みがやってきて、そのあとに鈍い痛みがまるで収束することなく、ずっと心を締め付けていた。
ジョーカーの隣にいられるのに、彼の隣にいていいはずなのに、大切な仲間だって、そう言ってくれたのに……。
考えれば考えるほどにわからなくなる。
だって私はそれで満足したはずなのに、その先をなんで望んでしまうのか。
気づけば隣には心配そうな顔をしたジョーカーがいた。
ああ、なんてカッコいいんだろう。
無意識に手を伸ばし、彼の頬に触れてみる。
「──!」
驚いた様子だが、私の行動を彼は止めもしない。
私に心を許してくれているから? 私のことを認めてくれているから? それともどうでもいいと思っているから?
ダメだ、思考が止まらない。
いつだって考えることをやめたことはないが、その思考をまとめられなかったことなんて一度もなかった。
まるで誰かに自分の脳みそを勝手に演算処理用に使われているような不快感だ。
視界の端がチカチカと点滅し、耳の奥で不快なノイズが鳴り響く。世界がぐにゃりと歪み、正常な論理(ロジック)が、熱を帯びた感情の波に塗りつぶされていく。
特に意味もなくジョーカーの頬に手を当て、その触り心地を確かめるように何度かつんつんと触ってみる。
ハリのある肌、だがさすがに男の子の肌だ。私の肌に比べれば随分と硬い。
そのまま手を頬に添えて、私の視線とジョーカーの視線が交差する。
彼の目の中に映っていたのは私だけ、今は私しか映っていない。
パンサーもクイーンも、ノワールだって。
初めてペルソナを解放した時のような全能感が私の体を突き動かしていた。
今なら目の前の人間を自分のものにできる。
私だけのジョーカー、どこにも行かず、誰にも振り向かず、ただ私だけを見て私と共に歩いてくれるジョーカー。
(おかしい、こんなの絶対におかしい)
心のどこかから奇妙な声が聞こえてきた。
それは私に残された理性、社会性を保有する人間に与えられた、この世の中で活動するための切符のようなもの。
でも私はそんな心の声を無視した。
心が体を騙せるように、体だって行動によって心を騙すことなんて簡単にできる。
私とジョーカーしかいない世界を作ることができたのであれば、理性なんて必要ない。
日々を無為に過ごすことも、獣のようにお互いを求め合うことすらも、相手の了承さえあればもはやそれ以外は必要ないのだ。
ありとあらゆることがどうでもいい。
たくさんの人に迷惑をかけてしまった、それについては申し訳ないと思っている。
だけれど私の幸せのために、それくらいは我慢してほしい。
私だってあなたたちの幸福を心の底から願い続け、自分の身だって顧みずにあなたたちのために戦った。
その努力によって報酬を享受することを、なぜ他人に止められなければいけないというのか。
(自分の幸福のために他人を犠牲にするなんてそんなの間違ってる! やめろ! ジョーカーに手を出すな!)
服を引っ張り、ジョーカーを布団に寝転ばせる。
私は人を倒せるほどの力で彼を倒していない。
引き寄せるように優しく引っ張っただけ、ならば今ベッドに倒れている彼は自分の意思でそこに寝転がっていることになる。
据え膳食わぬは男の恥、なんて言葉があるが今に限ってはどうやら男女が反転しているようだ。
ベッドの上で寝転ぶジョーカーの姿は、私が想像していたよりも随分と官能的だった。
私の手は氷のように冷たいのに、服越しに伝わる彼の体温は火傷しそうなほど熱い。その熱が、鍛え上げられた筋肉の形を通して、彼の「生」を私に強烈に訴えかけてくる。
彼の上にまたがり、吐息が当たるほどの距離まで顔を近づける。
私の髪が視界を塞ぎ、さらに世界は狭くなる。
暗闇の中で微かに見えるのはお互いの目だけ。光を反射して吸収する肉体は、少ない光をお互いに分けながらお互いのことを認識しようとする。
ああ……なんて素晴らしいんだ。
「ジョーカー。ジョーカー、お前はどこにも行ったりしないよな。私のものだ、私だけのもの。誰にもやらないし、誰にも触らせない。好きだ、ジョーカー」
ようやく言えた。
言ってしまえた。
彼が好きだと、彼を愛していると。
文字ではなく、音声でもなく、画面越しでもなく、私という存在すべてをもって彼に私は渡したのだ。
私の中に眠っているこの大きく醜い歪んだ愛を。
相手の気持ちも考えず、相手の心も慮らず。
自分のことだけを考えて、氷のように冷たくなった全身が痛みを訴えてくることも無視して。
伝えてやった、やってやった、やってしまった、やってしまえた。
「はは……あはは……ははっ……っ」
嬉しさから笑みがこぼれたように感じて笑ってみたが、どうにも笑いは継続してくれない。
どうしてだというのだろうか。
今まで抱えてきたストレスがようやく解消されたというのにも関わらず、何を懸念することがあるというのだろうか。
これでよかったのだ、これで全てがよかったのだ。
「──痛っ!」
ふと指に痛みを感じて見てみれば、そこには私の指を噛むモナがいた。
渾身の力で私の手を噛んだのか指からは血が出ており、私はその現実にひどく驚いた。
モナが私の手を噛んだ? 怪盗団の一員である私を? ナビである私を?
流れ落ちていく血が少量ではあるがベッドを汚し、まるで他人事のように血を見ながら、私はモナに噛まれた右手とは反対の左手でジョーカーの腰ポケットを探る。
現代の高校生は、いついかなる時だってスマホを携帯していないことはほとんどない。
ジョーカーもどうやらその例に漏れず、確かに彼のポケットの中にはスマホがあった。
自撮りなんてしたことがなく、どうすれば自撮りができるかなんて知りもしない私は、カメラの機能の中にあるボタンを順繰りに押していって、そうして気づけば人生で初めて内カメラというものを使う。
小さなスマホに取り付けられた、写真家にでもなれそうな超高性能のカメラ。そんなカメラに映った私はひどくやつれていた。
今までメメントスで見てきた心をとらわれた者たちと同じ──いや、それ以上。
パレスの主たちのような、自らの心の闇を外にぶちまけることこそ正義であると思っているような目つきだった。
──違う、これは私じゃない。
画面の中で歪に笑っていたのは、あのピラミッドの中で私を嘲笑っていた、「ファラオの私」そのものだった。
黄色く濁った瞳が、画面越しに私の魂を覗き込んでいる。
「嘘──こんな、こんなのって。ジョーカー、ジョーカーぁ、私……」
涙が零れ落ちた。
止まることなく、何滴だって。
自分があいつらのようになっているという事実が耐えられなかった。
だって、こんな人間に踏みにじられるのが嫌だから、私はペルソナの力を手に入れて。
だって、こんな人間になりたくなかったから、私は神とだって戦って。
だって、こんな人間であることが嫌だったから、私は一人でこの誘惑を打ち破ったジョーカーの背中を追って彼と共に戦い、二度と誘惑に負けないと彼に誓ったんじゃないのか。
きっと一人だったら正気を保てなかった。
今私が助けを求められるのは、ジョーカーが目の前にいるから。きっと私はここでまた彼に助けてもらわなければ立ち直ることができない。
またあの部屋で、自分一人で、自分が自分を殺すまで待ち続けるのだ。
『重症だなこりゃぁ……大丈夫かジョーカー』
ジョーカーの体を案じているモナが、ジョーカーを守るように私の前に立つ。
モナは怪盗団の一員を大事にしてくれている。
それは同じ怪盗団の一員である私も感じるところだが、それに加えてモナがジョーカーだけを特別に大事にしているということももちろん知っていた。
モナの出生を考えればそれは当然のことなのだが、それでもモナが私の前に立っていることが私にはどうにも耐えられなかった。
「双葉」
だがジョーカーはそんなモナを手で制止し、私の名前を呼んだ。
先程からずっとジョーカーの目には私しか映っていない。
醜く歪んだ、パレスだってもう一度作れそうな私しか。
でも私は言葉を返さなければならない。
私をあそこから救ってくれたヒーローに対して、私の名前を呼んでくれる彼の言葉に、私は言葉を返さなければならない。
「なんだ、ジョーカー」
声は震えているだろう。
きっと体も。
でもいいんだ、別れを告げられるならそれでも。
それ以上に怖いことだってある。だって私は本当に悪いやつになってしまって、やっぱりジョーカーはいつだっていいヤツだから。
「本当にそれでいいのか」
──卑怯だよ、ジョーカー。
だって私は諦めてしまった、あなたを監獄の中に閉じ込めて自由を奪ってでも自分のものにしたいと思ってしまった。
そんな人間にどうしてあなたはそんなにも優しくできるの。
本当にそれでいいのか? いいわけがない。
惣治郎にも、新しくできた友達にも、そこで出会ったいろんな人にも、いまも学生として頑張っているだろう親友のためにも。
私は私自身のことを認めた上で、私自身を受け入れるしかない。
「……っ……よくないっ。よくないよ」
一度大きく息を吐き出すと、頭の中を支配していたノイズが嘘のように消え去っていた。
指先の震えは止まり、涙も乾いていく。
目の前にいるのは、私の大好きなジョーカーだ。私の所有物でも、都合のいい人形でもない。
ジョーカーの上体を起こし、彼の肩に手をかけて、私は彼に再び誓う。
二度目がないなんてもう言えない、信じてくれなんて言うつもりもない。
身勝手で、それでも私は、私をジョーカーに受け入れてほしいから。
「私は私のこの二か月を、何より怪盗団として過ごした去年を否定したくない。たとえ今の私がそれを否定することを望んでいたって、ジョーカーを私だけのものにしたかったって。私はみんなのために──怪盗団のために生きていくって決めたんだ」
決意が胸の中を充満していく。
心が晴れ渡り、ようやく自分というものが何だったのかを思い出す。
だがまだ足りない。
自分の醜い部分を受け入れることを私は決めたが、さらにここから一歩踏み出せなければ、心が弱った時にまた私は先ほどまでのようになってしまうだろう。
だから私は一歩、足を前に出す。
「ジョーカー、改めてだけど……私はジョーカーが好きだ。お前の自由を奪ったりしない。心を無理やり盗んだりもしない。ただ、いつでもジョーカーの隣にいさせてほしい。お前の背中を一番近くで支えさせてほしい。だから──私と付き合ってくれ」
あの時はジョーカーに告白してもらおうとした、だけどそんなの私のキャラじゃない。
秘密があるなら私はそれがどんなに怖いものであっても手をかけるし、それを知るためだったらどんな恐怖にだって打ち勝ってみせる。
それが私、佐倉双葉だから。
「ごめん」
「……そうか、そうだよな。ごめんなジョーカー! ここ最近の私マジヤバで迷惑かけちゃったけど、これからはちゃんとナビとして頑張るから──」
「──怖かったんだ」
今日は何度泣けばいいというのか。
他人に涙を見せれば相手がどんな気持ちになるのかは知っているはずなのに。
自嘲気味に言葉をかけた私のことを、ジョーカーは遮ると、私の体を抱きしめて震える声で後悔をつぶやく。
「あの時逃げたことをずっと後悔してた」
「ジョーカーは逃げてなんかいない。私がジョーカーに選択を迫ったんだ、準備する時間も与えずに」
抱きしめる力が強くなり、それでジョーカーが私の言葉通りだと思っていないことを理解した。
お互いがお互いに、自分が傷つくことを恐れて臆病になるあまりに、私たちは途轍もない遠回りを知らず知らずのうちにしてしまったのだ。
ハリネズミのジレンマどころの話ではない。
なんともまあ、二人してよくここまでこじらせたものだと本当に心の底から思う。
「惣治郎にさっき言われたんだ。逃げるなって、向き合えって。だから俺も告白する……好きだ、双葉」
多幸感が全身を貫いた。
相手に認められ、相手に必要とされることが、どうしてこんなにも嬉しいのだろうか。
先程までの全能感など比べ物になるはずもないほどの充実感が全身を満たしていき、嬉しさだけが脳内を埋め尽くしていった。
ジョーカーを再びベッドに寝転ばせ、私はその隣で横になり彼の手を取った。
「ふふっ。やっぱりジョーカーの手はあったかいな」
さっきまでは冷たく感じられた手。
私の望むことを仕方なくしてくれているのだと思っていたからこそ、あの手には温度が感じられなかった。
でも今のジョーカーの手は暖かい。
彼の目の中に映っている私はどう見えているのだろうか。
少しそれだけが気がかりだ。可愛く映っていればいいのだが。
何にしろ、私はこうしてようやく私自身を取り戻すことができた。
ペルソナの力を借りず、認知科学の力を使わなくたって、私たちは頑張れば乗り越えることができるのだ。
だって世界はこんなにも鮮やかで、楽しい場所なのだから。
「好きだぞ、ジョーカー」
彼の胸に頭を押し当て、私はそのまま眠りにつく。
今日はなんだか疲れてしまった。
チンピラに絡まれ、学校に行って、帰りにカラオケに寄って、食事をして、ジョーカーと一緒に帰って泣いて怒って笑った。
迷惑をかけた人には謝らないといけないが、何とも楽しい一日だったな。
まどろんでいく意識の中で、最後に私の意識の中に入ってきたのは、頭を撫でてくれるジョーカーの手と、困ったような声音で鳴く猫の鳴き声だけだった。
後日談
昨日散々感情を爆発させた私とジョーカーは疲れてしまって、ルブランの開店時間になっても起きてこなかった。
見に来た惣治郎が、一緒に寝ている私たちを見て、怒ったような声音で私たちを叩き起こしてくれた。
声は怖かったが顔は笑っていたので、惣治郎もジョーカーが私の隣にいることを認めてくれたのだろう。
ベッドの方を見た時の惣治郎のなんとも言えない表情と、そのあと食べたカレーにやけに唐辛子が多かったのは何だったのだろうか。
その後、昨日風呂に入っていなかったことを思い出して急いで銭湯に行き、さらに昨日のことを謝るために、二人の友達のところまで行った。
彼女たちは私とジョーカーがまだ付き合っていなかったことに驚いたのちに、難しいことを考えていたようだが、「私たちはずっと双葉と一緒にいたいと思ってるんだから、私たちはずっと友達だ」と言われた。
……ちょっと照れた。
その後はジョーカーと久しぶりにいろんなところを回った。
ジョーカーの知り合いについても知りたかったので、いろいろな店を巡ったが、知れば知るほどジョーカーという人間の謎が増えていき、私の知識欲を刺激してくれる。
ジョーカーの彼女ということで、何人かとは連絡先も交換できたので、後日どうにかして普段のジョーカーについて聞いてみたいと思う。
中でも驚いたのは、ラヴェンツァと呼ばれていた幼い少女だ。
ジョーカーの手伝いがなければ姿を見ることすら困難だったが、彼女こそが怪盗団としてのジョーカーを「向こう側」で支えていた人物らしい。
まさかあの見た目で電子端末にアクセス可能だとは思わなかったが、私の知識欲がうずく。今度こっそりチャットを送ってみよう。未知の技術体系だったらどうしよう、わくわくする。
その後いろいろ見て回った私たちはルブランに帰り、客がいなくなった店内で惣治郎に感謝の言葉を述べた。
私たちが付き合えたのは、惣治郎のおかげであるところが大きい。
また泣いてしまって少し疲れたが、なんだか泣くことも悪いことばかりではないということを知れた、いい日だった。
最後に惣治郎が何かをジョーカーに耳打ちしていたが、きっと男だけの会話というやつだと思われるので深掘りはしないであげた。
私は空気の読める彼女なのだ。
……残念なことにジョーカーは明日の夜、帰ってしまうらしい。
彼も学生生活があるのだから仕方がない。むしろ急に土日を潰してしまったことを申し訳ないとすら思う。
だがジョーカーはそんな私に対して大丈夫だと念を押すと、毎週会いに来てくれると約束してくれた。
ただそれではジョーカーの負担が多すぎるので、二週に一回、交互にお互いの家に行くことに決めた。
ジョーカーは私の身を案じてくれたが、私だってジョーカーのために何かしてあげたいと思うのだ。
ちなみにそれとは別口で、チャットアプリを使ったテレビ電話もテスト期間以外は三日に一回くらいはしようという話になった。
三日も我慢できるだろうか。
チャットはいつでも送ってもいいとのことだったので、一日に三回くらいは……朝昼晩一回ずつくらいは送っても怒られないだろうと思うので送ろうと思う。
あまり重すぎると男は逃げると聞いたことがあるので、私もなるべく我慢だ。
えらいぞ、私。
モナにはいろいろと今回お世話になったので、密林でジョーカーの家宛てに最高級の猫缶を買っておいた。
何とも言えない表情をしていたモナだったが、最高級という言葉につられたのか許してくれた。
一つ気がかりがあるとすれば、しきりに自分が噛んだ場所が痛まないかどうかモナが確認してくるので、少し可哀想に思うのだが、こればかりは傷が治らないとどうしようもないので、なんとか頑張って治してほしいと思う。
長くはなってしまったが、これで私の苦悩は終わりだ。
もし初めてジョーカーの気持ちを聞こうとしたときに、自分から押せていれば。
もしジョーカーを自分のものだけにしようとしたときに、自分勝手な告白ではなく、彼に求めるように告白をしていたら。
大きな分岐点があって、今の自分があることに感謝をしながら、私はふとそんなことを考える。
でも、そんなのはもう過ぎ去ったことだ。
もう一人の自分を認め、新しい自分に私がなれたことには違いがないのだから。
スマホの画面をタップして、私はチャットアプリを開く。
そこには「またな」と短く書かれたメッセージと、私の大好きな人の名前があった。
さて、今日の分の一回目を送るとしようか。
──世界は今日も、驚くほど鮮やかだ。