『あんたはほいほいと四天王と出会うのね』
俺の頭の中に声が響いた。変身したことによってキュリオとつながったのだ。ツインテールの俺をこんなことに巻き込んだ元凶の姿が浮かぶ。椅子に座って足を組んだ状態で頬杖をついた、けだるげな天使が言ってくる。
『あいつは魔王の四天王の中でも厄介な存在よ。ラム・ダンピールはファルブラウほどの魔力はないけど、それでも血を使った強力な攻撃をしてくるわ』
ゲームのチュートリアルみたいな言葉が頭に響く……。
それじゃあ手伝ってくれよ、と思うとキュリオははあとため息をついた。
『仕方ないわね。ここからナビしてあげるから、頑張りなさい』
――現実に引き戻された。ラムが俺に向って右手を伸ばすと赤い血のような槍が弾けて放射線状に俺に向ってくる……! わわわ。俺は慌てて羽を動かして飛んで避ける。一瞬後に俺の居た場所にラムの血が結晶化して地面に突き刺さった。
あ、あんなの受けたら死ぬ。俺はそれにこの法廷には操られているとはいえ大勢の人がいる。みんな逃げたりしないただ立っているだけだ。
「きゃはは。聖天使様。ごきげんよう」
目の前にラムがいた。藍色の目に俺の姿が映る。彼女は再び手にした槍を俺に突き入れてくる。それを剣で防ぐ。ばああとラムの背に広がる蝙蝠のような羽。
「くっ」
空中で剣と槍がぶつかる。火花が俺の目の前で散る。ラムの顔が近い。片手にはぬいぐるみ、片手には赤い槍。笑う顔。こ、怖い。
『右よ』
キュリオの声。俺はとっさに右を見た。結晶化した血が俺に向って飛んでくる。
「わわわわ」
俺は普通に焦って身をかわす。
『左から追加で攻撃』
さらに結晶化した血の線羽を動かして俺は必死に回避する。
『その後に真上から仕留めようとしているわ』
く、空中で身をひねる。そばを頭上から落ちてきた血の槍が落ちていく。ど、どうなっているんだ。周りからどんどん攻撃される……。
きーきー
はっとしてみれば蝙蝠が四方を囲んでいる。そいつらは口から赤い血を滴らせている。蝙蝠はどんどん数を増やしている。
「僕の眷属の血をすこーしだけ借りているの。ふふふ、聖天使様」
ラムが笑っている。くっ、こ、こいつ強い。ファルブラウみたいに直線的じゃないけど俺を戦略的に追い詰めてくる。キュリオの声がなければやられているかもしれない。ほんと……まじで……俺を轢いたキックボードの奴許さんからな。
『セナ……まずはあの邪魔な蝙蝠を剣で斬りなさい。あんたならできるわ』
「そんなこと……できるできない以前に……」
きーきーと飛んでいる蝙蝠たち。斬るとか……かわいそう。
『はあ? あんたバカじゃないの? 変身の時間も限られているっていうのに……仕方ない。じゃあその剣でできることを教えてあげるわ。白い剣である『ラブソード』の力を開放させなさい……その剣を手にした時から力を開放する言葉はわかっているはずよ」
この剣……そんなくそダサい名前だったのか……!
ええい! しかしやるしかない。ラムが俺に向けて右手を伸ばすのが見える。周りの蝙蝠の血を使って俺を攻撃する前にやる。俺の頭に叫ぶべき言葉が浮かぶ。
「聖なる愛を宿す我が剣よ……白き光で世界を照らせ! シャイニング・デボーション!」
「な、何!?」
ぱあああと俺が構えた剣が光る。すっごい恥ずかしいセリフとともに放たれたまばゆい光。世界全てを照らせそうなほどの強烈な白い閃光が奔った……。ラムは目を覆い、蝙蝠たちは悲鳴を上げて逃げたり落ちたりする。
強力な光で相手をひるませる技……。太陽け……。いや! 今がチャンスだ!
「く、目が。目が」
ラムが自分の目をこすっている。俺は羽を動かしてそこに飛び込む。剣を振りかぶる。一瞬かわいらしい彼女の姿に躊躇してしまう。だけど俺は思いっきり叩きつけた。彼女の槍に対して。
ぱきーんと赤い槍が割れる。ラムはその衝撃に体勢を崩してふらふらと地面に落ちていく。かろうじて着地したようだった。ラムは目を開ける。まだ辛そうだった。周りには落ちた蝙蝠がいる。
「せ、聖天使。なぜ僕を直接斬らなかった……」
「こんな戦いは無意味……もうやめましょう」
俺も地上に降り立つ。普通に考えて女の子を切るとか無理だろ……いや、おっさんが相手だったとしても斬ったりはできないよ。
「僕をなめているのか? きゃはは、聖天使様からすれば僕なんて相手にする価値もないってことなのかな? ふざけるなよ!」
ラムは俺を睨んでくる。違います! すごく誤解です!
「違います。私は争いなんてしたくないんです! 本当に……」
「いい子ぶって……じゃ、これならどう?」
ラムが俺じゃなくて棒立ちになっている人たちに手を向けた。その手に赤い血が収束していく。
「ま、まさか!」
俺じゃなくてあの人たちを!? 俺はとっさに体に力を入れて飛んだ。ラムの手から赤い血が結晶化した槍が飛ぶ。俺は全力でそれを追い越してみんなの前に降り立った。剣でその攻撃を払い落とす。
があぁんと剣と赤い血がぶつかる。ううう、手がし、しびれる。
「はあはあはあはあ」
無理な力を出してしまった。それにもう変身の時間がない。ここで決めないといけない。
「ふふふ」
ラムが笑った? うぁあ。
俺は後ろから羽交い絞めされる。わ、わ、貴族のおじさんたちが俺の体を押さえつけようとしてくる。わあ! け、剣が奪われてどこかに持っていかれる。て、ていうかどこを触っているんだおっさんたち!
両手両足に絡みつくおじさんたち。それに動けない。振り払おうとしても数人がかかりで押さえられている。みんな目が紅い。腰にまとわりついているおじさんもいる……。
ラムが俺にゆっくりと近づく。
「……何もしてない人間を聖天使様は傷つけないよねぇ。きゃはは。おいお前たち、僕が血を吸いやすいようにしろ」
う、うう頭を抑えられて首筋を伸ばすようにされる。ラムは俺の体に触れてすうーと胸元に指をつけて首までなでるように動かす。
「きゃはは、無様ね。聖天使。こいつらは何でも言うことを聞くんだよ。僕の命令ならね。そうだなぁ。聖天使様が無駄な抵抗をしたらスカートの中を脱がせろって言っちゃったりして」
「……!?」
太ももを抑えているおじさんが「わかりました」という。わ、わかるんじゃないよ!
「とりあえず血をいただこうかな? 聖天使様。僕に血を吸われたら君の心は僕の支配をうけることになる。これで聖天使様の旅はおしまい、ってわけ」
ラムは俺の首筋にかみつこうと口を開ける。そして一度首筋にキスをしてくる……。う、うう。や、やばい。
☆
一方そのころファルブラウはパンケーキをほおばっていた。
「うむうまいうまい」
いじめっ子を撃退した大功を上げた彼女は街の人たちからおやつをもらえたのだった。