そこは教会……だろう。
広い講堂の中には長椅子が整然と並べられていて、そこに多くの人が祈りをささげているのが見える。
ステンドグラスから差し込む光の中でのことだった。
俺が降臨した。円柱状の光とともに。
白い羽を広げて金髪の美少女が急にゆっくりと舞い降りた。人々のざわめきが広がっていくのは当然だと思う。……異世界転生ってもっとこう、地味なところとかに行くもんじゃないの?
「天使だ……」
「天に祈りが通じたんだ」
「エンジェル……」
ゆっくりと地面に舞い降りた俺を人々がひざまづいて迎えてくれる。いや。俺はただのしがない高校生です。この見た目も強制的に変えられましたとも言えない。
だってみんなきらきした瞳で俺を見てくるんだもん……ふっと俺も笑いかけてあげると、おおおっと歓声が上がる。恥ずかしいです……。
「天使様」
その中から腰の曲がったお爺さんが出てきた。
「私どもの祈りを聞いて……来てくださったのですね?」
……ごめんなさい。俺、全然わかってません。
へへへ、ごまかすために愛想笑いするとおじいさんはいきなり泣き始めた。俺の足元に這いつくばる。
「ありがどぉございますぅ。なんという優しいお顔……」
へ、へへ。何が? ……? みんな泣いてる。俺も泣きたい。せめて何を祈ってたのか教えてほしい、聞きづらいよこの空気。
「みなさん。つらかったですね」
何言ってんだ俺は。何もわかってねぇんだよ。誰か教えて。俺は何を求められて、何に感謝されているの。
「ありがたきお言葉」
おじいさん感謝してるし……心が痛い。
「も、もう大丈夫ですよ」
何言ってんの俺? 何言ってんの? 自分でもよくわからないことを口にしているよ。みんなすごく俺に祈りをささげているし。やばい、涙が出てきた。つらい。俺の頬を涙が伝うのが分かる。
みんながざわめく。
「ぱぱ。なんで天子様泣いているの?」
「我らのために泣いてくださっているのだよ」
最前列で子供になんか言っているそこのパパ。てきとうなことをいうんじゃない。
☆
エリオス村という場所らしい。この異世界ヴァルドランドの大陸に位置する小さな村ということだ。広さは俺の高校くらい……。他に大きさの表し方がわからない。
のどかな村だ。いい天気。俺の髪が風になびいている。少し高台に登った。歓迎会を開くとかなんとか言われたが、散歩させてほしいと逃げてきた。
家々がある中心部から外は小麦畑が広がっている。それが風に揺れるとさぁと黄金の波になる光景が目の前にあった。
「セナ様」
「村長様」
あのおじいさんが俺に話しかけてきた。「セナ様」とか言ってくるから「村長様」とか返してしまう。
「よい村でしょう」
「はい、そうですね」
……チャンスだ。俺。ここで俺は何を求められているのかを聞き出そう。自然な形で……。
「私の使命をもう一度お聞きしたいのです。」
使命ってなんだぁ。いや、もう後には引き返せない。俺は振り向く。胸に手を当てていった。
「皆さんを救うために私がやるべきことを、心に刻みたいから」
恥ずかしい……こ、心に刻む? 俺はなんでこんな恥ずかしいセリフがぺらぺらと出てくるんだ。自分の妙な才能を見つけてもなんも嬉しくない。あと自分の声なのにかわいいのがすごい、違和感!
「わかりました。私もあなた様の言葉を心に刻みましょう」
村長。やめてくれ。それは俺に効く。
「……我らの祈りの通り。ここから北の廃城に魔王軍四天王の一人、『赤のファルブラヴ』が居座り、この村の一番美しい女性を生贄にせよといってきたのです。恐ろしい竜の姿をした……魔物です」
生贄……魔王軍。そうか……この村の人たちも大変なんだ。それで俺に救いを。
「……我らは神にいのりました。我らのかわいい身内の身代わりをくださいと……」
……おや? その話だったら俺が身代わりにならない?
「ありがとうございます」
村長が俺に頭を下げる。え? ん? 俺の頭の中でかちかちといろいろと考えてみる。……俺、いけにえにされるの? どう考えてもそういう話ですよね。
「さあ、お風呂の用意もしております」
村長ぉ! それあれだろ生贄の前に俺をきれいにしようとしているだろ!
「天使様。お食事の用意とお風呂の用意ができました。お体につける香辛料も」
やばい。なんかいつの間にか村人たちも集まってきた。体に香辛料つけてどうするんだ。明らかに喰われるやつだろ!
いつの間にか俺は死地にいる。ていうかあのツインテール天使。これわかってて送り込んだだろ!! だらだらだと汗が流れる。し、死にたくない。こ、こここで動揺したら村長がどう行動するかわからない。
で、できるだけ俺は考えた。俺はにこにこしてる村人たちに対して微笑みかける。
「わかりました。皆さん。私に良い考えがあります」
ここでなんとか説得しないと死ぬ。俺は両の掌を組んで祈りをささげるようなポーズをする。そして羽を広げた。できるだけ穏やかに、聖女のように告げる。
「竜を倒すのです。皆様の力があれば、できます」
村人どもぉ俺一人だけじゃ死なんぞぉ、