美少女聖天使、俺   作:ほりぃー

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ダンピールの彼女に笑顔を

 地下牢に続く長い階段があった。

 

 途中でセシリアさんが手にカンテラをもって俺たちを先導してくれる。暗い。こんなところにラムは閉じ込められているのか……。俺とファルブラウはかつんかつんと音が響く階段を下りていく。

 

 下に降りると牢屋が並んでいる。牢屋には人はいないようだ。

 

「ここは昔使われていた場所で今ではほとんど使われていません。中は少し複雑で迷子になるとなかなか帰ってこれないんですよ」

「へー。怖いなぁ」

 

 こんなところで肝試ししたら怖そう……。セシリアさんがいてくれて助かる。

 

「……あれ……こっちだったかな……」

 

 ぼそっとセシリアさんが言う。……怖いこと言わないで……。幽霊が出るより怖いかもしれない。ん? なんか体が重い。なんか歩きにくい。ていうかなんか後ろに引かれる。

 

「ひっ!?」

 

 俺は振り返った。誰もいない。というかファルブラウも驚いた顔をしている。

 

「何を叫んでいるんだ聖天使」

「い、いや、なんか誰かに引っ張られたような」

 

 ……ていうか引っ張ったのはファルブラウなんじゃないか? 

 

「いたずらはやめてよ」

「我はいたずらなんてしていない」

 

 んん? とりあえず俺は前を向いて歩く。セシリアさんについていく。するとまた体が重たくなった。ていうか服の端を掴まれている。ちらっと見ればファルブラウじゃないか。なんでこいつ俺の服の端をつまんでいるんだ……? 歩きにくいんだけど。

 

「あ、ここですよ!!!」

 

 大きな扉の前でセシリアさんが叫んだ。叫んだって言うか地声が大きい。ハウリングしている。だけどラムがそこにいるのだろう。俺は少し緊張した。ふうと胸に手を当てて息を吐く。なんとか説得したい。

 

「鍵を開けますね」

 

 セシリアさんがかちゃかちゃと鍵を開ける。がちゃんと音を立てて扉があく。ぎいいと開けば中の様子が分かった。カンテラの光に照らされて中にいる少女が見えた。

 

 両腕を天井からの鎖につるされた青い髪の少女がいた。黒いフリルの付いたドレスがところどころ破れて肌が見えている。彼女は俺を見てきっと睨みつけてきた。うっ。まあそういう反応なるよな。彼女の首には淡く光る首輪があった。

 

「ああ、セナちゃんじゃん。僕のことを笑いに来たのかい? 面白いでしょ? 人間にとらえられた僕の無様な姿はさ」

「そ、そんなこと思ってない」

「へー。流石博愛主義の聖天使様だね。僕なんて眼中にないってことかな」

 

 すごい敵意を感じる……。ラムははっと顔を上げた。俺の後ろにいるファルブラウに目を向けた。

 

「なんで裏切り者がここにいるのかなぁ?」

「我は裏切ってなどない」

「魔王様から聖天使様に鞍替えしたってわけ? 僕は嘆かわしいよ四天王の一人が裏切るなんてさ」

 

 ファルブラウは両手をポケットに突っ込んで表情を変えない。俺はこほんと咳払いした。

 

「ここに来たのはラムに話が合ってきたんだ」

「僕にはないなぁ。ふん」

「……実は私の仲間になってほしくて……」

「はあ?」

 

 本当のバカを見たような顔で俺をラムはみた。彼女の藍色の瞳が俺を見る。

 

「なんでこのラム・ダンピール様が聖天使の従者にならないといけないんだい? そこのファルブラウと同じように僕を篭絡できるとでも思ったのか。バカだね。僕は人間と人間に与するお前なんて嫌いだ」

 

 ラムは言った。

 

「そもそも僕は魔王様の手助けをしたいのは、子供のころに人間に捨てられた僕を拾ってくれたからだ! いい? 聖天使セナちゃん。君が考えているほど人間は綺麗じゃない。僕みたいな吸血鬼と人間のハーフがどんな目にあったかわかるか?」

 

 ……。

 

「どこに行っても邪魔もの扱いだよ。僕はお母さんと一緒にいろんなところを転々とした……、でも人間のお母さんは僕にぬいぐるみだけを残してどこかに消えた。きっと捨てられたんだ……」

 

 ……。

 

「何か言ったらどうだ聖天使さん。僕はおまえの……な。か……まなんかに」

 

 だばぁーと涙があふれてきた。なんか聞いててすごい辛い。

 

「お、おま……無言で泣くな! こわいじゃないか!」

 

 そ、そんなこといったって。ひっく、なんか悲しい気持ちになったから仕方ないじゃん。あのぬいぐるみにそんな意味があったなんて。……そういえば部屋の隅にぬいぐるみが置いてある……。

 

「…………いや、そこまで普通に泣かれると僕……なんて言ったらいいかわからないんだけど」

「……ひっく、別に魔王と戦ってほしいというわけじゃないんだよ」

「はあ? 君は魔王様と戦うんだろ?」

「別に戦いたいわけじゃないし、ラムもファルブラウにも一緒に戦ってほしいわけじゃなくて……」

「じゃ、じゃあ僕を勧誘するって何をしに来たんだ」

「……え? なんでだろ」

 

 ファルブラウとの戦いをラムと友達になることってしたけど、よく考えたらなんでだ。うーん。なんだろ。ラムは普通に悩む俺を見て呆れたように言う。

 

「君、もしかして何も考えてないのか?」

「そ、そんなことはない……えっと、ああ、そうだ友達になれるかなって思って」

 

 何を言ってんだ俺は。

 

「……と、友達? 馬鹿か君は? そもそも僕を開放したら君の敵になるぞ」

「……その時はその時かな」

 

 俺も異世界に来て様々な理不尽にあったからかすごい心が広くなった気がする。どうせ俺はこの後不幸な目に合うと思うんだよね。……どうせね!!

 

「だったら今更少しくらい大丈夫!」

「何を言っているのか僕全然わからないんだけど??」

 

 ともかくラムがこのままならひどい目に合うかもしれないから。

 

「ともかく私と一緒に行こうラム、友達になってくれるだけでいいよ」

「……ともだち」

 

 ラムは俺の顔をじいいとみてふんと顔をそむけた。

 

「聖天使なんかの言うことを聞けるものか」

「そんなぁ」

 

 どうしよ。そんな俺の横をファルブラウが歩いてくる。両手をポケットに突っ込んで彼女はククと笑っている。

 

「聖天使、わかっておらんな、いやだというものを従わせるのは力が必要ということだ」

「ち、力づくってこと」

「我はそうやってきた」

「で、でも拘束されているのに痛い目に合わせるなんて拷問みたいなことできないよ」

「いいだろう」

 

 ファルブラウがラムの横に行く。

 

「ここにくすぐりやすそうな腋があるではないか」

「……お、おいやめろ、ぼくに、僕に何をする気だ!」

「ほほう」

 

 ファルブラウの意図が分かって少し面白く思ってしまう。俺はファルブラウと反対方向に行く。ラムがおびえた目で言う。彼女の両手を捕まえている鎖がちゃりちゃりと音を立てる。

 

「や、やめろ。やめろお前ら。ぼ、僕に触るな!」

 

 俺とファルブラウが両手を上げる。ランタンに俺たちが照らされて影が伸びる。

 

 ひひひ。ラムのごうもんが始まった。

 

「やめろ! あははははははは、やめ、っひひ、やめっ、ひひひ。はなせぇ。あははははははは、ひいぃ、ひい。やめろ、やめ、ひぃ。そこ、くすぐったい。膝を触るなぁ。あははははははははははは、こ、こんなくだらないこと、ひぃ」

 

 こちょこちょこちょこちょ。ファルブラウと一緒に凄惨なごうもんをする俺ら。ラムは身をよじって涙目で逃げようとする。

 

「わかっだ、わがったから、友達だろうがなんだろうがなってやる。あとあと裏切るからな、ひひいひ、あはははははははははは!」

 

 ラムの笑い声が響いた。正義は勝った!

 

 

(第二部完)

 

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