ぐーぐー。すぴー
うーん。むにゃむにゃ。
んん。ここ、どこだろう。目を覚ますと硬いベッドの上に俺は居た。いつの間にか眠ってしまっていたみたいだ。うーん。体を伸ばして伸びをする。よくねたぁ。
眠ってしまったから誰かが部屋に連れてきてくれたのかな。しっかりと鉄格子もあって。戸締りもしっかりしているし。
うーん。
俺は何も見てないぞ。両手で顔を覆ってさっき見たものを頭から消え去るのを待つ。ちょっと目を開けて指の間から見る。錆びた鉄格子に仕切られた部屋。要するに牢屋だなぁ。あはは。
「あはは」
現実が怖い……。これは夢だろ。いきなり眠ったのも睡眠薬を盛られた気がするけど、たぶん違うだろ。違うといってよ。異世界に来て俺は何度薬を盛られるんだよ……。
別に取られるものはもとから持ってない。金もなければ何も持ってない。……なんだこれ。逆に首になんかほのかに光る首輪みたいなのされている……こわい。宝石ついてるし。
「ふがふが」
横のベッドでおなかをかきながら眠っているのはファルブラウだ。こいつも普通に捕まったのか……。俺は揺さぶる。
「ファルブラウ、ファルブラウ」
「う、うーん」
大きな欠伸をして体を伸ばしてファルブラウは起き上がった。俺を見て「ご飯は?」と聞いてくる。知らないよ、そんなこと! 俺は今それどころじゃない。
「あ、あのさ。私たち、捕まってない!?」
「ん~」
ファルブラウは牢屋の中を見て大きな欠伸をする。
「我が捕まるわけないだろ」
そ、そっかぁ。我は捕まらないよなぁ。じゃあ俺も捕まってないな。…………うう。ここでファルブラウほど断言できればいいのに……。
「ぐはははは!」
急な笑い声に俺は驚いた、ファルブラウは「ちっ」舌打ちをして俺は「きゃっ」と言ってしまう。言った後何を言っているんだ俺はと頭を抱えた。きゃってなんだよ。きゃって!!
「まんまと罠にかかりおったな、聖天使よ」
牢屋の向こうから宝石でじゃらじゃら着飾った太目の男がやってきた。目が紅く光り、耳がとがっている。ファルブラウのような眼だ。その男はべろりと俺を見て唇をなめている。こ、怖い。ていうかこいつはまさか……。
「ま、魔王の手下?」
「ほほう、よくわかったな。聖天使セナよ。そうとも我が名はダルゾーン! ぐははは。近くで四天王一人ファルブラウを倒した天使が出たと聞いて罠を張っておったのよ。ここまでうまくいくとは思っておらなんだわ」
ダルゾーンは大きなおなかを揺らしながら笑う。わ、罠だと。
「ぐふふ」
ぐふふって笑ったぞ、す、すげぇきもい。
ダルゾーンは手に水晶玉乗せて俺に見せる。紫に光っている。
「これは人間どもを操ることのできる魔法具だ。くくく、人間どもは簡単に騙されてくれよるわ。お前が来たら屋敷に連れて来いといえば楽し気に連れてきたわ」
「ま、街の人たちは操られているってこと?」
「そうだ。それだけじゃない。聖天使セナよ我らは魔王軍は人間社会を支配するためにいずれすべての人間は魔王様の手下になるのよ」
「そんな卑怯な!」
「卑怯だと! ぐははは。愚かな。我ら魔王軍は人間どもの姿に変化して王都にも辺境の町々にも潜んでおるわ。人間ども造った国家の主要な部分は我らが独占して、いずれ人間どもを完全に征服することになるがな。わしもこの街の領主をしているのはちゃんと人間の王都から認められておるわ」
な、なんか勝手に戦争しているイメージがあったけど人間のふりして偉い地位についているってことか? そ、それって普通に戦うよりもまずいんじゃ。
「ぐはは。しかし今の鷲の望みはファルブラウを倒したお前を始末することよ」
「ファルブラウの敵討ちってこと……?」
「いや。あのあほは嫌いじゃし」
「なんだと貴様!」
ファルブラウが鉄格子にとびかかって牙をむき出しにする。ぐるるるって犬みたいに唸る。
「な、なんじゃこいつ。というか聖天使よ。なんでこんな凶暴なのを連れているんじゃ」
「何でって言われても……」
「貴様ぁ! 我を馬鹿にすると承知せんぞ!」
「なんじゃこいつ、こわ」
ダルゾーンが引いている。しかし俺たちのピンチは変わらない。俺は聞いた。
「それで私たちをどうしようっていうの……?」
「くくく。決まっておるじゃろ。これよ」
ぱちんと指はじくダルゾーン。その瞬間壁がごごごと音を出した。
「ま、まさか」
生き埋め!?
「くくく、そのまさかよ。服だけ溶かすスライムよ」
…………………はあ? そのまさかって全然あたってないけど!?
壁の隙間からピンク色の液体がぼとぼと落ちてくる。それらは生きているようでうねうねしている。フクダケトカススライムって言った?
「ぐははは! 聖天使セナよ。我ら魔王軍に逆らったことを後悔するがいい!」
「ちょ、ちょっと待って。なんでこんなことを!」
「己の胸に聞いてみるがいい! 3日後に来るぞ」
お、己の胸って。俺、たぶんなんも悪いことしてないぞ! なんで、俺がこんな目に。服だけ溶かすスライムってなんだよ……俺に使うなよぉ。俺は男だぞぉ。医療用とかに使えよぉ。
うねうねうねうね。部屋がスライムに覆われていく。鉄格子を揺らしても逃げられない。こ、このままじゃまずいことなる。何であいつ3日後に来るんだよ! おかしいだろ!!
「し、仕方ない。嫌だけど」
俺は祈りのポーズを取り。叫ぶ。
『セイクリッド・シンフォニア!』
変身! ……あれ? 体の奥に力がわくような感覚があるけど体に変化はない。代わりに起きた時につけられていた首輪が光っている。ダルゾーンの笑い声が響く。
「ぐははは。それはお前の力を抑える首輪じゃ。あきらめてスライムになぶられるがいい!」
「……な、なんだってぇ。きゃあ」
スライムが俺の体にまとわりついてきた。ふ、服が溶ける。う、嘘だろ。このままじゃとんでもないことに……。スライムを手で払っても手に着くだけで袖が溶ける。
「ぐははは、終わりだ聖天使よ!」
だ、ダルゾーン。き、きさま。ふ、太ももに粘り気が。
「あああ、やばい。ふぁ、ファルブラウ」
「…………」
ファルブラウは両手を組んで歯を剥き出しにしている。
「あの小物がぁ。この我をなめおって」
彼女の赤い目が俺を見た。ぎらぎらと燃えるようなその瞳。彼女はスライムを体にまとわりつかせながら俺に近づいてくる。ファルブラウは俺の両手を掴んだ。
「貴様の力を借りるのは癪だが。貴様の力をもらう!」
力をもらうってな――
ファルブラウの唇が
俺の唇に
!? ??? ん、んん。んー。
「ぺっ。もういい」
俺を突き飛ばしてファルブラウが言う。
「魔力が少しだけ戻った。聖天使の力をもらうのは嫌だがなぁ!! そもそもダルゾーン! 貴様、我にも首輪をしてないのがなめているだろうがぁあああ!!」
ファルブラウが片手を上げる。すさまじい炎がその手に宿り。ダルゾーンも「な。なんだこいつ」って逃げていく。ファルブラウは炎を纏った腕をふるい鉄格子を殴り。がきぃいんと金属が妙な音を立てて折れる。見れば一部溶けている。
「ははははは! 我をなめるなよ。雑魚がぁ。逃がすわけないだろ。おい! 聖天使! 行くぞ!!」
……う、ううう。俺は膝をついたまま顔が赤くなって動けない。