『黒のアドレイド』って人に会いに行くための旅は過酷を極めた。だって、騎士団にもらった荷物が純粋に重いんだもん! 中にはいろいろな道具が入っているし、いっぱい金貨銀貨が入っていた。
干し肉とか小麦? とか簡単な調理器具とかもあった。あ、火打石っぽいのもあった。使い方全部わかんない。
夕暮れの中。
まっすぐに続く街道を3人は歩いていく。ファルブラウは手に木の枝をもって先導して、俺とラムは死にそうな顔でそれについていく。どれだけ歩いたのかもうよくわからない。
「ちょ、ちょっと僕、もう疲れたんだけど」
「…………」
「無視するなぁ」
ちょっ、ぬいぐるみで叩かないで。ファルブラウは元気そうだな。あいついつも元気だな。……ひいひい、ちょっと休もう。ラムとファルブラウを呼んだ。
「今日はここでキャンプしよう」
「キャンプってなんだ」
ファルブラウが言う。日本語。あ、いや英語か……。
「キャンプってのはここで今日は寝ようってことだよ」
俺は鞄を下ろして中から簡易的な敷布をひいた。テントとかはまだこの時代ないのだろう。ていうかそんなもの持たされたら俺は重さで死んでそうだけど。敷布の上にラムが腰を下ろして、ゴロンと寝転がる。
「ああー。もう、いやだ。なんでこんなことをこの僕がしているんだろ。ほんと聖天使とか死ねばいいのに」
「すごく聞こえてる……」
「おなかへったー! なんかないの!?」
ばたばた足を動かすラム。そしてファルブラウがごそごそと鞄をあさくっている。
「こらっ!」
「ちっ」
舌打ちをしてファルブラウが離れていく。なんか俺……お母さんの気持ちが分かった気がする。
「ちゃんとご飯はあるよ。ほら。干し肉」
「……」
「……」
……くっちゃくっちゃ。聖天使と四天王2人で干し肉を噛んで食べる。
なんだろうこの、なんかこうやるせなさは。
「ふ、ふぐっ」
ラムが大粒の涙を流し始めたころ俺は家に帰りたくなっていた。カレーライスが食べたい……。ファルブラウは両手で干し肉を掴んでぐいーと伸ばしている。
「硬い」
こいつ歯がぎざぎざなのに顎の力は女の子なのか。まあ、確かに硬い。しょっぱい。まさに保存食といった感じだ。
「聖天使! なんか料理とかできないわけ!? 僕こんなのいやだよ!」
ラムが俺に抗議してくる。へっ。カップラーメンを持ってこい、3分で作ってやる。得意料理だ。……だめだ、お湯がない。作れません。
「いや、あっちの世界にいた時も私は料理なんてしたことなかったし」
「あっちの世界……天上ってこと? ふん。お高く留まっているみたい」
「そ、そんなのいうならラムこそ料理とかできないの!?」
「僕がそんな召使みたいことするわけないだろ!?」
醜い言い争いをしている中でファルブラウは干し肉を「硬い」とかいいながら食べている。
「あーあ。こんなことなら城の地下に捕まっている方がよかったよ。こんな貧しい食事をさせられるなんてさ」
「うう」
そこまで言うならなんかないのか……。俺は鞄の中をあさってみる。ん? なんだこれ包みに入っている。中を見れば小麦色の小さな棒状の何かがある。これ食べれるのかな。口にいれてみるとわかった、これはクッキーだ。
素朴な味わいだけど、結構おいしい。
はっ!!
俺は振り返った。
そこには恐ろしい顔をした二人の四天王がいた。立ち上がった。ファルブラウとラムはすごい目で俺を見下ろしている。
「それを我によこせぇ!!」
「僕が食べる!」
「まってまって!!」
3人でもみ合う。料理のできない連中の旅路がこんなにも過酷だとは思わなかった。俺だってお腹が減っているんだ! クッキーは結構少ない。クッキーの包みを取り合い、もみ合い、へし合い。
「まって、3人で分けよう」
「我のものだ!」
あぶな! 突っ込んできたファルブラウから身をかわすとラムにぶつかった。抱き着くような形になって慌てて離れる。
「何するんだ! 聖天使!」
「わ、わざとじゃ」
「僕を襲うなんて100年早いよ!」
……うう。なんかすごい誤解を得ている気がする。その時俺は気が付いた。そろそろ夜になる。
「火をつけないと真っ暗になるかも」
「はあ、聖天使様は夜には眼が利かないからね。その点この僕は……あれ。なんか全然暗いところが見えない」
そういえば吸血鬼の血が入っているって話だったけどラムはなんか慌てて首輪を掴んでいる。
「こ、こいつ、僕の吸血鬼としての特性も封じているのか。普通に暗いところが見えない」
「ということはやっぱり火を熾さないと。夜は真っ暗だよ」
「真っ暗?」
ラムは顔を青くして不安そうにしている、よろよろとぬいぐるみに近づいてぎゅうと抱きしめる。……とりあえずここは俺が火をつけよう、とりあえず近くに落ちていた木の枝とかを積み重ねて。火打石をだして。
かちっかちっ。
おっ、火花が散った! いけそう
――たぶん1時間くらいたった気がする。たぶん。
全然火が付かない。だんだんと手元すら見えなくなっていくし。ほのかの俺の頭の上の輪っかから漏れる光だけが頼りだ。この天使の輪っかもう少し光強くならないのか。
「おい、聖天使」
「ふぁ、ファルブラウ。はあはあ」
ファルブラウは手になんか持っている。雑草の塊?
「木は意外と燃えにくいからな。草の塊の方が燃えやすいぞ。燃えたら木に移せばいい。あと火が付いたら息を吹きかけろ」
「おお!」
はよいえ。ファルブラウは草の塊を地面に置く。俺はかちかちと動かす。少しだけ火が付いた。ああ、消えた。ふーふーしないと。
「ファルブラウ手伝って」
「ああ? 我は寝る」
ファルブラウは敷布の上に寝転がって寝た。自由なやつ……。仕方ない。
「ラム……お願い手伝って」
「はあ? なんでこの僕が」
「友達を助けると思って……」
「……ともだち…………。いやいや僕と君は友達なんてものじゃないけれどでも灯りが欲しいのも事実だしそういう意味ではぼくのためであるから手伝ってやってもいいかもしれないけどさ何をすればいいのさ?」
なんかすごい長いセリフだったけど結局助けてくれるってことか。
「火が付いたらふーふーして」
「僕が?」
「ラムが」
「……」
こうして俺たちの戦いが始まった。
俺がカチカチするとラムがフーフーする。ラムは這いつくばって息を吐く。俺は頑張って石をカチカチする。
しばらくして小さな火が草について。そしてだんだんと明るくなる。それを木の枝に移して焚火ができた。
俺とラムは顔を見合わせて笑い合う。
「やったー!」
「やったー!」
ハイタッチ! 初めて自分で火をつけてみてわかったけど、火って偉大なんだ……。明るいとなんかほっとする。ラムは嬉しそうにして、それからはっとした顔をした。
「か、勘違いするんじゃないよ。これは僕のためにやったんだ!」
俺は顔を赤くしていうラムに対してわかったわかったと言ってあげる。
「なんだそのあしらうような言い方は! 僕は……うっ」
「はい、クッキー」
俺はやっと棒状のクッキーを手にしてラムにあげる。彼女はそれをふんと言って手に取ると半分だけ食べた。
「甘さが足りない」
「たはは」
手厳しい……まあいいや。俺もおなか減ったし、そう思ってクッキーを手に取る。その手をファルブラウがかみついてくる。な、なんだ!?
「我に黙って食べるなぁ!!
いたい~! いたい!
わあわあとファルブラウともみ合う。それを見てラムが。
「あはは」
笑っているのが分かる。でも、俺は痛い!