王都ラヴァヌは西から流れ込む運河によって毎日多くの人たちが船に乗ってやってくるらしい。それにすごい人口で歴史の古い都市だっていうことだ。あとは西区にあるパン屋さんがおいしいってことはわかった。
「それでですねー」
俺の目の前でぺらぺら喋っている騎士団団長のセシリアさんからの情報だ。俺たちは馬車に揺られて王都への道をのんびりと進んでいる。天使兼罪人として王都に行くとは思わなかったなぁ。
はあああ。俺、呪われているのかなぁ。
馬車は向かい合わせの席で目の前にセシリアさん。俺が退屈しないようにだろうけどずっとしゃべっていて息継ぎの間がないから俺はうんうんと笑顔で相槌をたぶん1時間くらいしている。き、きつい。
でもこの世界に来てから俺に説明をしてくれる人には初めて会ったかもしれない。ふーん、東町のマイケルは最近恋人のターニャと喧嘩しているんだぁ。へえ。マイケルがんばれぇ。まじ誰だよ。
「それでですね。天使様! ここからが面白いんですよ!」
うんうん。笑顔を張り付けた俺は頷くマシーン。そう言い聞かせながら時間が過ぎるのを待つ。ファルブラウも一緒だけど横で普通に寝ている。
「があぁあ」
大きく口を開けていびきをかいている。うう。なんだこの空間。
不意に窓の外に大きな建物がちらりと見えた。窓に目をやると大きな、空に大きく伸びた尖塔が目に入った。城だ。日本の城とは違う。白い城が丘をゆっくりと下る馬車の窓から見える。
白い城。綺麗だなって思った。明るい太陽をいっぱいに受けてきらきら光っているように見えた。セシリアさんも俺が見とれているのが分かったみたいで少しだけ黙った。でも少しだけだった。
「ふふ、あれが王城ですよ。城を中心として街が広がっているのです。王都は世界でも珍しい城壁のない場所です」
「へー」
純粋に俺は感嘆の声を上げた。確かに街が広がっている。丘の上だからよくわかる。
「聖天使様、王城のすぐ近くに裁判所がありますから近くでお城を見れますね」
「へ、へー」
裁判所の話をしてほしくなかった。俺は領主を害したとかいう罪で裁かれるらしい。日本とは違ってこの異世界では俺はどんな刑罰になることがあるんだ? すごく不安なんだけど。
「そ、それで私がもし有罪になったらどうなるんですか?」
セシリアさんはすこし目をぱちぱちさせて、自分の胸をどんと叩いた。その時すこしせき込む。俺はあわてて背中をさする。
馬車はいつの間にか街に入っている。周りにいた騎士たちは数騎になった。街中でぞろぞろ馬にのって並ぶのは難しいんだろうな。
「あ、ありがとうございます。任せてください! 聖天使様が無罪になるように皆で証言をいたします」
いや、ありがたいんだけど。俺ってどんな刑罰になるんだろう。
「それでももし有罪になったら、どうなるのでしょう?」
「あはは。心配ご無用! あ、見てください! あれ!」
なんだろうと窓の外を見るとなんか町の広場の中央に大きな台座があった。祭りの時に太鼓とかのせそうな目立つ感じのやつ。
「処刑台ですね! 有名なんですよ~」
しょけいだい。……こ、こいつもしかしてわざとやっているのか……?
☆
「それでは今より聖天使と称する少女の裁判を開始する」
裁判所の法廷は広かった。四方に椅子が設けられていて身なりのいい人たちが座っている。ほとんど男性だ。
俺の目の前には少し高くしつらえている席に裁判長らしき白いひげのおじさんが黒のマントをつけている。
かんかーんとおじさんが手に持ったハンマーをたたく。俺はあれって本当に使うんだぁって少し現実逃避をした。そういえば弁護士とかいないのか? 俺、一人でみんなの前に立っているけど!ファルブラウも席でにやにやしているし……あいつ!
「天使セナよ」
「は、はひ!」
裁判長微妙に顔が怖い。
「貴殿は神の命によりこの地上に降りてきた天使ということで相違ないか? 人類を救うことを目的として降臨すると予言の歌に記されている。それを為すために来たということだな?」
言うのだなと言われても全部初耳なんだよ。で、でも変なことを言えない。
「は、はひ。私は皆さんを救うためにやってきました」
本当は交通事故にあって死亡したら送り込まれた一般男子高校生なんだけど、そんなこと言える雰囲気じゃない。
「裁判長! 異議を申し入れます!」
声の方を見ればオールバックの青年がいた。メガネをかけた長身の男性だ。頭がよさそう。彼はメガネの真ん中をくいっと指で押さえてから、俺を指さした。
「このような少女が天使であるということがどうしてわかるのでしょう? 魔王軍の四天王であるファルブラウを倒したなどと、どうして信じられるのでしょうか? ペテン師としかいいようがありません!」
「そ、そんなぁ」
実際俺を見ても強そうには見えないと思う。だが、俺は処刑台にはいきたくない。このメガネは検事みたいな役職なのか? じゃあ弁護士はどこだ!
「そうはいっても私は天使で本当にファルブラウを倒した……痛い!」
傍聴席からなんか飛んできて俺の頭にヒットした。見ればファルブラウがなんかなげてきた。なんだこれ。
「我は負けてなどいない!」
「つまみだせ!」
裁判長の声にファルブラウが衛兵に連れていかれている。ま、まあいいや。
「こほん、私の背中を見てください。天使の羽があります!」
ぴこぴこと動かすと周りの人たちがおおおと驚きの声を上げる。ふふふ。流石にこれは信じざるを得ないだろ。そして俺はさらに両手の一指し指で俺の頭上を指した。
「そして天使のわっかがあります! 私は天使です。決して皆さんを傷つける気はありません。領主を倒したのも魔王軍の手下が化けていたからです!」
ざわざわと法廷がする。なんか生き残れそう。
かんかーんと裁判長がハンマーを鳴らす。
「魔王様に逆らうのか? 天使よ」
へあ? へええ?
俺は今何を言われたのかさっぱりわからない。何を言っているんだ? 魔王様に逆らうなっ、俺は周りを慌てて確認する。周りの人たちはそれぞれうんうんとうなづいている。
ま、まさかあの街の人たちのようにみんな操られている?
「きゃはははは。聖天使様もなさけなーい」
傍聴席と俺の居る場所を区切っている木製のしきりに腰掛ける少女がいた。ゴスロリの服に短いスカートから伸びた白い太もも、手には大きなぬいぐるみ。
印象的な青い髪。そして俺を見る瞳が深い藍色。
明らかに異質な存在だった。彼女はにやああと笑って仕切りからぴょんと降りて俺に向けて歩いていく。大勢いるはずの法廷は静かだった。彼女はその中で踊るように軽やかな足取りで俺の周りを歩く。
「ふふふ。聖天使なんて言っても弱そうねぇ。のこのこ裁判という名の処刑に引っかかるなんて」
少女がぺろりと自分の唇をなめる。
「お前はすでにこの僕。四天王の一人。ラム・ダンピールの掌の上ってことだよ~」
な、なんで王都に四天王が……!