マヨちゃんマヨちゃんマヨちゃんマヨちゃんマヨちゃん 作:はらなたわや
Chapter3
~~~提案~~~
「ねえ、マヨちゃん!絶対いるって。
ね? ひと狩り行こうよっ」
幕間。あんた達。
これはある日の昼食。
狩りに行こう、
と姉のマリにそう提案された。
わたしの向かいの席で
バクバクとランドドラゴンの
ウンコを食べながら。
提案した姉は満面の笑みだ。
わたしは食卓に視線を下ろした。
食卓に並ぶウンコ。
正直引くだろう。
しかしわたしにとって、
直接摂取の癖を強要しないのであれば、
食卓にウンコがあることなんて
些細なことだ。
糞臭は気になる。
しかし許容範囲である。
それにしても狩りか。
ワクワク感を隠さない姉。
それ対しわたしは
消極的な態度を示した。
危ないと。
「えええぇぇ~~っ。
リスクはわかるけど、
こんなこと滅多にないのよ?」
「でも危険よ。ランドドラゴンなんて。
わたし達に危害を及ぼす可能性が
あるなら考慮するけど、
わざわざこちらから縄張りに出向いて
狩りをするなんて」
「でも~~でもでも~~~~っ」
ことの事情はこうだ。
先日、姉が
ランドドラゴンのウンコを持ち帰った。
この件から数日、
また姉のマリは
ランドドラゴンのウンコを発見。
発見場所は先日姉が発見した場所と
近い場所らしい。
おそらく、そこら近辺を縄張りに
しているのだろうと予測される。
ランドドラゴンは出没件数の少ない生物だ。
またその鱗皮や臓器は高額で取引され、
何よりもその龍肉は大変美味として有名。
姉は龍肉がなにより好物で、
龍糞も好物である。
これは狩らない訳にはいかない。
狩りに行こう。
というのが、姉の言い分。
しかし
ランドドラゴンは大変危険な生物である。
ランドドラゴン。
大地の龍、土龍
などとも呼称される。
その名の通り、
生物分類では龍属に属する。
龍属。
この世界には多種多様な生物が
存在しているが、
その食物連鎖上の頂点の一角として
必ず出てくるのが、この龍属である。
強靭な鱗皮と巨体。
そして凄まじい筋力から
織り成す攻撃性と
何かしらのブレス機能を有する。
これが、龍属に共通する
大まかな特徴だ。
つまり、こんな生物である。
それゆえ、何かしら国家事業や
ギルドによる懸賞金が掛けられるなど、
よっぽどの事情、
よっぽどの対価がなければ
わざわざ狩りに行く者など
いやしないのである。
そう。
普通はそうなのだ。
……しかし、我が姉は違うらしい。
龍肉が食いたい。
それだけだ。
『やっぱりダメ。
無用に危険を犯すことはできないわ』
熟考した結果、
わたしはそう伝えた。
龍肉に龍糞。確かにそれらはわたしから見ても魅力的だ。加えて薬師としての観点から見ても貴重な素材が他にも数多くある。しかしやはり、リスクが大きすぎる。ということで、姉の提案は拒否する形となった。その後も姉はなにかあれこれと言っていたがわたしの意思は変わらない。断固拒否の姿勢を示す。
すると、
『う、ううううううぅぅぅううう~~~~っ』
『ヤダァアアッッ
やだやだやだやだやだッッッぁああ』
『__狩りたい狩りたい狩りたい狩りたい狩りたい狩りたい狩りたい狩りたい狩りたい狩りたいぃぃいいいいいッッッッッッ』
『マヨちゃんのバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカバカァァアアアアアアッッッ』
といろいろ言って姉は喚きだす。
床に豪快に倒れては
四肢をバタつかせ、
幼子のように言語にならない主張を続ける。その目から滝のように膨大な涙を流し続けた。ただの駄々っ子。いや凄まじいまでの駄々っ子である。これがわたしより年上の姉という事実。わたしは引いた。しかしダメなものはダメである。熟考した上での判断だ。この判断を揺るがすつもりはないため、『駄々をこねてもダメ』と注意するが、姉の奇声は酷くなるばかり。もはやギャン泣きであった。どうしたものか。わたしは陰鬱な思いを抱かざるを得なかった。
幕間。あんた達。
……すると、どうだ。
姉は姉で
なにか思い立ったらしい。急に動きを変えて部屋から出ていった。ギャン泣きして言葉にならない捨てセリフを置いてだ。食事は全て完食していた。食べるものはしっかり食べたらしい。やれやれと思った。恐らくこのままわたしに訴えても無理だと思って諦めたのだろう。わざわざ追う気にもなれない。どこかでひとり、頭を冷やすのが姉のためだ。
この件は一段落した。わたしはまだ食事中である。残りの食事を食べよう。そう思った時のことだ。『パリンッ』と遠くの部屋から甲高い音が聞こえた。パリン。物の割れる音。はて、なんだろうか。気になったのでトコトコと駆け足で音の発生源へと目指した。……それはわたしの部屋の方角だった。姉の嗚咽も流れてくる。わたしは嫌な予感がした。
わたしの部屋の扉が開いていた。
「ちょっとッ、姉さんッッッ
何してるのッ!?」
中をのぞき、
その光景にわたしは仰天した。
「うえぇぇ~~ん、うえっ、うえっ……」
薬瓶の並ぶ身の丈以上の薬棚が
いくつか並ぶ。
わたしは薬師だ。薬師の仕事をしてる都合上、わたしの部屋は自然と薬棚だらけの部屋となる。姉は、そんなわたしの薬棚から薬瓶を適当に手に取ると、そこらの床に投げつけていた。幼子のような嗚咽を続けながら。当然薬瓶は割れる。用途も当然、そんな使い方をするものでない。中身はぶちまけられ、床はビチャビチャだ。しかも割られた薬瓶はそこそこ貴重なものだ。わたしは悲鳴を上げた。しかし姉の耳には入っていないようで、次なる薬瓶を手に取った。
「姉さんッッ、やめてッッッ」
「うえぇぇん、マヨちゃんのバガァ~~」
ポイッと薬瓶が投げ捨てられる。
これもまた
さらに貴重なもの。
絶対に割られる訳にはいかない。わたしは全力で空に投げ出された薬瓶に向かって駆け出した。背中に生える翅。これも羽ばたかせる。そうすることで更なる加速が見込めるのだ。ブーンと羽音が響く。加速の伴った飛翔。床に飛来する薬瓶を、着弾する寸前でなんとかわたしはキャッチした。セーフ。貴重な薬瓶は守られた。わたしの頬に冷や汗が伝った。しかしこの恐怖はまだ続くようだ。姉は再び薬棚から薬瓶を手に取ると嗚咽を流しながら投げ捨てる。
「うえっ、うえっ、バカぁぁぁ」ポイ
「姉さんッやめてッッッッ」
「えぐ、ぇぐ、行ぎだいぃぃ~~」ポイ
「ちょっとッ、聞いてッ!?」
「バガァァ~~バカバカバカバカ~~ぅぅぅ」ポイ
「いやぁあああッッッ、ちょっとッッッ」
姉が投げ捨て、わたしが必死で
キャッチする。
また姉が投げ捨て、わたしが必死で
キャッチする。この繰り返し。最初は幼子のように乱雑に投げていただけだが、段々となぜか投球フォームが調整されていき、最終的には野球投手ばりの投球姿勢で投げ捨てるようになった。なぜなのか。本当に。なお、顔をぐしゅぐしゅにして泣いてるのは変わらずだ。やめてと言っても聞きやしない。わたしは全身の四肢をこれでもかと使って投げ捨てられる薬瓶を受け止めたが、20球を越えたあたりでさすがに限度があった。わたしはわたしで、我ながらの超人ぶりで受け止め続けたと思う。最終的には首をゴムのように伸ばして口でキャッチしたほどだ。
つまり、わたしは降参した。
『わかったわかった、わかったってばッッッ』
『わたしも狩りに行くからッ』
『だから、もうッッッ薬を投げるのはやめてぇえええええええええええええええッッッ』
そのわたしの声に姉の動きは
ピタリと止まった。
わたしの魂の叫びはようやく姉に届いたらしい。腹どころか、喉ちんこからも更なる悲鳴を上げんばかりに絶叫したのだ。ようやく止まってくれた。その事実に少し安堵する。姉はゆっくりとこちらに振り返った。
「……ほんとう?」
「ホントよ、ホント。
だから薬を投げるのは勘弁して」
「…………………」
幕間。あんた達。
姉はわたしの言葉をゆっくりと噛み締めて、
その意味を理解したのか。
ぐしゅぐしゅにした顔で汚く笑った。
『うわああああああああいッッッッッッ
やったアアアアッッッ!!!!』
『ありがとッッッマヨちゃんッッッ
アリガトッッッ』
『ふひひ、ふひひひひ~~~~』\\\
姉が歓喜してわたしに抱きつく。
喜びを表現したいのか、
そのままスリスリと
擦り付けられる頬っぺた。涙と鼻水にまみれたそれが擦り付けられるため、わたしの頬もベトベトだ。汚い。しかし、今はそれよりも姉の暴走が止まっての安堵。そして疲労の方が大きい。薬瓶をめちゃくちゃにされる方がわたしにとっては困る。それが収まるならもはやなにも言うまい。わたしはされるがままになった。
『好きぃ、
マヨちゃん好き好き好き好き好きぃぃ』
『ん~~マッ、んマッんマッんマッ』
そして今度は愛情表現として
わたしの頬に、
口付けをしてきた。唇を吸盤のように吸い付けては勢い良く離さすやつ。そう。濃いタイプの口付けだ。やたらと何回も。愛しげに。不快極まりないし、頬も痛い。さすがにこれはされるがままにはなれない。わたしは気持ち悪いと拒絶の意を示して姉を引き剥がす。がしかし、『や~んいけずぅ』と言って止めようとしない。この愚姉はいったいどこまで調子に乗れば気が済むのか。わたしの瞳から光が失くなった。死んで。
「ん~~ッ」バキャッッッ「マッペケッッ」
わたしは姉の頬をはたき飛ばして
首をへし折った。
姉は死んだ。魂が天へ昇る。空っぽとなった姉の体がどさりと床に崩れ落ちるが、わたしは気にも止めなかった。視界から外す。わたしは姉の死体をよそに部屋を退室した。それにしても……ランドドラゴンの狩りか。大変なことになるな。わたしはこれから始まる狩りに一抹の不安をつのらせた。