マヨちゃんマヨちゃんマヨちゃんマヨちゃんマヨちゃん 作:はらなたわや
Chapter4
~~~ランドドラゴン~~~
「姉さん。場所はこのあたりなの?」
わたしは
姉にそう問いを投げた。
『そうそう。
確かこのあたりのはずなんだけど~』
『あ、ほら!あったあったっ!!
これが前に見つけたランドドラゴンのウンコよ』
『量が多すぎて、
全部は持ち帰れなかったのよね~』
姉のマリは朗らかにそう言うと、
ランドドラゴンの
ウンコを指ですくって
味見と言わんばかりに口に含む。『おいしー』と頬を緩ませご機嫌だ。ランドドラゴンの糞便はわたし達の身の丈近くの巨大さ。確かにこの量を持ち帰ることは困難だろう。
幕間。あんた達。わたしと姉はランドドラゴンの狩猟に来ていた。そのためにこうして間の大森林の奥地へと足を踏みいれている。間の大森林。そこ外縁部から中心部の奥地へ向かうほど危険な動植物が増える傾向にある。特に、狩りに通ずる狩人でさえ普段踏み入らないような領域に関しては、総じて「深層」と表現される。そう。わたし達はその深層にやってきたのだ。
「はい、マヨちゃんにもあげる~」
姉が言う。まるで
お菓子のお裾分けでもするかのように。
指でいちいち舐めとるのは効率が悪いとやめたのか、その手には木の棒にウンコを乗っけてアイスクリームのようにペロペロと舐めていた。ウンコの棒がその手に2つ。その片方をわたしに差し出している。わたしの分ということか。これほどありがた迷惑な善意はない。そもそもわたしは間接摂取派だ。姉はいったいいつになったらその事を覚えてくれるのか。
「いらない。いつも言ってるでしょ。
わたしは直接摂取はしないから」
「えぇ~~
おいしいのにぃ~~」
「とにかく、いらないから」
「もったいないな~」ペロペロ
「ていうか、姉さん。ここは深層なのよ?
もう少し緊張感もってくれる?」
「は~~い」
姉はウンコを愛おしげに
ペロペロと舐める。
わたしはため息をついた。
まるでピクニック気分だ。もう少し緊張感をもってほしい。ここは間の大森林の深層。いくらわたし達がここを家の庭のように扱っているとはいえ、それはあくまで外縁部に近い浅層から中層にかけての話。ここは深層。わたし達の手に負えない生物など、いくらでもいるのだから。わたしは姉を叱責し、散策を続けた。
「これは……なんとも、まあ……」
わたしは目の前に広がる光景に
口を濁した。
幕間。あんた達。ランドドラゴンの糞便があった周辺付近を散策した結果、ひとつ残念なお知らせだ。
『わぁ~~皆ぐちゃぐちゃだ~』
『__あ、マヨちゃん見てっ。
この人知ってる。テリサさんだよテリサさん』
『燐光のテリサさんでもやられちゃうんだねぇ』
『ランドドラゴンにやられちゃったのかなぁ?』
死屍累々。目の前に広がる光景。
それは死体の山だった。
ほとんどの死体が馬鹿げた力で切り裂かれたかのようにバラバラとなっている。数多の血と臓物がぶちまけられ、深緑の雑木林の中でここ一帯だけが赤褐色に染まっている。十数人規模で組まれたであろうチームが壊滅。この凄惨たる光景に姉はよくのほほんとしていられるものだ。死体をツンツンと棒でつついている。わたしは不謹慎だからやめろと言った。
死体をそれぞれ見て回る。その内、約半数は狩猟のための装備ではなかった。まず武器がない。代わりに大きなバッグや複雑そうな魔道具。恐らく、アナライザーだろう。猟師は危険な動植物を討伐することを得意とするが、野草採取や鉱石採取となると不得手なことが多い。専門的な知識を有する人材が必要となる。そのためのアナライザーだ。深層での素材採取を目的としたチームだと推測された。
「ねぇ~~マヨちゃん」
姉が後ろから声をかける。
いつもの間延びした
朗らかな声。いったいなんだ。またウンコか。わたしは緊張感のない姉にイライラしていた。どうしてそんなにのんびりとしていられるのか。不思議でならない。しかし、姉の痴呆は今に始まったことではないのだ。わたしは死体の検分を継続した。顔を見ないで返事を返す。
「もう、なに?」
「来るよ」
え?__
__ッボ……ッッッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!
姉の言葉を理解する前に、
それは突然起きた。
轟音と
衝撃。突如、わたしの目前で地面から、巨大柱のように吹き上がる大量の土流と土埃。土柱の高さは優に十数メートルは越えるだろう。そう。それはまさに間歇泉のごとく。凄まじい勢いだ。上空に噴出される土流に伴う衝撃波で地面は揺れに揺れた。わたしはただ体は硬直させ、呆然と見ることしかできなかった。
多量の土流と土埃の噴出された場所はわたしが死体を検分している位置でもあった。姉がとっさにわたしの襟首を引っ張って大きく後退させてくれたのだ。今も姉はわたしの襟首を掴み、土埃の先を油断なく見ている。わたしは情けなくも助けられた。
天から降り注ぐ土塊。
土埃で
覆い尽くされる景色。
噴出した巨大な土柱は鳴りを潜め、その奥から唸り声が聞こえた。圧迫感を伴うような、重く響く獣声。土埃が薄れ、巨大な頭部が露出した。その巨体と龍鱗に覆われた体はまさに龍属にふさわしい。なにより発達した鼻部。そして地面を掘削するために発達したような前足。目は退化しているのか認めなかった。だが間違いない。こいつが大地の龍。
土龍。ランドドラゴンだ。
『グオオオオオオオオオオオオオッッッッッッ』
「……しまっ…」
龍の咆哮が
轟く。
わたしはそれに吹っ飛ばされてしまった。しまったと思った。龍の咆哮。ドラゴンスクリーム。一定の龍属に見られる特徴的動作で、それはもはや音の衝撃波に等しい。不意を突かれたその咆哮にわたしはゴロゴロと後方に転がってしまった。これは大きな隙になる。早く体制を立て直さないと。そう心がはやるも体は上手く動かなかった。
「うるさ~~い!」ドゴォッッ……ッ
『グギャアアアアッッッッッッ』
ランドドラゴンの悲鳴があがる。
姉だ。
姉のマリがその巨大な龍の顔面を横っ面から殴りつけていた。その衝撃でランドドラゴンは悲鳴とともに倒れる。姉の手には、身の丈を超える長大な金槌が握られていた。刺々しい鉄塊の見た目のそれは、『ザ・デス』と呼ばれる姉の愛武器。こんな長大金槌で殴られれば、ランドドラゴンが倒れるのも無理はない。しかし、龍属とはそれで終わるような存在でもなかった。
ランドドラゴンは
すぐさま体制を立て直す。
龍声をあげるとともに、姉へとその大きな鉤爪をなぎ払った。寸でのところで躱す姉。さらに一撃、二擊。龍の猛攻は続く。掘削のために発達した大きな前足はその分殺傷範囲が広く、躱すのは一苦労だ。しかし姉は機敏に動いて躱しきる。ハエ属特有の背中の翅をバタつかせ、独特の回転運動を伴った回避性能を見せつける。これは背中に翅があるわたし達だからこそできる。唯一の回避性能だ。姉とランドドラゴンの攻防が続く。
「姉さんッ」
わたしも加勢する。
姉に緊張感が
どうこうと愚痴った手前、このまま助けられただけでは収まりがつかない。地を駆け、背中の翅を振動させてはさらに加速。両手には姉と同じく、長大な金槌を構えて肉薄する。土龍の視線は姉の方に向いていた。前足を振り上げる動作。今だ。__〈金剛払い〉ッ
胴体への横殴り。衝撃と振動が土龍の胴体に深く響く。ランドドラゴンがうめいた。
「ナイス~ッマヨちゃん!」
「ごめん、姉さん。足を引っ張ったわ」
「そんなことないよ~」
そんなことある。わたしはギリッと
奥歯を噛み締めた。
ランドドラゴンは今だ健在。ここまでに何度がダメージは与えた筈だが消耗は見られなかった。それだけタフということだ。これは長丁場になる。わたしは覚悟した。ランドドラゴンが敵意をその目に咆哮をあげる。
わたしは姉の横に並ぶ。そして闘志を瞳に、姉と同様、愛武器の長大金槌を構えた。そして__
幕間。あんた達。
結論から言おう。
わたし達は、
ランドドラゴンの〈猛攻〉で死んだ。