やばい……やばい! 俺は両手両足が動かない……武器も取られた。俺はなんとか逃げ出そうともがくけど全然抜け出せない。くっ。目の前のラムが上目遣いで俺を見ながらニヤリとする。
「きゃはは、そんなに逃げ出したいなら捕まえている連中を全力で振り払えばいいのに……お人よしね」
「そ、そんなことはできない」
確かに変身している状況でファルブラウを倒した時のように全力を出せばなんとかできるかもしれない。でも、みんなを思い切り引き離したら怪我ではすまないかもしれない……。
ラムは俺の首筋にかみついてくる。
「ああ」
痛いというか、奇妙な感覚がある。何かが流れ込んでいるくるようなふわふわした感覚。胸の奥がきゅんとする。
「あ、ああ」
ラムを好きになりそうなる。……や、やばい。
「わたしは、負けない」
何とか絞り出した言葉は自分でもすごく負けそうな言葉だった。ラムが俺の首筋から口を離す。その口には少し俺の血がついてる。
「ふふふ、もう終りね。聖天使。だんだんと僕の言うことを聞きたくなってくるはずだよ。ほらほら目の奥にハートマークを浮かべそうになっているじゃん。きゃはは」
く、くぅ。ま、負けるもんか。こんなところでうう。ラムが俺の顎を指でつかむ。
「ほら、堕ちちゃえ、天使様。言ってごらん、もう平和とか愛とか二度と言いませんって」
「く、くぅ」
元々……べ、別に言いたくない。勝手に口が動くことがあるけど平和とかは言った覚えがない。はあはあ。でも、でもやばい、俺は心を支配しようとしている何かにあらがう。
そもそもなんで俺がこんな目にあっているんだ。こ、こんな。くぅ。
『しっかたないわねぇ。洗脳されかかっているんじゃないわよ』
キュリオの声がする。俺すごい頑張っているんだからそんなんいうなよ……!
『あんたに渡した天使の力は清らかな心を持つほどに力を発揮するのよ。その力の本当の力を使えばどんなものにも負けないわ。聖天使セナ。負けたくなければ平和を想いなさい。そして愛を語るのよ』
な、なにを言っているんだ。
『心の赴くまま開放しなさい。さあ、思ったことをそのままに言うのよ!』
……思ったことをそのままに……?
ラムが俺の顎をもって顔を上げさせた。その彼女に言う。
「私は……はあはあ……みんなを救いたい……」
何を言っているんだ俺は。
「今までこの世界で出会ってきた人たちも、ファルブラウもなんとなく憎めない……。今私を取り押さえている貴族のおじさんたちも傷つけたくない」
「ふーん……。筋金入りのお人よしね」
「それにラムのことも……私は戦いたくない」
「……この四天王の僕をなめているってことだよね」
「ち、ちがう。ただ……私は、はあはあ。この世界が平和ならいいって思う」
それ自体は本心だ。戦いたくないし、平和なのがいいと思う。俺は心の思うままに叫んだ。
「だから、こんなところで負けてられない! 愛が必要だっているなら、全部愛してやる!」
その瞬間だった。
俺の衣装が光に包まれた、まずい……、変身の限界……? いや様子が違う。白い光が体中を包みワンピースのように変化する。羽が大きくなる。心に清らかな何かが広がっていく。ニーソックスやグローブが消えてただ白いワンピースだけになる。
羽の形に光が収束していく。俺の後ろに後光のように円環が形を成してそこから光の羽が4つ生まれた。
そして体が浮かび上がる。おじさんたちが離れていく。
俺は手のひらをを胸の前で組んで祈りをささげる。白い光が法廷を包み込んでいく。
これは俺の変身の真の力『エンジェリック・シャイニングモード』。勝手に頭の中にその名前が流れ込んできた。
「天使様」
「天使様だ」
「おぉ、わしらは今まで何を」
俺から放たれる光に照らされたおじさんたちが涙を流しながら祈りを捧げ始める。さっきまでセクハラされていたけど……とるにたらないこと。全てを許すよ。すごく心が清らかな気持ちだ。
「な、なんだこの力は……ぼ、僕の支配から逃れたって言うのか?」
ラムが焦っている。
「そう、私の力は人の心の善の部分を光の中に顕現させるもの……私の力ではなくみなさんの心がラムの力を上回ったんだよ」
「……そ、そんなことはあり得ない」
ラムが睨みつけてくる。
「人間の心の底にあるのは悪意だ! 僕の力はそれを利用してあの豚どもを支配しているんだ。善の心だと……いいだろう、僕の力とお前の力どちらが強いのか勝負してやろう」
ラムの体から邪悪な闇の気配が広がっていく。それは俺の放つ白い光とぶつかりせめぎ合う。間に挟まれたおじさんたちは「ラムちゃん」「セナちゃん」となんか言っている。ラムを見たりこっちを見たり……。右往左往してる。
「く、くう」
ラムは苦し気に呻く。でも蝙蝠の翼を広げて右手を伸ばす。人差し指から赤い波動をが広がる。それを受けておじさんたちが頭を抱えてうなる。いけない、俺はさらに祈りをささげて白い光を放つ。
善と悪の心が戦っているんだ。頑張れ貴族のおじさんたち……! ラムの力がさらに広がってく。俺も頑張る。
「せ、聖天使、お前は人間どもの醜さが分かってない……だからそんな甘いことを言えるんだ。僕は人間と吸血鬼のハーフだからこいつらの邪悪さは味わってきた……いいだろう」
ラムはさらに力を増す。
「僕はもともとお前の処刑の裁判をしようとしていたんだ。奴隷ども、この天使の裁判を再開する。お前たちの悪の心をそのままこいつにぶつけろ、心の奥底にいつも眠っている欲望のままにこいつに死刑を宣告しろ!」
闇の力が広がる。おじさんたちは俺の光も浴びてゆらゆらを立ち上がっていく。
彼らは裁判長がふらふらと裁判長席に着き。そしてさっきのメガネの頭の良さそうな青年も立ち上がった。
「さ、裁判を開始する」
ラムが笑った。
「あははは、少しくらいは動揺したけど、人間どもの王国の法律で聖天使を罪人にしてあげるよ。きゃはははは」
裁判長……! 負けないで……俺を処刑しないで……! まじで……!
「皆さん……正気に戻ってください。心の悪に負けないで」
祈りをささげる。闇と光が混ざり合い、裁判長の前にあのメガネの青年が口を開いた。
「……裁判長。胸の大きさは小さいほうがいいと思われます」
…………?
…………?
ラムと俺の目があう。ラムも「????」って頭に浮かべてそうな顔をしている。裁判長はかんかーんとあのハンマーをたたく。
「裁判を開始する」
何が始まるんだ? 何の話だ? おじさんたちがすごく真剣な顔をしている。
まさか……これが心の闇……?
☆☆
一方そのころファルブラウはパンケーキを食べ終わっていた。大き目に焼いたパンケーキはなかなかの強敵であった。
「うむうむ」
あったかくしたミルクをおいしそうに飲んでいる。それから眠たくなったので町の人の家でかあーかあーと眠り始めた。