ファルブラウの体から熱気が発している。熱が当たり全体を包み込むように感じた。
「はぁあああ」
息を吐くと炎になって消える。俺から吸収した力でファルブラウの力がかなり戻っている。竜の姿にはなっていないけど角が生えていた。
「……」
ヴェリエールはファルブラウを見ながら、いや見下すような表情をしている。彼女はくすりとして手を点に掲げる。それでその手を中心に魔力の波が広がっていく。それらは空の上で剣や槍の形になっていく。な、なんだあれ。それだけじゃない見たことのない武器やこん棒やあらゆる形になっていく。
空に浮かぶ無数の黒い武器の形をした影。その下でヴェリエールが微笑んでいる。
「ファルブラウ……竜風情がこのヴェリエール様にたてついたことを思い知らせてやるわ。四天王最強の力を思い知って……死ね」
手を振り下ろすと同時にファルブラウや俺を目指して『空が落ちてきた』。う、うあわわ。このままじゃ普通に死ぬ。変身……。そうする前にファルブラウが叫んだ。
「おおおお!」
熱い、ファルブラウの周りに炎が巻き起こって、彼女が右手を振るうと同時に炎の渦が空に舞い上がる。炎と影がぶつかりはじける。空で砕けた炎の渦が光になって降る。
ざくっ。
「うわっ」
俺のそばに黒い剣みたいなのが刺さった。地面に突き刺さっている。めちゃくちゃ焦った。
はじけた黒い影はあたりは散らばって俺とファルブラウとラムを取り囲むように地面にばらばらと落ちていく。
「あーあ、やっちゃった」
くすくすとヴェリエール笑う。踊るように前に出て右手と左手を演奏するように動かしている。すると周りの影たちが動き出した。宙に浮いた剣も槍もその切っ先を俺たちに向けている。くるくると円の動きで武器たちが渦を巻く。
「半端にガードしちゃうから君たちを取り囲んじゃった。ラムは動かないでね」
「……な。僕?」
「そう、あとの二人は串刺しにするからラムが動くと狙いがぶれるわ。それともファルブラウのように聖天使につくのかしら?」
ラムは立ちすくんでいる。だけど迷っている暇はなかった。
「ラムはそこにいて!」
俺は祈りのポーズをする。そして叫んだ!
『セイクリッド・シンフォニア!』
俺の体はまばゆい光に包まれた。光は服を成していく。白いドレスに胸元の赤いリボン。かわいいスカート。両手を包む白いロンググローブ。手首に宝石のついたリング。
足にはニーソックス。そして天使の羽を広げる。
俺の手には白い剣。ラブソードとかいうらしいけど絶対に口に出さない!
「聖天使セナちゃん変身! 悪は絶対許しません!」
口が、口が勝手に動く。ガムテープが欲しい! なんでこんな仕様なんだ。俺の人権を返せっていつも思う。ただ体が勝手に動いて舌を出して片目を閉じて、頭の横でピースをする。ほんと殺せ。
「お得意の変身ね。短い時間しかできないみたいだけどどうかしらね。ふふふ。耐えられるかしら?」
ヴェリエールが両手を振るう。すべての武器が俺とファルブラウに向かってくる。
「聖天使!」
「うん! 友情の合体技だね!」
ユウジョウノガッタイワザ? なんだそれ。俺の口が勝手に動くんだけど。そんなのあるのか?
「そんなものあるか!!」
「ぎゃひっ」
ファルブラウに思いっきりおしりを蹴られた! 上に舞い上がる。ないのかよ! 空に飛びあがってよける。いや、違う。ファルブラウが逃がした!? うわっ。何か飛んできた!
俺がキャッチするとそれはラムだった。お姫様抱っこをしてしまう。ゴスロリのぬいぐるみ少女を両手で持つ。羽をパタパタさせる。
「あ、あいつ僕を投げた」
「……ファルブラウ!」
俺は下を見る。彼女は俺を蹴り飛ばしてからラムを投げた? じゃああいつは。下を見れば黒い影がファルブラウに殺到している。炎を出して弾き飛ばそうとして、そしてその炎を破っていくつかの攻撃がファルブラウを襲った。
血が飛ぶ。ファルブラウがのけぞる。俺とラムは慌てて降りて彼女をかばった。額から血が出ている。
「ファルブラウ……。私をかばって」
「どうでもいい……邪魔だ……我はヴェリエールを倒す」
「む、無理だよ。僕もファルブラウも本来の力が出せない上に、あいつは四天王でも最強だよ」
「関係ない! 我はいく」
それぞれがもみ合う。そこに呆れたような声がかけられた。
「ねー。そろそろいいかな? ラムちゃんもそこにいるってことはもう始末していいってことでいいのかな?」
ヴェリエールの後ろに無数の剣があった。黒い影がそこにある。その前にたたずんで笑うヴェリエールの表情は不気味に歪んで見えた。手が震えている。俺は怖がっているんだろうか?
「手加減も飽きたし。ここらへんで終わりにするね」
……怖い。あの表情も。
うわ。
「お、い。聖天使」
「ちょ、ちょっと」
ファルブラウたちの声がするそれでも勝手に足が前に出た。ファルブラウとラムの前に出てしまう。震えている手から剣を取り落とさないようにする。彼女たちの前ででて羽を広げる。
「わ、私の友達をこれ以上傷つけさせない」
声も震えている。無数の剣の切っ先が俺を向いているのがわかる。ヴェリエールの冷たい目がまっすぐに俺を見ている。
「ああ、そう。じゃあね」
ぱちんと指を鳴らした。ヴェリエールのその合図で剣がすさまじい速さで俺を襲う。流石にどうしようもないかもしれない。だけどできるだけ力を出せば――。
――「貴殿の勇気に助太刀いたそう」
風が通り抜けるように感じた。俺のそばを駆け抜けていく何かがあった。
俺の視界の中で黒いポニーテールの女性が跳んだ。
その手には巨大な斧と槍の合体したハルバード。金の文様の描かれたそれにはすさまじい魔力をまとわせて振るう。黄金の一閃。黒い剣たちを弾き飛ばした。黒い剣は砕けてぱらぱらと空から黒い雨のように降る。
その中で一人の女性が地面に降りた。その手にあるハルバードを振るい。俺を振り向く。片目に刀傷があり閉じている。凛々しい女性という印象だった。その頬には赤い文様がある。
「聖天使よ。この『黒のアドレイド』がこの場は預かろう。……双方引いてもらうでござる」
黒のアドレイド……俺たちの目的の人だ……? ござる? 妙なしゃべり方だけど……この人強い。