ううう。俺の初めて……。
「おいこら! 聖天使! 行くぞ! 我に続け」
すごいがさつな女の子にうばわれた……。ファルブラウは俺が立ち上がらないからかずかずかと歩いてくる。
「さっさと立て。あのダルゾーンとかいう小物を倒す」
「お、同じ魔王軍なのにいいの?」
「あの程度の雑魚を倒しても魔王様は許してくれる。我は仲がいいからな」
ふふんと鼻を鳴らすファルブラウ。両手を組んで得意げにしている。俺はこんなやつにぃ。俺は唇を手で押さえる。
「は、初めてだったのに」
「ああ? なんだ、何を気にしているんだ」
ファルブラウは舌をペロッと出して自分の手野平をなめる。大きな赤い目が俺を見ている。
「我もあんなことをしたのは初めてだ、同じだ」
そ、そんな問題じゃ。そう言いかける俺をファルブラウは首根っこをつかんで引きずり始める。
「ちょ、ちょっとおしりこすれる。いたいいたい」
「さっさと来いと言っている!」
牢屋からでると階段を引きずられる。
「いたいたい!! お尻が痛い!」
「やつめどこに行った。うおおおおお!」
階段を上がると屋敷のどこかだ! ファルブラウはいきなり炎を吐いてそこを燃やし始めた。
「な、なにやってんの!??」
「うおおおお!!!」
ぐおおおおっと口から炎を出してそこらじゅうを焼く、み、みるみるうちに屋敷が燃えていく。なんかメイドさんたちとか逃げている。逃げて! こいつ危険。俺はさすがに立ち上がってファルブラウに立ちふさがる。
周りが燃えている。
「ほ、炎を吐くのやめ!」
「……少し魔力を使いすぎたか、補給をするか」
素早くターンして俺は逃げた。屋敷の玄関がありそうなほうに全力で走った。
「待てぇ! 聖天使」
「こ、こないでぇ」
後ろから迫るファルブラウの声。怖くて泣きそう。
あ、エントランスとその向こうに扉がある。きっと外に出られる! 俺はそこに体当たりするように走って扉を開けた。
開けた先に。
大勢の人がいた。
屋敷を囲むように町中の人間がここに集まっていた。男も女も子供も大人もいる。でもみんな目が死んでいる。
「ぐはははは!! でてきたか聖天使」
空を見る。背中に蝙蝠のような羽をはやしたダルゾーンが月を背に浮かんでいた。その手には光り輝く水晶がある。ぱあと紫の光の粉のようなものが広がる。すると周りの人たちの顔が鬼のようになっていく。俺に敵意を向けている……!?
「だ、ダルゾーン。街の人たちを操ったのか!
「その通りだ聖天使よ。くくく。さっきの頭のおかしい連れがいてもこの何の罪もない住民どもは殺せまい。さあ、ゆけい、お前たち! 聖天使とその仲間をとらえるのだ!」
うおおおおお!!
街の人たちが雄たけびを上げる。まずい、俺は変身できないし、できてもみんなを傷つけるなんてできない。周りは囲まれている。く、くそどうすればいいんだ。
そうだ! 俺には羽がある。空を飛べれば……そう思って羽を動かすけどピコピコ動くだけだ。街の人たちは今にも襲い掛かってきそうなのに……! く、くそぉ。
「そこにいたかダルゾーン!!!!」
ファルブラウ……! 燃え盛る屋敷から出てきた……口からはああと炎を吐いている。ぎざぎざの歯と少し楽しそうに笑う顔が怖い。
「ま、街の人たちは操られているだけだから傷つけないでファルブラウ!」
ファルブラウは街の人たちを見て、ダルゾーンを見て、俺を見た。
「……はあ? じゃあ、貴様がいけぇええええええ!!!」
「え?」
ファルブラウが俺の腰をつかんでそのままぶん投げた。ダルゾーンに向かって。
「ああああああああああああ!????」
こんな飛び方は想定していないぃ!
く、くそぉ。こうなりゃやけだ!
「くらえダルゾーン!!」
「な、なにぃ!?」
空に浮かぶダルゾーンに向けて手を伸ばす。俺のパンチだぁ!!
ひょいとダルゾーンがよける。よけるのは卑怯だろぉ!!く、くそぉ笑っているな。俺は腰をひねる。
空中のすれ違いざまに俺は足を大きく動かした。キックだ!
「な、なにぃ! ぐええっ」
俺のキックはダルゾーンの顔を蹴った。天使キック……! いたいぃ。俺も痛い。だけどダルゾーンは落ちていく。そしてその手に持った水晶も落ちた。
ぱりーんと水晶が割れる。
その瞬間にあたりを覆っていた紫の光が消えていく。俺は必死に羽を動かしてなんとか落ちていくのを踏ん張る。うううううう、うううううう!!! 普通に落ちたら痛そうだからがんばる。
はあはあはあ。
何とか地面につくとはああとぺたりと座り込んでしまった。そばには気絶したダルゾーン……がいない!? どこに行ったんだあいつ。ん、なんか蝙蝠が気絶して落ちている……。
その時、竜がファルブラウになったことを思い出した。も、もしかしてこの蝙蝠がダルゾーンだったりして。……そ、それよりも街のみんなは。
「あれ? 俺たちはここで何を?」
「どこだここは」
「屋敷が燃えている!」
操られていた人たちは正気に戻っているみたいだ。正気に戻ってみると、
や、屋敷が盛大に燃えている。結構大きな建物が巨大なファイヤーに包まれている……。う、うわぁ。
「わはははははは。よい燃えっぷりだ! 愉快だ!」
混乱する住民の中でファルブラウは大口を開けて笑っている。こ、こいつと一緒にいるととんでもないことになるんじゃないか。今のうちに逃げるべきかもしれない。
そう思っているとファルブラウは俺を見た。
にかっと笑って歯を見せて、ぐっと親指を立ててきた。炎をバックに笑う姿は不覚にも少しかわいいと思ってしまう。
俺は、
少し恥ずかしいけど親指を立てて返してしまった。